◇牧師室より◇

 米国のウォールストリート・ジャーナル紙のパール記者はパキスタンでイスラム過激派と見られるテロリストに誘拐・殺害された。彼らはパール記者を米国のスパイと見たのであろうか、米国人なら誰でも殺そうと考えたのであろうか。パール記者の妻・マリアンヌさんは妊娠7ヶ月であった。その彼女に犯人から無神経にも残忍な殺害ビデオが送りつけられたそうで、彼女は「最も残酷で卑劣な方法で夫を殺した」と憤っていると報道された。どんな思いであっただろうかと同情して余りある。

 ところが、彼女は「報復は容易だろうが、個人にせよ、国家にせよ、テロをはびこらせた私たち自身の責任を率直に問いかけるほうが大切だ」と語ったという。彼女の精神の高さに敬服した。報復は無限に繰り返される。報復を断ち切り、自らを問い直すところに、「共生」が生まれる。夫を無残に殺された彼女の発言だけに心を打つ。生まれてくる子どもに「パパはテロをなくすために、報復ではなく、愛や共感、友情を求めたのだと語ってあげる」とも言ったそうで、子どもは父親を誇りにして成長するだろう。

 イスラエルでは「パレスチナ地区での占領は国防とは無関係である」と軍務拒否者が280人を超えているという。もちろん法律違反であるが、500人の軍務拒否者が出れば、状況が変わると聞いたことがある。五百数十万の人口に対し、60万の軍隊を擁している。その3分の2以上が予備役である。予備役は非常時に召集される補完的な存在ではなく、軍の主力になっている。高校卒業後、3年間兵役につく。その後、45歳まで1年に1ヶ月予備役として訓練を受け続ける。イスラエルとパレスチナは顔と顔を合わせた戦闘である。心を痛める人々は「占領を続けることで、軍が非人道的になり、社会のモラルが崩れてしまう」と語っている。人を殺し、物を破壊する軍人のモラルは向上するはずがない。まして、理不尽に弾圧、攻撃する彼らの心の荒廃は避けられない。

 世界の平和が危うい今、悲しみの中で語るマリアンヌさんの言葉や、勇気をもって軍務を拒否するイスラエル兵の行動は希望を与えてくれる。