◇牧師室より◇
新年は例年、机の上に読みたいと買った本が積んである。それらを読むことを楽しみにしている。しかし最近は、読んで楽しいことばかりではなく、気の滅入ることが多い。
音楽家の坂本龍一氏が監修した「非戦 戦争が答えではない」には大いに励まされた。
米国で起こった同時多発テロに関し、新聞やテレビの大手メディアの報道は米国寄りのものが多く、世の中の人々は本当にこんなことを受け入れているのだろうかと不思議に思う。ところが、インターネットでは個人の論考や意見が世界中を駆け巡っている。坂本氏はインターネットから受けた多様、多彩な50人以上の主張を、監修し著した。間近かで事件を体験し、いてもたってもおられない思いに突き動かされたのであろう。
それぞれの主張は現実を捉え、極めて理性的で、私には納得でき、「平和」を求める切なる思いが伝わってきた。そして、希望があると励まされた。テロに同調する人はいない。卑劣な方法を非難している。その次に「しかし」が続く。言うまでもなく、米国の報復攻撃によって解決はしない、更なる犠牲者を出し、憎悪が増幅されるだけであると続いている。警察官が犯罪人を追い詰める時、近くにいる関わりのない人々を巻き添えにして殺害したら、その警察力行使は徹底的に非難される。米国は厚顔にも、それを正当化している。
多くの人は、米国の為政者たちがテロの標的にされる理由を問わない姿勢を不審に思っている。自国の利益のために言質を変える二重基準を数限りなく取り上げている。
米国のD・J・ダンカンは「水と子どもたちのための祈り」を書いている。湾岸戦争でイラクは制裁された。イラクの河川は病原菌や汚染物質が含まれているので、塩素処理をしない限り、様々な伝染病を引き起こす。米国はその上水、下水施設を破壊し、しかも塩素や医薬品の輸入を禁止した。ある難民キャンプでは80%の人々が下痢症、コレラ、B型肝炎、胃腸炎などに罹患し、死者の80%が子どもであった。国連も「5歳以下の子どもたちが50万人も死亡しており、安全な飲み水と医薬品が手に入るまで、毎月5千人の乳幼児が死に続けることになる」と報告している。ダンカンは死にゆく子どもに付き添う自分を想像し、「私の心は凍りついてしまう。苦悩と恐怖を与える者をおいて、だれを『テロリスト』と呼ぶのか?」と叫んでいる。
自分で計る文明の尺度で、人間の命の軽い重いを決める「野蛮」を克服したところに共生の文化がある。