◇牧師室より◇

 「世界が変わった日」と形容される同時多発テロが起こった911日からちょうど2ヶ月になる。数千名が一度に死に追いやられた悲劇は歴史に深く記憶されるだろう。そして、悲劇は癒し難く増幅されている。

 京都大学のアラブ文学を専攻している岡真理助教授は新聞に「テロと空爆 なぜ遠いパレスチナ人の死」を投稿している。岡氏はニューヨークの悲劇が鮮明に記憶されることに同意しつつも、疑問を投げかけている。1976年、イスラエル軍に支援されたレバノン右派勢力はパレスチナ難民キャンプ、タッル・ザアタルで集中砲火を浴びせ、4千人が殺された。また1982年、サブラー、シャティーラ難民キャンプで同じく2千人が虐殺された。これらの出来事は特殊な経験として、私たちの関心の埒外に棄ておかれている。経済力と情報量の暴力的なまでの不均衡は人間の死に関してあまりに大きな落差を生んでいる。パレスチナ人の死が闇の中にとどめおかれるなら、別な形をとって必ず再帰するだろうと述べ、「(ニューヨークでの)数千名の死を贖いうる術がもしあるとしたら、記憶の埒外に棄ておかれ、不条理に殺され続ける難民たちの死を私たちが悼み、その出来事を『私たち』の経験、人間の歴史として、私たちの記憶に刻むことによってではないだろうか。」と述べている。

 小井沼宣教師が宣教しているサンパウロ福音教会を開拓して建てた、小平学園教会の宗像基牧師はキリスト新聞に「現代の『バベルの塔』の物語」を投稿し、次のように書いている。「我々があの(ニューヨークの)犠牲者の死を悼むほど、イスラエルや米国のミサイルや爆撃で殺されている民衆の死を悼んでいたのだろうかを反省させられる。あの犠牲者に黙祷を捧げる者の心に、この両者の死を悼み、あってはならないとする自覚が生まれたときに、はじめて平和の光が見えてくるだろう」。 また、ブッシュ大統領が「God bless America と言ったのを同時通訳者が「神の冥福があるように」と訳していたのを受けて、宗像牧師は「今は米国の建てるバベルの塔の冥福の時なのかも知れない。」と誤訳に同意している。アメリカの空爆によって、これから冬に向かうアフガニスタンでは数十万人単位の凍死、餓死者が出る恐れがあるとも言われている。

 主イエスは言葉と行動において、社会的に棄てられた者が神の救いに優先すると示され、「わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」と語られた。