◇牧師室より◇
先週の暴力団の話の続き。牧師館にしょっちゅう来ていた彼は角刈りをして、空手の選手らしく強そうで強面の顔だった。しかし、笑うと子どものような無邪気な顔になった。射殺された親分の弟も同じような顔であった。住む世界がお互いを似せてくるのだろうか。
私にこんなことがあった。妻の父が亡くなられた時、医者から解剖をしたいと申し出られた。家族に休憩をとってもらおうと、解剖が済むまで私は一人病院に残った。夕食をとろうと近くの食堂に入った。もちろん、大衆食堂である。混んでいた。食堂の主人が出てきて「相席ですいません」と詫び、食事中何度も熱いお茶に入れ換えてくれた。私だけを特別丁重にしてくれることに不審を持ちながら、食べ終え食堂を出た。暗い夜道を病院に戻っていたら、革のジャンパーを着た青年が、私の前にきて「おはようございます」と深々と頭を下げた。二人目に挨拶をされた時、「あ、暴力団の幹部と間違えられている」とようやく悟った。危篤の知らせを受けていたので、礼拝後、病院に直行した。いつもの黒い服を着ていた。そして、義父の逝去で深刻な顔をしていたかも知れない。その辺は暴力団の多い地区であると、後で聞いた。
暗闇で間違うのなら納得もしよう。食堂の明るい光の下で私の顔を見れば、怖い暴力団の幹部か優しい牧師であるかくらい判別できそうにと、大いに不満であった。しかし、抗争相手のヒットマンに狙われずに済んだことを「よし」としようと不満を吹き払った。
あの一件以来、顔に関してトラウマが心に深く沈殿した。