◇牧師室より◇

 新しい教科書をつくる会(以下−つくる会)」の執筆した中学歴史教科書は137ヶ所の修正を経て、文部科学省の検定に合格した。この教科書について内外から、殊に戦争中、大きな被害を受けた国から批判されている。中国政府は「強い怒り」を表明し、韓国の反対表明は激しい。駐日大使を一時帰国させ、国会議員が来日して抗議をし、金泳鎭氏はハンガーストライキまで行っている。インターネット利用者は文部科学省などのホームページに一斉にアクセスしてダウンさせようとする「バーチャル・シットイン」をして、抗議を表している。軍隊を駐屯させて脅し、当時の国際法に則って「日韓併合」をした、「従軍慰安婦」たちが目の前にいるのに、記録がないから彼女たちの商業行為であるなどと言われれば、誰でも怒り心頭に発する。

 「つくる会」は「自由主義史観」を標榜し、戦前の日本のあり方を正当化している。日本の進出は当地に利益を与え、ヨーロッパ支配からの解放をもたらした。侵略や植民地支配への反省は「自虐」であると説く。バブルが弾けて元気をなくした日本人に自信を取り戻させようとの意図らしいが、全く自己中心で浅はかなナショナリズムと言わざるを得ない。彼らは膨大な資金を持ち、全国的に大キャンペーンを展開している。

 歴史は常に解釈される。また、教科書問題について他国から文句を言われる筋合いはないと言う人がいる。ドイツは教科書を作る時、近隣国々の歴史学者と共同の検証をして書いている。歴史は確かに解釈されるが、そこでは、事実の検証という誠実さが求められる。アウシュヴィッツはなかったなどと言う者には刑事罰が科せられるほど過去の歴史に対面している。

 経済成長を支えたサラリーマンを元気づけたと言われる司馬遼太郎氏は「つくる会」のお気に入りらしい。その司馬氏は「浅はかなナショナリズムというのは、老人の場合、一種の呆けである。壮年の場合は自己についての自信のなさの表現かもしれぬ。若者の場合は、単に無知のあらわれでしかない」と書いている。 

 作家の大江健三郎氏はこの教科書を読んで「ここから新しい人は育たない」、また「自信を持った人間は、それを意識する、しないは別にして、一本の木のように直立しています。それが自然に周囲から敬意をまねくのです」と書いている。

 旧約聖書の預言者たちは神を信じて愛と正義と公平を生きよと語った。私は「つくる会」に著しい精神的な退廃を見る。彼らの主張こそが日本を内側から危うくする。