僕は長い階段を駆け登っていた。
天辺は鬱蒼とした森に沈み――上へ向かっている筈なのに――地の底へ続いているような気がした。
最後の一段を蹴って、辿り着く。
境内の片側に建ち並ぶ、左側から3番目の石塔に、7日7晩連続して星灯かりを浴びせたヒラ貝を置いて、虹色蜥蜴の尻尾と、水晶屑と、空草の葉脈と、蛍光魚の目玉を入れて、朝一番に汲んだ泉の水を注ぐ。
時刻は真夜中。
濃紺の空には、月も星もない。
ないのに、貝に光が降り落ちる。
学校で噂があった。
もし喚び出せたら、願いが叶う、って。
その為にはアイテムを集める必要があった。
頑張れば揃えられなくはなくて、だから余計に信憑性があるのだと思う。
降り注ぐ光の筒の中に、
影、
何かの。
間も無く光は消えて、光の粒を纏って、背丈は僕と同じくらいの、綺麗なモノが、石塔の上に浮かんでいた。
古風な、幾重にも重ねられた前合わせの服。幾本もの帯。足元は簡素なサンダル風の履き物。
「あの! 貴方は誰?」
石塔の上に浮かんでいたモノは、ゆっくりと僕の方を向いて、瞬きする。
光の残滓の尾を引いて、僕の目の前に降り立った。
「私は『使い』だよ」
綺麗なモノは綺麗な声でそう言った。
金色の髪、蒼い瞳。
「つかい?」
「そう、召喚者の願いを届ける者」
僕の願い。
「代償は?」
「え?」
「願いを叶えて貰いたいんだろう? だったら、それなりの代価を払わなきゃ」
代価――代償。等価。
願いを叶えて貰う為に。
そんなの噂の中には無かった。
「何が欲しいの?」
「欲しいのではないよ。決まり事」
喚び出すにはアイテムを。
願いを叶えるには――
「御免。願いは無いんだ」
「は?」
「噂は本当なのか、確かめたかっただけだから」
今頃、クラスメイト達が透視眼鏡で確認済みの筈だ。僕の役目はお終い。
彼は呆気に取られた後、いきなり吹き出した。喉の奥で、鳥みたいにくつくつと笑う。
「最近の餓鬼は怖いもの知らずだな」
ぞくりと、何故か背中に悪寒が走る。彼は笑っているのに。
「君は私に誰かと訊いた。君は私の正体を知りたがった。あれが君の『願い』と判断する」
「えっ……」
「代償は?」