『From・・・』
電話があったのは真夜中だった。
着信ランプが点滅する。マナーモードだから音は鳴らない。
暫く、その光の明滅を眺めた。微かに振動しながら小さな光は呼び出し続ける。
こんな時間に掛けてくるのは誰だろう。
思い当たらない。そもそもこんな時間に電源を入れておいたのすら珍しい。いつもならもう少し早めに切ってしまっている。
まだ鳴り止まない。
急ぎの用事だろうか。
傍らに置いたまま、手が躊躇する。
出るしかないか。
『…、……』
回線の向こうで、誰かが喋っている。よく聞こえない。混線だろうか。――携帯で?
あまりその辺のことは解らない。解らないから対処の仕様がない。
かと言ってこのまま聴いているのも莫迦らしい。
『聴いていますか』
突然、聴こえた。
男の声だ――多分。余程低い声の女性でなければ。
『聴こえていますか』
もしかすると相手は、ずっと応答を確かめていたのだろうか。やはり電波の状態が悪いか何かで通話が成り立っていなかったのか。
慌てて返答する。
『聴こえていましたか』
安堵の響きが混じる。
やはり連絡を取りたかったのだ。
『私は、……、の者です、……』
またノイズが入る。上手く聴こえない。
『本日、やっとご連絡が取れました。お待たせして、大変申し訳ありませんでした。……より、善処は尽くしておりましたが何分にも、……、だったものですから』
何だって?
意味が通じない。何か連絡待ちのトラブルがあっただろうか。
脳味噌の中と、手元の電子手帳を忙しなく繰る。
『予定が決定致しました。当方の不手際により遅延致しましたが、事が運びまして何よりです。日程は、……、時、…に於いて、担当の者が、……』
手帳には特に何も記されていない。そうだ、繁忙期が過ぎて、やっと一息つけるところだったのだ。真っ白な手帳と言うのは些か落ち着かないが、これはこれでまぁ良い。
いや今はそうではない。このおかしな電話を何とかしなくては。
『では、当日までごきげんよう』
切られそうになり、慌てて呼び止めた。掛け間違いではと伝える。
『……』
明らかに、動揺した空気が伝わってきた。
そして側にいる誰かと話しているらしき、小さな声。
『……、……、で合っているのだろうな? …え、そうなのか? マズイな。知らせてしまったよ。どうする。…仕方ないか、いずれ知ることだ』
『では、当日までごきげんよう』
同じ台詞を繰り返し――切れた。
何処の誰だったのか。
(04/09/05)
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