「お師匠様ー。行きますよー」
 朝の日課をいつもよりもずっと早めに終わらせて、僕はエプロンを付けたまま出掛ける支度をする。
 今週はずっと隣のレオナールさんちでトマトの収穫を手伝ってる。
 この地方はトマトの栽培が盛んで、トマトの消費量もダントツ。
 空に向かってすっくりと伸びたトマトの茎を、根元の辺りから刈り取る。
 この品種のトマトは、実が実る頃に葉が枯れる。茎ごと抱え上げて振ると実が落ちる。それを採取する。実を拾う作業が一番しんどいかなぁ。
 それから、完熟トマトのソースも名物。各家庭の1年分のソースを1日かけて作る。村中総出で行う年中行事。
 トマト畑を持ってない人は、作ってる人のお家で収穫とソース作りののお手伝いをして、ソースを分けて貰う。
 今日は最終日、ソースを作る日。
「待って待ってー」
 奥からお師匠様が走って出てくる。

 お隣さんちへは表からじゃなく、裏から行った方が早かったりする。
 建物の配置の関係で。
 店兼住居として借りてる家が、レオナールさんちの敷地内にあるからなんだけどね。
 つまり、レオナールさんとウチは、家主と店子の関係。

「おはようございまーす」
「いらっしゃい。今日はよろしくね」
「これ、咳止めです」
 お師匠様が、手にしていた小さな包みを手渡す。マロウの葉を乾燥させたものだ。
「いつもありがとうね」
 レオナール夫人はにっこり笑う。
「貴方達の作る薬はとてもよく効くから、助かるわ」
「いーえー。いつも御贔屓に、ありがとうございます」
 まともな魔法は使えないから、魔法に関する依頼は受けられない。
 薬や護符で頑張らないとね。

 作業場へ行くと、レオナールさんはもう作業を始めていた。
「おはようございます。遅れて申し訳ありません」
「なぁに、これからガッツリ働いて貰うからな」
「あはは頑張ります」

 さてソース作りだ。
 まずヘタを取ってよく洗う。
 一気に洗うのではなく、ざるに入れて順番に。その時に傷んだ部分を見つけたらナイフで取り除く。
 トマトだけを30分ほど煮込む。煮込んだら皮を剥いて裏漉し。
 瓶にバジルの葉っぱを入れて、別に裏漉ししないでおいたトマトを隙間無く3分の2くらい詰めて、さらに裏漉ししたトマトを注ぐ。フタをして密閉。
 そして煮沸。瓶をドラム缶の底から丁寧に積み上げていく。お湯を張って熱する。ドラム缶には一緒に生のジャガイモを入れといて、ジャガイモが茹で上がったら、ソース作りは完了。

 お昼はレオナール夫人お手製の五穀パンと、グリンピースのスープ、半熟卵を潰して混ぜて食べるトマトソースの野菜炒め。
 食前酒にアルコール25℃のリキュールが出たけど、まだ飲ませて貰えない僕はミルク。
 午後のおやつにホットチョコレートをかけた揚げたてのチュロス。

 日はすっかり落ちかけていた。
「2人とも、お疲れ様」
「残りのソースは後でお運びなさい」
「はい。ありがとうございます」
「また明日」

 出来たてのトマトソースの瓶詰めを、抱えながら菜園の中の小道を帰る。
「綺麗ね。夕焼けみたい」
 かざして透かし見ると、硝子瓶の中に鮮やかな黄昏が詰め込まれていた。









 
瓶詰めのトマトソース







『魔女とその弟子のお話』−第7話−

とある日のお仕事。
内容がないよう(笑)
トマトソースの作り方はイタリアのナポリ地方のものを参考にしました。
料理のモデルはスペインです。
彼らの住んでる地域は地中海性気候っぽい、という裏設定。
でも海までは多分遠い、と思われ。


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