オーストラリアW彗星
2004年5月18日
観測場所はアサートン高原のはずれにある、ムンガリフォールズという牧場施設。
周りは広大な牧場で、滝があり、川が流れ、森林が点在する牧歌的な場所だ。
夜は、まったくの無灯火になり、道もわからない暗さとなる。少しの木々が地平線にかかるが、
丘に立てば360度見通しがいいロケーションになる。
ここは主に学生の団体を受付ける施設で、我々、大人の団体が入るのは初めてということだ。
でも、案内されたロッジは2段ベッドの4人部屋が2つつながった棟で、これらが数棟並んでいる。
それぞれの部屋にきれいなキッチンやシャワー、トイレも完備されており、
テラスもあって、何日でもいられそうな別荘の雰囲気だ。
到着した日は雲が多いものの、青空が圧倒的に空を覆っている。
「先週は快晴でした、高原はもっといい天気でしょう」
現地ガイド氏も快晴の日々を、微笑と共に約束してくれた。
さあ、夜が待ちきれない。
いそいそと食事をして、夕暮れを待つ。
西空に、金星が輝く。しかし、雲が地平を覆い始めた。オリオン座が真横になって沈み始めるが、
星々が雲に覆われてしまった。リニア彗星は確認できない。(しつこく見ていた人は尾が見えたという)
やがて空が闇に覆われると、南の星空が顔をだす。が、雲が流れるため、全貌はわかりにくい。
そうしていると、さかさまになった、しし座があった。中に木星が輝いているからわかるのだが、
逆さのため姿を確認するのが遅れてしまった。ししの大がまの先に、ボーとした天体があった。
ニート彗星だ。肉眼でもはっきりわかる。双眼鏡で見ると、あの、ハレー彗星を彷彿させる姿が目に
飛び込んできた。60度くらいまでイオンとダストが広がって見える。尾は長くはないが、彗星らしい姿を
している。じっくり見ようとすると、またしても黒い雲が視界を遮る。暫くするとまた彗星が現れる。
こんな繰り返しの宵になった。撮影しようにも、雲の流れが速くて、落ち着いてセッテイングできない。
そうこうしていると、完全に雲に覆われてしまった。
あきらめて部屋でワインをお神酒代わりに飲むことにした。
「星が出てますよ」
こんな声で酔いもさめて外に飛び出す。
なんと、先ほどまでの雲がなくなって、空一面の星空になっていた。
久しぶりの南天だ。ついつい、いわれるがままに星空解説をしてしまった。
南には理想的な形で、みなみじゅうじ座が浮かぶ。その脇には真っ黒なコールサックが
一段と黒く穴を開けている。。
みなみじゅうじ座のそばにはエータカリーナ星雲が鮮やかに花開いていた。双眼鏡でみると、
3つに分かれた
独特の姿もはっきり確認できる。オメガ星団もツブツブに見える。
北に目を移すと、北斗七星が丘に沿って横になっている。先の部分を延ばせば、
地平線の下になってしまう。
まさに南半球にいることを実感する一瞬だ。
この地はGPSで測定したら、南緯17°33′だった。
北半球で言えばグアム、サイパンといったところか。天頂にさそり座が立っている。
日本では横になった姿しか目にしないが、南半球ではまっすぐに起き上がっている。
以前、サイパンで見たとき、まさに海に立つ釣り針のように感じたが、ここでは真上に這うサソリそのものに見える。
いて座の辺り、銀河の中心部もギラギラ目に飛び込んでた。ここからみなみじゅうじまでは圧倒的な鮮やかさの
銀河が流れる。まさに銀河のはらわたを見ている感じだ。双眼鏡で飽きるほど仰いで、適当な星座解説をしていたら
あっというまに時間がたってしまった.
夜半過ぎ雲が切れて南十字が現れた。一瞬だったが南天の思いに触れた。
結局、4泊5日の牧場生活でまともに星を見たのは最初の夜1日だけだった。
しかし、この牧場ではカモノハシやユリシーズ蝶、カワセミ、ツチボタル、毒カエルなど珍しいものを毎日見ることができ、
飽きることはなかった。
ケアンズに戻ると、意外にも快晴になった。夕方になると雲もなくなり絶好の彗星日和。数人でタクシーに乗り込み、
20分ほど離れた暗いビーチまで遠征。
街灯を避けて着いたところは広々とした空き地だった。月は月齢4になっており、まぶしい。しかし、シリウスの左上に
青っぽい星がある。双眼鏡でのぞくと、リニア彗星だった。最初はその下のM41と勘違いしたほど淡い輝きだった。
確か予想では0等級とかいわれていたが、おおまけしても3等級だ。
一方、ニート彗星は月明かりに邪魔されて、存在そのものもわかりつらい。双眼鏡でなんとかわかる程度。
しかし、全天が晴れて、両彗星が見えたのは、今回の遠征で初めてだったので、あわてて一眼デジカメ広角で押さえる。
さあ、今度は望遠で。と思ったら、なんとまたしても雲が流れてきた。まさか、今日はないだろう。と思っていると、
お約束のオチ!?で雨がパラパラ降ってきた。あんなに快晴だったのに、なんということだ。あわてて機材をしまって
近くのレストランで雨宿り。しかし、その後、雲は途切れることはなかった。
皮肉にも、帰国の日、気持ちいい青空と虹が我々を見下ろしていたのだった。