目立っているのはいいところばかりでなく、向こうが歓迎しない行動もあるようだ。
例えば、ホームランを打ったときの彼のバット投げ。
これは、打たれた投手に侮辱を与えるということで、嫌がる人間が多いらしい。
カブレラも日本でこれをやっているが、やられた一人であるペドラザが怒っているらしい。
さて、この間話題になったのが、これまた新庄の「歓迎されない」行動だった。
5月24日のマーリンズ戦。11-3と大量8点リードの場面で打席が回ってきた新庄。
カウント0-3からの4球目を空振りした。
この空振りが、相手の怒りを買った。
大量リードのチームが送りバントや盗塁をすることは、メジャーではタブーに近い行為だという。
現に、イチローが大量リードの場面でやった盗塁が「盗塁」として記録されなかった、ということもあった。
公式記録員でさえ、それを認めないことがあるってわけだ。
翌25日の同じマーリンズ戦。新庄は故意死球を受ける。前日の行為に怒ったマーリンズの報復である。
すぐ後のトッド・ジールが怒りの3ラン。ジールは「新庄の敵を討った!」と語っていた。
そのジールをホームベースで迎えた新庄。キャッキャ言いながらジールに抱きつく。
どうも、ジールや他のナインが思っているほど新庄は気にしていなかった様子(笑み)。
試合後のインタビューでは「もうね、どんどんぶつけてきてほしいですね、ケラケラ」
と、笑い飛ばした新庄の姿があった。
日付は二日ほど遡った22日の東京ドーム。似たような「事件」が起きていた。
9回表、8-1の大量リード。
二死三塁でバッターはヤクルトの先発投手・藤井秀悟。8イニングを1失点の好投を演じてきている。
巨人の捕手はベテラン・村田真一。この場面で「打つんじゃないぞ」という意味のささやきを打席の藤井にかけたという。
私はこの試合をこの少し前からテレビで観戦していた。
打席で構える藤井の顔は異常な笑顔だった。もともと、オバQのような分厚い唇をしているのだが…。
私は「何だコイツ、ニヤニヤして」と思って観ていたが、もしかすると、
村田真の「警告」を軽い冗談ととった笑いだったのかもしれない。
サードにランナーがいるということで、ささやかれたにもかかわらず、藤井は打って出た。
当たりの死んだショートゴロ。藤井は一塁へ全力疾走、惜しくも間に合わずアウトでチェンジとなった。
私はセの投手が打つ気ナシの打席を演じるのがとってもキライだ。
そんな画(え)が現れて当たり前の場面で、藤井がフルスイングで打って出たことがとっても嬉しかった。
しかし、それは大きな間違いだったのである。
藤井が打った直後、一塁側の巨人ベンチから激しい罵声が浴びせられた。
駆け込んだ先にいた清原もわざとぶつかられたような仕草をしたという。
相当な内容のヤジが飛んだのだろう。その裏のマウンドに向かう藤井は帽子を目深にかぶり、なんと涙を拭きながら歩いていた。
9回裏の先頭は江藤。藤井は甘い球を投げ、見事にレフトスタンドへ持って行かれた。
しかし、まだ8-2と大量リードは変わらない。
ところが、ここからがさらなる試練。松井、清原にはまったくストライクが獲れず連続四球。
明らかに動揺している。
そして、ヨシノブにはついにデッドボール。試合中大きな怒りをあまり見せないヨシノブが、藤井をニラみ飛ばす。
帽子を取って謝ったあと、藤井がふと目線をやった一塁では清原が下アゴを突き出して吠えていた。
ひとり相撲で満塁となり、ついにKO。8回までの好投がウソのような藤井の変わりっぷりだった。
このあと、マウンドに上がった島田直也は藤井とは対照的。
立て続けに出てきた代打陣、清水・吉永にともに初球のド真ん中を痛打され8-4とされる。
満塁は続き、ついに、出るはずではなかった高津まで引っ張り出すことになった。
結局高津が後藤、仁志をこれまた連続のピッチャーゴロに斬って、仁志はゲッツーでゲームセット。
数多くの修羅場を切り抜けてきた男が、格の違いを見せた。
ベンチへ引っ込んでも涙が止まらない藤井。勝利投手コメントのためのインタビューも敗戦投手さながらのものだったという。
このコラムを打っているのが5月29日の午前2時。
実は、この日の夜から31日まで、神宮で両チームが再戦するのだ。
藤井の先発は間違いなくある。どういう展開になるのか、見モノである。
日米での「若僧」がおこした行為。「大量リードなら遠慮しろ」という暗黙のルールを知らなかったことが原因だ。
が、それを諭された当事者の反応はまったく対照的だったのが面白い。
しっかし、全力でやって怒られるってのも、なんだかなぁ、と思う。
いいじゃん、いっつも勝ってるんだから。巨人さんよぉ。
「藤井の涙」は、その後各地で取り上げられ、スポーツ新聞社などには一般市民からの意見や抗議の電話やメールが殺到したという。
そんな各報道の中からわかった事実がひとつ…
“プロ入り前、藤井は清原の大ファンだった”
そりゃぁ、泣くわ。憧れの選手に下アゴ出されたんだから(爆み)
結果は7-0で勝利。藤井自身は7.1イニングを投げた。
ピッチングももちろんよかったが、それ以上に注目だったのがバッティングだ。
なんと2本のタイムリーヒットを放った。
特に2本目は5-0でのリードの場面からの鋭いセンター前ヒット!
トラウマはなかった。「泣き虫」のイメージを自ら完全に払拭した。
めでたしめでたし。5勝目。これがキッカケで今シーズンはかなりな勝ち星を挙げるだろう。予言(笑み)。