チョーマクロ撮影 <写し方とその工夫 > ファーブル写真会 高井 由喜雄

ファーブル昆虫塾ニュースNo.10 (2013.11.24発行) に掲載した記事を、一部修正・加筆し転載しました。
(発行:NPO法人日本アンリ・ファーブル会 昆虫塾)

 ・・・NPOの日本アンリファーブル会をご存知でしょうか。 
あの“昆虫記”を著したフランスの博物学者アンリ・ファーブルをひとつの理想像と して、
現代の日本の子供たちを中心に、自然に対する健全な感覚を養い育てることを目的に設立されました。
その会員が自己啓発と相互の交流を目的に結成した自主的同好会グループが
ファーブル昆虫塾で、
ファーブル会の会員であれば、誰でも入会できます。
昆虫の採集・観察会、昆虫やマナーなどの研修会、研究会、懇親交流会、メーリングリストによる部員の交流
などの活動があります。よろしければご参加ください。


チョーマクロとは何か

 マクロとはクローズアップのことぐらいはご存知かと思います。それに「チョー」を付けると、1/2倍から等倍またはそれ以上の大きさに写すことが目標になります。つまり超拡大・接写・撮影です。

 それにはマクロ撮影機能付きのカメラかマクロレンズが必要になりますが、ここでは、私が使っている一眼レフ(Nikon D90)とマクロ撮影レンズ(Tamron90mm)で、蝶の顔をどのように工夫・苦労して撮っているかを報告します。(カメラとレンズの両方に「90」とありますが、特に関係ありません。)

 まず、カメラとレンズ。D90はフィルムに当たる撮像素子がAPS-Cタイプで、一般にフルサイズといわれる35mmフィルムの面積の約40%です。ヨコが約23mm、タテが16mmなので、この大きさの蝶なら画面いっぱいに入ることになります。
これが、つまり原寸で素子上に写るので「等倍」といわれるゆえんで、同様に、1/2の大きさ(小ささ)で写ることを「1/2倍」というわけです。(写真)

 いずれにしても、そうなると厄介なのは、
(1)「ここまで近づけるか」、
(2)「眼の中心にピントを持って来られるか」
  という課題の存在です。

 ほかにもいくつかありますが、今回はこの二つの課題について、いつも考えて実践していることを紹介します(課題を厄介と表現しましたが、実際にはそうは思っていません。努力目標として楽しむことにしています)。
APS-Cサイズの等倍
撮影のイメージ。一般のマクロ
レンズの最大倍率。
同じくAPS-Cサイズの1/2
撮影のイメージ。 このギフチョウは
天地が30mm程度なので、
このように入る。

★(1)“お近づき”になるには


 それには、当たり前ですが蝶を見つけなければなりません。飛んでいる蝶はどうにもならないので、とにかく止まっている蝶を見つけられるかどうかが撮影の最低条件です。そして、ある程度長く止まってくれなければそれなりのカットや数も得られないわけです。

 この条件を満たすには @幸運に加えてA根気、B気力が必要だと感じます。

 @はめぐり逢いのようなもので、撮影に出かけても、飛んでいるけれども手の届かない高所だったり、沢の向こう岸だったりして思うようにいかないことがままあります。むしろその方が多いかもしれません。

 Aは、下草や枯れ枝・落ち葉の上、石の上、または吸水・吸蜜中の個体をがむしゃらに探すことといえます。つまり撮影できる高さから地表までの間を丹念に見回すわけです。

 Bは、なかなか見つからないとどうしても「あきらめ感」が出ます。そのときに必ずいる! 必ず見つけるという信念(大げさ?)を持つことだと思います。

 探すときに、一頭でふらふら飛び回っているやつはなかなか止まらないのであきらめます。こんな「さすらいの風来坊」は静止してもすぐに飛び立ってしまうからです。できれば複数の個体がいるポイントを見つけられることが理想的です。彼ら(彼女ら)は仲間が多いと安心するためか、ゆっくり飛んだり、落ち着いて静止するように感じます。

 見当たらなくても、林縁や草地を探し歩いていると、いきなり足元から飛び出して悔しい思いをすることがあるので、ゆっくりなめるように見回します。

 運がよければ、羽化後で翅を伸ばして(乾かして)いる個体や、また羽化不全でほとんど飛べない個体に出逢えます。もっとも撮影前にそれが分かるのではなく、ピント併せ中のファインダー画像からや、撮影後にモニターで評価検討しているときに「やけに落ち着いていたな‥‥」と感じられることからわかるわけです。実際の撮影では、現場で静止している蝶を見つけると、「いた! そのままそのまま……動くなよ!」とつぶやきながら夢中でシャッターを切り続けて、周りが見えない興奮状態になっています。

★微妙なピント合わせ

 さて、数メートル先に蝶の姿を見つけたら、まず、まだ短いままの一脚付きカメラを構え、光の入り具合をみて可能であれば回り込みながら近づきます。私は“蝶の顔”が撮影テーマですので、正面から撮れる位置へ移動します。

 一脚は (2)の対策として、前後の微妙なブレ(身体の揺れ)防止のために必須です。三脚は機動性が無いのでまず使いません。また、レンズフードもカメラが大げさになり蝶を刺激するのでつけません。

 1メートル近くになったら、ファインダーをのぞきピントを合わせ、シャッターを切りながらさらに寄っていきます。そして一脚の石突き(足)がしっかり立つかどうか足元のやわらかさを確かめ、撮影する高さを見極めながら足を伸ばします。

 ピント合わせは、「眼の中心にピントを持って来られるか」という微妙な調節がオートフォーカスでは当てにできませんので、当然マニュアルフォーカスです。

 90mmレンズの最短撮影距離30cmにある被写体にピントを合わせるとき、ピントが合う範囲(被写界深度)はF8に絞ってもわずか4mmしかありません。この芯を眼の中心に合わせるなんて……と思うかもしれませんが、努力目標にするほかありません。実際は、正直なところ、ファインダーをのぞいてシャッターを切りながら「こんなもんだろう‥‥」ということになりますが、決していい加減ということではありません。A3以上のレベルで印刷すると(それとなく)違いが分かります。

 「微妙なピント合わせは身体を前後して調節する」ようなことが解説書によく述べられていますが、私の経験ではフォーカスリングを回したほうが感覚的にやりやすい」と思います。

★一脚をCに立てる位置を決めるときのカメラ位置


 一脚の使い方で一つだけ注意しなければならないことがあります。
 それは近寄るときに、一脚をどこに立てたらよいかを判断することです。たとえば図Bの位置で撮影してからもっと近づいて撮る場合は、どの程度Aに近づきたいかによってCの位置を決めることになります。
 つまりBの位置で撮影してから、(蝶に近づくために) Cの位置を動かさずにそのままAの位置にカメラを持っていくと、高さ(長さ)の誤差(BC-AC)が出るということです。

 そのとき、一脚の長さをそのままにして近づくと、カメラの高さが変わってしまう (コサイン誤差が出る)ので、少し縮める必要があります。厳密にいうと、カメラも下向きになるので、雲台を緩めて、カメラの角度も微妙に変える必要があります。

 ファインダーをのぞいたままの操作ですので慣れておかなければなりません。ファインダーから目を離し頭を動かすと、再びファインダーの中に蝶を入れるまでに時間がかかったり、逃げられることがあります。
 なお、Bでは撮らずにAまで近づくときは、ACの長さに調節しておきます。

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