○○系に振り回されず我が道を行く
FM802から始まる音楽の新しい波
関西発のヒットはラジオから生まれる。
ラヴ・サイケデリコや矢井田瞳の才能をインディーズ時代に見いだして、
火をつけたのがFM802だった。
TBSの音楽ランキング番組『CDTV』の姉妹番組として、昨年秋に始まった『CDTV−Neo』。
これからブレイクしそうなアーティストなどをいち早く見つけたい人のための先取り音楽情報番組だ。
そのスタートにあたり、プロデューサーが訪れた先のひとつが大阪のFM802(はちまるに)だった。
チャートや情報の提供を申し入れたのだ。東京キー局の音楽番組も常に動向をウォッチしているほど、
音楽シーンで802の影響力が高まっていることを示すエピソードである。
というのも、802が力を入れたアーティストが、その後、全国でブレイクするという現象が最近、とみに目立つからだ。
口コミで曲の評判を伝えるのに適したサイズ
ラヴ・サイケデリコも矢井田瞳も全国的にブレイクするはるか以前、インディーズ時代にすでに局の推薦曲である
ヘビーローテーションを楽曲としてに大量にオンエアして、関西から火を付けている。
aikoや花*花といった関西出身のアーティストの楽曲も802では早くから人気があった。
さかのぼると、90年のKAN、槇原敬之、90年代半ばの山崎まさよし、スガシカオ・・・とJ−POPの新しい波を中央へ
次々と送り込んだのはいつも802だった。
東京首都圏の人口4000万人に対して関西(京阪神)圏は人口1500万人。全国のCDセールスにおける占有率が18〜20%だ。
広すぎる首都圏よりも、口コミで楽曲の評判を浸透させるのに適したサイズのエリアといえよう
(CD占有率が5%程度なら逆に地域限定的となり、全国波及への影響度は至難とされる)。
802の思想の原点は「アンチ東京」だ(裏返しのコンプレックスもある)。どんなに推薦曲を選んでも、
それだけで東京や全国へは波及しない。しょせんはカウンターカルチャーだ。だが、それを逆手にとり、開き直ったことが奏功した。
東京キー局発信のテレビの歌番組では、チャート上位の同じアーティストばかりが、どの番組を見ても金太郎のように登場する。
「それでは面白くない」「ほかにももっといい音楽があるで」------802は大胆な差別化をはかった。
実際、802が力を入れる曲は時の音楽シーンの主流である○○系と呼ばれるジャンルに入らないものが多い。
R&B全盛の昨年、なぜaikoや矢井田や花*花のような、主流から外れたヒット曲が大阪から生まれてきたのか。
それを解く鍵が802にあるのだ。
その事情と戦略を詳しく知るには、時計の針を開局時にまで戻さなければならない。
開局は12年前の1989年。当初洋楽80%、邦楽20%の比率で始めたが、スマートな洋楽が多すぎるプログラムは
関西の気質にイマイチ合致しなかった。そして7〜8年かけて邦洋半々の今の形態に落ち着くのだが、94年ごろ、ある転機が訪れる。
ジャニーズ系やモーニング娘。がかからないラジオ局
制作スタッフの間で、ともすれば東京主導のヒット曲を多くかけがちになる・・・という現象が目立ち始めたのだ。
「アイドルと歌謡曲はかけない」という絶対的スタンスは維持されていたが、境界線上の楽曲が増えだしたためだ。
例えばglobeや安室奈美恵・・・。だが、それでは東京メディアとなんら変わらない。大阪の反骨精神はどこへ行ったのか?
802のアイデンティティ(オリジナリティ)が危うく失われかけた。
94〜95年は小室ファミリー全盛で、CMや主題歌などテレビでの大量オンエアで曲が売れる時代だった。それとは別のところから
ヒット曲を生むため、編成・制作入り乱れてのかんかんがくがくの論争の末、「大型タイアップ曲はかけるのをやめよう」と
802は決めた。
当時、802でかからなかった楽曲は、小室ファミリー系とTRF、安室奈美恵、華原朋美、globe、hitomi・・・。
ビーイング系のB'z、ZARD、大黒摩季・・・。もともと「アイドルはかけない」から、今でもジャニーズ系やモーニング娘。
はオンエアされない。SMAP『らいおんハート』や浜崎あゆみの一連のヒット曲が一切かかっていないラジオ局なんて
信じられますか?
こういう離れワザができるのも、業界的なウラ事情を少し明かせば、わかりやすく言うと「カネで動かない」という
ポリシーを保持し続けているからだ。
そのひとつが「音楽出版ビジネスをしない」。米国のラジオ局は自前の音楽出版社を持つことが法律で禁じられている。
だが日本ではその法律がなく、どの民放テレビ・ラジオ局も系列の音楽出版ビジネスに手を染めてきた。
そのこと自体は悪いことではないが、自局でかければ放送使用料が発生し、CDが売れれば印税が派生する。
となると出版権をもつ楽曲を多くかけようとするのは人情・・・だろう。
自分の耳で聞いていいと思った曲を推す
802も民放ゆえ、営業的には音楽出版権は欲しいに違いない。だがその権利からフリーになることによって、
ディレクターやDJの選曲にバイアスがかかることが避けられているのだ。
そして「有料ヘビーローテーションを受け付けない」。802のヘビーローテーション楽曲の決まり方は、
各ディレクター&DJが自分の耳で聴いていいと思った楽曲を邦洋1曲ずつ推薦し、アンケート結果を編成が
まとめて再判断し、邦楽1曲洋楽1曲の計2曲に絞る。
この推薦曲が1カ月の間、1日に12〜13回繰り返し流される。ここから矢井田やデリコのメジャーデビュー前の
ブレイクも生まれてきた。
ヘビーローテーション自体は全国のラジオ局がやっているが、有料でオンエアを受け付けるケースもある。
だが802は、それはやらないという方針を貫いている。
もっとも、自主規制を設けたゆえに、安室やglobeをかけない95〜98年には聴取率が落ち込み、営業的に
苦しい時代もあった。
だが、その苦しさを乗り越えて初めて、今の802の地に足のついたステーションパワーが生まれた。
そして、CMや主題歌の大型タイアップブームが一段落し、テレビの影響力が下り坂になった90年代末、802がプッシュする
関西発アーティストの快進撃が始まったのである。
|