「イエローマンション物語」



イエローマンションの第30期通常総会が開かれて議案の第1号議案から

順次総会議長役の第30期理事長が議事を進行していった。

最後の第6号議案は次の第31期管理組合役員選任に関する件だ。 

毎年、この役員を誰にするかが居住者の大半が高齢で特に高齢の御婦人一人住まいが多く
役員が無理という方が多くイエローマンションでは、それが悩みの種だった。

それでは各階から毎年1名選出しようと、理事長は各階から順送りでという事で、これまで進んできた。 

勿論、次期31期理事候補者は全員総会に出席している。
無事次期役員候補の議案も異議なしで総会は終了。

 総会終了後、引き続き第31期理事会の第1回理事会が総会の開かれた会場で開催という事になった。

理事長には恒例の仕来りで4階の年配の御婦人が
「改めて31期の第1回の
理事会を開きます。最初に副理事長を決めさせて頂きたいと思います。
私としては…」と言いかけた途端に、理事に選出された5階に住んでいる神経質そうな男が大声で
「理事長は私が・・・」と叫んだ。

「ちょっと待って下さい」御婦人の理事長がその男を大声で制した。
「理事長は恒例に従い4階の私に決まっています」と言うと、男は
「それでは副理事長を私に」といきり立ってヒステリックな大声で、
一瞬、他の理事は何事が起ったのかと唖然とするばかりだった。
 

沈黙が続いた後,年配の御婦人の理事長が落ち着いた声で
「ちょっと待って下さい。理事長としては6階の方にお願いしたいと考えています」
すると突然「6階の人には、居住者のその資格がない。役員をする資格がない」
と形相を変えて男は1枚のコピーした紙を理事長に振りかざして見せた。

それは今から40年も前にイエローマンションが出来た時、入居者に管理規約の各条項を承認します
という書類に名前が無いから副理事長になる資格がないと言う言いがかりまがいの発言だった。

強いて言えばこのイエローマンションの居住者と認められないと言う発言だ。

40年も前の書類に署名捺印が無いから居住者としてまた理事会の理事としても無資格だという事だ。

男はコピーの紙を振りかざして眼は吊り上り勝ち誇ったような顔だった。

40年前の書類を何処から見つけ出したのか?

6階の雑誌社にいたという男が反撃に出た。
「何を言うか、お前の言う事は人権蹂躙、差別だなんたることを言うのだ。差別は大問題になるぞ。
40年も前の書類を持ち出してもそんなのは既に法的にも無効だ。過去に理事長にもなり
マンションの為に誰も手を上げない大修繕委員長もしてきたのだ。何をぬかすか
えらい事になるぞ」
と男に負けず劣らずどすの利いた大声で怒鳴りつけた

その一声で眼のつり上がった神経質な男は無言になった。

関係のない理事には驚きの展開だった。

副理事長になりたいと自薦する男と理事長が推薦する6階の男、長い沈黙が続いた。
鬼の首でも取ったつもりの神経質な男は余りの長い沈黙の中で口を開いた。

「私はおります」と一言。長い沈黙の雰囲気に男は耐えきれなかったのだ。

イエローマンションは40年余り前に、ある商事会社がマンション経営に乗り出したときの
第1号のマンションだ。

阪神間の昔は別荘地と言われた所に造られ、周辺は大企業のトップの人とか外国総領事公邸も有り
大きな浄水場をそうした家々が囲んで立っており風致地区でもあり閑静な所だ。

阪神淡路大震災ではイエローマンションの下を断層が走り半壊の判定を。
しかしマンションの居住者が立ち上げた災害復興委員会で建て替えではなく補修工事を
しようという事に決まり凡そ8か月間で再入居出来るようになり
阪神間では一番早い復興マンションだった。

イエローマンションが補修工事で元の姿に戻ると地の利の便利さや環境の良さもあってか、
新たに購入した入居者もいた。

話は、何年か前の出来事にさかのぼるのだ。

イエローマンションの居住者もまだ若い時代でそれぞれが転勤でイエローマンションから離れて
自分の部屋は人に貸したりしていた。

そして阪神淡路大震災が起こった。

イエローマンションは半壊の張り紙が貼られた。
すぐに災害対策委員会が誕生して近くの小学校で立て替えるか補修するかで議論が沸騰した。

意見はどちらかと言うと建て替えの方に傾いていた。

 居住者の中に或る電気関係の役員をしている男がいて、議論を交わしている時、
突然立ち上がって叫んだ。

「そんな建て替えなんかしていたら出来上がった頃には死んでるぞ」
一瞬静かになり、その一声でマンションを建築した建築会社に依頼して補修工事をしようと
いう意見にまとまった。
 

補修工事は1階2階3階を中心に工事をする為この階の人たちは一時立ち退かないといけない。

工事は各室総てを取り払いコンクリート柱がむき出しの状態にして補修が始まった。

建てた当時、現在のマンションの作りと違いコンクリートの壁の間にモルタルが塗られており
支えの柱も今のマンションと違い1本多い作りだった。

そんなこともあって倒壊から免れたのだろう。 

補修工事は、工事会社の協力で震災から9カ月で終わった。
その頃になると、ぼちぼち定年になりイエローマンションに戻り始める人が増えてきた。

神経質な男も東京の小さな倉庫会社の常務を最後に定年を迎えイエローマンションに戻ってきた。

マンションというのは居住者の中で、とんとんとんからりんと隣組、
垣根越しに「ねえ、お味噌切れちゃっているんで少し貸してもらえない?」
なんていう雰囲気は存在しない。

或る日、夫婦二人住まいの神経質な男が親しくしている居住者の男性に
親睦会を持ち寄りでしませんかと提案してきたのだ。

悪い事ではないし、イエローマンションは広い集会室があるので、
それでは飲み物、食べ物持参でという事で親睦会は始まった。

雰囲気は和気あいあいで毎月1回開かれた。

神経質な男が何回目かの親睦会で
「マンション内で新聞を作りませんか」と言い出した。

「皆さんの顔と名前を知らない人もいるし、互いに趣味趣向も知っといた方がいいのではないか」と。

丁度、これもある大企業で広報関係の仕事をしていた人がいて、
「原稿集めれば割り付けしてコピーします」という事で、
早々に親睦会に出席した人たちの顔写真集から始まった。

顔写真の無い人は、この広報関係の仕事していた人が写真の趣味もあり撮影した。

雑誌社にいたという人が原稿集めに、原稿の足りない部分はその男が書いて、
とにもかくにも第1号は出来上がった。評判は上々。

理由は判らないが神経質な男が、「一度自分の家で集まりましょう」と言い出して
これも持ち寄りで、その男の家で懇談会が開かれた。

 その時、「第2号は?」というと、神経質な男は「否、もうあれ1回でいいです」と。

6階の雑誌社にいた男が「手伝いますから」と言うと、
部屋の隅に立って皆を見つめていた神経質な男の妻が首を横に振っていた。

後の話だが、この神経質な男は高卒でとにかく小さな倉庫会社の常務までなったが
パソコンも使えない不器用な男で、総て夫人が男の代わりをこなしていたのだった。

新聞を作り居住者の顔写真、趣味嗜好を知りたいため載せることを事を考えたのも
夫人の悪知恵だった。
 

イエローマンションの居住者は神経質な男の夫婦の陰謀には気が付かず、和気あいあい気分が続いた。

イエローマンションの規定では、理事は家族なら代理が理事会に出ても良い事に決めていた。

それより、もともと配偶者を亡くした年配の御婦人が多いだけに「各階から理事を」と言っても、
「年だか」とか、「高齢でものの判断が出来ない」とかいう理由で
マンション管理組合の理事になる人は限られていた。
 

総会が終わり第40期イエローマンション理事会の理事が大半は議長一任の委任状で選出され、
その後に開かれた理事会で神経質な男が理事長になったのだ。

誰もがその後に問題を、この神経質な男が起こすとは思いもしなかったのだ。

第40期理事会で理事長になった神経質な男は、開口一番、婦人だらけの理事に向かいこう宣言した。

「このマンションの理事会は会社だ。理事長の私は社長と考えてください」

理事の夫人たちは唖然とした。
もともと理事会の理事とは何ぞやも判らない人たちだから反論の仕様もないのだ。
 

副理事長には、股の間の絆創膏みたいなイエスマンの男が決まった。

イエローマンションには広い集会室があり、マンション近辺には、そんな場所が無いため
地域の自治会の会合とか、年末の一寸した集まりで一杯飲んだりするには最適で便利がられていた。
 

或る日、雑誌社にいた男が以前に自治会の役員から頼まれて、自治会の人たちに雑誌の世界の話を
頼まれてしたことがあって、そこで元食品会社に勤めていたという自治会役員の男と親しくなっていた。
 

偶然、その男と雑誌社にいた男とが出会ったとき、
「先日、お宅の集会室で自治会の役員だけで年末なので一杯やったらお宅の理事長さんが
えらく怒ってきて始末書を書かされました」と。
「えっ?そんな・・・」
マンションの親睦会を集会室で開こうと言い酒を飲むのも言いだしっペはあの男だしと、
話しつつ嫌な予感がした。

 イエローマンションの掲示板に紙が張り出された。


この掲示板は自由に使用の事、但し

宗教・政治に関する事はお断り

商売に関する物もお断り


以下、読む気もしない当然の事が書き記されていた。

 

何を今更こんなものを張り出すのかと居住者たちは思った。

そんなことは管理規約の中の第17条使用細則及び禁止事項の中に
「共同生活の秩序をみだす行為をすること」と書かれている事だ。

理事長は会社の社長と勘違いしている神経質の男にとっては社則を決めたつもりだったのだろう。

 その証拠には管理員を呼び出してこう告げた。

「朝は午前9時には所定の位置に座っている事。
毎日の勤務表を作りなさい。

管理員はマンションの住民のお手伝いは必要ない」

昼の休憩は12時から13時まで
そして、昼の休憩場所は、2部屋あるうちの小さなイスと机のある部屋を使う事、
と指示したのだ。

管理員を自分の会社の従業員と思い始めたのだ。

勿論、理事会の理事は部下だ。
気持ちはこのマンションを否理事会ごと乗っ取り手中に収めて全権を握りたいという考えが
頭の中をよぎったのだろう。

 神経質な男は、改めてマンション周辺を見回り、ある日突然管理員に
「1階の○○号室が雨戸を付けているがあれは問題だ」と言ってきた。

管理人は、あわてて古くから居住している居住者に聞くと、
あれは昔から付けている家だという事が判り、管理員は、社長のつもりでいる理事長に返事をした。

そもそも、管理規約の第17条の使用細則及び禁止事項の「外観を変更する事。但し、盗難予防のため
雨戸を設置することは此の限りではない。その場合、雨戸の様式及び色彩については管理者において
統一するものとする。

とある事も知らず自分の思うままに決めつけようと言う魂胆が見えた。

とうとう本性を現し始めた。

管理員は毎日、理事長を社長の身分と思っている神経質な男が管理員室に来て

横に座り、鼻から息が抜けるような話し方で、意味不明な自分勝手な説教ともつかない話を
2時間ぐらい聞かされので、次第に頬がこけて来た。

 とにかくその話し方、粘っこさは生理的にも嫌悪を感じさせるだけに、理事会でも
御婦人だけの理事だから、皆黙って聞くしか手が無い、たまに異論を言うのもなら
またまた、その鼻から息が抜けるような、論理的に何を話しているか不明な反論が返ってくるだけに
皆押し黙っているしかなかった。

何しろ、今まで家の中では夫人の指図のもとで生活していた世界から、自分が仕切れる理事長という場を
得ただけに欲求不満の総てを理事会と管理員が絶好の対象となったのだ。

家に戻っても夫人に仕切られて、こき使われるだけに、延々と理事会を開き、自分勝手な御託を
述べていれば気落ちがいい。

毎月開かれる理事会はさしたる議題が無くても延々と続き、昼過ぎから夕方7時ごろまで
理事会の開かれている集会室の明かりはついていた。

時には、自分はコンピューターも扱えないので夫人から入知恵されたか、
マンションの管理組合の進め方を講義するセミナーみたいなものを探し出して
理事の婦人方を強制的に出掛けることあった。

或る日、拒否する管理員を例の鼻から息が抜けるような喋りでしつこく食い下がり
マンションの自分の部屋を改装すること、しかも、管理員が「それは管理規約違反です」と言うのを
強引に説き伏せというより、根負けさせて工事に入った。

それは、マンションのテラスのガラス戸は共有部分で改装は出来ない決まりに管理規約で決められている。

第17条使用細則及び禁止事項に、外観を変更すること。とある。

何とこの理事長は社長と思い込んでいる男は、共有部分のテラスのガラス戸の内側に
ステンドグラス風のガラスを仕込んだガラス戸を付けたのだ。

しかも、それでは外観から見えるので、消防法で非常時に逃げられるように
テラスには物を置いてはいけない決まりを無視して背の高い植木鉢を5個も並べたのだ。
 

この頃になると、さすがに居住者にも雰囲気が判って来たのか、
親睦会の幹事をしていた理事長イコール社長の男も幹事の交代を申し出た。

そして親睦会にはこの男に代わって男の夫人が、居住者が自分たちの事をどう思っているか
探るため顔をだすようになった。
 

管理規約の中には、理事長を解任したくても解任出来ない決まりになっている。

マンションの管理組合の理事長は、委任契約における受任者なので、
勿論
たとえ完全無報酬でも管理注意義務を当然負います。

そして、会社の社長のように自分から進んで何かをやるという職責でなく、
法律、管理規約、集会の決議、この3つで定めている事しか出来ない事になっている。
あくまでも受身の立場でこの3つに違反すると善管注意義務が問われるのだ。

 だからと言って管理規約では,けしからん理事長だからと解任は出来ないし、
もし解任したら訴訟を越されて解任した方が不利になる。

マンションの管理規約には現状にそぐわない内容が多いのだ。

 理事会の総会は毎年11月に開かれる。

マンションは10年に一度大修繕工事が一応義務づけられている。
本来は第30期の理事会が実施を決めないといけないのだが、イエローマンションには
意見を求められたら相談に乗ると言うヘルプ委員会というのがあり、
そこが大修繕委員会を任されることになったため、第31期理事会に任せることになった。

しかし、マンション大修繕に当たり、どのくらいの規模でするかの建物診断というものを
実施しないといけないため、第30期の理事会が120万円の予算を決めて
マンション管理会社に発注した。

結果は、次発の理事会がつまり第31期が引き継ぐことになったのだ。 

理事長イコール社長の男がマンション屋根修繕時に、何処で探して来たか、
得体の知れない業者に相見積させて70万円安く出来たとその業者に依頼。
工事に入ったが、もともと専門業者でないため、工事を下請けの更に下請に任せたため
防水膜をはがして取り替える所を、その上から防水膜を1500本の鋲で打ち込むという工事を行い、
屋根の厚さも無視して打ち込んだため、屋根をぶち抜く結果となった。

 更に、神経質な男は理事長の長期政権?に自信があったのか、長期修繕工事を実施するに当たり、
過去に行った工事内容を勝手に疑いを持ち談合的な発言を繰り返していた。

このため長期修繕工事を定期的に実施するに当たり工事施工会社の選定基準が明確でないといい、
工事施工会社選定基準というものを制定、総会の議題に上げたのだ。

 総会は、大半が委任状で、しかも総会議題で配られた総会お知らせでは、
高齢者が多いイエローマンションの居住者には意味が理解不可能だ。

内容が判っている数人の居住者は反対したが賛成多数で可決してしまったのだ。

内容は、見積もり業者を公募する。
公募したら第一次選定する。
面接を行う。

見積もり業者に見積書を提出させる。
その見積書は業者面接のとき開封、
第二次選定では業者のヒヤリングを行い、業者決定を決めるというものだ。

 公募は勿論、居住者の知り合いの業者がいたら公募に参加できるというものだ。

もともと男には目算があったので、また理事長を続けられるという空想に近い願望というか
気持ちが心を支配していたのだ。

ここから第31期理事会の話に戻る。

神経質な男が理事長は、「私が」と金切声で叫んだが不発。
「では副理事長は私が、あの人はなる資格がない」と異常とも思われる発言をしたが
結果は自ら引きさがる身に、ここからが身に破滅を迎える始まりとなるのだ。

実は30期の理事が秘かに大修繕工事を控えているので、雑誌社にいた男にどうしても理事を頼みに来たのだ。

仕方なく引き受けた雑誌社の男は、理事候補によもや神経質な男が出てくるとは思わなかったのだ。

というのは、神経質な男が住んでいる階の理事候補がなかなか決まらない状態だったのだが、
案の定、予定の理事候補押しのけ神経質な男が名乗りをあげた。

 雑誌社の男は、そこで理事長候補の階に住んでいる日頃、地域の自治会を切り盛りしている婦人に
理事になるよう根回しをしたのだ。つまり、神経質な男対策の下準備をしておいたのだ。

 第31回の2回目の理事会は、前理事会が管理会社に依頼した建物診断の結果報告が議題の一つだ。

議長も改めて臨時総会を開いて説明を聞くのも面倒と考えて、理事会議題の最後の議題とした。

そして、建物診断の報告を聞きたい居住者はオブザーバーとして理事会の席上に入れて
皆で聞く事に決めたのだ。

当日は聞きたいと言う希望者が予想を上回るほどで会場は一杯になった。

建物の痛み程度の概略を管理会社の技術部の人が説明を始めた。
しばらくして
説明が途絶えた時、突然神経質な男の夫人が大声を上げた。

「皆さん、これを見て下さい。
そしてこんな大修繕の仕方ではなく、可愛い
お家をつくりましょう」と言い、
持参してきた数字が羅列したコピー用紙の束を会場で配り始めた。

あっけにとられる中で御婦人の理事長が毅然とした声で
「ここは理事会の席です。理事長の許可も無く勝手な事をしないでください」
すると神経質な男の夫人は「私な組合員です」とヒステリック声で叫ぶ姿を
会場の居住者たちは異様な出来事と只唖然とするばかりだった。

説明会は、この騒ぎで中途半端な終わりを迎えた。

実は31回の理事長と副理事長は、副理事長になれなかった男の行動に
頭を痛めていた最中の出来事だったが、この出来事が居住者に神経質な男とその夫人が
オカシイという事が目の当たりに見て理解したことが幸いしたのだ
 

実は、理事会で話した事は議事録として残すのが決まりだ。

理事の役目としては会計書記理事、監事、理事とある。
理事長は神経質な男に会計書記を依頼すると書記なんて言う役は無いと言う。
嫌がらせだ。仕方がないから会計という事にした。

 問題はその後に起こった。
議事録には理事長、副理事長ともう一人の署名と捺印がいるのだ。

これを回覧する表紙に新米の管理員が理事長・副理事長の次に会計をいれてしまったのだ。
問題が起こるとは判らないから、回覧したら署名捺印の代わりに

勝手に他の理事にも回覧しないと署名捺印しないと但し書きを付けて来たのだ。

それ以外にも、意味不明な文句を書いてきたので、理事長は、仕方なくカクカクしかじかと
手紙を書いて渡すと今度はそれをコピーして理事全員に配布したのだ。

その書いてきた文章は何とも言えない幼稚な文章でとても普段使わない言葉を、
しかも備忘録を忘備録と書いてきた。

教養も無く本も読まない人の文章の6つの特徴というのがある。

思った事をそのまま書く。

読み手の事を考えない。

何を伝えたいのかわからない。

結論があいまいでやたら難しい言葉や難解な表現を使う。

書いた文章を推敲しない。

正に、これぴったり当てはまる文章だった。

 

大修繕の工事会社の公募に、予想通り会計の男がマンションの屋根を直させて

70万円安く出来たと自慢して回った業者を推薦してきた。

 それよりもイエローマンションの居住者たちは、会計の男と夫人の行動に問題がある事を
更に知ると共に、この二人は自然と自らの身から出た錆ではないが孤立状態に陥っていた。

 何処かに引っ越さないかとか、引っ越しの車が来ると、引っ越しするのかと思ったとか・・・・。

大修繕の工事会社の公募は、会計の男の推する会社と2社に絞り込み、面談の結果、
もう一つの工事会社の方が200万円安く出来るので、安い方に決まった。

工事会社が決まると会計の男は理事会を欠席し始めた。
議事録を回すと、欠席したので内容に責任が燃えてないから署名捺印が出来ないと言いだした。

益々もって嫌がらせだ。

そのうちいつも駐車場に止まっている会計の男の車が無い日が多くなった。
誰かが移転先を探しているんではと・・・・。

総会前の最後の理事会で大修繕工事の費用が議題と出されて、メインの費用と追加費用とが提案された。

会計の男が反対するかと思いきや、何も言わずに賛成の手を挙げたのだ。

結末は、あっけないものだった。

民生委員から頼まれて、上の階に住む高齢の一人住まいの婦人の家の鍵を会計の男が預かっていたのだ。

その鍵を「預かれないから」と返しに来て、イエローマンションから出ていくことが判った。 

ごり押しと大金をかけ管理規約違法を無視して改装した部屋を、誰しもが手放すとは
考えもしなかっただけに意外な結末を迎えた。

 

2018年12月18日付けの新聞にこんな記事が掲載された。

社会面に4段抜きで

マンション管理組合の理事長

「理事会で解任できる」


マンション管理組合の理事長は理事会で解任できるかが争われた裁判で、

最高裁第一小法廷<大谷直人裁判長>は
「理事会で選ばれた理事長なら解任できるとする初めての判断を示し解任できないとした
1、2審を破棄。理事会の手続きが適切だったかどうかを判断するため審理を高裁に差し戻した」

イエローマンションは穏やかな、もとの雰囲気に戻った。

                 <完>

                                C宮田達夫<2018-4>

<この物語は、総てフィクションです>

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