平成13年度文化庁芸術大賞受賞記念講公演
    朗読ミュージカル 「山崎陽子の世界

作・演出/山崎陽子 照明/今井直次
第一部「とぎれた子守歌」 出演/久留公子 ピアノ/清水玲子 作曲/矢野義明
宮部みゆき作「幻色江戸ごよみ」より 「器量のぞみ」
出演/森田克子 ピアノ/沢田尊子 作曲/小川寛興
第二部「おぼろ月夜」 出演/大野恵美 ピアノ/清水玲子 作曲/大野恵美
「青い星の願い」 出演/森田克子 ピアノ/沢田尊子 作曲/小川寛興

山崎陽子の朗読ミュージカルは以前から拝見していて、企画と作り方の巧妙さに
いつもほのぼのとしたものを観た後に感じていた。
文化庁もこうした本当の日本的ミュージカルをもっと早く認め、
ご褒美に大賞を与えるべきであった。
山崎陽子さんは宝塚歌劇団に入り、新人公演で外部に盗塁、結婚、童話作家、
劇団樹座の座付作者と多彩で、宝塚星組では日向薫で自作の作品が舞台化された。
今回改めて「山崎陽子の世界」を観て感じたのは、舞台はいつもホリゾントだけ、
そうかこれはキャンバスだったのだ。
衣装の色は中間色、それぞれが起承転結のできる出演者を揃え、
山崎陽子は巧みに舞台の上にこの人達を使い、絵を描き上げていたのだ。
朗読ミュージカルというが物語は癒しのストーリー、音楽は心地よく、
それでいて邪魔にならない。
出演者は物語と歌を巧みに語り歌い、観客は心地よい癒しの物語と歌の中で
自分のパンドラの箱を求めさまよい劇場を後にする。
今ブロードウエイやロンドンミュージカルの作品が公演され騒がれるが
いずれもイミテーションにすぎない。
「近頃の役者は不真面目だ、芸もなければ業もない。
ろくに稽古もやらないで、スター気取りは許せない」
こんな芝居の科白を思い出した。
最近の日本人の顔は舶来の芝居に向かない顔になっている。
山崎陽子の世界は創造された世界で、ブロードウエイでロングランしている
「ファンタスティックス」もこれと似ていると思った。

看板娘の森田克子の「器量のぞみ」は、いかんなく個性を発揮。
いかに舞台人には個性とあくがいるのかを判らせた。
特に「青い星の願い」で、聖しこの夜を知らないうちに観客が森田の指先一つで
自然と歌いだしてしまうのは森田の催眠術。
隣のおじさんもおばあさんも大声で歌っていた。
どう舞台を創るのかと思った「おぼろ月夜」の大野恵美は
自分の個性を生かして老人とエレベーターガールを演じ、
観客の多くがシニアだったが共感を呼んだはず。
さりげなくおばあさんとエレベーターガールの心の使い分けと歌い分けが見事。
「とぎれた子守歌」の久留公子のさりげない歌い方は
幕開けのオーバーチュアという感じ。
出演者は自分の持っているものを存分に舞台にさらけ出し、
いずれにしても座付作者兼演出のうまさであろう。
そしていかに作品が大切かということである。
挨拶で山崎陽子さんがタイトルを変えようと考えたが
「山崎陽子の世界」で押し通すことにした。
なぜならこれは魚屋の「屋号」みたいなものだからだという。
そしてこの魚屋さん、これからも鮮度のいい、さよりや、黒鯛、鱸や、鮪を取り揃え
魚が泳ぎやすいようにしますので、仕上げの方はお客様ですと話した。
総ては山崎陽子さんの上品な感性と人間性に感じ入る人達の集合体だけに
更に練り上げていくと舞台がもっと密度の濃い楽しいものになると思った。
ただ4話のつなぎの部分が暗転になるのが気にかかった。
ファンタスティックスを真似るわけではないが山崎屋になるのなら
暗転の代わりに山崎屋ののれんを使い、
出演者の出入りを違和感なく出来ないだろうか?
もう一つ、山崎屋になるのならいつも初めか最後に歌うテーマソングが欲しい。
そしてこれだけのアットホームな舞台であれば、終演後に出演者がロビーに出て
観客と語り合うと、素敵な魚屋さんになるのではないだろうか。
これも演出の一つだと思う。
それといつの日か、市村正親、毬谷友子もこの舞台で観てみたいものだ。
次回10月18日・19日紀尾井ホールの「山崎陽子の世界X」は、
まさに大賞のXか。
出演の日向薫に期待、ほかに森田克子、大路三千緒

  2002年3月30日 紀尾井ホール ちゅ−太

                 

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