朗読ミュージカル「山崎陽子の世界」2015年
山崎陽子の世界も25年目を迎えた。
書いた作品は60作にのぼるという。大阪の大丸心斎橋劇場の公演には、相変わらず高年齢の女性観客で満席だ。
大野恵美さん演じる「おぼろ月夜」文化庁芸術大賞受賞作品
この作品は大野さんが演じないと、出てこない老夫婦と若いエレベータガールの独特の雰囲気を
かもしだすとこころが作者山崎陽子さんの手腕と言える。
大野さんは、さりげなく決して派手でもなく淡々とこの三人を演じ分けていく。その淡々さが物語の味わいを
濃くしたり薄くしたり濃淡を感じさせるところが素晴らしい。
老夫婦の若き時代に得た二人の愛が、年をとり記憶が忘却の彼方に行ってしまったとき、ふとした事が記憶を
蘇るときがある。
青春の想い出なんて年をとって思い出せることほど、心の中にくすぐったさを感じさせる。
観終わった時、多分観客もそうした各々が違うがイマジネーションを描いただろう。
ジロドウの作品の「オンデイーヌ」の台詞で、こんなのがある「そうすれば、忘却と死と、年齢と種族によって
切り離されてはいても、あたしたちはお互いに、心が通じ合うことが出来るわ。お互いの愛に忠実でいられるわ」
有馬稲子さんと堂ノ脇恭子さん演じる「春うらら
互いに張り合う嫁と姑が墓参りで互いの心の中の本心を知るという御話。
有馬さんと堂ノ脇さんの二人での舞台を観ていて、実は上品な掛け合い漫才だなあと感じさせられた。
二人漫才の手法をこのように取り入れて朗読劇の二人芝居にすると、互いの足りない部分が足りてくるから
興味深い。
有馬稲子さんは、姑を素のような演じ方で嫌みなく嫌味を感じさせ、嫁を演じた堂ノ脇恭子さんは、
有馬稲子さん演じる、さらっとした芝居に、寄り添うような形で芝居ができるので、見ていて、そこに互いの
間の取り方に漫才的要素を感じたのだ。
と言う風にできる様に書かれた作者の物語の纏め方が素晴らしい。
毎回の如く言うが、どの作品も演者に合わせて書かれているだけに縦横寸法通りの舞台が出来上がる。
老獪な演技者有馬稲子さんが若い堂ノ脇恭子さんの芝居を上手に包み込んで、最後にオチを付けている。
日向薫さん演じる「岸部の花」
叶わぬ恋に身を焼き死を決意した娘に乳母が語る将軍光輝と美しい妻・青春の愛の物語。
以前の日向薫さんの舞台は、いつも消化不良的なものが残っていたが今回は、過去の宝塚歌劇の舞台の
経験が上手に舞台の中に生きていて朗読劇の起承転結の転の部分の責任を充分に果たしていた。
今迄は台本の読み方が演じるための読み方、あるいは役つくりのための読み方だったのではないだろうか?
今回は台本をちゃんと読解しての芝居と感じた。読解することが演技に通じるのだ。
それと長年、日向薫さんの宝塚歌劇の舞台を観ているだけに、作者も演者が宝塚の舞台で得た、特に
柴田侑宏さんの作品の雰囲気を日向薫さんから、引き出して演じさせたのではないかと思わせるところが
何か所かあった。
そこが、見事に彼女の個性を確立させての舞台が生まれたのではないだろうか?
淡白だった彼女にいい意味でのあくが付いてきたなあと感じる舞台。メリハリがきいて居た。
森田克子さんの「きっと明日は」
25年目を迎えた山崎陽子の世界 朗読ミュージカルのトリは矢張りこの方でないと客席が
引き締まらないかもしれない。
つまり起承転結の結のフィナーレだ。
詐欺師のコンビが子供を誘拐身代金をと思いきや、どんでん返しにというお話。
森田克子さんの得意な全身をフルに使っての舞台だ。詐欺師コンビと誘拐された子供を
巧みい演じ分けて、面白おかしく演じていくが、細かい分部はかなり、森田さん自体が意識して
演じているのを感じた。
特に手紙を書く部分では、その昔のトニー谷のそろばん片手の、さいざんす調をとりいれての
演技と、よくトニー谷の、さいざんす調を作り出したと感心した。
此れも、漫才調を逆手に取っているのと同じで、昔の人の芸をうまく取り入れるのも、芸の一つと言える。
部分的には、一寸消化不良的部分もあるが、洞窟の中が満杯になるほどのお話を、それ以上に
演じるだけに、フィナーレには最適だ。
最後は客席から手拍子が生まれる程、一体感が舞台と生まれるのも、朗読劇に大切なイマジネーションの
存在だろう。
いつもながら、分厚い冒険小説を一気に読み切ったという感じが舞台を観終わった後の感触と言える。
今回の日向 薫さん演じた物語は、そのまま1時間ぐらいの宝塚歌劇の舞台になるなと思った。また
演者に向けた作品を作ると、違和感が生まれないという事も山崎陽子さんの舞台から教えられた一つだ。
作品一つ一つに曲を付けて、更に演者を引き立たせていくピアノ演奏の清水玲子さん・沢里尊子さんの
タイミングいい演奏も25年間朗読劇が続いてきた一因と言える。
主催 オフィス・デイーバ 作・演出 山崎陽子 司会 中条秀子
観劇 2015年4月25日 大阪大丸心斎橋劇場 13時公演 G列10番 5000円 ちゅー太
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