「プルーフ/証明」

作/デヴィッド・オーバン 翻訳/小田島恒志 演出/鵜山 仁 
美術/堀尾幸男 照明/勝柴次郎 
キャサリン/寺島しのぶ ロバート/内田 稔 クレア/秋山菜津子 
ハル/田中 実
ひょうご舞台芸術大23回公演

阪神・淡路大震災発生直後に大阪の近鉄劇場で
初日を迎えた「近松心中物語」。
それに出演した寺島しのぶの芝居を初めて観て、
素晴らしい女優になると思った。
6年後、期待を持って、「プルーフ/証明」で
キャサリンを演じるというので観た。
そして、そこには期待通りの成長した寺島しのぶの姿があった。
物語は数学者の父親<内田 稔>と同じ道を歩んでいく娘の話であるが、
ミステリー風であると共に素晴らしいセリフ劇である。
2001年ピュリッツァー賞を受賞している。

私が内田稔を初めて見たのは、岸田国士の「どん底」の木賃宿の主人役。
47年前である。
この内田がキャサリンの父で数学者を演じている。
有数の学者だが次第に体が弱っていく父の面倒を見ているキャサリンは
何時しか父の血を継ぎ、父の教え子との愛が生まれる。
出演者4人だけ、さしたる音楽も効果音もない中で、
寺島と内田の二人の台詞のやり取りが素晴らしい。
父を思い、女としての思いを寺島ならではの個性で見せてくれる。
1幕の最後の台詞「私が書いたの」と、さりげなく寺島の言う一言が光る。
内田は近年少なくなった本当の芝居の出来る役者の一人だけに、
舞台の上の存在は大きい。
寺島も内田との二人の芝居になると、
雰囲気ががらっと変わり芝居が充実する。
それは内田の芝居の受け方がうまいからだろう。
寺島の相手の田中実は線が細く、
米国青年らしい強さみたいなものが感じられないし、
芝居が平坦で、ある種アクの強いものが欲しい。

残念なのは照明でボストンという土地の風土を感じさす太陽の光とか
強い日差しというものが感じられなかった。
変わっていく日差しの中で父娘の芝居を観ると、
また違うものを観客は感じられたと思う。
それにしても寺島しのぶという人は才能豊かな楽しみな人で、
舞台で自分の芝居がないところでのオフの芝居が面白いし、
舞台の空気を動かせるからいい。
芝居のトーンが何故か内田と似てきているのも
文学座出身のせいかもしれない。
これだけのセリフ劇が出来るのだから、
この芝居は自分のレパートリーにして大切にしてほしい。
そして寺島しのぶには、日下武史とか市村正親という人たちと
ストレート芝居をして、芝居という栄養を更に吸収してほしい。

        2001年5月13日 宝塚バウホール初日 ちゅー太

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