「屋上庭園/動員挿話」

作 岸田國士  演出 宮田慶子<屋上庭園> 深津篤史<動員挿話>
美術 池田ともゆき  照明 磯野 睦
出演 七瀬なつみ 神野三鈴 太田宏 遠藤好 小林隆 山路和弘


兵庫県立芸術文化センターのチラシが送られてきて
ふと目についたのが、岸田国士作、演出宮田慶子が目に付いた。

なぜかというと、岸田国士は忘れられない人だから
何も岸田今日子の父上だからではない
実は東京神田の一ツ橋講堂で1954年どん底を演出している時、
サインを頂き次の日の通し稽古を見に行きその時倒れて
なくなられたからだ。

その時の芝居のどん底は、素晴らしいの一言。
芝居の台詞はこれほど大切かと教えられた。

それが1954年、勿論昭和だ。
つまりは新劇華やかなりし時代のものだ。

屋上庭園は大正15年岸田37歳の時の作品だ。
多分軍隊を嫌気がさしてやめてフランス語を勉強していた時代の
25歳から27歳頃の事ではないか。
今の時代でも通じる人間の気持ちをあからさまに
表現している。
勿論今の人には判らない?台詞は随所にある。
例えば雑誌の口絵のような人だ。という台詞がある。
此の一言でいかにその御婦人が
美しいか表現しているのだが。

哀れな姿の夫に対して、卑屈にならないよう支える妻の姿
ああ、今の女性に判らせたいね、今の若い女性に。
演出もいい、宮田慶子、必要以外は動きを最小限度にとどめている。
そして、そこから人間の心の変化本心を、役者の体を使い表現している。
そこにいる役者総てがいい、七瀬なつみの芝居は
最近のぽっと出の芸もないけど主役を張るタレントに見せたいものだ。
神野三鈴もいい、なにがいい?芸がいいのだ、皆苦労して得た芸だから。

とにかく、出演者皆がいい、それは皆実力者だからだろう。
動員挿話、岸田38歳の時の作品だ。
明治37年日露戦争がはじまった頃の話、
此の頃は岸田の父親が少佐で野戦砲兵第三連帯大隊長で出征している。
主人公も出征の命が下りその主人とその馬丁との主従関係、
そして馬丁とその奥さんの関係、今は存在しない
大和なでしこの心を、芝居は確り判るように書いているから素晴らしい。
更には岸田が軍隊の裏面を知り軍隊をやめる、此の気持ちが
思想が此の芝居の中に込められているきがした。

いずれにしても、台詞に一つも無駄な台詞言葉がない。
言葉も美しい?日本語だ。
聞いていて耳障りがいい。

どん底演出では病後のため、一ツ橋講堂の近くに旅館をとり
稽古、その最中に脳卒中で倒れて講堂のロビーの長いすに
横たわり傍らに岸田今日子が泣いている姿が目に焼きついている。
1954年昭和29年岸田国士65歳だ。
どん底を演出したのは神崎清の訳が出来たので引き受けたと
本人は語っている。

久々に本当の芝居と台詞を見た聞いたという瞬間、空間だった。

心地よい余韻が暫らくは続くだろう。

  兵庫県立芸術文化センター 中ホール 2008年3月16日観劇 K15 4000円 チュー太


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