「加藤道夫に心の演劇を求めた劇団は今?」

昭和23年慶応高校の演劇部がサローヤンの「我が心の高原に」を公演。
それを見た加藤道夫は素晴らしい劇評を彼らに送った。
その一部「君達の集まりの中から本当の芸術が生まれてくるか否かは
今後の君達の努力如何にかかっている。
現在の舞台にのさばっている旧い新劇や
ふざけた新劇には呉呉も影響されないように、
やがて君達の手で新しい演劇芸術が開花する未来を僕は夢みている。」
四季の青春ー創立三十周年記念ハムレット公演によせて。
安東伸介の文より。
演劇部のメンバー、林光、峰岸壮一、日下武史で、
林、峰岸が去り、日下が勧誘入部したのが
浅利慶太であった。
昭和28年、加藤道夫は自ら命を絶ち、そのとき劇団四季が旗揚げした。
アヌイとジロドウの作品に未来を求めた四季は、
1954年のアンチゴーヌのプログラムに
「われわれは必ずわれわれのうちから新しい創作劇を生み出すことによって
自らの言葉を持ち現代に生きる若い世代の声を明確に代表し得る
劇団になりたいと思っています。」
と浅利慶太は書いている。
劇団四季第11回秋の公演のプログラムに書かれた公演年譜は
ジロドウ、アヌイの作品で埋められている。
更に公演レパートリーは
ジロドウ、アヌイ、カミユ、サルトル、クローデルの作品があげられている。
1983年3月に藤野節子にインタビューした時、四季のこれからを聞いた。
「最終的には創作劇ですよ。でもいい戯曲がないでしょう。
だからまだちょっと無理じゃないかしら、絶対にあきらめないけど、
浜畑さん達次の世代が四季の伝統を受け継いでくれるでしょう。
その世代から市村君達の世代へと、もうそこまでつながっていますからね」
新しい創作劇誕生はもう目の前という気持ちを強く表現している。
劇団30周年を迎えた時、日下武史のハムレットを公演した。
そのプログラムに安東伸介が日下にハムレットの役を演じる感想を聞き、
こんなことを書いている。
日下「この年になってハムレットの気持ちが少しわかる気がする。
矛盾だらけな男だ。〜略〜
シェークスピアという人はハムレットにあまり同情を持っていないね。
シェークスピアの関心はいろんな劇の見せ場を作る方になって
ハムレットという人物そのものにはないような気がする。」
この頃の日下の芝居は熱気が漂っていた。
日下のこの時のハムレットは苦しみ抜く人間像ではなかった。
後日、昔のハムレットはと聞かれ、役者なんて演り終えた役なんて覚えていないよ。
と笑っていたのが印象的であった。
この時のプログラムの公演予定には、エビータ、ウエストサイド物語、
ジーザス・クライスト=スーパースター、キャッツで飾られ、創作劇の姿は見当たらない。
名作と共に感激を与えた藤野節子の「ひばり」、
日下、滝田、鹿賀、井関が演じた「かっこうの巣をこえて」、
日下、藤野の「ゴールデンポンド」などの芝居は今何処に行ってしまったのだろうか。
ミュージカル路線の彼方なのだろうか。
30周年公演プログラムに日下、藤野に代表される第一世代、
浜畑、三田の第二世代、市村、久野の第三世代、
山口、保坂の第四世代を形作ってくれる。
やっと成熟の時代を迎えたという手応えなんです。
と書かれているが、その世代は今はなく、この中で今いるのは保坂だけ。
そしてこのあたりからミュージカルに変身しはじめ、
「我が心の高原に」を演じた時の心が新劇に反発して
異端児として加藤道夫の期待を背負った精神も見当たらない。
かつて「屋根の上のバイオリン弾き」が森繁久弥でロングラン公演されていた頃、
これが日本のミュージカルの発展を阻害している、
演出家が育たない理由と言われたことがある。
あれほどジロドウ、アヌイ、創作劇に新天地を求め、
藤野節子も大丈夫、各世代が育ったという太鼓判を押したが、
その後その各世代の役者も劇団を去った。
高校演劇部に林も峰岸もいなくなり、危うい時に浅利を部員にした日下は
今それと似た状況下と感じているだろうか。
藤野節子の言葉を思い出して欲しい。
観客も正統派の芝居の舞台から遠ざかり、
ミュージカルの、歌って、踊ってばかりの舞台に洗脳されてしまうと
元に戻すのが難しくなるだろうし、芝居を演じられる役者も不在になる恐れがある。
藤野節子と影万理江が健在で芝居で公演している頃、
私たちは、いざりグループなの、歌って踊れないから、と私に話した言葉を思い出す。
今この言葉を考えるとかなり皮肉が込められているように感じる。
一ツ橋講堂、飛行館ホール、第一生命ホールなどで公演した
あの時の情熱と連帯感のある舞台はなんだったんだろう。
初めに書いた加藤道夫の言葉「新しい演劇芸術が開花する未来を夢見ている」が
そのまま夢で終わるのか。
50年は五昔だ。
月日は総ての志を変えてしまうのだろうか?
走馬灯のように昔の役者が思い出される。
平田葉介、天本英世、藤野節子、影万理江、井関一、北里深雪、千倉すみ子、
安田千永子、田中明夫、水島弘、ほか…
創立期に初々しいながら未来の演劇芸術を求める姿がそこにあった人達なのだ…。
2003年7月14日劇団四季は創立50周年を迎えた。

                                               ちゅー太

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