「秘密はうたう
            A Song at Twilight by Noel Coward

作 ノエル・カワード 翻訳 高橋知伽江 演出 マキノノゾミ
美術 奥村泰彦 照明 中川隆一 音響 高橋 厳 衣裳 前田文子 ヘアメイク 武井優子
出演 村井国夫 三田和代 保坂知寿 神農直隆

芝居の台詞ではないが、書簡を公開するのは違法かもしれないが?この芝居の翻訳者からの
手紙の一部を紹介しよう。
「私が上演を切望しておりました公演があります。秘密はうたうです。
ノエル カワードが最後に書いた戯曲の本邦初演です。
初めて読んだ時、最後の台詞の衝撃に思わず本を取り落とし、呆然としつつも、
これは訳さねばと思いました。
これほどラストで衝撃を受けたのは久しぶりです。そのあとじんわりと暖かな感動が胸を満たします。
見事な変化球ながら、これは究極のラブストーリーと思ったのです」

翻訳者がこれほど歓喜する芝居とは?配役を見たときに、翻訳者とは違う胸の鼓動が
早くなるのを感じたのです。
それは三田和代さんの久々芝居が見れるという期待感です。そして翻訳者がどんな日本語に置き換えて
いるかという台詞劇の期待です。

立派なホテルの一室が舞台に、出だしの場面から演出のマキノノゾミさんはかなり翻訳者の意図したものを
噛み砕いて芝居つくりをしたなあと。

それは三田和代さんの台詞の言い方からです。三田さんには申し訳ないが、思わずそこには
あの名女優・藤野節子さんが居るのかと、同時に加藤治子さんも居るのかと思わすほどです。
芝居の台詞はこうしゃべるのよと、まるで三田和代さんの背後でつぶやいているように感じたのです。

ボーイ役の神農直隆さんの使い方も、物語進行上、一つのアクセントとして十二分に活用している。
物語は台詞劇なので、どこかに変化と間を持たせないといけない。
その役が神農の役であり、各種の飲み物の使い方でした。

冒頭、村井国夫さんと三田和代さんの巧みな言い合いのあと、肝心の女、保坂知寿さんが登場します。

久々に見る保坂さんの芝居は一幕は台詞が少々すべり気味で、本人もいささか気負い勝ちと
感じ取れる芝居です。

でも役つくりに苦労した?村井さんの芝居で舞台の空気がいささか乱れがちの所を押さえているところは
矢張りベテラン役者。

いい忘れましたが、小生は日本人の赤毛の芝居は見ないことにしていますが、
今回の配役は、洋物を如何に上手く演じるかという事を百も承知の役者さんなので、
抵抗なく舞台に溶け込めたのも、演者、演出家の手腕ではないかと。

村井、保坂の芝居の間を上手く取り持つのが、神農演じるボーイです。
ルームサービスの仕方にしても実にスムースに外国のサーバーと変わらぬ身のこなしで、
彼の出入りが二人の芝居の間にはさまり、台詞を言いっぱなしになるところに余裕を与えて、
そこに観客は冷静に物語を二人を見つめる事ができたのです。

劇団四季を辞めてからの保坂さんは、こうした本格的戯曲に向かい合うのは久々だけに、
長年演じてきたミュージカルの体質から台詞面でも完全には抜け出せてないが、
2幕に入り、次第に舞台の空気を自分の方に引き寄せてきたのではないだろうか?
そこが彼女の勘のよさかもしれないと思ったのです。

芝居の間に如何に間を作るか?それは演出家の腕だが、マキノノゾミさんは神農ボーイの出入りと
各種の飲み物を使う事で、動きのない舞台に変化を与える、それが物語に強弱をつけるという
見事な舞台捌きを見せてくれていたのです。

この芝居は、そのまま演じても十分に舞台の完成は望めただろうが、4人の心の変化を
巧みに利用したところが、一段と芝居を興味深くしたのではないだろうか?

村井国夫さんの静の中で演じる心の中の葛藤、恐怖心、過去の後悔?そうしたものが、
台詞の中から十分に表現されていたし、過去と違うキャラクターを感じた。。

本来は保坂さんがもう少し村井さんを押し込むと、女の意地が本心が演じられたのではないかと思った。

そして、2幕での三田和代さんの登場で舞台は総て彼女に総ざらいされる。
それほど、微々にいたる女心を演じきっていたのだ。

一つの謎解き役だが、その台詞の整理されて、これほど見事にまで演じきれる女優さんは
他には居ないだろうと。
久々、本当の昔で言えば新劇?今ではストレート舞台を見た。

究極の愛の物語、翻訳者は、そう述べていたが、最後の場面で3人を見ていて感じたのは
それぞれが一つの自分の生き方を各人が持っていただけで、男に走った男を冷静に
自分の心の寂しさの中で上手に取り込んでいた?男もそれとなく自分の行き方に満足していた?
そこに感じたのは、生きるという事は、誰かに頼るのではなく、自分で見つけ出すものだなあと
秘かに自己満足して劇場を後にした。

如何に生きていくか、今の時代はそれが問題なのです。

久々重厚な舞台を、そしてああまだ心配は無い、これだけ舞台を演じことが出来る役者さんが
居るという事を再確認できた事は収穫だった。

一つ言いたいのは、今のメディアは、こうしたいい芝居があっても見るだけで書かない風潮が
最近強いのが不満だ。いいものはメディアが世間に伝えるのがメデイアの仕事で、
それにより、舞台もさらに発展していくのではないだろうか?

観劇 2011年7月30日 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール 15時公演 席L24番 5500円 ちゅー太


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