宝塚歌劇団 花組公演 春野寿美礼 さよなら公演

   「アデュー マルセイユ」  小池 修一郎 作 演出、 作曲 編曲 大田 健
    「ラヴ シンフォニー」    中村一徳 作 演出 作曲編曲 甲斐正人 
                         西村耕次 鞍富真一 中川 昌


音楽三田会が初の関西での会合を開くので、音楽三田会会員の小池修一郎の舞台を見よう
というのが今回のテーマだ。

観劇する音楽三田会会員は宝塚歌劇は初体験だ。不安が入り混じる中、11列の席で観劇した。

花組の春野のさよなら公演とあり、この組は歌える組といわれているだけに、
小池のテーマもそこに重点が置かれたようだ。

最近の宝塚歌劇は過去にこれが宝塚歌劇といわれた、夢夢しい舞台が少なくなり、どちらかと言うと
現実的芝居が多く求められ、女だけで演じるには少し場違い的舞台作りが感じられていた。

衣装も化粧も過去とは最近大きく違ってきている。
過去は強い照明を当てられてそれに耐えられる舞台化粧を、例えば青黛、青い黛を使用していたが
今は使用してなく、なんとなく自然な感じの化粧をしている。
それだけにかつての宝塚歌劇独特の強いインパクトが失われている感じがする。
全体に茶色かかった今様の化粧は、化粧だけでああ、宝塚歌劇というイメージから
程遠くなっている気がする。

衣装もトップスターは別にして、2番手、3番手の衣装が昔ほど違いが無いとか、
多方面で時代の変化を見せている。

不安の中で舞台の幕が上がった途端に、舞台の流れがいいのに驚いた。
構成的に音楽がスムースに流れて、音の途切れが無いのだ。

物語は1930年代の犯罪都市マルセイユだ。
春野は親友の真飛 聖を助けるため濡れ衣を着て少年院に、
そこでの模範生ぶりが国際刑事機構のボスの目に留まり捜査員になり悪を滅ぼすという筋書きだ。

得てしてこの手の物語はドタバタになりがちだが、そこはエリザベートを手がけてきた小池だけに
台詞と共にオペラ風に台詞を歌繋ぎにしたのだ。

その音繋ぎがスムースに行くので、よくある物語も話もスムースに明解に客席に伝わってきた。。

冒頭からフラシュバック的に春野と真飛の子供時代に切り替わるのが大変スムースに、
この辺りはエリザベートを思い起こさせるが?
演技もこの子供時代を演じる望海風斗と冴月瑠那が素直な芝居をしているのだ。
この銀橋と本舞台の使い分けが良く音楽の乗りもいい。

不思議なもので宝塚歌劇はトップスターが退団となるとがらりと変わり、トップが皆いい芝居をするのだ。
何故か?矢張りもう先が無いと言う所に、気持ちが落ち着くのかもしれない。
過去の人でも最後の舞台が皆いい舞台となっている。
今回も然りで、妙な癖が感じられた春野はその癖も無く、歌も存分に聞かせ
素直に宝塚の男役の魅力を見せつけていた。
只、隠密的捜査員と言う事か余り笑顔が見られなかったのは残念だ。
この辺りの使い分けがほしい所だ。

それでも目線は客席の前から二階席まで気を配っていた。
これが、観客に対しての宝塚男役のマナーだろう

この芝居には国際刑事機構のボスに立ともみが、立もこの公演で宝塚を去るのだ。
悪の警部に星原美紗緒が出ているが、こうしたベテラン生徒が、二人は専科だが、
舞台を安心して見られる要の役を演じているのも宝塚歌劇の昔からの特徴だろう。

小池演出の面白いのは、真飛の恋人役兼歌手に男役の愛音羽麗を起用した事だ。
得てして娘役を使うと体が華奢で様にならない事が多い。
大柄な愛音はその柄を生かして好演している。
この手法は座付き作者だから出来るもので植田紳爾もよく使っていた。

春野の相手役娘役トップの桜乃彩音は線が細いが無難に相手役を務めていた。
大田健の宝塚メロディーも悪くはないが、春野、桜乃のデユエットの場面で歌うメロディーが
なんとなく線が細く感じて、寺田瀧雄時代の音を耳にしているとそう感じるのかもしれない。

時代の変化で宝塚歌劇のメロディーも次第に変化していくのかもしれないが、
マンネリといわれても宝塚本来の音色は失いたくない、それが宝塚歌劇なのだから。

矢張り主役二人のシーンはパープル色の照明の中で甘く切なく見せて欲しい。

芝居の流れも、舞台上の動きも、ドタバタ調は見られず、それなりによく整理されていた。
これも宝塚独特の生徒の自主稽古の賜物かと感じた。

小池が春野をメインに作りたいと感じた狙いは成功したのではないだろうか?
オペラ風に舞台をその中で活劇的にその中で宝塚調を出すという舞台は出来ていた。

サヨナラ公演だけに最後に銀橋で春野にアデューと言わせて下手に入るが、
その前に緞帳が降りてきて、なんとなく締りが悪い感じだ。
このあたりの舞台処理は考えて欲しい

サヨナラ公演だけにかつての忠臣蔵の杜けあきのように、これでさらばじゃという台詞も悪くない。
それと舞台で集団で歌っている場面で誰が歌っているかわからない場面がある。
この辺りの音響処理も工夫がいる。

ミュージカル的に気持ちよく幕が上がり、音楽がスムースに流れて音つなぎよく
生徒も変な演技が無く、まとまりありで、近年では珍しい出来栄えだ。
座付き作者としての真価を見せ小池作の作品では今までで1番かも知れない。


「グランド レヴュー ラヴ シンフォニー」

中村一徳は本来レヴューショー作家だ。
今回は春野のサヨナラというわけで、幕開けから絢爛豪華さを前面に出してきた。
春野中心だけにレヴューショーはダンスだけでなく、生徒も装置の一つという考えで
背後で揺れ動くのも大切な要因だ。
レヴューショーのほんらいの宝塚歌劇の舞台はそうした形で作られてきていた。

気になったのはハットのかぶり方、扱い方、またスパニッシュダンスで
春野と桜乃の髪の色が茶色だと言う事だ。
スパニッシュは黒でなくてはいけない。

宝塚歌劇のショーは今回春野のだよならでに、春野オンリーになるがその中に、
2番手スター、3番手スターを入れ込んでいかないといけない、難しさもある。
更にスパニッシュの場面ではダンサーと言われた鈴懸三由岐が退団するので、
そこで花を飾らすなど、細かい配慮がいるのも宝塚だ
フィナーレも単純明解に若央りさがまとめフィナーレも見覚えある振りがいくつかあるが
そこが宝塚か?黒燕のダンスも見せるが過去のような迫力は無い。
春野、桜乃コンビで踊る大階段のダンスも過去の喜多 弘振付の麻実れいと遥くららを思い出すと
これでもかというダンスに粘っこさが無いのが残念だ。

総じてレヴューショーとしては流れよく最後まで行くので久々宝塚歌劇レヴューショーを見た。

恒例のロケットダンス、大階段で大きな羽をつけた春野を見て、クラシック畑の多い音楽三田会会員は、
別世界のよさを見出した感があったようだ。

  観劇 宝塚大劇場 2007年9月28日 午後1時公演 11列41番 7500円 ちゅー太

 劇評コーナートップへ

                       トップページへ戻る