ミュージカルロマンス   
              DRACULAドラキュラ伝説


原案企画プロデュース 赤坂雅之 作詞 脚本 高橋知伽江 作曲編曲 青木朝子 
演出 藤井大介 振付 広崎うらん 美術 金井勇一郎 照明 高見和義 衣装 朝月真次郎

出演 松平 健 鈴木綜馬 光枝明彦 剣持たまき 紫吹 淳 大澄賢也 園岡新太郎
    真織由季 初風 緑 初嶺麿代 藤本隆宏 安崎 求


最近の演劇界は外国翻訳物が大半を占め、特にミュージカルとなると
米国ブロードウエイのイミテーション物がすべてだ。

ひたすら誰かオリジナルの作品をかける人は居ないか?
以前からこの方なら書けると思っていたのが、
今回の作詞、脚本の高橋知伽江さんだ。

高橋さんは広島で原爆の被害を受ける広島電鉄の物語「チンチン電車」を
舞台化した人で、大人数の出演者を手際よくまとめた脚本を書き上げた。

松平 健さんでドラキュラを内容は愛の物語にして欲しいと
プロデューサーから言われて、本来ホラー物は好まないので、
恥ずかしげもなくラヴストーリーにしましたと、ご本人の発言だ。

ドラキュラといえば吸血鬼、そのドラキュラを使って見事に愛の物語に変身、
書き上げた高橋さんの実力は見事だ。
誰がこれだけの発想が出来ただろうか?

この高橋さんのドラキュラで殿といわれた<客席からそう声が掛かった>
松平健という役者を新しい松平健に生まれ変えさせたともいえる。

悪人ではないドラキュラ、でも血は飲む。
愛するを妻を流行病でなくすが、そこに悪魔が出現。
吸血鬼になれば妻に何処かで再会できると、悪魔のささやきだ。

そしてトランシルバニアからロンドンへ移り住むが此処で、妻に瓜二つのマリーと出会う。
マリーも不思議にドラキュラを夢の中で見ており、会った瞬間から心が引かれる。
そしてドラキュラを捜し求めるヘルシング教授がポワロ探偵ごとくにドラキュラを追う。
婚約者が居るマリーだが愛の物語は最後に感動的な終わりを迎えるのだ。

脚本の構成が確立しており人物像が明確で、無駄ない台詞が舞台を盛り上げる。
特に出演者の個性、役どころを心得ている作詞、脚本の高橋知伽江の台詞で
役者は見事な芝居を見せてくれる。

松平健のドラキュラ像はドラキュラの名前を借りた愛を
女性に注ぎ続ける力強い男性像だ。
今の時代にこれほどの男が居るだろうか?

幕開きは、カットバック方式で美女と野獣のお城の雰囲気だが、
ドラキュラの墓場にヘルシング教授役の鈴木綜馬が訪ねてきて、
ドラキュラへの思いを一気に歌い上げる。

インパクトがあるが冒頭のドラキュラを慕うバンパイヤの踊りの処理が中途半端で
宝塚的処理で、まとまりがない。
バンパイヤは、舞台から消えてくれたほうが、鈴木綜馬の歌のめりはりがつく。
バンパイヤの衣装が薄物だけに貧相にも見える。

物語の構成にメリハリがあるだけに、場面転換ごとの物語の進行に無理がない。
流れがスムースだけにドラキュラの心内が良くわかる。
芝居は良くわかる、わからせることが大事なのだが今の作者はそれを忘れている。

冒頭からドラキュラを補佐する執事役は光枝明彦だ。
他の人には出来ない空気の無い舞台に空気を吹き込む芝居が出来る人だ。
常にドラキュラの枝葉の部分を光枝が補い、一つの芸にしている。
このアクセントがなければドラキュラは成功しなかっただろう。
また善人なドラキュラは表現できなかっただろう。

芸暦50年近い光枝が一番したかった芝居かも知れなし、
それを判って脚本を書いた高橋も流石だ。
若干舞台が停滞したかと思うとき悪魔のメフィストの登場だ。
歌では定評、アクのある芝居が出来る園岡新太郎だ。
2場面しかない自分の役どころを
きっちり演じて物語のメリハリに強力に色をつける。
久々園岡の芝居を見て若き時代のキャッツ、ウエストサイド物語、
蜷川芝居の忠臣蔵を思い出した。
健在振りを見せてくれた。

芝居とは正に総合芸術、役者が自分の役どころを心得ていると芝居はスムースに進行する。
ドラキュラの愛の対象マリー役の剣持たまきはドラキュラの愛を支えるのに精一杯という所で
もう少し逆に愛を降り注いで欲しい。
芝居をしようとするところに無理があるのでは?心でドラキュラに対応すれば、かなり変わるだろう。
あまりに乙女心で演じると大人の愛の物語ならなくなる。
ほんのりと雰囲気から色気がにじみ出て欲しい。

松平健のドラキュラは心を抑えた中での力強い愛を重厚な芝居の中で
観客に感じさせるだけに流石だ。
歌にしても、歌うのではなく台詞を言うという歌い方だけに更に心が伝わる。
そこが芸だろう。
13代仁左衛門の言葉を思い出した。
20歳 役を貰い見て欲しい
30歳 勤める役を誉めてほしい、評価して欲しい
40歳 自分の好きな役者先輩のようになりたい
50歳 何か演じたもので名を残したい
60歳 今日見に来た人を満足させたい
70歳 勤めている役になりきりたい

音楽は青木朝子、旋律が細いと感じたことと、音が散漫なのだ。
松平にしても鈴木綜馬にしても、歌いきれないところがある。
何箇所か力強い音が欲しいと思う場面があった。
芯を通して心に残るメロデイーが一つは欲しい。
総じて音にまとまりがない。
宝塚のベルサイユのばらではないが、寺田瀧雄音楽の上手さはそこにあったのだ。
音で、それ風をさらに増幅させるのが技術だろう。

このドラキュラ、マリーの場面でも、それを感じさせるメロディーが欲しいし
二人だけにして、踊りの人は場面から消えて欲しいと思った。
このあたりの演出のまとめが弱い。
芝居は充分に役者がしてくれるのだから、全体的調和を演出面で図って欲しい。

まとめ方としてはコロス風にしたバンパイヤの真織由季、初風緑、初嶺磨代は元宝塚。
真織は宝塚時代から歌、踊り、芝居共に定評ありだ。
折角のこの3人組が充分に生かされてないのが惜しい。
場つなぎ的もあるが演出にもう一工夫欲しい。
このあたりの処理は宝塚的すぎる。
ドラキュラに絡ませ方、真織の使い方でドラキュラの雰囲気もかなり変わると思った。

安易なのだ。
プログラムに演出の藤井大介は宝塚以外で演出は初めて、
ショウの演出が多くてと書いているが
真織はじめのバンパイヤーの扱い方、場面の処理の仕方にそれが出ている。
芝居がここまで愛の物語なのだから振付もそれに関連して表現して欲しい。
振付も従来の宝塚歌劇の領域を出ていない、
ああ何時もの振りだなあと思い、全体に単調さは免れない。
ここで思うことは、山田卓かボッブ・フォッシー風の振りがあるといいなあと?
音楽、振付を再考すると、ミュージカル作品として肉厚になるのにと。
これは照明にもいえるのだ。
宝塚では愛の表現をする所、勿論演じるのはトップスターだが
パープルピンクで時には強い明かりが当たる。

今回もその雰囲気は感じるが、そのあたりは更なる宝塚のノウハウを生かして欲しい。
あれほど愛をテーマに宝塚を築き上げた所なのだから。
これは演出への注文で照明が折角の所で明かりが違うなあと感じたからだ。

鈴木綜馬は今回の舞台で今まで吹っ切れなかったものが切れたように見えた。
それは自分の個性が自然に出せるようになったからではないだろうか?
歌に関しても必要以上に力まず意識して歌うというものを感じた。
余り自分に説明的にならないほうがいい。
更なる自分の芸に自信を持てといいたい。
光枝、鈴木、園岡という個性ある役者は今の演劇界では貴重だ。

マリーの婚約者・大澄賢也は地味な芝居をしながら
マリーがドラキュラに引かれる流れを演じている。
それぞれが自分のポジションをわきまえて芝居をする、これが一番大切なことだ。
マリーの友人役ルーシーの紫吹淳も元宝塚トップだ。
観劇は幕開けて二日目なのでマリーとの距離感がまだ定まらない感じで、
芝居もなにかとまどいがあるように見受けた。
自分をもっと全面に出して個性を見せた方がいい、
これまた芝居は気持ちでして欲しい。

今回の演出は宝塚歌劇の藤井大介。
舞台全体のまとめに、もう一つ工夫が欲しい。
役者のはけ方、場面の処理の仕方、音楽、振付の面など、多面的に散漫さを感じた。
装置も移動公演を意識してか、重厚さがほしい所にないのが残念だ。
このような芝居の場合は一つの脅し的装置も芝居に役立つ事がある。

とにかく台詞が確立しているだけに、流れに無理もなく愛の物語最後の結末だ。
場面で途切れるかなと思うマリーとの芝居の空白も松平健の芸が総てを解消していく。
多分ドラキュラを演じてる本人も気持ちがいいのではないかと思ったほどだ。

最後の重要な場面で悪魔のメフストのお出ましだ。
一気にここから流れが急流になる。
園岡と松平の間の取り合いが見せる。

そんな事ができるはずがない、悪魔の要求、観客はそう考えるだろう。
脚本の見事さだ。
高橋知伽江は過去に自分が見た愛の芝居の凝縮した愛を
ここで表現したかったのではないだろうか?
ファントムでも美女と野獣でもない、マリーが夢で見たドラキュラとの愛なのだ。

ミュージカルながら台詞劇、そして役者に新たなる風を吹き込んだのがドラキュラだろう。
最後の場面は?にしておこう。
そうでないと劇的結末の感動がなくなるから。
ちらっと聞いた話では、最後の場面でドラキュラが感極まり涙で指揮棒が見えないとか。
それほど松平ドラキュラは、重厚の中で細かい芝居もしないで愛の心を見せ切っている。
芸というものの素晴らしさだろう。

一つだけ加えると、光枝が最後の場面で素晴らしい歌を聞かせてくれる。
これほどの歌を聞かせてくれる役者は他に居ない。
これも楽しみの一つだ。

久々に充実した舞台を見たという満足感を得た。
愛の物語を高橋に書かせたプロデューサーも役目を果たしたといえる。
出来れば、高橋脚本で日本のミュージカルを期待したい。昭和のミュージカルだ。
主人公は阿久 悠だ。是非期待したい。

余計な事だが日本で美女と野獣を公演するのでディズニーと交渉に当たったのが高橋知伽江さん。
彼女はかなりの月日を要して契約に到達したが、最後のサインを交わすまで、
笑い顔一つ見せなかったという有名なエピソードの持ち主だ。

 観劇 2008年4月13日 名古屋中日劇場 12時公演 
 席1階11列29番 A席11000円 ちゅー太

●公演日程 「ドラキュラ公演」
4月21日迄中日劇場 4月24日宮城県民会館 5月1日広島厚生年金会館 
5月21日福岡市民会館 5月30日新潟テルサ
6月4日〜8日梅田芸術劇場 6月12日〜22日新国立劇場中劇場


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