名取裕子 新春朗読の会 2015
渡辺淳一・原作「女優」よりー女優 出演 名取裕子 演出 井坂 聡 上演台本 石丸さち子 ピアノ HIROSHI
2015年1月3日に兵庫県立文化芸術文化センターで名取裕子さんが渡辺淳一・原作の「女優」の朗読会を行った。
物語は明治時代の終わりから大正時代にかけて日本の新劇女優として一世を風靡した松井須磨子の奔走で波乱に満ちた
人生の生きざまを語るというものだ。
朗読会と言うから,如何に作り上げるか興味津々中、舞台の幕は上がった。
下手にピアノで舞台上手寄りにソファーがあるという舞台だ。
冒頭、松井須磨子が歌い爆発的売れ行きを見せたというカチューシャの唄が流れた。
そして名取裕子がワインカラーの衣装で松井須磨子を語り始めた。
これを朗読でこなしていくのは大変だなと言う一抹の不安感を感じたが、名取裕子は語りつつも時には一人芝居の様に
好きになっていく島村抱月との感情のやり取りを演じるなど、単なる朗読の会にはならない雰囲気を次第に舞台の中に
作り出してきた。
語るところでは語り、演じるところでは激しく台詞を喋り彼女の個性を巧みに舞台上に漂わせた。
歌う部分は歌詞を語り、ピアノの伴奏を背景音楽に使うなど舞台の雰囲気が単調にならないように苦労している舞台つくりを感じた。
ただ、この手の舞台は語りの台詞の時に、音楽が効果音が邪魔になる場合がある。今回も、もう少しピアノ演奏のメロデイーを
考慮した曲を使用にした方が、演者の語りの邪魔にならなかったのではないかと言う箇所が何か所かあった。
演者も確かに松井須磨子と島村抱月との恋物語を語り演じるという舞台つくりには、かなり苦労したのではないだろうか?
2幕に分けて演じられたが1幕の幕切れは松井須磨子の絶頂期を演じ切るとこで終わった。
そして2幕目の語りは自分たちの劇場「芸術座」公演をするが、島村抱月が当時流行したスペイン風邪にかかり
あっけなく亡くなってしまい、生きる望みも亡くなった松井須磨子は芸術座の道具部屋で後追い自殺をして生涯に幕を下ろす。
2幕目は名取裕子は着物姿で演じた。
次第に語るよりも、演じるという雰囲気が強くなり、そこに彼女の個性が覆いかぶさり、島村抱月が妻と別れそうで別れない
じれったさの中での抱月と離れられない女の心中を、朗読を越えた演技の中で表現するという、メリハリの付け方が
単純の朗読の会に終わらず、ドラマテイックな朗読の会になったのはさすがと感じた。
最後、芸術座の道具部屋で縊死するところで幕になるが、草履を脱いで手を合わせて暗転幕となる。
此の最後の場面の作り草履を脱ぐことで縊死することを表現しているのだろうが、せめて紐で両足を縛り両手を
併せながら上を見るとか、幕切れをもう少し工夫が欲しかった。
それでも、名取裕子さんと言う女優の普段は見られない素の中での激しい個性というものを見ることが出来て
また、朗読、朗読劇、朗読ミュージカルと多種の中で、これも朗読の仕方のお手本の一つと思った。
観劇 2015年1月3日 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール 15時公演 席C列 21番 3000円 チュー太