第3回:血の傾向・相性

さて第2回目までを読んでくれた方で今回も興味を持って読んでくれている方へ感謝し、今回は9代血統表がメインとなる説明をしたいと思います。
クロスをもとに血統を探る大まかな内容は今回で理解できることになるはずです。
今回は文章メイン&長いので読むのはチョットつらいかも・・・

1.血のつながり

クロス馬のなかで競走馬に影響を及ぼすと思われるもの、2代目の4頭からみた影響度のバランスは前回の内容からなんとなくつかめるようになったと思います。

それらの影響の大きいクロス馬以外にもクロス馬は多種存在しますが、ここでひとつ重要な点があります。
すべてのクロス馬には競走馬に対して影響を与える可能性があるということです。
大きな勢力に対してあまり目立たないようなクロス馬にも可能性は十分あるわけです。
目立たないクロス馬であっても競走馬に能力を伝えるうえでスムーズに遺伝がなされていればその能力の再現も不可能ではありません。
逆にクロスは存在していてもうまく能力を伝えられない場合もあります。
この要因はこれまで説明した主導勢力の明確さ、影響度バランスの状態などに大きく左右されるためでありますが、これらはクロス馬どうしの干渉によって起こります。
ではこの干渉の大小は何によって決まるのでしょうか。
これを知る手がかりは9代血統表にあります。

当たり前ですがクロス馬には6代血統表で知りうる6代目以降にも祖先は存在します。
ずっとさかのぼればサラブレッドの始祖は3頭と言われていますからどこかでこの3頭のどれかに行き着くことになります。
もし2種類のクロス馬がいてこれらの祖先を追っていくとどちらもこのうちの1頭にたどり着くかもしれません。
またそこにたどり着く前に同じ祖先にぶつかるかもしれません。
この同じ祖先というのが実は重要な存在で、同じ祖先が9代以内でクロス馬として存在するような場合、もともとのクロス馬どうしはつながりを持っているものと考えられます。このことを結合とよびます。
多種のクロス馬が9代以内において結合しているなら、それらのクロス馬からは遺伝がスムーズに行なわれます。

下の場合は影響が強いのは世代が浅い点からみてAです。
BはAよりも影響度は小さいのですが、この馬が競走馬におよぼす影響を考えると
 ☆ AほどではないがBもその能力を伝える。
 ☆ 特にBの特徴は伝わってはいないがAの影響もあまり強くならずAの邪魔をするような状態となる。
といったように良い面を伝える可能性を持つ反面、悪い影響をおよぼす可能性もあります。
ですが、Cという馬を共通の祖先として持つならばAの邪魔をすることもなくBも能力遺伝に参加することができるといえます。

2〜5代目 6〜9代目
・・・ ・・・ ・・・
           
    ・・・ ・・・
        ・・・


2.クロス馬の種類と数

では次にクロス馬の種類と数による影響のちがいを簡単に説明します。

クロスで重要なのは父と母がお互いに良いところを引き出したり、また弱いところを補ったりする関係にあることです。
例えばスピードを伝えるNasrullahを持ちながら全体的にはスタミナ勢力の強い母がいたとします。
この母にNasrullahを持ち、勢力は弱めだが母と同じスタミナ勢力を持つ父を組み合わせたとします。
そうすれば母のスタミナを損なうことなくスピードも補うことが可能です。

父父   Nasrullah   この父ならば母方からNasrullahのスピードを補ってもらえ、産駒にとって大きな武器となる。
Hyperionの血は父内では影響度が小さいが母内から産駒へスタミナを伝えるうえで重要な役割をなす。
    Hyperion
父母      
  Nasrullah  
母父      Nasrullah スタミナ十分のHyperionの影響が強い。
Nasrullahのスピードはあまり前に出ていない。

産駒にはHyperionのスタミナを伝えたい。
Nasrullahの血はできれば父方に活かしスピードを補う形としたい。
Hyperion    
母母   Hyperion  
    Nasrullah


つまり必要なものをお互いがどれだけ得ることが出来るのかが大切となります。
特に強調される必要のない馬がクロスとなったり、全く祖先でつながりを持たない馬がクロスとなると伝えたいものがきっちりと伝わらないという結果にもなりかねません。
上の例ではNsrullahとHyperionがクロスとならなければお互いの良いところは産駒に伝わらず最低でも2種類の馬がクロスである必要があります。

クロス馬の種類は9代まで見ると実に多いことに気付くかと思います。
現在の種牡馬の数がひじょうに多いためですが60種類くらいが平均的です。
父と母の相互の関係がうまくいくならばこの種類は少ないほうが遺伝はしやすく早い時期でも能力を発揮できます。
一般に開花・本格化と言われる状態は血統中の主要な血が全体に反応しあった状態を指し、この反応は系列・傾向があっていることで起こりますから血の傾向が合っているうえでシンプルなほど開花は早くなります。
種類が多い場合には開花までに鍛錬が必要となり持っている潜在能力を発揮するためには時間を要します。

ではクロスの数はどうでしょうか。
クロスの数は第1回でも説明した系列の重要性を考えると必然的にある程度の数が必要となってきます。
Nasrullah-Nearco-Pharos-Phalarisが系列でクロスになるなら種類だけでも4種類になりそれが父父〜母母の4グループに存在すれば数も増えるのは当然です。
特に具体的な数字では示しませんが系列のクロスを作り上げられるだけの数、そしてそれらが全体にバランスよく広く配置される数があれば問題ないかと思います。
数で重要なのは5代目の馬32頭をみてそれぞれの祖先に1つはクロスが必要であるということです。
できれば6〜8代目にほしいところで最少でも9代目にはあったほうがよいでしょう。
これがない5代目の馬はそれよりも若い世代に対し遺伝の障害となりうる可能性があります。

この6〜9代目というのは競走馬からは遠く離れた祖先ですが実は成長力と大きな関係があります。
早熟馬の場合、この6〜9世代におけるクロス馬が極端に少ないというのが現実です。
また距離適性にも影響をおよぼし5代血統表などからクラシック向きの配合と思われるような場合にも、この6〜9世代が物足りなければ1800〜2000mが適距離になっているなどという馬も少なくありません。
ふだんあまり関心の持たれないこの世代にも重要な意味があるということが実際の競走馬からも理解できます。

3.世界の競馬と血統

競馬はそもそもイギリスが発祥の地でありフランス、イタリアを含めヨーロッパで広く普及、発展しました。
そこからアメリカ、オセアニア、アジアと世界中に広まりました。
ヨーロッパから輸出したサラブレッドが各地でそれぞれに発展したわけですが、国によって発展の仕方には大きなちがいが生まれました。
この大きな理由が芝のちがいでした。
フランスなどヨーロッパの芝は深く力の要る馬場なのに対し、他の国はそれよりも軽い馬場であったことからスピードのある馬はスタミナばかりすぐれた馬よりも優秀な成績をおさめることができ、そういった血を活かす配合が主流となりました。
ヨーロッパでは大きく育たないスピード系の血がアメリカでは発展したことから逆にヨーロッパに渡ったりすることも多くなりました。
この組み合わせは相性が悪ければ失敗することも多く難しい配合ではありますが、この中から名馬が誕生することもあります。
この条件として1章で述べた結合が重要となります。
そもそもはヨーロッパの血がもとになっておりアメリカで成功した血の中にも深いところにヨーロッパの血は存在します。
このヨーロッパの血という共通の条件のなかに共通のクロス馬が存在すれば成功する可能性も十分あるといえます。
ですから血統表をみてアメリカ系主体の父とヨーロッパ系主体の母という組み合わせならば、お互いがうまくつながりを持っているかに注目すれば成功しやすいかどうかの一応の判断基準にもなります。
さらに現在のようにヨーロッパ、アメリカの血が入り混じった状況ではアメリカ系の父を活かす母としてはヨーロッパ系主体であってもアメリカ系の血を含んでいることが理想的とされます。
一流馬の場合お互いが持つヨーロッパ系、アメリカ系の血を活かすような配慮がなされた配合となっているのが普通です。
ちなみにアメリカで発展した血の系統としてはMan o'war-Fair Play、Blue Larkspur〜Black Toney、Ultimus-Commandoなどが代表的です。

各地で事情が異なるなか日本はさらに特殊な形態を持つと言えます。
日本の芝は世界的にみて極端に硬いスピードの出る馬場で、それによりスピード優先の配合が主流となりました。
とうぜんスタミナはある程度犠牲にしなければならず、ヨーロッパの名馬と比べてもスタミナでは劣った配合であるため、日本の名馬がフランスの凱旋門賞を勝てないと言われる要因でもあります。
逆にジャパンカップで外国の超一流馬が凡走してしまうのもスピードに対応できないためといえます。

日本では名種牡馬とされる馬のなかにもまさに日本向けとして存在するものも多く、テスコボーイ、パーソロン、ノーザンテーストなどが含まれます。
これらの血が活きた配合の場合、海外での成功例はありませんが日本の馬場においては十分対応可能となります。
また海外の血でも日本で活躍できるスピード系の血として活かされているものも多数存在します。
代表的なものとしてはNasrullah、Mumtaz Mahal、Tetratema、The Tetrarchなどが有名で血統表を見ていくうえでもこの特性を知っていると役立つかと思います。
日本で開催される国際レースなどでは海外招待馬の情報はいまひとつつかみにくいのですが、これらの血が活かされているならば不人気の外国馬でも意外な好走を見せる可能性は十分といえます。

3.配合のパターン
第1回からここまでの説明が理解できていれば9代血統表から競走馬の特徴がぼんやりと見えてくるはずです。
現在活躍する競走馬の血統表を見ると案外似たようなパターンが多いことにも気付くかと思います。
このように似たような配合が多くなる理由はいくつかあります。
・種牡馬の持つどの血を強調すべきかがある程度はっきりしている。
・実績上相性が良いと思われる組み合わせがある。
後者については特にニックス(ブラッドニックス)といわれ、血統的に裏付けのある場合がほとんどですが、種牡馬とBMSの組み合わせなどで簡略的に評価されたりしています。雑誌、新聞等で父(種牡馬)のほかに母父(BMS)が掲載されているのもこのためであり、ちょっとした判断材料にはなるかと思います。基本的には全体を見ることが大切ですからこれについては深くふれない事とします。
では前者の強調すべき血に注目して代表的なパターンを紹介しましょう。
まず圧倒的な強さで多数のG1タイトルを手中にしているサンデーサイレンス産駒をみてみます。
例として掲載した血統表はアグネスゴールドです。

サンデーサイレンス   1986 Halo   1969 Hail to Reason   1958 Turn−to   1951 Royal Charger Nearco
Sun Princess
Source Sucree Admiral Drake
Lavendula II
Nothirdchance   1948 Blue Swords Blue Larkspur
Flaming Swords
Galla Colors Sir Gallahad
Rouge et Noir
Cosmah   1953 Cosmic Bomb   1944 Pharamond Phalaris
Selene
Banish Fear Blue Larkspur
Herodiade
Almahmoud   1947 Mahmoud Blenheim
Mah Mahal
Arbitrator Peace Chance
Mother Goose
Wishing Well   1975 Understanding   1963 Promised Land   1954 Palestinian Sun Again
Dolly Whisk
Mahmoudess Mahmoud
Forever Yours
Pretty Ways   1953 Stymie Equestrian
Stop Watch
Pretty Jo Bull Lea
Fib
Mountain Flower   1964 Montparnasse   1956 Gulf Stream Hyperion
Tide−way
Mignon Fox Cub
Mi Condesa
Edelweiss   1959 Hillary Khaled
Snow Bunny
Dowager Free France
Marcellina
エリザベスローズ   1989 ノーザンテースト   1971 Northern Dancer   1961 Nearctic   1954 Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma   1957 Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Lady Victoria   1962 Victoria Park   1957 Chop Chop Flares
Sceptical
Victoriana Windfields
Iribelle
Lady Angela   1944 Hyperion Gainsborough
Selene
Sister Sarah Abbots Trace
Sarita
ノーベンバーローズ   1982 Caro   1967 フォルティノ   1959 Grey Sovereign Nasrullah
Kong
Ranavalo Relic
Navarra
Chambord   1955 Chamossaire Precipitation
Snowberry
Life Hill Solario
Lady of the Snows
Jedina   1976 What a Pleasure   1965 Bold Ruler Nasrullah
Miss Disco
Grey Flight Mahmoud
Planetoid
Killaloe   1970 Dr.Fager Rough’n Tumble
Aspidistra
Grand Splendor Correlation
Cequillo

わかりやすいと思いますが主導勢力はAlmahmoudです。
この馬はそもそもサンデーサイレンス内でもクロスとなっている馬で素晴らしいスピードを伝えます。
サンデー産駒らしさを前に出すならやはり父父Haloの影響がカギとなりますから、このなかでスピード抜群のAlmahmoudが系列ぐるみで活かされる形とするのは間違いではないと考えられます。
実際多くのサンデー産駒はこの馬を主導勢力として成功しています。
ですからサンデー産駒として失敗の少ない産駒を期待する場合は母内にAlmahmoudの血が存在するのが理想的といえます。
アグネスゴールドの場合はBMSノーザンテースト内のAlmahmoudが活かされてますから4×5という世代関係からHalo側への集約が図られることとなります。
BMSにノーザンテーストを持つサンデー産駒が多いのもこういった理由からといえます。
ただしこの場合には他のクロス(Nearco、Hyperion)はノーザンテースト側に集約されているため、必要以上にノーザンテーストの影響が強くなってしまうということも考えられますが・・・
ノーザンテーストと同じノーザンダンサー系のLyphardが入った場合なども同様にAlmahmoud主導となります。こちらのほうがややすっきりした配合で余計な影響は受けにくい形といえるでしょう。
またダンスインザダークのようにNijinskyがBMSの場合も同様でこの場合はHalo内Hail to Reasonの影響も高めとなり完全にHalo強調型となります。
この他にMahmoud主導なども多く、Haloを強調したパターンを作り上げるクロスがサンデー産駒の特徴といえます。
Haloの強調としては特にAlmahmoud、Mahmoudにこだわる必要もないと思わせた成功例がアグネスタキオンです。
Pharamond主導でそれ以外にNearcoのクロスが目立つ程度のシンプルさからスピードを前面に出したタイプになっています。
種牡馬として今後期待される1頭でノーザンダンサーの血を持たないことから配合の自由度も高いと思われます。

サンデー産駒を例に取り上げましたが他の産駒も色々と配合における特徴はあります。
はっきりとした特徴を持つものにトニービン産駒が挙げられます。
Hyperionを主導勢力としトニービンの母方Hornbeamを強調するのが多いパターンです。
この形をとるトニービン産駒はHornbeamの影響が強すぎる傾向があり全体のバランスが取りにくいと言えます。
しかしながら面白いことにバランスの悪さを抱えながらも好走する馬が多く成功例も多いことから同様の形をとる馬が多く、産駒全体を見渡すとバランスの悪い馬が多いのも事実です。
このバランスの悪さがもたらす影響としていまひとつ切れのない馬や調子の維持が難しい馬も多数存在します。
サンデー産駒と比較してエリート率が大きく低下する理由もこんなところにあるのかもしれません。

今回はここまでです。
9代までさかのぼることにも意味があることは理解してもらえたかと思います。
9代血統表が手に入らないという方は掲示板にでもカキコしてもらえればUPしますので遠慮なくどうぞ。
実際に血統表を見て掴める情報のなかで重要な点を第1回から説明してきましたがいかがだったでしょうか。
あまりにも簡単に説明しすぎたかなという気もしますが、ここまでの説明に興味を持ってくれた方には心から感謝します。
次回で五十嵐理論に基づく説明は一旦終了ということで第1回〜第3回の内容のまとめを掲載します。
それから実践編ということで実際の競走馬をこれまでの内容に基づいて見てみようと思います。


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