11月18日 円卓の間
「御大に一言、申し上げたき儀がござりまする」
妙に畏まった口調で、白トカゲの冒険者、通称語り手・チアキ(a07495)が口を開く。
数多き旅団の中でも、旅団規模上位100旅団長しか入ることの許されぬその場所にいる彼も、とある旅団の長である。
思えば彼が円卓の主に物申すのは初めての事ではなかろうか。
「臭いますね」
彼の申し立てに答える事無く、御大と呼ばれた少女は告げる。
「何としても聞き入れてもらわねば、ならなきことゆえ」
彼の口からつぅ、と一筋、血が流れる。
その様子を確認した周囲の団長達は事を察した。
(チアキどのは陰腹を召して!)
(御大にあの件を諌言なさるおつもりだ!)
―陰腹―
腹を斬り、自らの命を以て進言する事。
命を賭したその行動は、時として絶大な発言力を持つ事もある。
斬ってからしばらく経つのだろう。彼の腹部はうっすらと赤く染まり始めている。
「来たる11月25日、円卓の間前にて行われる御前試合を、真剣を持ってせしめるの儀」
「お取り止めくだされい」
赤色の染色率が上がって行く。既に腹部、足と赤き色は浸食する。
「ネタの優劣は素手にて十分見てとれるもの。真剣などを用いてはせっかくの一芸者が……うぶっ!」
逆流した血が口内に溜まる。
その血を吐き出すまいと、必死の形相。
周りで見ている団長達の中にはその迫力に、後づさりする者もいた。
ごくり。
溜まる溜まる血液。生命活動には不可欠だが、発言するには邪魔だ。喉を通し胃に戻す。
しばらくはこれで良い。
「天下はすでに同盟による統治済。されど微弱な反乱分子は後を絶たず。かかるご時世に同盟の中心たる円卓の間を血で汚せば、噂を聞きつけた下賎共がこれ好機、と受け取りましょう」
ぐぶり
「さ すれば、同盟の一大事!!」
血は畳を侵食する。赤く、赤く、赤く。
されど死の独演は止まらず。むしろこれより真骨頂。
「されば…御前試合の剣士にかわり、それがしがお見せつかまつる」
ずぶり
「真剣ネタ試合のもたらるものは、つまるところこのようなもの」
赤い、赤い、赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤
「それとも御大は…」
白い肌は生命の輝きを失い、すでに命の欠片も見当たらない。
「同盟3万の冒険者を引き換えにされても、この様なものが御覧になりたいと仰せられるか?」
限界はとうに過ぎている。
彼を突き動かすのは何なのか。恐らくそれは、ただただ、答えを知りたいだけなのだろう。
己が命の、答えを。
命の進言を受けた少女は、彼の命にどう答えるのか?
答えはシンプルなものだった。
微笑
血に染まり、消え行く魂の持ち主を見送る、無邪気な笑み。
「……暗…君……」
そこで彼は息絶えた。
【家中の者1名、細切】
【11月25日】
この日、尋常ならざる円卓の主をひととき喜ばせしめるために、前代未聞の真剣試合が行われようとしていた。
この暴挙を
もはや何者も止め得ず。
冒険者の命は、冒険者の命ならず。
御大のものなれば。
御大のために死場所を得ることこそ、冒険者の誉。
同盟文化の完成型は、少数のサディストと多数のマゾヒストによって構成されるのだ。
円卓の間。
この場より見渡せるわずかなスペースに、血宴の舞台は整えられていた。
出席を強制させられた円卓の参加者たちが席に着く。
その表情は一様に沈痛の面持ちである。
最後に、円卓の主たる彼女が椅子に着く。
「御大、宜しいかな?」
司会兼審判役の語り手・チアキ(a07495)が最終確認をする。
できるならば、今この時「中止する」の一言を求めて。
だが期待は成就しない。希望は実らない。
彼女はチアキの発言に、わずかに唇を動かす。
森羅万象 射殺す―――微笑。
最早この死流を止める術は無く。
渦巻くは狂気。
かくして。
血と臓物とネタが乱舞する狂気の死劇が開幕する。
参加者達の行き着く先にあるのは死か、それとも死か。
失うことから、全ては始まる。
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