第十四試合−第十五試合

番外『帰還』

担当MS:チアキ

     「団長殿が帰られたぞ!」
     それは誰の猛りだったか。もしかしたら複数人かもしれない。だが誰が発したか、などは些細な問題でしかない。正午を僅かに廻った時、クズノハ忍法帖にその声が響いたことだけは確かなのだから。
     航空技術の粋を集めて作られた飛空挺――通称『デクス・ウキス・マキーネ』はその巨体を強風に揺られる事無く旅団本拠地に着地、帰還を果たす。
    「ようやく到着なぁ〜んね」
     旅団員が船場に集結する中、青髪の少年が呟く。呆れる様子でもなく、楽しむように。
     デクス・ウキス・マキーネの扉が開く頃には全団員が集結していた。そして扉が開くと同時に号令がかけられた。
    「総員、団長殿へ敬礼!」
     出は背のひょろ高いシャバ憎と屈強なマスクをつけたヒトノソリン、そして小柄で、嫌な笑みを浮かべるリザードマンだった。彼らこそがこのクズノハ忍法帖の中枢、そして全ての災厄の起源であった。
    「団長、遅いなぁ〜んよ」
     団員達が敬礼する中一人、気楽に姿を崩していた少年が日差しのような声で話しかけた。
    「僕なんてナマハゲに腹を突き破られたのに先に来れたなぁ〜ん。もうちょっと小回り聞かせた方がいいなぁ〜んよ」
     ヒトノソリンの少年――ジオは底抜けに明るい声でニカッと笑いながら喋った。
     シャバ憎が「こら、ジオ君。団長の前だぞ!」と注意するもののジオの態度は変わらず、シャバ憎の側にいる覆面の男にも同意を求めた。
    「ね、ラスキューさんもそう思うなぁ〜んよね?」
     しかし、ジオの明るい声も其処までであった。覆面の男から僅かに覗く、その鋭い眼差し。射抜くような無言のハァハァした視線。
    「あ…えっと、その。申し訳ありませんなぁん、団長」
     礼節を正したジオに対し団長は
    「いい、気にするでないジオ殿。急に畏まられても調子が狂う。それよりも…いよいよだぞ」
     含みのある邪悪な笑いを浮かべ答えた。その言葉にジオだけではなく団員全ての気配が沸き上がり始めた。


    「何がいよいよだと言うのだ!?」
     しかしその沸き上がりも威圧的な声によって中断された。
     集まった団員の陰より長身痩躯を見せたのは、かつて麗冥帝と呼ばれた男、リュドゥラ皇子であった。その姿を見付けた団長は顔色一つ代えず――いや、今まで浮かべていた嫌な笑みを消し無表情にし、麗冥帝へと敬礼した。
    「ハイル・同盟。御大特秘、第666号に基づく特務を完了し、只今帰還致しました」
    「クズノハ団長のリザードマン。貴様は…貴様らは一体何をしているのだ!」
    「全く完全にお答えできません、リュドゥラ皇子。御大特秘命令は如何に皇子のご命令でもお答えできません」
    「これは重大な独断専行、命令違反だ」
    「御大特秘はあらゆる命令系統の上位に存在します」
    「貴様如きが御大の名を借りて、勝手な…」
    「私は命令を実行しているに過ぎません」
     淡々と答えるチアキにリュドゥラは怒り心頭の様子で、顔面に浮かぶ血管を痙攣させていた。
    「何もかも貴様の思い通りいくと思うなよ、リザードマン」
    「ならば私の尻でも舐めたらどうです?皇子“殿”」
     その言葉にリュドゥラはチアキを殴りつけ、怒声をあらわにした。
    「貴様、俺が何も知らないとでも思っているのか!調子に乗るなよリザードマン!御大の名を借りて好き勝手やりやがって!何故俺を御前試合に出さない!このトカゲめ!トカゲ野郎め!答えろ!」
     リュドゥラは叫びながら手にした杖でチアキを殴り続けた。そして、それは。杖が撃ち砕かれた事により止まった。
    「!?」
     突然の杖の破壊に驚愕したリュドゥラは嘲笑うかのような声を受け、頭を上げた。その先には冷酷な笑みを浮かべる女――リュドゥラはその名を知る由もないが、ストハルがいた。
    「そこらへんにしておいた方がいいわよ皇子。そもそも御前試合もクズノハも団長が準備して作り上げたモノ。貴方は後から来てたまたま社会的地位が上だっただけ」

     ギ リ ギ リ と

    「いそうろうの分際であんまり『お痛が』過ぎると、ブッ殺しちゃうわよ。おじいちゃん」

     ギ リ ギ リ と、引き絞る様な殺気の渦に、リュドゥラは漸く気づいた。今このとき、クズノハ団員全ての殺気が自分に向けられている事を。
    「お…お…お前は……何をしようというんだ」

    「1000人のネタ使いを率いて お前は一体 何 を す る つ も り な んだ ! !」

     ポタポタと血を流しながら。血を、流しながら。
    「私の目的?ふふ、目的ですか皇子」


    「残酷無残の歓喜を無限に味わうために。次の残酷のために、次の次の無残のために」

     チアキはニヤリとその口形を歪ませ、微笑んだ。


    【TO BE CONTINUED】

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