第八試合

a00331_icon_5.jpgルナ 対 クロカa18536_icon_2.jpg

『目覚めよ、リリきゃるハート』

担当MS:リオン

−プレイング−

    ―伊良子・ルナ(a00331)のプレイング―

    ダミー旅団シナリオ

    対戦相手:
     魔法少女リリきゃるん・クロカ(a18536)

    因縁:
     食うのを楽しみにしていた限定販売の苺ショートケーキ
     をクロカに食われてしまった!!
     食べ物の恨みは怖いわよ〜♪
     きゃる〜ん☆なんかに誤魔化せないから。
     (真犯人はドラゴと言う説もある。
      クロカに食われたと勘違いした)

    必殺技:
     薔薇吹雪(ばらふぶき)
     蛇腹剣を回転させながら薔薇の剣戟を行う。
     何故か背景に薔薇が舞う。

    弱点:
     化粧が厚いので遣られると割れる。
     年齢的に魔法少女になれない。
     ぬふぅ。

    その他:
     リオンVSラスQ → リオン負ける → リオン、人生に絶望する → リオン死亡。
     いやぁ〜ん!リオン君が死んじゃう!



    ―魔法少女リリきゃるん・クロカ(a18536)のプレイング―

    【因縁イベント】
    ボクの名前はクロカ。クロカ・サクレス! 学園に通う元気いっぱいな女のコ!
    きゃん! …こらぁ! しっぽは勝手にさわっちゃだめーっ!!

    ある日突然ボクたちのクラスの担任のルナせんせーに放課後?呼び出されたの。
    なにかなぁ? って思ったらルナせんせー、ボクがせんせーのケーキを食べたとか言うんだ!
    ボクはなんにもしてないのにー!
    このままじゃ、せんせーにお仕置きされちゃうよぅ!

    「ええっ!? ケーキなんて知らないよ、ルナせんせー! 
     きっとアリさんマークの引○社にでも引越しされちゃったんだよ! あ、今いいコト言った」

    とか、ボクは『名言メモ』に今のネタを書き込みつつ、必死の弁解をしたにもかかわらず
    ルナせんせーは全く聞く耳を持たないご様子!
    仕方がないから秘奥義コマンド4(タメ)63214641236技、「きゃるーん☆」を発動!

    しかし! これも効かない!!
    「そんな! せ、せんせぇ!?」

    真剣な眼差しで対峙するボクとルナせんせー。
    「あぅ! くぅん!? これは……」
    ただならぬ雰囲気にボクの精神はその空気だけで消耗されていく気さえした……。


    ――

    空気だけで気圧される。その感覚にクロカは、ある光景が脳裏をよぎった。

    8年前……。クロカの師(フィクション)がまだ幼かった彼女の目の前で殺された……その様子が。

    記憶の奥底にしまっておいた光景。
    いや、思い出したくもなく、ただ忘れようと……その過去から逃れようとした記憶。

    自分が無力だったから師匠を守れなかった。
    なによりもそれが悔しくて、必死に自分を鍛えた。鍛え始めた理由は忘却した。

    ボクは……ボクは……ッ!!

    ――


    「ボクはもう、無力なんかじゃない!!」
    突然ボクは、そう叫んでいた。
    そして叫んでから気がついたんだ。

    「せんせー…いや、あんたは! ししょーを、殺った…!!」

    復讐なんてバカバカしい。そう思っていたけれど、今は違う。
    今、心が燃えるこの気持ち。
    いつの間にかボクは――!!

    「あと、おいしいデザートがあるお店を見つけたから、今度一緒に行きませんかッツ!!」

    ボクはデートに誘っていた。


    【試合イベント】
    必殺技:

    風は空に
    星は天に
    輝く光はこの腕に
    不屈の心はこの胸に
    リリきゃるハート、セェーットアァーップ!!

    (リリきゃるんクロカに変身する台詞。その後は手動で着替え)


    「これがボクの全力全開! ハイパー・スターライト・ブレイカー・ディザレクション・バスター!!」


    説明:
    ぱんちらとかするかも。

−リプレイ−

    ●学園地獄
    私立・聖(セント)赤まむし学園。
     古くより名門の誉れ高いこの学園は、生まれも育ちも清廉なお嬢様ばかりが通う
    名門中の名門校である。
    「真の淑女とは、全てにおいて一般人よりも優れ秀でた者でなくてはならない」
     という校訓の元。学業においても武道においても、それぞれの一流学校に匹敵する
    教育カリキュラムが組まれている。
     それらを見事通過した卒業生達は、須らく立派な淑女として社交界や芸術の道へと
    旅立って行くのが常であった。
    「ボクの名前はクロカ。クロカ・サクレス! 学園に通う元気いっぱいな女のコ!
    きゃん! …こらぁ! しっぽは勝手にさわっちゃだめーっ!!」
     この学園の生徒のひとり、クロカ・サクレス(a18536)はどうであったか。
     成績の総合点だけ見れば・・・なるほど、ごく平均的な生徒と言えた。
     しかしその内訳は異質そのものであった。
     学業の成績は決して優良ではない。
     いや、落第寸前の学科も2つや3つではなかった。
     だが、そんな中でただひとつ「萌えキャラ科」の成績だけは抜群をさらに抜いて
    いたと言える。
     なんと、下手な教師ではその才覚に圧倒されてしまうほどのものだったのだ。
     萌え科担当の教師、エリザベート夫人先生を「きゃる〜ん☆」という擬音のみで
    萌え狂わせたという逸話は学園の小伝説ですらあった。
     それが学園内における、おおまかなクロカの肖像である。
     だがそれも、ある2つの事件を境として急激に変わっていく運命にあった。


     ある日の昼休みの事。
     日直のクロカは、授業前の御用聞きのためにクラス担任のルナ・シーン(a00331)の
    元へと歩みを進めていた。
     おやつの苺ショートケーキをもりもりと食べながら、職員室の入り口を元気良く
    開け放つ。
    「ルナせんせー、御用聞きに来たよー♪」
     だが、机に座るルナはいつになく神妙な面持ちである。
     30歳を迎えている割には若く見えるその顔は、まるで周囲が全く目に入らないか
    のように消沈した表情を浮かべている。
     クロカが真横に立ってようやく気付いたのか、女教師は顔を上げた。
    「あら・・・いらっしゃいクロカちゃん。」
    「せんせーどうしたの? 悩み事ならボクに相談してみるといいよ?」
    もぐもぐ
    「いいえ、なんでも・・・」
     ルナは少し躊躇してから、嘆息と共に答える。
    「実はね、先生が楽しみに取っておいた苺のショートケーキが盗まれたのよ。」
     ずっしりと沈むルナの無念は、空気を伝ってクロカにも届きそうなほどだった。
     しかも、苺のショートケーキと言えばルナ先生とクロカ共通の大好物である。
     正義感の強いクロカは、おやつの苺ショートケーキを食べつつ激昂した。
    「なんてこと! 他人の苺ショートケーキを盗み食いするなんて許せないよ!」
    もぐもぐ
    「ありがとう、クロカちゃん。先生うれしいわ!」
    「必ず犯人を見つけ出そうよ! そして車裂きの刑に処したりしようよ!」
    もぐもぐ
    「ええ、そうね! 車裂きの刑にしてあげましょうね!」
    「ボク、協力は惜しまないからねっ!」
    もぐもぐ
    「・・・。」
    「・・・。」
    もぐもぐ
    「・・・クロカちゃーん、ひとつ聞いてもいいかしら!」
    「はーい!」
    もぐもぐ
    「さっきから食べてるそれはなんでしょうか!」
    「ルナ先生の机の上に置いてあったケーキ!」
    もぐもぐ
    「・・・・・・そっかぁー。」
    ぱちん
    ぱちん
    ビンッ
    「せんせー、今ボクの手足につけた輪っかはなんでしょうか!」
    「車裂き用の手枷と足枷♪」


    ●激突
     クロカはなんとか車裂きマシーンから脱出した。
     いきなり殺(と)りにくるとはなんて先生だ、とか思いつつ。
     そして弁解を始める。
    「ボクわんこだからケーキなんて知らないよ! きっとアリさんマークの引○社に
    でも引越しされちゃったんだよ! あ、今いいコト言った!」
     最近のアリさんマークは目的地が胃袋でもOKらしい。
     とりあえず「名言メモ」にメモする。一流の萌えキャラは影の努力も一流なのだ。
     だが、それは敵手に対している者としては致命的な行為であった。
     そして・・・ルナはその間隙を見逃さなかった。
    「いやーん、放課後に食べようと思って楽しみにしてたのにぃ〜」
     その瞬間、クロカは戦慄する。
     ・・・身に覚えのない(と信じる事にした)罪を着せられたからではない。
     ルナが既に「いけない!ルナ先生状態」にあったからである。
     4日に一度ほどの頻度でルナはこの状態となる。
     問題のある生徒に対する課外授業は、この時にまとめて行うのが通例であった。
    ――ちょっとエッチな課外授業が始まっちゃう!
     そんなわんこの意思などお構いなしに、ルナは戦術を進めた。
    「他人のケーキを食べる → おいしい → もっと食べちゃえ」
     ルナの必勝形、「無茶な心配コンボ」である。
     過去、これによって数多の強者達が課外授業に葬り去られたと言われる。
    「→ 警察に捕まる → 死刑  ガーン!! ・・・いや〜ん!!」
    「その台詞を中断するならここしかないっ!」
     クロカは意を決し、ルナの台詞に割り込んだ。
     秘奥義コマンド4(タメ)63214641236+萌えボタン。
    「きゃるーん☆」
     萌え効果音。萌え科のエリザベート夫人先生を萌え地獄に落とした技である。
     が。
    「・・・クロカちゃんが死んじゃう〜!!」
    「そ、そんなっ!?」
     お約束台詞を中断するのは、ウソをウソと見抜けずに某大型匿名掲示板を利用する
    ぐらい難しい。
     それをクロカは身をもって学んだのだった。
     見事に「ルナ先生、無茶な心配をしちゃうコンボ」を決めたルナは、悠然とクロカを
    見下ろす。
    「あぅ! くぅん!? これは……」
     クロカの精神は、空気に触れる事でさえ消耗されてしまうほどに萎縮した。
     古い文献に曰く、多くの健全な男子小・中学生が、悶々とした水色時代を過ごす事に
    なったとされる攻撃的オーラ。
     ルナはそれを発していたのだ。
    「・・・なんとかしてクロカちゃんがドロボーにならないようにしなきゃ!」
     ピンチの中、クロカの脳裏にある光景がよぎった。

     8年前。クロカの師がまだ幼かった彼女の目の前で殺された。
     蘇ったのはその様子である。
     記憶の奥底にしまっておいた光景。
     思い出したくもなく、何をする事もなく、ただ忘れようとした、その逃避の記憶。
     ボクが無力だったから師匠を守れなかった。
     敵手への怒りよりも、ただひたすらにそれが悔しかった。
     クロカは必死に自分を鍛えた。鍛え始めるうち、強くなりゆく自分を確認するうち、
    いつしか鍛え始めた理由は、忘却の地平へと飛んでいた。

    「ボクはもう、無力なんかじゃない!!」
     やおら、クロカは叫んだ。
    「せんせー…いや、あんたは! ししょーを、殺った…!!」
     背景に炎をまとう。そう、まるで復讐の心が不死鳥の如く蘇っ
    「私、ドロボーさんなの。クロカちゃん、お仕置きして♪」
    「無敵ですかーっ!?」
     こうなってしまったルナ先生はどうにもならないんですよ。
     原作を読めば分かると思うよ?
     ともあれ、モノローグまで使用して逆転を狙ったクロカの策は、一瞬にして無惨に
    散ったのであった。
     無駄な文を書いちまったなあ、俺。
    「でもまだ秘策はあるよ!」
     クロカには奥の手が残っていた。ついにその切り札を切る時が来たのだ。
    「おいしいデザートがあるお店を見つけたから、今度一緒に行きませんかッツ!」
     戛然! クロカはルナをデートに誘ったのだ。
     って言うか、それは単に弁償だと思うけどどうよ?
    「いいの!」
     満足げに微笑む。
     だが、彼女は失念していた。
     今、眼前に立ちはだかる敵手は平常のルナではない。少年誌に掲載されながらも
    PTAによって18禁指定を受けるほどの魔人「ルナ先生」である事を。
    「ここをお仕置きして欲しいの♪ めくってみて・・・」
     何をしているか具体的には書きません。妄想して欲しい。
     うるせえ、俺もPTAは怖いんだ。
    「うわーん、やっぱり効かなかったーっ!」
     その後、クロカはたっぷりと10ページにも渡って「秘密の課外授業」を受け、
    「やっぱり泥棒は良くない事だなぁ」と思う事ができたのであった。
     あと、ちゃんとデザートも奢らされました。
     やったね!ルナ先生!


    「リオン殿の背後殿!リオン殿の背後殿!」
     うわ、いきなりなんだよフナムシ。
    「フナムシじゃねーでござるYO! ドラゴです。愛してね、もっと。」
     だからなんだよフナムシ。
    「ルナ殿のプレイングを良〜くチェケラでござるYO! ケーキを盗み食いしたのは
    実は拙者のハズでござるから、ルナ先生の課外授業は拙者が・・・」
     うるせー馬鹿。
    「プレイング無視はよくないでござるYOー!」
     お前なんかさっさとストハルさんにぬっ殺されればいいいじゃん。
    「ネタバレもよくないでござるYOー!」


    ●魔法わんこ誕生
     そんな経緯でルナ先生とクロカが仲良しから大の仲良しになったある日。
    「でっかいおっぱいには飽きたー!!」
    「上村純子ネタなんてわし、知らんもんねー!」
     突然で恐縮だが、ルナはピンチに陥っていましたよ。
     学園に現れた2匹の凶悪大怪獣、オメガンとチアキング。
     ビジュアルは名前から想像すれば・・・まぁほとんどそんな感じである。
     とにかくなんという事であろうか。
     この2体には、これまで学園を何度も救ってきた「いけない!ルナ先生攻撃」が全く
    通用しないのであった。
    「今までの怪獣には効果てき面だったのに〜!」
     例えば?
    「大怪獣リオンゲラスとか邪悪怪獣リオンドンとか原始怪獣リオンゴとか。」
     俺にしか通用してねえじゃん。思いっきりメタじゃん。
    「ダメ?」
     いやぁ、そんな事は・・・えへへ☆
     とにかく、ピンチなのであった。
    「よし、チアキングよ。ぶっちゃけ、俺はこれからこの年増に陵辱系のエロゲーみたい
    なコマンドを次々に実行していきます。どういう事かーってぐらい。」
    「ぬうっ、わし18歳未満だから見れねえ!」
     チアキングは無念の涙を流した。
     超あったま悪りぃ怪獣同士の会話に、思わずルナがツッコむ。
    「いや、ほら、このリプレイって良い子も見るわけだしね?」
     そのツッコミも耳に入らず、オメガンは突然あーっ、と叫んだ。
    「しまったー! エロコマンドを実行したくとも、俺の体格じゃあ人間サイズ相手には
    ほとんど不可能じゃないか!!」
     オメガン、一応大怪獣なので身長57m。体重は言うまでもない。
     ルナは164cm。
     スケール比は人間とキン消しぐらいであろうか。
     それではエロコマンドって言うか、ただの危ないヲタクって感じである。
     降って湧いた悲劇を目にして、チアキも慟哭した。
    「オメガン殿にも夢があった! セクハラ、そしてセクハラ、またはセクハラ・・・
    しかし恵まれた体格がそれを許さなかった! ・・・巨体ゆえの負い目!!」
    「泣けるぞチアキング! こんなに泣けるのはミンキーモモの最終回以来だ!」
    「おう、もちろん昭和の方のなー!! 平成版なんかどうだっていい!」
    「魔女っ娘バンザーイ!」
     どういう展開だろうか。
     ともかく、この展開はルナにとって願ってもないチャンスだった。
     なんとなく、こいつらの弱点が見えたのだから。
    「・・・ちょっとタイムね?」
     ルナは手をTの字にして宣言する。
    「チャージドタイムアウト、ルナ!」
     チアキングがホイッスルを吹き鳴らしながら告げた。
    「むうっ、いいタイミングでタイムアウトを使いおるわ・・・。」
     オメガンは思わず陵南の田岡監督みたいな顔になりつつ舌打ちするのだった。


    「・・・というわけでクロカちゃん! 魔法少女になるのよ!」
    「ふぁいー!?」
     学食でダブルてんぷらうどんGX大盛り(温泉玉子付き)を頬張るクロカに、ルナが
    いきなりヘビーなオーダーをかます。
    「でょ、でょうゆうきょろれふか! リュニャしぇんしぇい!」
    ぶほっ
    「・・・とりあえず、食べるか驚くか話すか・・・どれかにするといいわよ?」
     苛烈な反応により、顔をうどんまみれにされたルナは憮然として答えた。


    〜〜( ´∀`)ノ それから5分ぐらい経過したのデスよー 〜〜


    「ぷはー! ごちそうさまー! そしてなんだってーーーーー!!!!」
    「迷いなく「食べる」を選んだわね・・・。」
     ダブルてんぷらうどんGX大盛り(温泉玉子付き)をつゆまで完全に飲み干してから、
    クロカはやっと驚愕する。
    「魔法少女って! ボクわんこだからそんなのなれないよ!」
    「わんこ関係ない。そのネタ引っ張りすぎ(偽MSが)。って言うか、あのアホ怪獣達
    を倒せるのは魔法少女だけみたいなのよ。」
     窓の外を見ると、2体の凶悪怪獣が派手に暴れていた。
     暴れつつ、なぜか口論。
    「鏡さんに決まってるだろうが! この眉なしトカゲ!」
    「如月さんに決まっとるんじゃよー! 死ねやこの偽ニワトリ野郎!」
     どうやら「ときメモのヒロインの中で結婚するなら誰よ?」という話で意見が割れ、
    大喧嘩に発展したらしい。
    「クロカちゃん、分かって。あなたにしか出来ない事なのよ。」
    「そんな・・・そんなの無責任だよ!」
    「クロカちゃん!」
    「ルナ先生がウルトラセブンになって戦えばいいんだーーーっ!!」
     泣きながら走り去ろうとするクロカ。
    「ああっ、待って! って言うかウルトラマンレオとは古いわね、おい!」
     言いつつも、ルナはすばやく腕を伸ばしてクロカを捕まえた。
     ルナ必殺の「ズーム腕」である(痛みは波紋で和らげる)。
     クロカ再び着席。
    「うわぁ、それ便利だねっ! 後でやり方教えて!」
    「いい? クロカちゃん。私もなれるものなら、自分が魔法少女になって戦いたいわ。
    でもね・・・さすがに30超えて魔法少女はねえ・・・。想像してごらんなさい。」
     うーん、と唸りつつクロカは想像してみた。

    (想像している)

    (想像している)

    (想像している)

    (終了)

    「訴えられるね! しかも負けるね!」
     真剣な顔でクロカは断言する。
    「・・・どんな想像をしてその結論に至ったのか小一時間問い詰めたいところだけど
    とにかく分かってもらえたみたいで嬉しいわ。」
     満足げに答えるルナ。その目は決して笑っていないし台詞も棒読みだったが。
    「では、やってみましょうか。」
     ぐい、とクロカの手になにやらステッキを手渡す。
    「これは?」
     クロカはいぶかしげに、自らの手中にあるキラキラしたステッキを見た。
    「それは「リリきゃるはーと」。詳しくはあなたのキャラシートの武器欄を参照よ。」
    「なるほどー。絶対やる気ないよね、この偽MS。」
     俺のやる気とかはどうでもいい。
     オメガンとチアキングはもう「やっぱ結婚するなら2の八重さんが最高という事で」
    という結論に至っている。激しく同意だが。
     そういう事で、時間稼ぎもそろそろ限界という事らしい。
     ルナは手っ取り早く使用法を説明し始めた。
    「それを振ってこう叫びなさい。「リリきゃるハート、セットアップ!」って。」
    「リリきゃるハーートっっ! セーーーットぉ、アーーーップぅぅ!」
    「うわぁ、一瞬たりとも躊躇しないのね! そしてノリノリなのね! ステキよ♪」
     魔法の呪文を唱えると、クロカの周りでキラキラと光が舞い始めた。
     魔法少女リリきゃるんクロカ、誕生の瞬間である。
    「でも先生、見た感じはなーんにも変わらないよ?」
    「いいの。そこは気分の問題なんだから。」
     気分の問題かよ。

     その後、魔法少女リリきゃるんクロカによって怪獣2匹は無事に退治されました。
     斬鉄蹴とかで。
    「マジ攻撃なのか!?」
    「いーや、むしろその足で蹴られたかったのじゃ!」
    「ぐわー、その通りだぁー!」
     やったね☆リリきゃるんクロカ!
     ・・・俺、もう偽MSやめていい?


    ●魔法わんこ 対 三十路
     円卓の間、御前試合。
     ルナとクロカにとって、それはおよそ関わりの無いもののはずであった。
     ・・・ほんの一週間前までは。
     学園に円卓からの急使が来て、二人の運命は一変してしまったのだ。
    「円卓の間、第8試合は御大の可愛いペットであるオメガンとチアキングの対戦を予定
    しておりました。しかし両者は、先日この学園で受けた魔法少女の蹴りによりいろいろ
    と廃人同然な感じなのです。」
     そう言いつつ急使が見せたホームビデオには、魔女っ娘のガシャポンフィギュアに
    埋もれて楽しく「ガリバー旅行記ごっこ」をする2匹が映っている。
     要するに、代わりの出場者を差し出せという事であった。
     ルナは無念の表情を浮かべる。
    「御大の命令は絶対よ。ここは私達が出るしかないようね。」
    「先生・・・」
     クロカの表情も同じく沈痛であった。
     しかしそれを振り払うべく、ルナは微笑む。
    「心配しなくても大丈夫よ、クロカちゃん。ちゃんと二人とも生き残れるよう、先生が
    上手く手加減してあげるから。」
     そう言って親指を立てるルナを見て、クロカも同じく親指を立てる。
    「うん、ボクもキッチリと手加減するから安心して、先生♪」
     それを聞き、ルナのこめかみがピクリとした。
    「いや、ほら、先生が手加減するから。クロカちゃんはそのままでも、ね?」
     今度はクロカがピクリ。
    「えー、だってボクの方が強いじゃん。手加減は強い方がするものだよ?」
     ルナピク。
    「あら、なんで先生より強いと思ったのかしら? 劣等生のクロカちゃんが。」
     クロピク。
    「だってボク、先生の敵わなかった怪獣をやっつけたじゃん♪ 先生ったら、おっぱい
    が大きいだけでなーんにも役に立たないんだもん。」

    静寂

     ルナピクピク。
    「最近のクロカちゃんって、なんて言うか・・・コイちゃってなぁい♪ ダメ怪獣を
    2匹ばっか倒したのがとっても嬉しかったみたいねー♪」
     クロピクピク。
    「そのダメ怪獣さんから逃げ帰ってきた人が、土下座して頼むから仕方なく戦ったん
    だけどー♪ なーんだ、助けなきゃよかったなぁー♪」
     ルナは振りかぶった。
    「魔法少女なんて、ヲタクに一生ストーキングされるの決定よね♪」
     クロカも振りかぶった。
    「三十路で彼氏無しだなんて、人生の負け組もいいとこだよねー♪」
    ゴッッ(ルナパンチ炸裂)
    ゴッッ(クロカパンチ炸裂)
     非公式の場である事が惜しまれるほどの、見事な相討ちであった。

     こうして御前試合・第8試合は、両者の異常なほど積極的な合意の下で執り行われる
    事になったのである。


     第8試合が幕を開ける。
     試合場に姿を見せた両者は、御大に一礼すると素早く身構えた。
     言葉もなく、表情に変化も無い。
     問答無用、という空気である。
     過去(って言うか1週間前)の因縁が、両者から既に一切の迷いも雑念も取り除いて
    いるのだ。
     これから始まる対決に、観衆の期待も否応なく膨れ上がった。
     試合開始の号令とともに、先手で動いたのはクロカ。
    「風は空に!星は天に!輝く光はこの腕に!不屈の心はこの胸に! リリきゃるハート、
    セェーットアァーップ!!」
     叫び、同時に変身を始める。
     上着を脱ぎ、持ち込んだ「リリきゃるんスーツ」に着替えるのだ。
     自ら編み出した「中身のある変身」であった。
     その隙のない動きにルナは手を出せない。もし出したら「ルナ空気読め」との非難を
    受ける事は必定だったからである。
     奇しくもそれは、かつての「ルナ先生攻撃」の際とは立場を逆にした攻防であった。
     変身が完了し、クロカが動く。
    ――勝負は一撃で終わる!
     激しき気迫に観衆は予感した。
    「これがボクの全力全開! ハイパー・スターライト・ブレイカー・ディザレクション・
    バスター!!」
     だがその瞬間、ルナも反撃の手を繰り出した。
    「秘剣・薔薇吹雪!」
     蛇腹剣を回転させながら薔薇の剣戟を行うという、大人の香り漂う必殺剣である。
     あと、なんだか背景に薔薇が舞うらしい。
     魔法少女に対するは大人の魅力。それがルナの見い出した必勝形であった。
     秘剣に対する秘剣。
     技と技の激突。
     両者は一瞬、閃くような速度で交差し・・・再びその動きを止めた時には、お互いの
    立ち位置を完全に入れ替えていた。
     そのまま静止する。
     数秒後、クロカが「うっ」と呻いて左肩を押さえた。
     肩の肉がばっくりと割られている。
     深手であった。
     それを見てルナは莞爾と微笑む。
     そして。
     次の瞬間、ルナの胸の中心に、鮮血の薔薇が咲いた。
     致命傷であった。
     クロカのハイパー(略)は、薔薇吹雪より一瞬だけ早く敵手を捉えていたのである。
    「せんせー!」
     思わず勝負を忘れ、クロカが駆け寄る。
     交錯した瞬間、彼女はルナの挙動に不自然な点を見たのだ。
     力尽き倒れるルナを抱きとめ、血の気失せたその顔に向けて問うた。
    「先生・・・どうして最後、片手で・・・」
     クロカには見えていた。
     技の途中でルナの左手が剣を離れ、宙を泳いだのが。そのために、ルナの剣先は一瞬
    だけ鈍った。その鈍りがなければ、倒れていたのはクロカの方であったろう。
     生徒の問いに、教師は最期の息の中で静かに答えた。
    「これよ。」
     その左手は自らのスカートをしっかりと押さえていたのである。
     クロカはハッと気付き振り返った。
     そして観衆が凄絶に鼻血を噴出しているのに気付く。
    ――ボク、パンツ見えてたんだ・・・
     クロカは気付かなかった。
     だが、ルナは気付いてスカートを押さえたのだ。
    「さすがに30超えてパンチラはね・・・想像してみなさい。」
     呆然としながらも、クロカは想像した。

    (想像している)

    (想像している)

    (想像している)

    (終了)

    「訴えられるね! でも勝てたね!」
     クロカの視線が客席を彷徨う。
     パンチラを見る事ができて至福の表情を浮かべる観衆の中あって、一部、無念の表情
    を浮かべている者達がいた。
    「ほら。」
    「あらら。先生ったら、余計な気遣いしちゃったかもしれないわね♪」
    「そーだよ。もう、先生のドジ〜。」
    「うふふ・・・って、ごふぅぅぅ!?」
     ルナ吐血。
    「うわ、こんな会話しててもやっぱ死ぬんだ!」
    「・・・むーざん、むーざん、か。」
     そして、それが教師ルナ・シーンの最後の言葉となった。
    「ああ、やっぱり最後はシグルイネタなんだ。そうだと思ってたけど。」
     クロカはルナの最後の息を看取ると、地に倒れ伏しもはや動く事のない恩師へと最後
    の敬礼をする。それは恩師であり友であり最強の敵であり、そしてなによりも誇り高き
    戦士への哀悼の礼であった。
    「ボク、これからも戦うよ! 30越えたらパンチラに気をつけながら!!」
     そして試合結果が宣告された。
    「勝者、クロカ!」
     わっと祝福を送る客席へと、クロカは笑顔で応えた。
    「だって・・・ボクの名前はクロカ。そう、魔法少女リリきゃるんクロカ!!
    きゃん! こらぁ! しっぽは勝手にさわっちゃだめーっ!!」


     ルナは敗れた。
     だが、彼女が見せた気高き心は、クロカをより大きく成長させる事であろう。
     ありがとう、ルナ先生!
    「ちょっと恥ずかしかったけど、クロカちゃんが道を踏み外さなくてよかった♪」
     いや、あんた死んでるから。
    「あら、そうなの?」
    「ならば今こそ拙者に課外授業を!」
    「それならボクにもう1回するといいよ? もう1回! そーれ、もーう1回!」
     バカヤロウ、それなら上村純子マニアの俺も黙っちゃいねえんだぜ!
    「せっかく綺麗に終わったのになにやってるデスか、兄さんの背後さん。」
     ゲーッ、妹者!
    じう(焼鉄串)
     ヒィ!
    ルナ「できておる。」
    クロカ「できておる喃。」



    ―終―

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