第五試合

a13636_icon_1.jpgアルル 対 ユウキa15697_icon_12.jpg

『星斬り』

担当MS:チアキ

−スター☆ウォーズ−


    ―――遠い昔、遙か銀河の彼方で。

     辺境の惑星タトゥイーンにて、ダメ人間のルーク・スカイウォーカーは父親の残したメイドドロイドと共に、自堕落な生活を送っていた。
    「ルークさん!そろそろ働きに出ましょうよ!」
     メイド服に身を包んだ少女型ドロイド・R2−D2、通称アールがソファーに寝転がるルークに呼びかける。しかしルークは
    「いや、働いたら負けかな。と思ってるから」
     と、依然ニートを決め込む覚悟で聞く耳持たない。
    「シースちゃんも何とか言ってよ!」
     と、彼女は妹ドロイドでもあるC−3PO通称シースに話しかける。だが、シースからの返事はない。何故なら今、彼女はネット掲示板にて、討論の最中だからだ。
     引きこもりのシースは普段は超絶無口だが、キーボード等の通信機器を通すと饒舌となる。ロングの金髪、長身で均整の取れた身体と、完全なモデル体型なのだが、引きこもりでは意味がない。もうちょっと社交性があればかなりもてるのに、とは姉たるアールの言(余談だがこの2人は巷ではかなり有名な美人メイドドロイド姉妹として有名である)
    「結局働くのは私一人かぁ・・・」
     バイト先までの道のり、寂しそうに呟くアール。働くのは嫌いではない。だが、あの2人はもしも、私が働けなくなったらどうするのだろう?その事が、アールは不安だった。
    「何とかして、シースちゃんはともかくとして、ルークさんだけでも更生しませんと!」
     ルークを正人間にする。それがアール流の、自分を造ってくれたルークの父に対する忠義だった。しかし、今まで数々の手段を試してみたものの、ルークが更生する兆しは一向に見えない。最早八方ふさがりだ。
    「どうしたら良いのでしょうね・・・」
     本日何度目のため息だろう。はふぅ、と息を漏らす。と、その時アールは電柱に貼ってある妙にケバケバしい張り紙を見つける。
    「家庭教師派遣会社・・・ジェダイ? ・・・う〜ん」
     アールはその張り紙を、藁をも掴む思いで剥がし持ち帰るのだった。

    ●先生登場
     今日も今日とてルークがゴロゴロしていると、突然の天を貫くような轟音が聞こえてきた。
    「な、なんだ!?遂に戦争が始まったのか??」
     珍しく機敏に動き、ルークが家の外に出る。だが外には特に異常はない。辺りを見渡したルークは、何かがこちらに向かって落下してきているのを発見した。
    「宇宙船・・・?こっちに向かってくるのか?」
     家に向かって一直線に突き進む宇宙船。
    「突き進むと言うよりは、落下している感じですね」
     ルークの隣に立ちアールがのほほんと喋る。確かに、こちらに向かって一直線に落ちてきている感じがする。む、待てよ、となると・・・
    「それはこの家に墜落するってことじゃないのか!?」
    「そういえばそうですね」
    「うわー!なに一人だけ遠ざかってるんだアホメイド!」
    「一人じゃ無いですよ。シースちゃんもいます!」
    「テメーご主人放って逃げるとは良い度胸じゃねぇかメイドズ!あとでた〜〜っぷりお仕置きしてやるぞ!げっへっへ」
    「ルークさーん、主人公(一応)らしからぬ笑い声出してる暇があったら、逃げた方がいいですよー」
    「・・・あ」

    ぷちっ

    という効果音と共に、謎の宇宙船はルークの家に落下したのだった。


     墜落事件より30分後。
     半壊したスカイウォーカー家にて、全身を包帯に巻いたルークがベッドの上に横たわり、アールから手当を受けている。ちなみにシースは自慢のネット機器が壊滅したため、放心状態になっている。
    「それにしてもルークさんは生命力だけは人一倍ですねー。死まで後一歩でしたよ」
    「ふがふがふが(身体が治ったら覚えておけよ・・・)」
     口まで包帯で覆われているのでなにを言っているのかわからないが、多分↑みたいなことだろう。アールは適当に返事してルークをあやす。今はこの役に立たないニートよりも、目の前の客人を相手にする方が大事である。
     宇宙船と墜落と共に現れたのは、20代半ば〜後半と思しき女性。パンツスーツでバシッと決めたその姿は隙が無い。カッコイイ女性というのはこういう女性の事を言うんだろうなぁ、と、何となくアールは思った。
    「それで、えーと・・・」
    「オビ=ワン・ケノービ、オビ=ワンと呼んでちょうだい」
     スーツの女性、オビ=ワンは出された紅茶をクイッと飲み干し、アールをまっすぐ見つめる。
    「はぁ・・・ではオビ=ワンさん。当家に何用でしょうか?」
     気になる事を聞いてみる。墜落しながら、と、この上なく派手な登場の仕方をした人は一体何をしに来たのだろう。皆が疑問に思っている事だ。
    「何用って・・・そっちが呼んだんじゃない。応募したでしょ?家庭教師派遣会社『ジェダイ』に」
     あ、そういえばそんな事を頼んだような。アールはふと思い出した。一年も前に頼み、その後音沙汰が無かったのですっかり忘れていた。でもまぁ、今からでも来てくれるならいいや。楽観的思考で、アールは状況を受け入れた。
    「そういえばそうでした。ではオビ=ワンさん、こちらのダメルークさんをお願いします」
    「むぐー!?」
     急展開に思わず叫ぶルーク。家庭教師?ジェダイ?何の事かサッパリわからない。
    「うむ、任されよう。その少年を一目見たときからわかっていたぞ。相当なダメ人間だ、と。更生のし甲斐がある」
     ふふふふふ、と子供が見たらトラウマになりそうな笑い方でオビ=ワンが微笑む。
     ルークはその笑いを見て、本能的に理解した。

     この女ヤバイ、と。

     ピンチだ、絶対的ピンチだ。今、自分チのメイドによって、自分の改造計画が始まったのだと。
    「むごごむごー!!」
     逃げだそうとしても芋虫の様に包帯グルグルの身では動く事もままならない。せめて抗議の声を上げようとも呻き声しか出せない。オビ=ワンは蠢くルークをばっちり見つめ
    「安心しろ少年。脳をちょこっといじるだけだから」
     とか言い放った。
    「むごー!!」
    「ああ、ルークさんが人間として一皮剥けようと自ら頑張るなんて!メイドとして嬉しく思います!と、記録を残しておきますよー」
    「むごごむごごー!」
     たぶん「笑顔でウソブッこくなー!」とか言っているのだろう。まぁその叫びも無意味な物だ。
     オビ=ワンがルークの頭をむんずと掴む。この状態から脳を(検閲削除)することが、オビ=ワンの教育だ。
    「はっはっは、まぁ少年。フォースを信じろ」
     改造手術の始まりであ〜る。


    ●新・ルーク
    「ボクはルーク!好きな言葉は「正義」得意な事は「労働」または「人助け」です!」
     約一時間後、ねっちりめっちりしたオビ=ワン先生の教育の元、ルークは平和と正義を愛する好青年に変わっていた。その代わり具合にアールは感激のあまりうれし涙を流すほど。
    「好きな事は「ジェダイの為に働く事」!趣味はジェダイに刃向かう糞野郎共をぶっ殺すことです!」
     なんか一部おかしなノイズが聞こえたが、全体的に見たら些細な変質なので、アールは聞かなかった事にする。
    「さて、この少年の洗脳は終了したが、授業はこれで終わりじゃない。フォースの事や剣術を鍛えねばならんから、全ての工程が終わるまではしばらくかかる。その間ここに住まわせて貰うぞ」
     そう言い、オビ=ワンは無事に残っている部屋の一つを占拠する。アールとしても願ったりなので、特に反論もせずに一番良い部屋を提供した。
     ジェダイとしての本格的教育の開始であった。


     一週間後。
     地獄の洗脳修行により立派に成長したルークは、先生であるオビ=ワンと対峙していた。
    「いいかいルーク。これが中間試験だ」
    「押忍、先生!自分は如何なる試練にも耐えるッス!湖だって飲み干してみせるッス!」
     ちょっと変わりすぎていた。
    「その心意気や良し。では、今から私が全力で打ち込むから、何とかなれ」
     無茶苦茶である。
    「押忍!何とかなるッス!」
     ルークも無茶苦茶であった。恐るべきはジェダイの洗脳技術。オビ=ワンはライトセーバーを構える。
    「よし、では行くぞ・・・・・・死ねぇーーー!!!」
     渾身の一撃!修行なのに殺す気満々!これは果たして師弟愛だろうか?否、ただの趣味。
     ギィン! という独特な音と共に、2人は交差する。互いに立ち位置が逆になる形であった。
    「・・・ルーク、よくここまで腕を上げた。私の一撃をかわすだけじゃなく、一太刀入れようとするとはな。だが・・・まだ踏み込みが甘かったな」
     フッ、と笑いながらオビ=ワンが後にいるルークに語りかける。スーツの肩部分が少しだけ斬れている。
    「先生・・・自分からも一つ良いッスか?」
    「どうしたルーク、そんなに深くは斬り込んでないはずだが?」
    「いえ・・・先生の歳でクマさんパンツはちょっと恥ずかしいと思うッス」
     聞くなり、オビ=ワンは慌てて自分のお尻の部分に手を当てる。スースーするその部分は斬られており、可愛らしいクマさんパンツが丸見えであった。
     そう、彼女は「カッコイイ女性キャラ」に例外ない『可愛らしい物が大好き』な人だった。自分には似合わないので集めるだけだが、見えない部分はちょっとだけ例外。
    「先生みたいなカッコイイ女の人はもっとこう、年中勝負パンツってイメージだったッス!ちょっと夢が壊れたけど、そんな先生も自分は・・・アレ、先生どうしたんスか?顔超真っ赤ッスよ?」
     ルークが口を開くたびに顔は茹で上がったように赤くなり、俯いていく。そして・・・
    「ううう・・・うるさいうるさいうるさーい!!私が可愛い物好きで悪いかー!!うわーん、バカバカ死ねー!!!」
    「ギャーーーーーーーッス!!!!!」
     先程の20倍は有ろうかという斬撃を、ルークに喰らわすのであった。


     オビ=ワンが落ち着いたのはそれから一時間後。すっかり周囲を破壊尽くした後である。
    「さて、ルーク。実はキミに黙っていた事がある」
     神妙な顔つきで包帯ダルマ(故・ルーク)に話しかける。包帯ダルマは「むがむが」と答えた。
    「キミには私は家庭教師派遣会社『ジェダイ』の教師と言ってきたが・・・真実は違う。いや、正しく言うと家庭教師派遣会社は世を忍ぶ仮の姿。その正体は・・・銀河系の自由と正義を守る正義の集団『ジェダイ』なのだよ!」
    「むががっがー!!」
     AA略。とにかくルークは驚いているようだ。
    「今、銀河は帝国の制圧下にある。私たちはこれを何とか転覆して、頑張って銀河の平和を手に入れようとしているのだ」
     なんとも抽象的だが、理解は出来た。「むがむが」とルークは頷く。
    「そんなこんなで戦力を求めててな。ルーク、キミは素質がある。私と共にジェダイに来てくれ!」
    「むがむが」
    「そうか、わかってくれたか!」
     実際ルークが何を言ったかわからなかったが、オビ=ワンは了承の返事と取った。例え直後にルークが「むがー!?」と叫んでいても。
    「そうと決まれば話は早い。こんな辺境の惑星、とっとと出ていくぞ。ジェダイマスターに会ってもらう」
     話はトントン拍子で進む。ルークの意志はさておき。だが、
    「旅に出られるんですか?でも今はちょっと大変だと思いますよー?ドッグが帝国の人達に占拠されてますからー」
     アールがノンビリと言う。ドッグを抑えられては惑星を飛び立つ事も出来ない。だがオビ=ワンは悩む事もなく。
    「安心するがいい。こんな事もあろうかと、運び屋を手配して置いた。そろそろ来るはずだが・・・」
     と、言った直後、こちらに向かって一隻の宇宙船が突撃してきた。乱暴な運転でルークの家に突っ込み、轟音を立てる。「俺の家が・・・」という悲観的な泣き声が聞こえた気がするが、まぁどうでも良い。
     目を丸くする一同の目の前、宇宙船のハッチが開く。と、そこからやたらと露出度の高い衣装を纏った、一目で豪快な性格とわかる女性が出てきた。
    「よう、遅れちまったな!アンタが今回の依頼人のオビ=ワンか?オレが運び屋のハン・ソロ!こっちは俺の愛機ミレニアム・ファルコンだ!ヨロシクな」
     豪快な女性は「ちょっと目標を間違えちまった、まぁ良いか。ガハハ!」と笑っている。
    「私がオビ=ワンだ。頼むぞハン・ソロ船長」
    「OKOK任せとけ。銀河の彼方から幻の地まで、何処へだって届けてやるぜ!」
     ニカッと笑うその姿は、妙に信頼が持てる笑みだった。
     と、その時船員が叫ぶ。
    「姉御!帝国軍の奴らが追いついて来やした!」
    「船長と呼びな!!よし、あんた等急げよ!さっさと飛び立つぞ!」
     乗り込むオビ=ワン、ルーク、アール、シースの4人。
    「ちょっと、約束ではこっそり宇宙に出るって話だったはずだけど?」
    「ああ、ちょっと手違いがあってな。ホントはコッソリ来るはずだったんだが、帝国軍の宇宙船がオレの前を走りやがったんだ」
    「・・・それで?」
    「だから撃ち抜いた」
     ハン・ソロは平然と言い放った。
    「ちょっと待ちなさい!何その理論!貴女その考えはおかしいわ!!隠密に運ぶなら撃つわけ無いでしょ!!」
    「いやー、そんな事無いだろ。前走ってたら、普通撃つよな?」
     部下の船員に問いかけるハン・ソロ。部下達は一様に「撃つ撃つ」「撃たなかったら姉御じゃないよ」とか言っている。ちなみに姉御と言った船員は「船長って言え!」と叫ぶハン・ソロによって頭を殴られた。
     そんな光景を眺めたオビ=ワンは「人選間違えたかな・・・」とちょっと頭を抱えて壁にもたれ掛かっている。ハン・ソロを紹介した案内屋は「腕はピカ一だ。性格にちょっと問題あるがな!」と言っていたから、間違ってはいないだろう。問題がちょっとどころじゃないだけで。
    「ともかく、今すぐタトゥイーンを抜けるぜ!要望はその後聞く!」
    「ええ、色々言いたい事はあるわ。その時は覚悟しておくように」
     オビ=ワンは疲れた表情で言う。だが、ハン・ソロはその言葉を鼻で笑い、
    「オレのテクを見ても文句が言えるなら、存分に言ってみな!!」
     そう言い放ち、この絶望的状況から明日に繋がる逃走劇を始めるのだった。

    ピジュン!  ボカーン!!!

    「だから何で撃つの!!」
    「オレの前を走るからだ!!」


    ●暗黒卿
     闇に包まれた空間を切り裂く一陣の光。ミレニアムファルコン。
    「確かに・・・速い」
    「ハッハ!お嬢さん、文句はあるかい?」
     ハン・ソロがニヤリと笑う。文句は言えないだろう。最新鋭の帝国の船を相手に、一定間の距離を保ちながら逃げているのだから。
    「本来なら圧倒的に引き離したいところだがな。だが、この状況でも上出来とは言えねぇかな?」
    「・・・正直、予想以上よ。パートナーとして、これ以上に心強さはないわ。ハン・ソロ船長、任せたわよ。このままブッちぎっちゃって!」
     オビ=ワンにしてみれば破格の買い物であろう。たまたま雇った運び屋がこうも使えるとは。このまま行けば帝国を振り切り、無事ジェダイマスターの元に辿り着ける!そうなれば・・・。オビ=ワンの思惑が進む。だが。
    「いや、そいつぁ無理だな」
     ハン・ソロのあっけない一言により思考は中断する。
    「・・・なんで?」
    「燃料がもう無いからだ!」
     オビ=ワンの問いに対し、ハン・ソロは大きな胸を張って答えた。
    「ななな・・・なんでよ!目的地はしっかり伝えたでしょ!?なのになんでちゃんと燃料入れておかないのよ!」
     運転中のハン・ソロに掴みかかるオビ=ワン。ガクガク揺らされながらも、ちゃんと操縦できているのは流石という所か。
    「おい、危ねぇ!揺らすな!んじゃちゃんと説明してやる!いいか、元々お前さんが指定した惑星は遠すぎるんだよ!だからどっかの惑星を中継して補給しなきゃならん。だがこの状況だ。今、惑星に入っちまったら間違いなく、帝国の奴らに捕まるぜ」
    「で、でもそれは貴女が帝国を引きつけなければ・・・」
    「かもしれねぇな。だがこれを見ろ」
     ハン・ソロがコントロールパネルを操作する。と、一枚の立体映像が出てきた。
    「これは・・・私?」
    「そう、お前だオビ=ワン・ケノービ。オレが迎えに行く少し前くらいからかな。帝国の名で銀河全てにお前さんの指名手配が回ったのさ」
     オビ=ワンは愕然とした。今まで自分の存在をひた隠しにしてきたというのに、今回の件であっさり自分の手はずだとばれていたとは。
    「しかも全銀河とは、例え帝国だとしてもよっぽどの大盤振る舞いだぜ。お前さん、敵指揮官によっぽど恨まれてるんだな」
     例え帝国と言えど、全銀河に一斉にとは異例中の異例である。ハン・ソロの言う事も最もであった。そして、オビ=ワンにはここまでする敵の指揮官に覚えがあった。
    「奴か・・・厄介なのが追っ手になったわね・・・」
     燃料が無い、指名手配、そして敵指揮官が宿敵。圧倒的に不利の状況下。絶望、とも言えた。オビ=ワンを黒い思いが包み込み始めた。
    「ん?そうでもないぞ?少なくとも燃料問題はもうすぐ解決だ」
     だが、ハン・ソロはあっけらかんと、言い放った。
    「もうすぐって・・・どうする―――」
     つもり、と言おうとしたとき、ミレニアムファルコン内に大きく警報が鳴り出した。

    「な、なに!?何が起きたの?」
    「慌てるなよ。通信装置にハッキングかけられてるだけさ」
     ま晩ご飯の献立を言うかの様にあっさりと言うハン・ソロ。
    「ハッキング!?貴女それって重大な事じゃない!早くカットしなさい!じゃないと制圧されちゃうじゃない!」
     慌てるオビ=ワン。だが、慌てているのは彼女だけだ。何故か船員達は落ち着きを保っている。まるでいつもの事とでも言うように。
    「無駄だよ。元々の装置が違うんだ。ミレニアムファルコンの通信設備じゃ、どんな凄腕ハッカーがいても防ぎきれねぇ。なんたって4代前のモデルだからな!」
     何故か(大きな)胸を張るハン・ソロ。その言葉を聞いてオビ=ワンは愕然とした。4代前?なんでそんな旧世代の物を。他はバージョンアップを繰り返し、最高級の船と化しているミレニアムファルコンだけに、彼女は信じられなかった。
    「なんでそんなに古い物を、と言いたげな顔だな。いいぜ、アンタは気に入ってるから教えてやるよ。」
     警報装置がけたたましく鳴る操舵室で、ハン=ソロは懐からたばこを取り出し吸い始めた。
    「各パーツバージョンアップを繰り返して、最強の船にするのは簡単だ。金さえ積めばいいんだからな。だが・・・行き着くとどうなる?そいつはもう、別の船だ。例え外見を変えなかったとしてもそれはミレニアムファルコンの形をした別の船なのさ。だから一つくらい、手を加えずにコイツ自身を残している。一つでも残ってりゃあ、コイツはミレニアムファルコンなのさ。」
     持ち手の一方的な傲慢だ。だが、何故かオビ=ワンは反論する事が出来なかった。
    「それにな。オレはどうも、完璧な存在っつーのが我慢出来ねぇらしくてな。どこか一つバカな所がなきゃ愛せない性格なのさ」
     けたたましいサイレンが流れる中、ハン・ソロの独白が流れる。サイレンがうるさいはずなのに、何故か良くとおる美しい声で。椅子に座ったまま喋っているので顔は見えない。ただ、紫煙のみが空中に漂っていた。
     その言葉を聞いたオビ=ワンは、まだ知り合ったばかりの彼女の事が良くわかった。ああ、彼女は良い人なんだ。良い人で、そして―――
    「貴女、バカよ。それも大バカだわ」
    「ハッ!よく言われるよ」
    「―――でもそんなバカ、嫌いじゃないわ」
     にっこりと微笑みながら、オビ=ワンは愛おしげにハン・ソロの頭をガシガシ撫で回した。

    「で、ハン・ソロ。これからどうするの?」
     ハッキングによる警報をBGMにオビ=ワンが今後の事を話す。
    「取り敢えず奴らのハックが終了してからだな。恐らくこっちと通信を開くためだろ・・・っと、完了したみたいだぜ」
     警報がやみ、コントロールパネルに一つの黒い人物が映った立体映像が出てくる。それと同時にハン・ソロが何らか準備を始めた。立体映像の人物が電子的な声で喋り出す。
    「さて、オビ=ワン。そろそろ観念したらどうかね?」
    「やはり貴様か!ダース・ベイダー!!」
     ダース・ベイダーと呼ばれた人物は黒かった。その不気味な全身を黒い装甲服・マントで覆い顔も黒いマスクで覆い、素顔が見えなくなっていた。唯一、兜にも見えるそのマスクについている一房の毛飾りだけが金色だった。
     そしてそれが、異様な威圧感を放っていた。
    「戦力の差、船の差、最早これは覆りようが無い事象だ。更には・・・君たちの船はそろそろ燃料が切れるのではないかね?オビ=ワン。チェックメイトと言うヤツだ。撃墜するのも簡単だが、今まで戦ってきた君に敬意を表そう。騎士ならば潔く敗北を認めるのも美学だと思うがね」
     ダース・ベイダーの勝利宣言。確かに、状況は不利すぎる。燃料が切れればこの広大な宇宙空間で何も出来なくなるだろう。手は・・・無い。
    「さぁ、大人しくレイア姫と、彼女が盗み出したデス・スターの設計図を渡して貰おうか!」

     ・・・・・・・・・・・・・・?

     力強いダース・ベイダーの言葉がミレニアムファルコン内に響く。だが、誰もが頭上に『?』と浮かべていた。尚もダース・ベイダーの高圧的な演説は続くが皆は互いに顔を見合っている。そう、皆の心は今、一つだった。つまりは・・・。

     誰、レイア姫って?

     ルーク(3466文字ぶりの出番。主役なのに)の記憶にもそんな名前の人物は知らない。誰か知っているか聞こうとし、皆を見渡した時に・・・一人、俯いている人物を見つけた。
     オビ=ワン・ケノービ。ルークの先生。ジェダイの騎士・・・結構凄い人。
    「・・・先生?もしかして・・・レイア姫って人物に心当たりあったりします?」
     ルークの問いにオビ=ワンは苦笑いを浮かべながらゆっくりと顔を上げ、重い口を開いた。
    「・・・うん。あ、あのね。私がタトゥイーンに行ったのは、ルークに修行をつける事の他にもう一つ目的があってね。帝国に対抗する反乱軍ってのが、帝国側の最終兵器である宇宙要塞デス・スターの設計図を奪取してね。で、その設計図を反乱軍のレイア姫が持って逃げているから、彼女を迎えに行くってのがあってね」
     いつもと違い、妙に視線を泳がせながら、具体的に言うと斜め上の方を見て決して視線を合わせない様子で、そして落ち着かない口調でオビ=ワンが喋る。
    「その落ち合う場所がタトゥイーンだったんだけど・・・」
     ああ、聞きたくない。一同そう思った。だが、オビ=ワンは申し訳なさげに上目遣いでこちらを見ながら。
    「えっとあの・・・忘れてきちゃった」
     えへへ、と苦笑いを浮かべるオビ=ワンにルークがツッコミの叫びが炸裂する。
    「どーしてそんな重要な事なんで忘れるんですか!そのレイア姫とか言う人、タトゥイーンに置・・・」
    「ルークさんストップ!!」
     が、それをアールが体当たり気味に強烈な一撃で、発言を止める。
    「ごぱっ!発勁とは・・・」
     ガクリと息を止めるルーク。これでまたしばらくは出番無しである。
    「今はレイア姫さんがいない事は内緒にしておいた方が宜しいかと。じゃないと護衛も何もないレイア姫さんの所に帝国軍が殺到して、あっさり捕まっちゃいます」
     小声で話すアール。彼女の発言は正しかった。恐らくその通りになるだろう。
    「うむ、出来ればそうしておきたいな。そのまま放置されておけば、流石に不審に思った反乱軍の誰かがレイア姫を迎えに行くだろう」
    「じゃあ身代わりを立てた方がいーんじゃねぇ?」
    「シースは?暇そうだし」
    「ああ、あの引きこもりか。金髪で見栄えも姫っぽいから、アイツなら大丈夫だな」
     何とも大雑把な相談が続く。通信が繋がったままなのだが、ダース・ベイダーは自分の演説に夢中なので、皆はシースに対し「適当に相手しておいて」と伝えると、その場で堂々と相談を再開した。
    「ま、だとしても手は無いんだけどね」
     声のトーンを落としオビ=ワンが呟いた。彼女らが帝国軍に捕まるのも時間の問題だろう。だが、
    「いや、そうでもないぜ?」
     妙に自信に溢れるハン・ソロに対し、オビ=ワンが問いかける。
    「何か手でも?」
    「少なくとも燃料問題は解決する。奥の手っつーか、必殺技っつーか。今取れる手段だと、これが最良だろうな」
     何とも曖昧な事を言うハン・ソロを問いつめようとした時、軽薄かつ妙に明るいファンファーレが鳴り響いた。
    「よーし完了だ!野郎共、準備はいいか!!」
    「おおっす!」「こちらは準備OKです!」「いつでもOKでさぁ、姉御!!」
     突如、雄叫びを上げるハン・ソロと船員達。何事か、とオビ=ワンが(「船長と呼べ!」と船員を殴りつけるハン・ソロに)聞こうとしたとき、一枚の立体ビジョンが映し出されて来た。その映像は、今自分たちを追いかけてきている船の姿だった。
    「これは・・・まさか、敵戦艦の全貌図!?なんでこんなものが!」
     オビ=ワンの問いにハン・ソロはニヤリと笑い、
    「逆ハックが成功したのさ。ミレニアムファルコンはな、最大の弱点が最大の武器でもあるんだよ!ワザとハッキングされて、その間に逆ハックを仕掛ける。それで敵船の構造を敵に気付かれることなく調べ上げるのさ!」
    「凄い、けど無茶苦茶な・・・。でも今更構造を調べ上げてもダース・ベイダーの所は守りが堅くて攻め込めないわ。どうするつもり?」
    「決まってら。奪い取るのさ!」
     ニヤリと笑うその姿は、とても頼もしかった。


    ●死闘
     帝国軍戦艦内は既に勝者ムードだった。
     ターゲットにジェダイの騎士がいようとも、戦艦の力の差はどうしようもない。帝国最新鋭のこの戦艦に、もうすぐ燃料が切れると思われるただの宇宙船が勝てるとは思わないだろう。操作に必要最低限のメンバー以外は皆、ポーカーやら花札やらネットエスケープやら各々休憩に入っていた。

     そう、慢心していた。

     異変に最初に気付いたのはレーダー担当のカルエンだった。敵船・ミレニアムファルコンが進路を変え、こちらに急転換してきたのだ。自暴自棄になり司令室に特攻をかけようと言うのか?だが防御は完璧。バリアーを破る事は如何なる船とて不可能であろう。
     苦笑を浮かべながら報告をする。無駄だというのに。そんな感情も込めて。だがどうにもおかしい。司令室狙いならば進行方向が下方過ぎる。そのままでは船の下になるではないか。その方向には重要な装置は無い。強いて言うならば、第四燃料庫くらい・・・燃料庫?
     少なくとも、カルエンはあと10秒早く気付くべきだった。カルエンが大声を上げて報告するときには、ミレニアムファルコンは既に第四燃料庫に突き刺さっていたのだから。

    「ぐおうっ・・・むむ、なんたる大胆かつ無茶な行動!その胆力は敵ながらあっぱれよ」
     突如襲ってきた振動に耐えながらダース・ベイダーがハン・ソロの行動を褒める。
    「すぐに戦闘兵を向かわせろ!奴らの度胸に敬意を表し・・・私も赴こう」
    総司令の椅子より立ち上がり、漆黒のマントを翻しながらダース・ベイダーは出陣した。

     第四燃料庫にすぐに駆けつける事が出来た兵は、およそ100人ほどだったろう。突撃から1分ほどで集まったにしては上出来だ。他のブロックから来る者はまだ少々かかる。
     兵隊長が第四燃料庫の扉を蹴破ると、皆一斉に内部へ入り中の船に向けて銃を構える。号令一つで総攻撃するために。突撃した100個に及ぶ銃口の先には、スーツ姿の女性が一人、たたずんでいた。

    「いいかオビ=ワン!ウチの船員達を好きに使っていい!15分だけ時間を稼げ!その内に全て終わらせる!」
     突撃直後にハン・ソロが言った言葉を、オビ=ワンは脳内にて反芻する。宇宙船一つを満杯にするエネルギーを奪い取るのに15分とは。どうやら本当に慣れているらしい。その言葉は力に満ちあふれている。
     更に、大事な船員を使っても良いと言った。彼女に取って船員は家族よりも絆が深い運命共同体。その大事な船員を、自分に預けたのだ。出会ってまだ2時間程度しか経っていない自分の、全てを信頼して。船員達も嫌がる顔一つせずオビ=ワンに付いてくる。主の信頼する者は無条件で信頼する。彼女らの、絶対的関係がそこにあった。その関係をオビ=ワンは少し羨ましく思いながらハン・ソロに言い放った。
    「―――船員の戦力はいらないわ。全員で燃料奪取にあたりなさい。その代わり―――10分で終わらせなさい」
     オビ=ワンがライトセーバーの柄を握る。友人の信頼に、彼女は自らの力を持って全力で応える事にした。
     目の前には敵兵雑多。その数、およそ100。数はまだまだ増えるだろう。だが彼女は怯むことなく兵士達を見つめる。

    「来なさい、雑兵よ。ジェダイの騎士の力、魂に焼きつけて逝くがよい」

     オビ=ワンのライトセーバーが、青の煌めきを放った。


    「圧倒的じゃないか」
     戦闘経験の乏しいルークの目から見てもそう思えた。
     幾人もの帝国兵が同時にオビ=ワンへと飛びかかる。が、オビ=ワンは敵が攻撃の型をなす前に斬り捨てる。攻撃と同時に加速し敵の固まりへと突撃。敵は反応すら出来ずに一刀で斬り伏せられる。
     疾風。いや、それすら生温い。ライトセーバーが生み出す青の軌跡は、稲妻の様に輝き、美しかった。
     ルークも奮闘はしている。だが経験不足故の動きの鈍さが隠せなかった。一対一ならば俗兵に劣りはしない。しかし乱戦では常に他の敵からの攻撃も考慮しなければいけない。ルークに圧倒的に不足している経験である。
    「ルークさん、落ち着いて!前だけを見ず気配を周りに配れば、反応できますから!」
     アールの呼びかけ。彼女もまた帝国兵を相手に戦っている。素手で。どうやら彼女は拳法全般の能力が付与されているらしい。八極拳とか使ってるし。あ、寸頸炸裂した。
     また、シースはというと、巨大な刃物を持ち攻撃している。いや、正確には違う。腕から刃物がはえて、それで攻撃をしている。どうやら手の一部が開き、中から刃が飛び出しているようだが・・・どう考えても腕の中に収まる質量ではない。法則無視もいいところだ。左手から対戦車砲とか出てるし。
    「・・・なんだか、俺が一番戦力無いような気が・・・」
     どいつもこいつも戦人の様な活躍に、敵と戦いながらもルークが少しだけ落ち込む。
    「当然じゃないですか!私とシースちゃんは戦闘用メイドドロイドとして開発されたんですから!ルークさんが少々の修行したところで、蟻と巨象ほど戦力差はありますよ!」
     原理はわからないがアールの拳一つで三縦に並んだ帝国兵が吹き飛ぶ。遠当ての一種だろうか?
    「え、そうだったの!?通りで(ピーーーー!)な機能付いてないと思った!」
    「あはは〜〜、ルークさん後で黄泉路を渡って貰いますからね〜」
     本気で驚きながら放送禁止用語を言うルークに対し、アールがにこやかに笑う。シースの銃口がこちらを向いていた様な気がするが、深く考えない方が今後のためだろう。
     戦闘開始より5分経過。次々と増援がかかっている為、敵は減る事は無いがあと5分防ぎきれば、燃料が補充でき逃走経路が完成する。後少し、後少し・・・。
     だが、今まで休まず攻撃してきていた帝国兵達が、急に動きを止めた。そして十戒の如く左右に分かれ、入り口からミレニアムファルコンまで
     このタイミングで最悪な人物が黒いマントを翻し、登場した。

    「流石はジェダイの騎士、と言ったところか。オビ=ワンよ」
     黒い装甲服、黒いマント。黒い兜の一房の毛飾りのみが金色の、全身を黒で覆い尽くした帝国の鬼神、ダース・ベイダー。
    「ダース・ベイダー。シスの暗黒卿たる貴方自ら戦場に来るとはね」
     ダース・ベイダーを睨みながら、オビ=ワンが威嚇する。ちなみにその後では、
    「なぁ、アール。シスの暗黒卿ってなに?」
    「う〜ん、良くわかりませんが敵の親玉って感じじゃないですかね?」
     ほのぼのとした会話が聞こえる。空気の読めてないルークを取り敢えず無視し、ダース・ベイダーにライトセーバーを向ける。
    「燃料だけの予定だったけど、トップが自ら出てくるなんて願ってもない事ね。その命、もらい受けるわ」
     言うが速く、オビ=ワンは駆けた。稲妻の如き青煌が空間に残像を残しながらダース・ベイダーへと接近する。全てを穿つその青煌は、首を落とさんと強烈なうねりを上げた。
     人の目に映るのは残像のみだが、先のオビ=ワンの戦闘を見ていた者ならば間違いなくダース・ベイダーの首を打ち貫かれたと判断しただろう。
     だが、首は落とされてなかった。
     赤き刃にて青煌の穿突は防がれたのだ。

     全ての者が魅入っていた。その凄まじき剣勢に。その乱舞に。
     青と赤の紡ぐ光の舞踏。舞うように踊るように、剣と剣が衝突しあっていた。
    「流石は名高い暗黒卿ね! ここまで私に付いてくるとは思ってなかったわ!」
    「ふはははは!私の力がこの程度と思われていたなら心外だな。ビートを上げるぞ!」
     二人の舞踏は更に速度を上げていく。周りは見ている事しか出来ない。
     だが、ルークは二人の戦いに違和感を覚えた。どこか、おかしい。剣勢速度は既に人の域ではなく両者飛び抜けている。わずかにオビ=ワンが勝っている。にも関わらずオビ=ワンは先手を取れない。稲妻の如き攻撃はダース・ベイダーの赤き刃のライトセーバーに防がれている。速度で勝っているオビ=ワンの攻撃が当たらない。ダース・ベイダーが防御に徹している訳ではない。ならば何故?
     隣で見ていたアールも同じ事を思いついたらしく、顔色を曇らせている。何かに気付いたように、アールが呟いた。
    「太刀筋が・・・知られている」
     そう、その通りだった。太刀筋がばれている。手首の動きか、それとも呼吸か。判断材料は理解しようがないが、オビ=ワンの攻撃はダース・ベイダーに読まれているのだ。如何に達人といえども、先の戦いを見ていただけでは数千はある攻撃手段を読めるとは思えない。だとしたら・・・。そう、だとしたら・・・。
    「あの二人は過去に、何らかの付き合いがあった・・・?しかも親密な・・・まさか、ダース・ベイダーの正体は・・・まさか・・・」
     思考の罠に落ち始めたアールが、一つの結果に辿り着く。もしも自分の考えた通りだとしたら不味い。ダース・ベイダーの正体が彼ならば、オビ=ワンの弱点も知り尽くしていると言う事だ。
    「オビ=ワンさん引いてください!ダース・ベイダーは!彼の正体は・・・!!」

     だが、少しばかり遅かった。

     青と赤の剣戟の中、オビ=ワンは視界の端に映る物が気になっていた。
     ダース・ベイダーのマントの中、装甲服よりチラチラ見える、黒く丸いモノ。小さな、ふわふわしてそうな物体。なんだろう、アレは。確か、馴染みがありそうな、どこかで見た事があるような。でもこの場では全く場違いな代物。アレは―――
     少しずつ沸き上がる思考の中の剣戟。無意識に放った一撃でダース・ベイダーが姿勢を崩した。
     チャンス!! ライトセーバーが宿敵を討たんと青き軌道を作る。完璧なタイミング。避けられはしないだろう。確実に討てるだろう。  オビ=ワンが黒い丸を視界に入れてなければ。
     ダース・ベイダーは青い稲妻を避けようともせず、懐に手を入れ、その黒い丸が付いた物体を取り出した。それは銀河中の誰もが知っている、宇宙的テーマパークのネズミをモチーフにした―――

    「ネズミー マウス・・・?」

     オビ=ワンの剣戟が―――止まった。
     一瞬の隙。あり得ない停止。ダース・ベイダーが見逃すわけはなかった。
     一閃。下方より振り上げられた赤い牙が、オビ=ワンの身体を斬り裂いた。空間自体、何が起きたのか理解できないかの様に、オビ=ワンの身体はゆっくりと崩れ落ちた。

    「ふはははは!!オビ=ワン、相変わらず可愛い物には意識を取られるようだな!!完全無欠と恐れられる貴様、唯一にして最大の弱点だ!!ふははははははは!!!」
     高らかに笑うダース・ベイダーの電子的な声が、その広場には響いていた。


    ●脱出
    「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
     ルークにはその雄叫びとも、悲鳴ともとれないモノが誰の叫びかわからなかった。もしかしたら自分かもしれない。だがその思考に辿り着く前にルークはダース・ベイダーに向かって走っていた。手には修業時代、オビ=ワンに渡されたライトセーバー。走る勢いが付いた横振りの一撃がダース・ベイダーを斬りつける。が、神速の赤い閃光がルークを正面から両断した。
    「・・・ち、邪魔が入ったか」
     そう、ルークのいた空間を両断した。あのまま突撃しいていたならば、思い描かれた通り両断されていただろう。しかしダース・ベイダーのライトセーバーがルークに届く直前、アールがルークに飛びつき赤刃をかわしたのだ。
     ルークを抱きかかえたまま、アールは神妙な顔つきで口を開く。
    「オビ=ワンさんはご自分のファンシー趣味をひた隠しにしておりました。それこそ、国家機密の様な扱いで。まぁ、多少ドジな部分がありましたので、知っている人もいるでしょうが・・・それはあくまで身内の話。敵対する帝国軍には知りようも無い情報です。にも関わらず、貴方は何故知っていたのですか?・・・もしや貴方は」
     問うアールに、ダース・ベイダーはくっくっく、と肩を揺らしながら笑う。その事実に行き着いた事を心底楽しそうに。
    「如何にも。私は元・ジェダイの騎士だ。そこに倒れるオビ=ワン・ケノービのパダワン(弟子)だった。名を、アナキン・スカイウォーカーという」
     アナキン・スカイウォーカー。ジェダイ史上最強と謳われた戦士。その名は銀河に響いていた。
    「弟子・・・だからオビ=ワンさんの攻撃パターンを読み、弱点をつく事が出来たのですね」
     ダース・ベイダーの懐から覗く、ネズミーマウスを見ながらアールは問いかける。
    「そのとおりだ、メイドの娘よ。長年付き添い、稽古を受け、共に戦った私だからこそ、奴の手打ちがわかったのだ。勿論稽古と真剣勝負は覇気が違う。だがそれも・・・経験済みよ」
    「経験、済み?」
    「私もかつてはジェダイの騎士として、銀河の平穏を保つ為に奮闘していた事もあった!」
     拳を握り熱弁するダース・ベイダー。どうにも熱くなると演説癖があるようだ。
    「だがしかし、私はあることからジェダイに絶望した!それゆえ暗黒面に落ちた。ジェダイは暗黒面に落ちた者を放置してはおかぬ。ジェダイの刺客として現れたのがそこにいる、オビ=ワンだ」
     ダース・ベイダーが地面に倒れるオビ=ワンを見つめる。その顔は仮面に隠されて読み取れない。
    「その時は私の完全敗北だった。手足は断ち切られ、身体は溶岩に焼かれた。五体で満足な場所はなかったであろう。だが私は!ダース・シディアスの力で暗黒卿として復活したのだ!より強力に!より凄まじく!!  ・・・ついでにより暗黒面に近づけられたが」
     不本意だが。と、何故か顔を伏せるダース・ベイダー。意味は良くわからないが、暗黒面という言葉には隠語があるようだ。
    「さて、お前達の最大戦力であるオビ=ワンは倒れた。観念し、レイア姫とデス・スターの設計図をこちらに渡してはどうかね?そうすればお前達の命だけは保証してやろう」
     ダース・ベイダーからの通達。オビ=ワンが倒れた段階でアール達の負けは確定であろう。だが、アール達には敵の要求するモノは持ち得ていない。つまりこの誘いすら、受ける事が出来ない絶望的状況であった。
     アールの中に焦りが生じる。どうする事も出来ない。何か手は無いだろうか・・・高速で思考を回転。しかし妙案は浮かばない。作戦を想定した所でこの場で殺される展開しか想像付かなかった。
    「さて、返答や如何に?」
     最終通達。その問いに沈黙が場を包む。
     と、その時、ダース・ベイダーに向かい進みよる者がいた。ロングの金髪、長身で均整の取れた身体の、シースであった。
    「おお、流石はレイア姫。潔い」
     先の戦闘で豪快に戦っていたのだが、オビ=ワンとの戦いに集中していたダース・ベイダーは気づいていないようだ。ミレニアムファルコンのときの演技で、シースをレイア姫と思っているダース・ベイダーは、両手を広げその度胸に感服した。レイア姫(シース)を自らに引き寄せようと手を伸ばすダース・ベイダー。それに答える様に手を伸ばすシース・・・の手には、丸い物体が乗っかっていた。
    「目を閉じて!!」
     アールが叫ぶ。急ぎ目を閉じたその直後、辺りを強烈な光が包み込んだ。その閃光に乗じシースがオビ=ワンを抱え込む。
    「くっ! 閃光球か!」
     対光処理が施されているのか、ダース・ベイダーだけがいち早く反応する。目の前の二人を逃がさぬ様、赤き刃を振るう。
     だが、刃は獲物に喰らい付かなかった。対峙するシースより振るわれた彼女の右腕を中心に、淡い黄色の壁が近寄る事を禁じたからだ。
    「左腕に電磁シールドだと!?貴様ドロイドか!!」
     防がれると思っていなかったダース・ベイダーは、僅かに動揺を表した。それこそ脱出のチャンス。シースは身を翻し、超速でミレニアムファルコンへと駆ける。
    「燃料フルチャージ完了だ!皆乗り込め!!」
     絶好のタイミングでハン・ソロの声が聞こえた。幸運。流れは確実にこちらに流れ込んできている。
    「ぬぅ、逃がすか!」
     ダース・ベイダーがシースへ走る。ここで逃がすと危険と判断したのか、残像を残すそのスピードは今までのどの動きよりも素早かった。
    「させません!」
     駆けようとするダース・ベイダーの正面に割り込むアール。突き出される赤い刃を紙一重でかわし、カウンター気味に短打。駆ける事に集中していたダース・ベイダーには避ける事が出来なかった。
    「でぇぇい!!」
     続く、鉄山靠。突然の連送衝撃にダース・ベイダーは為す術もなく後方へと吹き飛ばされた。その隙にミレニアムファルコンへと乗り込むアール達。帝国兵が遠距離より砲撃を繰り返していたが、しんがりに立つシースの展開する防御壁を破れずにいる。
     帝国兵に動揺が走る。そうだろう。出力が桁違いなのだから。明らかなオーバーテクノロジー。通常ならばあれほどの防御壁は、宇宙船サイズでようやく実装される防御手段だ。彼女を制作した者は相当の技術者であろう。少なくとも、世界に2人といない
    「八極拳を使うメイドと・・・砲撃や、ライトセーバーすら防ぐ防御壁を張る改造ドロイドのコンビだと・・・」
     ダース・ベイダーは覚えている。遙か昔、自分がまだアナキン・スカイウォーカーだったころ、あれと同じ規格を作った事を。攻守を兼ね備え自己改造能力も持つ地上最強の二対のドロイド。
     息子を守るためだけに、作った。
     オビ=ワンとの決戦前に完成した姉妹ドロイドに、アナキンは命令した。
    「如何なる手段を用いてもルーク・スカイウォーカーを守れ」と。
     その後、オビ=ワンに敗れ、しばらく身動きが取れなかった。その隙に姉妹のいた星は戦争に巻き込まれ、連絡が取れなくなった。死んだのか、安全の為に移動したのか、全ては不明になった。
     だが。
     今、目の前に二対のドロイドがいる。一人の少年を守るように戦う、二対の姉妹ドロイドが。自分が制作したモノと外見も、出力も違うが、自己改造能力を持っていればそれも可能だろう。何より、根本的な武装は変わっていない。八極拳を使うドロイドなど、自分の他に誰が作ろうか。質量を無視した変形など、自分以外誰が作れようか!
     つまり、二人の中心にいるあの少年が―――
    「ふふ、ふははははは!!なんたる偶然か!今宵この様な場所で生き別れの息子に出会えるとは!くくく、これもフォースの導きというものなのか!!」
     声高らかに笑うダース・ベイダー。その電子的声色に含まれるのは歓喜のみであろうか。



     帝国兵たちは逃さないよう、ミレニアムファルコンへと駆ける。だが、乗り込む事は出来ない。何故ならミレニアムファルコンの前には、立ちふさがる二対のドロイド姉妹が船を護っていたからだ。

    「さぁ、ハン・ソロさん。飛び立ってください。ここは私とシースちゃんが引き受けますから」
     ミレニアムファルコンの通信システムに、アールから通信が入る。アールの通信システムはそれほど強力ではないが、通信システムが極端に低いミレニアムファルコンのシステムには入り込めるのだ。
    「何バカなこと言ってんだ!早く乗れ!」
    「乗れません。だって私たちが乗っちゃったら、ミレニアムファルコンが飛び立つまで誰が外からの攻撃を護るんです?先ほどの攻撃で後部攻撃砲が破壊されちゃったでしょう?だとしたら、誰か残らないと飛び立とうとしてる時に攻撃されちゃいますよね。だから、私とシースちゃんが残るんです」
    「だからってお前が残るこたぁないだろ!それに残らなくても飛び立てるかもしれねぇだろーが!」
     ハン・ソロが感情を露にして怒鳴る。しかしその言葉にいつもの力は、無い。
    「ご自分でも無理だと思っている嘘はつかない方が良いですよ?そんなこと、ありえないじゃないですか。可能性が1%よりも低い賭けなんて、自殺と同じです」
     ハン・ソロには言い返せなかった。アールの言い分は正しいからだ。燃料を奪いながらずっと考えていたこと。無事に飛び立てるか否か。せめて後部砲さえ破壊されてなかったら。考えても仕方が無い事をつい、頭を駆け巡る。弱気になっている証拠だ。
    「・・・アール、シース。オレは―――」
    「おっと、謝るのはダメですよ?私、当然の事をするだけですから。でも、一つだけわがままを聞いて貰えます?」
    「わがまま?」
    「私たちの旅行バッグを出しておいて欲しいんです。私とシースちゃん、負けたら多分宇宙に棄てられちゃうと思うんですが、そのときに身の回りの物が無いのって、なんだか悲しいじゃないですか」
    「・・・わかった。出すよ」
    「ありがとうございます。・・・あ、ハン・ソロさんが心を痛める必要は無いですからね。私とシースちゃんはルークさんを守る為に作られたんです。だったら、彼がここを飛び立つ為に、私たちが護るのなんて問題無いでしょう?」
     にこやかに笑う顔が見える。通信システムでの会話だ。顔は見えるわけ無い。
     でも、アールの満面の笑顔が、ハン・ソロには見えた。その笑顔が、余りにも悲しすぎた。
     そして、悲しすぎる笑顔を破るのは、やはり悲しすぎる女だった。
    「問題はあるわ。貴女たちがここで船を降りたら、一体誰があのダメ人間に一般常識を叩き込むのよ」
     黒いスーツに長身を包み立つ人物、オビ=ワン・ケノービ。全身を自らの血で染める戦人であった。
    「オビ=ワンさん・・・?駄目ですよ起き上がっちゃ!重傷なんですから!」
    「寝てなんてられないでしょ?しんがりを勤める人間がさ」
    「え・・・?」
     言うやいなや、オビ=ワンはアール腹部を殴打する。
    「オビ・・・ワン・・・さん・・・」
    「さって、一人気絶っと。シースも気絶させられたい?それともアールを運んでくれる?」
     問いかけるオビ=ワン。シースは無言だが、真っ直ぐに彼女を見つめていた。
    「なんでって聞きたそうね。ま、大まかな理由はさっき言ったとおりだけどさ」
     オビ=ワンは懐からタバコを出して火をつける。
    「不出来な弟子の後始末は、師匠の仕事でしょ?」
     咥えタバコのオビ=ワンは、ニヤリと微笑んだ。その言葉に納得したのかしてないのか、シースはアールを抱えて船に乗り込んだ。始終無言であったが、乗り込む直前にチラリとオビ=ワンを見た。その視線が何を語っていたのかはわからない。だが、その切れ長の瞳はしかとオビ=ワンを見据えていた。
    「聞いたとおりよハン・ソロ。・・・あとは頼んだわよ」
    「置いてけってのか?」
    「あの娘たちを置いてくよりは罪悪感ないでしょ。」
    「どっちだって同じだ!お前ら戦う人間はいつもそうだ!置いて行く方の気持ちも考えやがれ!!」
     震えるその手を力任せにコントロールパネルにたたき付ける。
    「・・・なによ、泣くことは無いでしょ」
    「泣いてねぇよ!アホ!タヌキ!戦闘バカ!」
     自分でも何を言っているのかわからない。でも、罵詈雑言を浴びせなければ気がすまなかった。もう、これが最後の会話になるだろうから。
    「ヒドイ言い様。次、会ったら貴女の口調を強制してあげるわ」
    「次なんて・・・」
    「それにね、知ってる?本当の正義の味方は死なないのよ。だから大丈夫」
    「自分を正義の味方と言い切るのかよ」
    「勿論、私以外に、正義の味方を名乗れるのがこの銀河にいると思う?」
    「ハッ、そうかい。・・・そうだな。お前以外には無理だな。じゃあ、再開できるな、間違いなく。・・・口調、次会ったとき、喜んで強制されてやるよ」
    「言うわね・・・楽しみにしてるわ」
    「ああ、オレも・・・楽しみにしてるよ」
    「さ、行ってらっしゃい」
     見送る女性は、満面の笑みを浮かべた。

    「話は済んだかね?」
     ダース・ベイダーの機械的な声が聞こえる。
    「しばらく会わない内に貴方にも待つ甲斐性が出来たようね」
    「死に逝く者の最後の見せ場だ。無碍にする事もあるまい」
     笑うダース・ベイダー。オビ=ワンは確かに危険な状態だ。先のダース・ベイダーの一撃は間違いなく致命傷であった。
     オビ=ワンの視界は揺れ、声は距離感を取れなくなっている。残された時間は少ない。
    「成長したようね。ま、師匠としては嬉しくもあり、ちょっぴり悲しくもあるかな」
    「『停滞は死』・・・貴方に最初に教えてもらった事だ」
    「止まるときは死、まさしく貴方らしい意見だ。・・・あのときは私が止まる事となったが、今度はどちらが止まるかな?オビ=ワン・ケノービ」
    「全ては、フォースの導きのままに」
     剣を、構える。
    「いざ―――」
    「―――勝負」
     赤い牙と、青い刃が交差した。


    「何故オビ=ワンさんなら納得できたんですか」
     目覚めたアールの第一声は不満の声だった。
    「アンタたちは死ぬ気だったろ」
    「オビ=ワンさんは違うとでも言うんですか」
    「ああ、そのとおりだ」
    「絶対生き残れない状況だったのに」
    「だな。だがな・・・眼だ。アイツの眼が、絶対生き残るって、語ってたんだよ」
    「・・・・・・」
    「だったらオレは、アイツを信じて自分の仕事をするさ。お前たちを『ジェダイマスター』とかいう奴の所に届ける仕事を、な」
    「・・・オビ=ワンさん、帰ってくるでしょうか」
    「帰ってくるさ。約束、したもんな・・・」
     遠い星々の光る空間を見つめ、ハン・ソロは呟いた。
     仲間一人と別れ、ミレニアムファルコンは暗闇を進んで行く。


    「見事な一撃、だった」
     地に伏すオビ=ワンを見つめながらダース・ベイダーは呟いた。互いの魂を賭けた勝負は、弟子へと軍配が上がった。
    「お見事です、総司令。この者、如何致しますか?」
    「宇宙へ捨て置け。奴らが残していった全ての荷物と共にな」
    「はっ!了解しました」
     ハッチが開く。破壊された物と共に、先程まで死闘を繰り広げていた彼らの残した物が吸い込まれていく。部品も、物も、そして―――人も。
     宇宙は全て忘れさせてくれる。悲しみも喜びも憎しみも。
     そして、全てを思い出させてくれる。悲しみも喜びも憎しみも。そして、楽しかった記憶も。

    「さらばだ、オビ=ワン」
     宇宙は全てを、受け入れてくれる。


    ●ジェダイマスター
    「はっ!ここは何処だ!?」
     約5,500文字ぶりにルークが登場してみれば、そこはジャングルだった。
    「なんだ!一体どーいう流れなんだ!なぜ俺は気づいたらジャングルなんだ!」
    「まぁまぁ、ルークさんパニくるのはわからないでもないですがちょっと落ち着いてください。ここはですね、いわゆるジェダイマスターさんの住んでる星なんです」
     そう、彼らは今、オビ=ワンが示した惑星に来ているのだ。
    「いつの間に!!・・・ってアレ、運搬屋は?」
     ふと、いないメンバーを見つけルークが問う。この場には自分、アール、シースしかいない。
    「ハン・ソロさんは・・・」


    「姉御ぉ。いいんですかい?あいつらそのままで来ちゃって」
    「船長って呼べ。・・・オレらの仕事はあいつらの運搬だろ。もう終わったじゃねぇか」
    「そりゃそうですけど姉・・・船長〜〜」
    「気ままな海賊時代とは違うんだ。定期的な収入のある運搬屋を選んだんだろ、オレたちは。元請があってこそなんだよ。それに・・・」
     それに、新しい仕事を受けなければ―――
    「おい、タマハチ。おめぇ息子いくつになった?」
    「へぇ、来月で1歳になりやす」
    「そうか・・・なんかやらねぇとな」
    「ええ!?いや姉御・・・じゃなくて船長。とんでもねぇっすよ!でも貰えるなら・・・」
     タマハチがあれこれ希望を言うのを聞き流しつつ、ハン・ソロは思考の渦へと流れる。今仕事を取るのを止めてしまったら、一体誰がこいつ等の家族を食わせていくのだろう。
     だから、船を生かせる運搬屋になった。海賊では収入が無い月などザラだったからだ。だから―――海賊を辞めた。
    「ただの・・・時代の流れさ・・・」
    「やっぱり新しい反重力装・・・え、姉御。何か言いやした?」
    「なんでもねぇよ。それと船長と呼べ」
     ポカリ、とタマハチを殴った。


    「えー!!仲間離脱なんて大事なイベントになんで俺いないんだよ!主人公だろ?俺!」
    「まぁルークさんですしねー」
    「あと先生との別れのシーン!折角 俺「捨て身の攻撃なんて、教わってねぇよ!先生、待ってくれよ!」 オビ=ワン「ゴメンね、ルーク。約束破って・・・貴方のお嫁さんには、なれそうもないな・・・」とかいうイベント考えてたのに!」
    「うわー、凄い自分勝手この上ない。無くてよかったですねーそんなイベント」
    「さらには父親との再会シーン!普通ここで何か因縁とかがあるだろ!俺なんで出番0なんだ!会話0なんだ!」
    「それは単純なことですよー」
    「単純?」
    「主人公であるルークさんよりも私とシースちゃんや、オビ=ワンさんの方が魅力的な因縁があったって事です♪」
    「うわぁぁぁぁぁん!!!」
     泣きダッシュするルーク。
    「ルークさん、泣かないでくださいー。きっとこれからに見所があるんですよー」
     シリアスな場面以外では。
    「あと急に走ると危ないですよー。この辺って崖だらけですからー」
    「うわーーーーーー」
     ズボボボボボボボボ。
     あっという間に崖を転がり落ちるルーク。
    「言った直後に引き当てる所がルークさんらしいですよねー」
     トテトテと坂を下るアール。その後ろをシースが着いて来る。
    「ルークさん、あまり一人で先に行ってはいけませんよー。私たちはオビ=ワンさんから、『ジェダイマスターがこの惑星にいる』って聞いただけで、何処にいるかまではわかってないんですから。あんまり歩くと道に迷って・・・」
     アールが坂道をゆっくりと滑りながら降りるその途中、バカでかい看板が目に付いた。
     『ジェダイマスターの修行場〜覚悟無き者はみんな死ね〜』
     ああ、でかい。これだけ大きければ、落ちてゆく主人を無視して目に付いてしまっても仕方が無いだろう。ちなみに主人たるルークは崖の下に頭から突き刺さっていた。
     さておき、その自己主張の強すぎる看板は壁を掘り抜いた居住地域に取り付けられているようだった。
    「どうやらここが目的の場所、みたいですねー」
     オビ=ワンが連れてきたかった場所。ジェダイマスターの隠れ家。ようやくその場所に辿り着いた。
    「よし、じゃあ張り切って行くか!」
     復活したルークが先頭を歩く。やけにリーダー風を吹かせたりしてウザったいのだが、アールにとってはいつもの事なので放っておく。
    「ここが扉だなドーン!ジェダイマスターは何処だドーン!」
     話しながらも力任せに扉を開けっ放し、人の家にズカズカ踏み込む。と、突き進む内に『道場』と書かれた場所についた。
    「ははーん、ジェダイマスターの野郎。もったいぶりやがって。ここにいるな?ふふ、俺にはわかるぜ。ビンビンフォースが伝わってくる」
     わかるんですか?と聞いてくるアールに、にやりと笑い答えるルーク。
    「勿論だ!この扉の向こうには初老の戦士がいるな。相当の達人だ!だってオビ=ワン先生の師匠だからな!」
     当てずっぽうの確証など無いくせに妙に偉そうだ。言うが早く、脊髄反射のみで生きているルークは「頼もーう!」と扉を乱暴に開け払った。
     だが、当然の事ながら内部には初老の戦士などいなかった。

     道場の中央に正座するのは、腰まで伸びた髪を綺麗に整えた着物姿の幼子一人。

     瞑想でもしているのか。固定した空気を纏うように微動だにしない少女に、ルークはズカズカ大またで近寄った。
    「おう、少女。この家にジェダイマスターって人はいねぇか?」
    「会ってどうする?」
    「どうするって、弟子入りに決まってんだろ」
    「おぬし程度の腕前でか?もっと修行して出直してくるのがよいと、儂は思うぞ?」
     かっかっか、と笑う少女。
    「生意気だなぁ、お前は。目上の人にはもっと敬意を払えい」
    「普段ご自分が言われてる事ですよね」
     アールの的確なツッコミを無視し、生意気な物言いの少女の頭をワシャワシャ撫でようとする。
     が、その腕を取られ投げ飛ばされた。
    「うむ、同感じゃな。小僧、まずはおぬしから態度を改めてはどうかな?」
     ひどく澄んだ声が道場に響いた。少女が出した声に他ならない。少女は正座のまま、ルークを投げ飛ばしたのだ。
    「痛ってぇ!なにすんだ幼女!」
    「だから・・・目上の者に対する言葉遣いがなってないと言っておるのじゃ!!」
     またも、少女が軽く腕を振るうだけで吹き飛ぶルーク。まるで人形を投げているかの如く、簡単に吹き飛ぶルーク。
    「な、なにすん・・・だ・・・この幼女・・・」
    「幼女って言うな!!」
     今までで一番強力なスピンで壁を破りつつ、ルークは道場の外まで吹っ飛んで行った。


    「え!?ジェダイマスター?この幼女が!?」
    「如何にも、儂こそがジェダイマスター・ヨーダじゃ」
     ルークをジャガッタしながら少女―――ヨーダは胸を張って答える。どう見ても幼子にしか見えないが、本人曰く既に八百年近く生きているとか。
    「強調したって無いモノはないぞ?」
     余計な一言でペースト状になってしまったルークは放っておく。
    「しかして、おぬしら一体何故こんな辺鄙な所へ?強くなりたいならこの宇宙、何処にでも自称達人はおるじゃろうに」
     正座を崩さぬまま問うてくるヨーダ。勿論ルークにではなくアールにた。
    「オビ=ワンさんの紹介でここまで来ました。貴女にジェダイとしての全てをたたき込んで貰え、と」
     その名を聞いた途端、ヨーダの目つきが鋭くなった。
    「ほう、ではおぬし等がオビ=ワンの迎えに行った者か。確かに、ただ者ではなさそうじゃ」
     ヨーダは目の前にいる者たちを見渡した。ルーク除く。
    「して、オビ=ワンはどうした?迎えに行ったのなら奴もおるじゃろう?」
    「オビ=ワンさんは・・・」
     そしてアールは、今までおきた事を全て話すのだった。


    「そうか・・・オビ=ワンが身を挺して、な・・・」
     ごくり、と茶を飲む。話が始まる前に入れた茶はもうぬるくなっており、本来の美味さの半分もない。
    「アヤツもようやく、ジェダイの騎士らしくなったもんじゃ・・・」
     ズズッ・・・と茶を飲む。「ぬるい茶じゃ」と言ったまま、ヨーダは顔を下に向けたまま黙ってしまった。
     と思ったらぴょこんと顔を上げる。
    「おぬしの父君ことアナキン・スカイウォーカー・・・今はダース・ベイダーじゃな。奴は恐らく、ジェダイ史上最強の剣士じゃろう。生半可な修行では奴には到底勝てん。・・・覚悟はええかえ?」
     ムフフ、と邪悪な笑いを浮かべるヨーダ。ルークは力強くヨーダを見つめ、
    「あいつに勝つためなら何だってするさ!宜しく頼むぜ!幼女!」
     一言多かったためヨーダにぶっ飛ばされた。


    ●修行篇
    「いいか小僧!これから儂がビシバシ強化してやるからありがたく思え!儂が黒と言ったら白でも黒!口でクソをたれる前と後に“サー”をつけろ!エエか小僧!」
    「サー!幼女!サー!」
    「死んでこいや!!」
     吹っ飛んだ。

    「ホラホラどうしたのじゃ。この程度の滝、オビ=ワンやアナキンなら楽に昇ったぞえ?」
    「サー!90度の滝なら修行で昇った事ありますが、流石に150度の急斜はもう人間辞めた人じゃないと無理っぽいですサー!」
    「フォースを信じるのじゃ!ちなみにあと10秒で昇りきらなかったらドキドキゲーム『ピラニアぱっくん♪』が始まるのじゃよ★」
    「サー!楽しそうな名前はいいけどそれって死ぬって事では?」

    「ほらほら、百人組手じゃー。最短で倒してかないと体力が最後まで持たんのじゃよー」
    「サー!百人組手は百人同時に相手にするものじゃn・・・・」

    「戦士には強靱な胃袋も重要なのじゃ!さぁさぁたいらげるのじゃ!」
    「・・・・・・(毒死)」
    「詰め込み〜♪詰め込み〜♪」

    「ジェダイの戦いは接近戦!ライトセーバーを己のモノとせよ!と言うわけで上段から行くぞえ!避けるか受けるかせい!とりゃー!」
    「ギャー!!」
    「・・・・・・・・・うわぁ・・・」


     そして一週間後・・・。
    「おぬし相変わらず弱いの〜。ホントにあのアナキンの息子なのかえ?」
    「うむ、オレも何となく違うんじゃないかな〜と思ってきた所だ」
     全然強くなってなかった。
    「おかしいですねー。一週間の短期間とはいえ、普通はそれなりに身体能力とか上がったりするんですけど・・・」
     ちなみにドロイド姉妹は独自に特訓をして、更に強くなってたりする。
    「うむー、小僧にここまで才能が無いとは思わなんだ。対帝国戦でおぬし、戦力にならんぞ?」
     あっさりと核心を言う
    「はっはっは、安心しろ師匠。きっとピンチになったら俺の中の眠れる力や前世の記憶とか開放されるに違いない」
    「それまでに何回儂らは死ぬのじゃろうなぁ」
     戯言を抜かすルークの言葉にため息をつくヨーダ。その可能性は限りなく0に近い。むしろマイナスブッちぎり。
    「ルークさんは戦力にならないと言う事は・・・現状で戦えるのはヨーダさん、私、シースちゃんの3人。・・・これって」
     相変わらずの脳天気な声でアールが喋り出す。
    「今攻め込まれたら負けるってことですよね!」

     その言葉を言いきるか言いきらないかの絶妙なタイミングに、膨大な爆発による振動が響いてきた。

    「おわー!な、何事だ!遂に世界の終わりか!?チクショウ!こんな事ならキバ○シの言う事ちゃんと信じておけばぐぎゅー」
     振動で崩れ落ちてきた岩片に潰されるルーク。これでまた、しばらく出番無し&シリアスモードに転向だ。
    「この振動・・・惑星に強力な砲撃を行ったようじゃの。星に砲撃とは、無茶をする」
    「ドンピシャのタイミングですね・・・まさに絶体絶命のピンチ」
     緊張感の無い展開だったが、実はピンチだった。


     洞穴式道場から出る。状況確認をしようと、空を見上げたらそこには巨大戦艦が浮かんでいた。
    「なんて大きな戦艦・・・」
    「あれが帝国自慢の星殺し戦艦デス・スターじゃろうな」
     帝国の最終兵器。反乱者たちを星ごと破壊してしまう最強最悪の兵器。遂に帝国は、それを持ち出してこちらを完殺しようとしている。
     三人(+気絶者)がデス・スターを見上げていると、戦艦から機械的な声が聞こえてきた。
    「ジェダイマスター・ヨーダ。この星にいるのだろう?どうだ!デス・スターの力は!」
     ダース・ベイダーの声が聞こえる。その声は力に満ちあふれていた。その声にヨーダは叫び返した。
    「久しいのぅ、アナキン。いや、今はダース・ベイダーじゃったな。しばらく見ない内に戦士から戦艦乗りに鞍替えかえ?」
    「この威力ならばそれも考えてしまうな、マスター・ヨーダよ。どうだね、デス・スターの威力は!副砲のみでこの威力だ。主砲を使えばこの惑星を破壊する事も可能だろう!」
    「脅しのつもりかえ。さて、何が言いたいのじゃ?」
    「フッ・・・私は無慈悲ではない。一瞬で消し飛ぶよりも他の道を提示してやろう。・・・我が息子、ルークとドロイド姉妹を差し出せ。そうすれば死の瞬間もわからない死に様だけは止めてやろう」
     機械的な音声が、より機械的な内容を告げる。つまりは、仲間を渡せ、と。
    「マスター・ヨーダ。貴様とて愚かではあるまい。ほんの一週間前に会った連中を差し出せば命は助かるのだ。充分、選ぶべき未来であると思うがね」
     断れば集中砲火が待っている。こちらにルークが居る以上、一瞬で星を消し去る主砲は使わないだろう。だがその他の砲門で地表をクレーターだらけにすること位は楽に出来る。それほどの攻撃力をデス・スターは持っている。そうなるといつかは、戦力に押し切られこの場所は崩壊するだろう。
     圧倒的な戦力差。交渉にすら、ならない。楽観的な思考の持ち主であるアールも、この時ばかりはダメかも、と考えてしまった。他に道は見あたらない。シースの防御シールドという手もあるが、威力が強力な分長時間の活用は不向きだ。つまり連続砲撃をされた場合防ぎようが無い。
     観念しかけ、アールがちらりとヨーダを見る。
     年端のいかない幼き少女は―――笑っていた。
    「くっくっく・・・くっくっく・・・・・・」
    「・・・ヨーダ、何がおかしい」
    「くっくっく・・・いやなに。おぬしの観測眼によ」
    「観測眼、だと?」
    「そんな砲撃でこのヨーダを、止められると思っているのか?」
     自信に満ちあふれた言葉。自分の力を信じ切っている。
    「・・・確かに、ジェダイマスターたる貴様ならば、千もの砲撃を防ぐ手段があるのかもしれない。だが、その自信は主砲が来ない事からのものだろう?」
     デス・スターの主砲が、ヨーダたちの方向へ向けられる。
    「ルークがそこにいるから主砲を撃たないと思っているな?だが、甘い。デス・スターは主砲の口径を狭める事も可能なのだよ。それこそ、人間大の大きさに変える事もな!」
     狭まった砲口が黄色く光った。それは主砲が発射された事を意味する。黄光は天から落ちる眩い柱と化し、次の時には近くの山を削り取っていた。音も無く、ただ、黄光が降りた形に、大地は抉られていた。
    「さて、ジェダイマスターよ。威力は見ての通りだ。次は・・・自身で受けて確認してくれたまえ」
     砲口に黄光が収束し、膨大なエネルギーがヨーダに向かって放たれた。
     ヨーダは手にライトセーバーを持ち、自分に降り注ぐ一筋の黄色い光を見つめ―――緑色の刃を成す、魔女の爪を天に掲げる。

     降り注ぐ惑星をも破壊する一撃を、緑爪が切り裂いた。

    「馬鹿な・・・デス・スターの、主砲・・・だぞ。一撃で星を破壊する威力のエネルギーを・・・ライトセーバーで切り裂いただと・・・」

    「ぬるいのぅ、ダース・ベイダー。この程度の威力でこのヨーダを討てると思うたか?忘れたか?あの戦争を。忘れたか?天を穿つ、魔女の緑爪を。シスの暗黒卿たちを薙ぎ払い、幾千もの戦艦を沈めたのは誰じゃ? この儂じゃろうが」
     闘争の歓喜に歪む魔女の双眸は、天を捉えていた。


    ●決戦

     遥か遠い銀河の片隅に、一隻の運搬船が走っていた。
    「船長〜、ホントにイイんすか?」
    「くどいぞタマハチー。自由気ままな海賊業は廃業したんだよ」
     銀河を駆けるミレニアムファルコン内。今日も船長ハン・ソロと船員の問答は行われていた。
    「でも船長!」
    「くどいぞ、タマハチ」
    「いいえ!今日はあっしらからも言わせてもらいます!」
     と、そこにはミレニアムファルコンの全船員が姿を見せていた。
    「お前等・・・」
    「船長、言わせてくだせぇ!船長があっしらの家族の為に、定期収入のある運搬業下請に入ってくれたのは嬉しいでさぁ!ええ、それはもう!実際生活レベルも上がりやした」
     船員―――スケロクが一歩前に出る。
    「実生活は確かに潤いました。だがぁ・・・その代わり、あっしらは何か、大事な物を無くしちまったんじゃないですかい!」
     新しい仕事で得たモノは多かった。だが、それよりも多くの喪失感があった。
    「だがな、スケロク。夢だけじゃ―――」
    「船長!・・・確かに現実あっての夢でさぁ。でも・・・でも・・・夢あっての現実でもあるんじゃないっすかね!」
    「ガキにも言われちまいました・・・「父ちゃん、最近元気ないね」って」
    「スケロク・・・」
    「女房にもね、「昔のアンタの方がいい」って・・・。勝手なもんでさぁ。昔は「もっと定期的に稼いで来い」とか言ってたクセに、今は昔よりも暗い顔で言うんですよ?」
     へへっ、と笑いながらタマハチは続ける。
    「船長、だからもういいんですよ。だから、だから・・・もうそんな沈んだ顔でいないでくだせぇ!船長は常にゴーカイで、野蛮で、荒々しくなきゃ、あっしたちは・・・」
     船員たちから泣き声や、鼻をすする音が聞こえる。宇宙の荒波で鍛えた、黄金の精神の持ち主たちが、涙を流して。
     ああ、なるほど。オレは皆の為を思っていたが、逆にそれが縛る形になっていたのか。
    「船長ぉ・・・」
     タマハチの泣き声。
    「タマハチ・・・船長じゃねぇ」
     ハン・ソロは泣きじゃくる子分たちに熱く燃える眼を向け、

    「姉御と呼びな」

     太陽の如き笑みを見せた。


    「はっはー!どうだ見たかダース・ベイダー!ウチの師匠の力を!!」
    「何故おぬしが威張るのじゃろう?」
     復活したルークに一応ツッコミを入れるが、そんなもの聞くルークでは無い。まるで自分事の様に威張り散らしている。
    「どぉだ!今だったらまだ、降参すれば許してやっても良いぞ!そうだな、俺に・・・」
     と何か言いかけた時にデス・スター主砲再び。
    「ヒギィー!また来たー!!」
     情けねールーク(主人公)の叫び。だがしかし、主砲は大地に当たる前にヨーダによって斬られる。さっすが師匠!とルークが煽てるが雑音だ。無視。
    「ダース・ベイダー。まだ無駄な攻撃を繰り返すかえ?主砲のエネルギーとて莫迦にはなるまい。戦士なら戦士らしく、コレで勝負をつけようではないか」
     言うやいなや、ヨーダのライトセーバーが出力を増す。緑爪は天に掲げられ、引き裂くモノを求める。狙うは―――デス・スター本体。
    「降りて来ぬならばこのまま切断しても良いぞ?不可能でない事は、おぬしもよぉく知っておろう?」
     戦争時代。帝国軍の宇宙戦艦を、地表にいながらライトセーバーのみで墜とした戦士がいた。マスター・ヨーダ。その過剰出力により肥大したライトセーバーで斬り裂くという、単純にして豪快な伎の使い手。緑爪で斬り裂かれた戦艦数知れず。
    「故に帝国兵たちは口癖の様にある言葉を発するようになる。「魔女の緑爪に気をつけろ」。最も、気をつけたところでどうしようも無いのだがな。」
     天からの電子声。宙に浮遊するデス・スターからゆっくりと降りてくる影が一つ。その影は不気味な全身を黒い装甲服・マントで覆い顔も黒いマスクで覆い、素顔が見えなくなっていた。唯一、兜にも見えるそのマスクについている一房の毛飾りだけが金色だった。つまりは―――ダース・ベイダー。
    「ふむ、ようやく登場かえ。儂は待たされるのは嫌いではないが、好きでもないわい。オビ=ワンならば激怒していた所じゃな」
    「マスター・ヨーダ。今すぐ愛弟子に会わせてやろう」
    「おぬしが詫びに逝け。菓子を持ってな」
     スッとライトセーバーを構える二者。赤い牙と緑の爪。
     一触即発の状況下だが、何かを思い出したようにダース・ベイダーが牙を下ろす。
    「貴様の顔を見たらすっかり忘れてしまった。マスター・ヨーダ、私は久しぶりに自分の息子に会ったのだ。少々会話しても良いかね?」
    「・・・ふむ、ジェダイも鬼ではない。地獄への土産に会話していくがよい」
     ヨーダの許可が下りた。ダース・ベイダーは(メイドドロイドの後に隠れる)息子、ルークを見る。
    「・・・息子よ」
    「・・・らしいな。貴方が、父親だとか」
    「うむ、今は捨てた名だが。かつて私はアナキン・スカイウォーカーと名乗っていた」
    「・・・なんで、帝国軍なんかに。なんで、暗黒面なんかに!」
    「知れた事よ!」
     突如、ダース・ベイダーの怒声。その声にルークが楯にしているアールもびくりとする。
    「全ては前時代的なジェダイの掟が悪いのだ!無茶な要求の掟を作り、背いたら抹消!そのせいで私はオビ=ワンに切り刻まれたあげく溶岩に落とされ、肉体を改造せねばならなくなった!全てはジェダイが悪い!大体あんなモノ、思春期の青年が守れる訳なかろう!」
     ダース・ベイダーの怒りはとてつもない物だった。だが、少々変なところが。主に後半部分。
    「思春期?」
    「そうだ!貴様もわかるだろう、10代後半なら!あの掟がどれほど無茶苦茶か!」
    「・・・いやあの、その前に・・・掟って、何?」
     一瞬の間。全員が止まっていた。ダース・ベイダーは信じられないというオーバーポーズで硬直し、ヨーダは何故か何もない方向を見て決してこちらを向こうとはしない。最もアールはルークと同じように?顔だったが(シースはいつも止まっている)
     ダース・ベイダーは硬直が解けたと思ったら、ギギギという擬音が似合いそうな硬い動きで、そっぽを向いているヨーダの方へ向く。
    「貴様・・・教えてないのか!」
    「いや、まぁ、うん。オビ=ワンが教えてるかのぅ、と思うてな?決してわざとでは・・・」
    「ウソをつくなー!!言ったら絶対ルークのやる気が無くなるとわかってて言わなかったのであろう!私と同じ轍を踏まないように!この偽善者!だからジェダイは信じられん!」
     ボロクソにジェダイ批判をするダース・ベイダー(なんか大人げない)の暴言を、何故か反論せずに聞くヨーダ。その姿は先生に怒られている幼女そのものだ。
    「あー・・・と、ちょっと良いですか?」
    「何事だ!くだらない用事なら叩きッ斬るぞ!」
     怒られている人をただ見ているだけという間に耐えきれず、アールが口を開く。
    「いえ、あのですね。私たちはオビ=ワンさんからもヨーダさんからも聞いてないのでわからないのですが・・・結局その、問題の掟って何ですか?」
     直球ストライクな質問。アナキンの裏切り、戦争、そして世代を越えて続く戦い。全てが始まり、全ての原因であるもの。
    「よし、教えてやろう。私がジェダイを見限った原因となった掟を!それは―――」

    「『不純異性交遊禁止』だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

     ひゅぅ〜・・・と、一陣の風が吹く。誰もが止まった。今度こそ止まった。みんな止まった。半端じゃなく止まった。時の止まりに耐えきれず、アールがわなわな震えながら口を開いた。
    「・・・そ、そんなことで・・・」
     だがこの返答に対する更なる反論がダース・ベイダーから飛び出す。
    「そんな事とはなんだそんなこととはー!!異性交遊こそ人類の本懐だろう!目的だろう!生きる意味だろう!!それをジェダイの騎士は疎かにするんだぞ!?そりゃ見限るってモンだろ!ただでさえこっちは当時、10代後半の爛れた異性関係を求めたい年頃だったというのに!禁止!?あんまりだ!あまつさえ男だらけの修行場ならば仕方がないが、なんで男女同じ修行場なんだよ!しかも人数に圧倒されて女子校と化してるし!ジェダイのみんな美人多いし!リビドー抑えられるわけ無いだろチクショウ!!」
     ダース・ベイダーの魂の叫び。まるで手からこぼれ落ちたあの時の青春を取り戻すように、叫ぶ。もしかしたらマスクの下で泣いているのかも知れない。
     そしてその熱き思いに共鳴する様に、一人の馬鹿が覚醒した。
    「あー、わかる!わかるぞ!!青春真っ盛り、考える事と言えばエロい事と黒い事くらいの時に、不純異性交遊禁止は酷すぎる!」
    「やはりか!やはりわかるか息子よ!」
     まるで初めて同士を得たかのように、生き生きとしているダース・ベイダー。多分こんなの書いてたら生粋のファンに殺されるんだろうなーとか思いながらも、この後もっと酷い事書くので気にしない。
     ダース・ベイダーは如何にジェダイが酷かったか力説する。
    「そんな掟、ホントにあるんですか?」
     涙を流しながら熱く語り合う二人をよそに、アールが小声でヨーダに聞く。
    「う、うむ。恋愛感情があっては上達の妨げになるという、古くからの伝わりでな」
     何故かボソボソと喋るヨーダ。後ろめたい事があるのだろうか。
    「もしかしてこの掟作ったのヨ」
    「じゃがな!アナキンの謀反を機に、色々と掟も変更になったんじゃよ?」
     パッと顔を上げる幼女。じゃなくてヨーダ。
    「今は『全面的禁止』ではなく、『手を繋ぐまではOK』に改訂されたから」
    「余計酷い!!」
     親子の声が揃う。「手を繋いだ後に来る熱い劣情はどうしたらイイんだ!」とか「そこまでやって次のステップは永遠にお預けかよ!」とか叫んでいる。高身長の二人から怒られているヨーダはみるみるジェダイマスターの威厳が無くなっていく。「あうう・・・」とか言って俯いてるし。

     一頻りヨーダを罵ったあと、怒鳴り疲れた二人は肩で息をしていた。ヨーダはもう、たばこの箱よりも小さくなってプルプル震えている。涙目で正座ですよ。
    「ふぅ・・・さて、ルークよ。ジェダイの非道さはこれでわかっただろう。私が反乱したわけも。」
     落ち着きを取り戻したダース・ベイダーがルークに向かい語り出す。
    「うん、あらかた」
    「そうか、ならば良い。・・・ルーク、帝国に、私の元に来い!」
    「な!!??」
     ルーク以外全員の驚愕の声。ルークは何となくわかっていたのか動じていない。
    「提督として、父として、お前を正しい方向へ導いてやろう、ルーク!!私の手を取れ!そしてパパと呼べ“」
     スッと手を差し伸べるダース・ベイダー。どさくさ紛れに図々しい事言ってるが、マスク越しだがその電子音声は自身に満ちあふれている。そして対照的に落ち着き無いのは他のメンツ。
    「やばい、ヤバイですよ!」
    「うむむ、予想はしておったがこのタイミングで来るとは!」
     ルークがダース・ベイダーの息子ならば思考も似てくる。まぁそれ以前に引きこもりのニートで、女の子大好きってのもあるのだが。
     女性陣大パニック。だってどう考えてもルークに断る理由がないんだもの。
    「いや、やっぱいいや」
     だがルークの回答は意外な物だった。
    「・・・・・・・・・・・・・・え?」
     ほぼ全員の頭に?が浮かぶ。
    「ななな何でですか!?何で断るんですか!?全く断る理由無いじゃないですか!ハッ!もしかしてルークさんそっちの趣味!?」
    「うむ、流石わしの見込んだ弟子じゃ!才能無いけど」
     味方がパニクッてる。でも一番バグってハニッてるのはファザー、ダース・ベイダーだ。
    「な、何故だ!何故誘いを断る!だって不純異性交遊禁止だぞ?手しか握っちゃダメなんだぞ?」
     しかしその問いに、ルークはきっぱり答えた。
    「いやー。変な決まりがあるなら俺が変えればイイし」
     キパッ
    「それに・・・先生を殺したお前とは、手を組みたくなんてねぇんだよ」
     ザクッ
     いずれもダース・ベイダーの心に突き刺さった音。『パパ』と呼ばれたかったのに『お前』呼ばわり。さっきまで名前で呼ばれてたのに、3ランクダウンです。
    「ふふ・・・ルークよ、貴様は骨の髄までジェダイに染まってしまったか・・・ならば、私も父を捨てよう。ダース・ベイダーとして、貴様をうち倒してくれる!!」
    「うわー、アナキンさん、マヂ泣きしてますよ。しかも血涙」
    「うむ、声も震えておるのぅ。よっぽどショックだったのか」
    「ううううるさい!剣を取れ!」
     激昂するダース・ベイダー。だが状況的には・・・。
    「この状況で勝負を挑むとはのぅ。たわけめ、勝てると思うたか?」
     戦力的にはダース・ベイダー1対ヨーダ・アール・シースの3である。いくらダース・ベイダーが実力者と言っても圧倒的に不利なはずだが・・・。
    「1対3、まさか卑怯とは言うまい?」
    「ならば、2対1ならどうかな?」
     声は、天空高きデス・スターより聞こえた。


    ●悪
     天空より降りてくる漆黒の影。緩やかに降りてきたその影は柔らかく大地に着地すると不動となった。
     黒いマントを羽織るその姿は闇に隠れており、正確な体格を測らせない。ダース・ベイダーと似たような格好だが、一つ違うのはマスクを被っていない事だった。むき出しのその顔は神経質そうな雰囲気を纏っており、尚かつそのメガネが、戦士と言うよりは科学者という気配を漂わせていた。
    「ダース・シディアス!降りてきたのか」
    「ダース・シディアスじゃと!?」
    「確か・・・アナキンさんをダース・ベイダーに改造した張本人・・・!」
     そう、アナキン・スカイウォーカーを誑かし、暗黒面へ落とした張本人。そして帝国軍の最重要人物。その本人が、今目の前にいる。
    「親玉自ら登場か・・・なるほど、こりゃ一筋縄ではイカンな」
    「まさか、わたしの登場に卑怯とは言うまい?」
    「ハンッ!そんなこと儂が言うわけなかろう?むしろ・・・チャンスじゃよ!!」
     台詞途中の不意打ち。タイミングは完璧。ダース・シディアスは絶対に避けられない!その胴体に緑爪が抉らんとする!!

     だが、爪痕は付かなかった。

     ダース・シディアスの羽織るマントに弾かれる様に、緑爪は曲がっていた。
    「ば・・・莫迦な・・・」
    「くふ、くひゅふふふふふふふふふふ!!!ふはははははは!!見たか、これぞ帝国の!わたしの開発した防服アンチ・ライトセーバーだ!如何に出力が膨大でも、ライトセーバー自体を曲げるマントは貫けまい!少々重いのが難点だがな!ぐへははははははははははぁぁ!!!」
     ヨーダの嘆きをダース・シディアスの不気味な笑い声がかき消す。
    「そんな・・・莫迦な事があるかぁぁぁぁ!!」
     怒りに満ちあふれたヨーダの連撃。まさしく怒濤という言葉が似合う攻撃を、ヨーダは最大限の力でダース・シディアスにぶつけてゆく。
     だがその攻撃は全て、ダース・シディアスに当たる前に屈折する。
    「ふはははは!無駄無駄無駄無駄無駄ムダァ!!わたしの科学力の前には全て無駄なんだよぉ!!」
     高笑いを上げるダース・シディアス。それに対しヨーダは、攻撃が屈折しようとどうしようと、攻撃の手を休めなかった!
    「くへへひょほへへへ!!・・・む」
     何十と何百となる攻め手の中、屈折した緑爪の、僅かな端が、僅かばかりにダース・シディアスのマントを裂く。
    「ふむぅ、計算違いだな。この様な事もあるか。やはり実戦に出てみないとわからない事があるか。勉強になる」
     顎を掴み、したり顔になるダース・シディアス。例え攻撃を受けたとしても、その全ての反応を楽しんでいるようだ。
    「ふは・・・はぁ・・・少々、厄介じゃのぅ、その、マント。息が上がってしもうたが・・・ガムシャラにやれば斬れない事も無し、か」
    「まぁ実験段階のマントだしなぁ。だが、僅かな綻びが出来たのも事実。次からは、わたしも攻撃させてもらうよ?」
     言うと同時に、ダース・シディアスの両手には赤色の刃を彩るライトセーバーが握られていた。二対一刀の剣乱舞がヨーダを襲う。
    「二刀使いか!しかしその程度!」
     ジェダイの歴史ともいえるヨーダは、過去に二刀使いとの対戦経験はあった。多彩な動きに惑わされたが、剣を使う以上基本の剣術は同じ。苦戦するものではない。
     一刀目を捌くと同時に二刀目を柄で流す。返す刀斬りつければ―――
    「ふむ、二刀では心もとないか。ならば、四刀ではどうかね?」
     ありえない角度からの斬激。ヨーダの、後ろから。
    「ぐうぁ!!」
     右肩を掠めた。それでも十分反応した方だろう。正面からの二刀以外に、新たに増えた二刀は背面という、完全視覚外からの攻撃だったのだから。
    「六刀なら?八刀なら?十刀ならどうかねぇぇぇぇ!?」
    「からくりによる―――多刃か!」
     言う毎に増えていく剣数。その数、十刀。上下左右前後如何なる方向からも繰り出される、空間剣戟。
    「その通り!我が科学力と情報処理能力が合さればこの程度の処理、造作も無いこと!!さて、ジェダイマスター・ヨーダよ。神秘たるジェダイに、人の科学力がどれほど追いついたか・・・試させてもらうぞぉぉ!!」
     ダース・シディアスの顔は、歓喜と狂気に歪んでいた。


    (相性が悪すぎる…!)
    「助太刀に行きますよ!!」
     不利な状況を見かねてアールが飛び出す。だが。
    「貴様等の相手は私が受け持とう」
     ダース・ベイダー。帝国の魔人。闇の使者がアールとシースの前に立ちふさがった。
    「通して・・・はくれませんよね」
    「無論だ・・・通りたければ・・・押し通れ!我が娘たちよ!」
    「勿・論!!」
     アールの影より飛び出したシースが、巨大な刃と化したその腕をダース・ベイダーに振るった。

     ついに、銀河の存亡を決める二つの最後の戦いが開始された。


     一方一名、置いてかれている人物一人。言わずと知れた我等が主人公、ルーク・スカイウォーカー。
    「すっげーー」
     彼の入り込める余地は一片たりとも、何処にも、残されていなかった。
     一撃でも必殺の威力があるライトセーバーの攻撃を、十刀使いなどという常識外の攻撃を巧みに捌く師匠・ヨーダ。
     暴虐なる赤い牙の奔流を、二身一体となり防ぐアールとシースのドロイド姉妹。
     ヨーダは大丈夫そうだ。だが今心配なのはアールとシースの方。今は辛うじて最善しているが、どうにも状況は不利だ。反撃の手を考えるどころか、このまま押し切られてしまいかねない。
     どうするべきか、自分が出来る手は何か無いのか。例えば―――盾になる、とか。

     その時、ありえない事が起きた。
    「まさか・・・そんな手を・・・」
    「げひゃひゃひゃひゃ!!わたしがただの科学者と思ったら大間違いですよ!ぐへへへへぇ!」
     ダース・シディアスの連撃が、ヨーダを打ち破ったのだった。
    「師匠ぉぉー!!」
    「・・・大丈夫じゃ・・・かすった・・・だけ・・・」
    「くぐふ、ジェダイマスターといえども隙を突けばこんなものよぉ」
     隙。それをつくのにどれだけ苦労することか。しかしこの男はいとも簡単に言い切った。一体どのような方法だったのか、それは受けたヨーダしかわからない。だが結果として、ヨーダは十刀に斬りつけられた。
    「しかし、ジェダイマスターとはしぶといですねぇ。こんなに斬られたのにまだ生きてるなんて。ならば・・・溶岩にでも落としてしまいますか」
     ダース・シディアスが懐から出した黒い玉。それが地面に落ちると、急激な土壌隆起が起きた。それに伴う灼熱。
    「火・・・口?」
    「そう、簡易型の火口です。地表成分にもよりますが、わたしの力を持ってすればこの程度楽勝ですのでねぇ。流石のジェダイマスターといえども、ここに落とされては存命しますまいぃ?」
     危機。しかしこの危機はヨーダだけのものではなかった。
     シース。先のヨーダが気を取られたモノを偶然見ていたのか大地が隆起する中、彼女も固まっていた。ダース・ベイダーの一撃が、迫っていると言うのに。
     剣戟に気づく。だが、今からシールドを張っても間に合わない。回避も、不可能だ。
     そして、見えてしまった。そのシースを守るために、アールが赤いライトセーバーの前に飛び出そうとしているのを。身を、挺して、守ろうと―――
    「うわぁぁぁぁぁ!!!」
     気がつくとルークは走っていた。自分でもビックリするくらいの雄叫びを上げて、シースに迫る赤い牙へ目指して。
     猛る肉体とは別にルークの心は冷静だった。自分の雄叫びで周囲の音は聞こえない。そのせいか、景色も止まっているように見えた。色も、無い。

     その時俺は「うわぁ、俺なんかスゲェ速度で走ってるなぁ」なんて場違いな思いがよぎる。駆け寄るその速度は確かに、今まで出した事も無いような速度でだった。このまま走ればアールやシースに剣が当たる前に割り込む事が出来るだろう。
     多分、自分の力ではダース・ベイダーにタックルをかましたり、二人だけを掴んで回避したりは出来ない。せいぜい、楯になるのが関の山だ。悲しいけど。
     二人の間に割り込む、神速ともいえる速度。タイミングはバッチリだ。もうすぐ、赤い牙が俺に当たる。
     時間がゆっくりに感じるせいか、全てがはっきりと見える。目の前で赤いライトセーバーを振るっているダース・ベイダーのビックリしてる顔も、マスク越しに薄ら見えたような。なんだこの人、父親とか言ってたけど、マスク越しに見る限りじゃ俺と似てねぇなー、なんて暢気な事を考えていた。

     捨て身―――教わって無いけれども、結局最期は先生と同じ事をするんだなぁ。死んだら先生は、褒めてくれるだろうか?いや、きっといつもの調子で怒るだろうなぁ。

    「捨て身なんて、教えて無いでしょ」

     そうそう、こんな声で―――って、え?
     突如現れた青の煌めきが、ダース・ベイダーを斬り裂いた。
    「ば、馬鹿な!青いライトセーバーだと!? まさか、まさか!貴様はあの時、確かに死んだはずだ!」
     一撃を受け後退するダース・ベイダーが剣戟の方向を見る。其処には、パンツスーツでバシッと決めた、カッコイイ女性という言葉が似合いそうな人が、立っていた。
    「知ってる?正義の味方って、決して死なないのよ」
     オビ=ワン・ケノービが、立っていた。


    「せ、先生〜〜〜〜!!!」
     だばーっと涙やら鼻水やらを噴出しながらルークが駆け寄るも、後ろから超特急で飛んできたアールに跳ね飛ばされた。
    「無事、無事だったんですね!」
    「うむ、私も重症の身で宇宙に棄てられたら流石に生きていれなかったのだが・・・偶然にも、私の近くを旅行バッグが漂流しててね。その中にあった簡易宇宙服で何とか他の惑星に辿り着ける事が出来たのさ」
    「旅行、バッグですか」
    「そう、旅行バッグ。ありがとね、アール、シース」
     ああ、そういえば。あのとき最初に降りようとしたのは自分で、ハン・ソロさんに言って私とシースちゃんのバッグを下ろして貰って―――
    「どう、いたしまして」
     アールの目から、自然と涙が零れ落ちた。

    「う〜む、あのドロイドは涙腺機能もついているのか。欲しいなぁ」
     ヨーダの襟首を掴みながら、ダース・シディアスが唸る。
    「オビ=ワンの存命はわたしの予想外でした。彼女がそちらの戦力になるといささか不利となりましょう。ですので貴女には、今のうちリタイアしてもらいます」
     そのまま、先ほど作った簡易火口へヨーダを落とそうとする。
    「一つ、気づいた事があるのじゃ」
    「ほぅ、なんです?」
    「先ほどの剣戟にて、おぬしはわしの攻撃を全部防いでいた。十刀全部使って受け流しながら、な」
    「ふむ、それがなにか?」
    「そう、十刀全部というのがポイントじゃ。これはむしろ・・・“十刀使わなければ儂の攻撃を受け流せない”と言う事ではないかとな。つまりは・・・十刀の中の、たった一刀に儂の全力を、それこそデス・スターの主砲を撥ね返したときの攻撃をかましたらどうなるか、と思って・・・のぅ!!」
     言葉を言い切らない内にヨーダのライトセーバーに再び緑の光が灯る。緑色の光は弧を描きながら、正しく魔女の爪という形状で、最も近い赤き刃を攻撃した。
    「ぐぬぅううぅぅぅうう!!」
     受け流す事も出来ず真正面からぶつかり合う赤と緑の刃。しかしそれは二秒と持たず、赤き刃の崩壊で終わる。
    「ちぃっ・・・大した観察眼ですね。見破られないようにしていたつもりですが」
    「これでも数百年も生きておるのでなぁ。見ることには慣れておるんじゃよ! さて、コレで九刀か。次は、どの刀を行くかのぅ?」
     反撃の時間が開始した。


    「さて、向こうも反撃開始したようだ。どうする、ダース・ベイダー」
     オビ=ワンの冷たい警告が響く。流れはオビ=ワンたちの方に流れている。戦力も上回りだした。
    「戦力が足りないならば、増やせばよい。ルーク!」
     ダース・ベイダーがルーク(一応主人公)を呼び止める。
    「貴様は言っていたな。「オビ=ワンを殺した奴とは手を組めない」とな。だがこうしてオビ=ワンは生きていた!ならば我が元に来ない道理もなかろう。もう一度言う。帝国に、私の元に来い!」
     最後の勧誘。父親として、そして帝国総司令としての最後言葉。それに対し、ルークはキッパリ言い切った。
    「断る」
     ダース・ベイダーは少し俯き、残念そうに「そうか」と呟いた。
    「理由は大体言ったけど・・・それ以外にもあるんだよね」
    「それ以外?」
    「うん。さっき接近したときさ、アンタの顔がマスク越しに薄ら感じたんだけど・・・俺と似てない気がしたんだよね。アンタ本当に、俺の父親?」
     なんかもー空気を破壊する純粋な質問。我が子に疑問系で聞かれたダース・ベイダーがこれに切れた。
    「父親に決まっておるだろー!なんかこう、フォースの結びつきとか感じるだろ近くにいると!というかフォースが似てる!流れとか、色とか、品質とか!もう親子、絶対!」
     妙に怒鳴るダース・ベイダー。我が子の否定がそんなに悲しかったか。
    「いや、俺まだフォースとかイマイチわかんねぇし。顔とか見ないと血が繋がってるか今一つなんだよね」
    「よーし、わかった!そんなに言うなら顔を見せてやる!お前の顔は私の若い頃そっくりだから、年月が経った今でも似て―――」
     と、まくし立てていたダース・ベイダーだが、急に言葉を止めた。
    「・・・まぁ、顔など見なくとも親子だとわかるさ!な!」
    「素顔がn」
    「小遣いやろうか小遣い!パパらしく」
     ・・・・・・・・・怪しい。素顔の話題になると急に慌てだしたダース・ベイダー。一体何があるのか。ヨーダとダース・シディアスも戦闘を中断し、何事かとこっちを見ている。
    「素g」
    「私の若い頃はなーそりゃもーかっこよかったんだぞー!だからお前も渋くなるさー!」
     ・・・・・・・・・めっさ怪しい。
     どうしようもない怪しさに、ルークはオビ=ワンの方を見る。すると先生、なにやらニンマリと笑っています。具体的に言うとイジメッ子の笑い。
    「ふむふむそーか、ダース・ベイダー。素顔の話はしたくないかー」
    「うむ、素顔なんてどうだって良いじゃないか。かのサッカー小僧も言ってるだろう?ボールh」
    「ところで師匠。なんか綱引きやりたくないですか?」
     自分で話しかけておきながら強引にぶった切る。呼びかけられたヨーダは「綱引き?」と不思議そうな顔をしていたが、すぐに閃いたのかニンマリと笑っています。具体的に言うとイジメッ子の笑い。
    「う〜む、そうじゃのぅ。久々に綱引きがやりたいのぅ。じゃが、綱がの〜」
    「そうですねー。あ、こんな所にダース・ベイダーが!」
    「え?」
    「おお、全くの奇遇なことにアナキン・スカイウォーカーが、兜被ってマント着てダース・ベイダーやっておるぞ!これを綱の代わりにしてはどうじゃろう?」
    「ええ?」
    「さっすが師匠!冴えてます!そうしちゃいましょう、そうしましょう!」
    「えええ?」
     ポキ、ポキとオビ=ワンが指を鳴らす。ヨーダがスススと近づいてくる。混乱の中のダース・ベイダーに二人は手を伸ばした。
    「では―――」
    「―――いざ」
    「えええええ!?」
     大綱引き大会の開始でした。

    「ギャー!!痛い痛い!ちーぎーれーるーー!」
    「はっはっは、だったらさっさと兜を取っちゃった方が楽よー?引っ張る力はドンドン強くなるんだから」
    「懐かしいのぅ、昔もこうやってアナキンを引っ張っていたのぅ!」
     昔からやってたんか。
     兜と足、両方をしっかり持たれギリギリと更に引っ張られるダース・ベイダー。色んな意味で大ピンチである。
     で、そのピンチに仲間のはずのダース・シディアスは何をしていたかというと・・・座り込んでニヤニヤしている。まるで、兜を取られるのを楽しみにしているように。
    「よーし、そろそろ力マックスでー!!」
    「タイム!マヂ取れる!取れちゃう!首の方が!危険だー!」
     ギョギッとオビ=ワンが力を込めた所で、スポンっとマヌケな音を立てて兜が外れた。オビ=ワンは勢い余って後ろに吹っ飛んでしまった。
    「おわあぁぁぁ!!」
     引っ張っていた二人か、それとも引っ張られていた一人かわからないが、変な声が上がる。引っ張っていた二人が吹っ飛んだ後、素顔のアナキンが倒れていた。「いたた・・・」と顔を上げたアナキンの姿は、金色の髪をポニーテイルにし、くりくりとした瞳が可愛らしい―――
    「―――女の子?」
     そう、女の子だった。

    「はっ!兜!」
     と、南央美っぽい声で、慌てて自分の顔を触る金髪ポニーテイルの女の子。鎧がダース・ベイダーの着ていた黒甲冑であることから、落ちモノ系によくある『突然その場に現れた』とかでは無いだろう。どうやら兜飾りの金色の毛飾りは、そのポニーテイルを出していたようだ。
     兜が脱げた事を理解したダース・ベイダーは、はわわ、と兜を拾いに行く。だがその方向にはビックリした顔のオビ=ワンが。
    「貴方・・・その顔・・・」
     口をパクパクさせながらオビ=ワンが問う。ちなみに師匠のヨーダも同じビックリ顔だ。そりゃそうだろう。昔は野性味のある美形で通っていた愛弟子(男)が、久しぶりに会ってみたら金髪ポニテ・くりくりとした瞳が愛らしい南央美ボイスに早代わりしていたのだから。
     ダース・ベイダーは答え辛そうに赤面しながら顔を俯かせ、ボソッと喋った。
    「えっと、あの・・・ダース・シディアスに・・・」

    「そう、わたしが改造したのだ!!」
     突如、不死鳥の如く復活というか、騒がしくなる男一人。ごぞんじ変態科学者面のダース・シディアス。なんか生き生きしている。
    「どーゆーことよ!なんで久々に見たアナキンの顔が女の子顔なのよ!しかも可愛いし!髪の毛サラサラだし!若くなってるし!なにあれ!」
     ダース・シディアスに詰め寄るオビ=ワン。ダース・シディアスは至極平然と話し出した。
    「そうまくし立てられてもわたしの口は一つしかないのでね。ふむ、では一つずつ親切丁寧に教えてやろう。感謝するがよいぞ、むふふふふふ」
     と変な笑い。こっから真面目な話なんて一切出てこないんで心してください。
    「まずわたしは世の女子に絶望した!!」
     いきなりブッちゃけたダース・シディアス。確か帝国で一番偉い人。
    「振られたかなんかの仕返しか」
    「ええい、そーゆうのではない!すぐそうやって男女の関係に結びつける!貴様もそうだが世の女子は、男心と言うものを分かっていない!こっちが期待しているのは、そーゆー、エロイのじゃないんだよ!性欲的じゃなくて、もっとこう、精神を満たしてくれる反応なのだ!」
     オビ=ワンには難しすぎてわからない。つーか何となく、理解したくない。
    「それとアナキンを改造するのと、どう関係あるのよ」
    「順を追って説明しよう」
     スチャッと、メガネをあげるダース・シディアス。
    「わたしには研究していることがあってね。それを追求するために“魂響論”理論が重要になってくる。この理論はまぁ、簡単に言うと『肉体と精神には見えない繋がりがある』と言うことなのだ」
     何処からかホワイトボードを出して図に書いて説明するダース・シディアス。
    「つまり精神が弱くなると肉体が健康でも影響が出てくる、と言う様な事だな。つまり、コレが何を意味するかと言うと・・・『男心をわかっている者を女の子に改造してしまえば、理想の女の子が完成する』と言うことなのだよ!!」
     バンッ!と力強く机(どっからか出てきた)を叩く。妙にエキサイトしている様子。目がヤベェ。
    「・・・それで何故アナキンに」
    「アレは寒い冬のときだった。わたしがこの理論を何とか生かせないか、居酒屋で飲んだくれてたとき、ジェダイの『不順異性交遊禁止』の掟を聞き、絶望したアナキンに会ったのは。わたしたちはその場で愚痴をはきあい、己の嗜好を語り合い、意気投合した。そのとき閃いたのだよ。コイツなら完璧だ、とな!」
    「・・・えーと、それはつまり、アンタの好みの反応を理解していたから、アナキンを女顔に改造したってこと?」
    「そのとおりだ、オビ=ワン!だが一つ訂正する事がある。アナキン・スカイウォーカーは女顔に、ではなく女の子に、なったのだよ!顔も、身体も、全て!」
     言うやいなや、アナキンの黒甲冑からピーピー音が聞こえる。
    「あわわ!か、兜を早く返してくれ!」
     とかいうもオビ=ワンは今ひとつ思考力が低下していて、反応できない。そのうち音が大きくなってアナキンの黒甲冑が・・・爆ぜた。
    「うわわわわ!!」
     黒兜を長時間外していると自動的に爆ぜる仕掛けになっているのか、黒甲冑は次々と外れていった。甲冑の下からはダース・シディアスの言ったとおり、ほっそりとしているが出る所が慎ましやかに出ている、女の子の体型が。
    「見たかね!わたしの改造技術を!アナキン・スカイウォーカーは身も心も!男たちの理想とも言うべき女の子に生まれ変わったのだぁ!! 唯一の大変だった点は、いつどのタイミングで彼を改造しようと思っていたが、オビ=ワンとの決闘で半死半生なのを保護してな!実に良い全身改造の言い訳となったわ!」
    「え!?じゃあ間違えて女の子にしたっての、ウソだったの!?」
    「ウソに決まっておろう。いくらなんでも男と女の手術を間違えん。というか今まで信じていたのか・・・」
     大地に手を着き、見るからに落ち込んでいるポーズのダース・ベイダーことアナキン性別女・肉体年齢15歳くらい。まさに人生のどん底であった。
     そんな空気を吹き飛ばすためでは無いが、オビ=ワンが新たに質問する。
    「えーと、アナキンは女の子に改造された挙句、つまりは・・・その。アンタに色々されちゃった、訳だ」
    「バカな事を言うな!!」
     再びダース・シディアスが怒る。
    「わたしは女性を『見て愛でるもの』だと思っている!自ら手をつけるなんてしてたまるか!今までジェダイの騎士たちもみんなそうしてきたわ!!全く、そんな不純な事を考えるなんて!これだから生まれつきの女はいやらしい!」
     良くわからない事で怒られた。ふつーに「はぁ、すんません」と謝ってるあたり、なんかもう、オビ=ワンは精神的にかなり疲れているようだ。
    「それで、アナキンを改造して、貴方の望みどおりになったの?」
    「気になるかね?ふふふ・・・では見せてやろう!私の研究成果を!!」
     ダース・シディアスが猛ると同時に、彼から急激な光を感じる。そして頑強たる鎧であったコートの前が開いていく。一同「罠だったか!」と疑ったが、すぐに光は収まった。収まった後には・・・

     全裸にコートだけを羽織ったといういでたちの、ダース・シディアスがいた。


    ●終結
     突如現れた変態全裸に、女性陣の反応は様々だった。
     キャーキャー言いつつも見ているアール。とことん疲れた表情をして、今にも倒れそうな感じのオビ=ワンなど。やがてダース・シディアスが口を開く。
    「・・・見たかね?」
    「ええ、不本意だけど見せられた。で、なに。アンタのソレの感想を述べれば良いの?」
    「違う!見るのはわたしの息子ではない!アナキンの反応だ!」
     オビ=ワンは疲れた表情のまま、近くに女の子座りしているアナキンを見た。顔を手で隠して・・・いや、何か違う。手で目を隠しているけども―――指が開いていた。
    「ふはははは!見たかね彼女の反応を!『急に変なモノ見せられちゃった!恥ずかしい!見ちゃだめ!・・・でも、ちょっと興味ある・・・かも』という、反応を!これぞ!これぞわたしの求める女の子よ!!」
     オビ=ワンは今度こそ倒れた。疲労で。もう、全ての情報を遮断したい。このアホのいる空間から遠い所に旅立ちたい。しかしアホの演説というか独演会は、まだ続いていた。
    「『見ちゃいけないけど、見てみたい』この矛盾する反応こそ乙女に相応しき態度よ!それよ幼女マスター・ヨーダよ。貴様の反応もなかなか良かったぞ。“顔を真っ赤に染めて全く違う方向を向く”とは!よし、お前は生まれながらの女だが、特別に連れてってやろう!」
     とかなんとか。真っ赤になっているヨーダは反論しようとしてダース・シディアスの方を向こうとするが、ぷらーんとなっている逸物が視界に入るため、慌てて90度方向転換する。そして真っ赤になっている。
     シースはというと、まるでシステムフリーズしたかのようにそのまま固まっている。恐らくこの二人が先の戦闘中固まったのも、これが原因だったのだろう。

     もう、疲れた。ああ、もう疲れたなぁ。

    「さて、それでは戦闘を続けようか。わたしは依然もろダシのままだが、まさか卑怯とは言うまい?」
     オビ=ワンはゆっくりと立ち上がる
    「マントを閉じた状態だと防御力はあるが、如何せん風通しが悪くてなぁ。蒸れる。ん?何処が蒸れるか知りたいかね?知りたいかねぇ?」
     ツカツカとダース・シディアスに近寄り
    「それに先ほど、アームを一本破損されてしまったからな!新しく開放したわたしの剣を追加で、相変わらずの十刀使いだ!うむ、巧い!」
    「巧く・・・なーーーーーーい!!!」
     強烈な、蹴り。具体的に言うと

     金 的 !

     それはそれは、お見事だった。ボーっと見ていたルークも思わず前屈みになって苦しむほど。
     で、実際に喰らった人はというと、板垣マンガっぽく、前屈みになりヨロヨロと動く。そこに
    「落ちろ!!」
     と、ドロップキックをかます少女、アナキン。
    「のわあぁぁぁぁーーー!!」
     見事炸裂。ダース・シディアスはそのまま近くにあった簡易型火口に落ちていった。
    「ぬがー!ここまできて、研究半ばで死んでたまるかぁ!!」
     と思ったらしぶとく火口の淵に掴まっている。
    「落ちろ落ちろ落ちてしまえ。世界の為にぃ!私のために!」
     泣きながら火口付近のデッドダンス。激しいビートで手を踏み踏み。
    「やーめーろー!マジで落ちてしまう!助けて貰った恩を忘れたか!」
    「勝手に改造された怨みの方が強い!」
    「ギャー!待った待った!ちゃんと男に戻すから!」
    「・・・ホント?」
    「いや、無理だわ」
     ドンドンドスドスダッタカダッタカ!!
    「ギャー!勘弁!ちょっと待て落ち着け!落ちるって!ホントホント!今だって辛うじてなんだから!ちょっとまてー落ち着け!そこの!そこの暇そうなお前!助けろ!」
     言った先には主人公ルーク。遂にはギャグパートでも出番がなくなってきました。
    「お前も男なら!わたしの考えに賛同できるだろう?どうだ!わたしと共に来ないか?くれば必ず、天国が待っているだろう!だから助けて!お願い!」
     ルークに懇願するも、その辛うじて淵を掴んでいる手を、斬られた。
     絶望的表情を浮かべたまま、全ての元凶、ダース・シディアスは火口へと落下して行った。

    「父さんを・・・改造した奴なんて信じられるかよ」
     火口を睨みながら、ルークは咆哮した。
    「ルーク・・・」
     ダース・ベイダー・・・いや、アナキン・スカイウォーカーがルークを見つめる。
    「父さんと、呼んでくれるのかい?あんなに酷い事をしたのに。父親らしいことなど何一つしてないのに・・・」
     アナキンが悔いる様な目で見ている。
    「ダース・シディアスと決別した時点で・・・貴方は父さんだよ。俺の誇り高い、最高の父さんさ」
     ルークの温かい笑み。その優しすぎる顔に、アナキンの涙腺が緩む。
    「・・・ルーク!」
     ルークに飛びつき、ギュッと抱きつくアナキン。親子の抱擁・・・だが、身長のせいでアナキンがルークの胸に顔を埋める形になっている。
    「これからは親子水入らずで暮らそう!ずっと、ずっと・・・」
     瞳を潤ませながらルークを見上げる金髪ポニテ華奢少女。そう、少女。
    「ず、ずっと!?・・・・・(ポッ)」
     だから、例え中身が生まれてから一度も会っていない父親とわかっていても、ルークの顔が赤くなるのは仕方が無い事と言えよう。潤んだ瞳や艶やかな唇が愛しすぎて、といっても仕方ない事と言えよう。多分。
    「る、ルーク?」
    「いや、ゴメン。なんでもない」
    「あ・・・こっちこそ、いきなり抱きついてゴメン」
    「いや別に抱き付かれた事は嫌でも何でもなく逆に嬉し・・・って俺はなに言ってるんだ!」
     もじもじ、もじもじもじもじもじもじ・・・・・・。

    「なにこの展開」
    「禁断を超えた禁断の展開ですよね」
    「その禁断性がヤバイ抑圧性を刺激してるのでは?」
    「じゃが一応、性別的には正しいようじゃが?」
    「アナキンも本当に性格女の子寄りになってるんだ・・・」
     女三人秘密談義。
    「そ、そこ!変な想像すんなよ!俺が外見や性格が女の子とはいえ、父親にときめくわけないだろ!なぁ、アナキン!」
    「そ、そうだ!私の外見や心が女の子寄りになってしまっても、息子にときめくわけないだろ!全くもう!」
    「怒り方が典型的な『幼馴染カップル』みたいでしたね」
    「詳しいわねアール」
    「つーか今、名前で呼んでおったぞ?」

     なんて談義していますが、突如として聞こえてくる地鳴り音。そして先ほどの火口から、火山岩やらなにやらが飛んでくる。
    「な、何事じゃ!?」
    「まさか・・・変なものが火口に入ったから火山が活性化しちゃったの!?」
    「まずいな、この振動。もしかしたら惑星爆発レベルかも・・・ちっ、宇宙船が」
    「アヤツ其処まで不純物じゃったのか。まぁ納得じゃが」
     宇宙船が無い。オビ=ワンがここまでやってきたのは一人用のものだ。いくら詰めても六人は乗れない。どうしようもない状況。地脈の隆起が活発になるが、打つ手は無かった。
     と、その時、遠い空から向かってくる一隻の宇宙船発見。そのピッツァみたいな形状は間違いなく。
    「あれって・・・」
    「ミレニアムファルコンだ!」
     そう、ミレニアムファルコンが飛来してきた。着地とも墜落とも判別着かない着地で皆の近くに落ちる。乗り込み口が開きそこから顔を出すのは、露出度の高い衣装で豪快な性格な―――

    「よう、お前ぇら。海賊船だが乗ってくかい?」
     姉御肌の女性だった。
    「ハン・ソロ・・・」
    「よう、オビ=ワン。やっぱり生きてたな。迎えに来たぜ?」
    「遅いわね。相変わらず、時間にルーズだこと」
    「うっさい、銀河の時間に比べれば些細なことだ」
    「それもそうね」
     とオビ=ワンが乗り込もうとした時、ハン・ソロが呼び止めた。
    「帰ってきたんだろ?だったら、挨拶が先だ」
    「・・・・・・ただいま」
    「・・・おかえり」
     帰ってきた。長き戦いに終止符を打ち、皆が皆、帰ってきた。ようやく、自分の場所へと。


    ●エピローグ
     爆発寸前の名も無き惑星から脱出したミレニアムファルコン。一先ず近場の星を目指して漂流中である。
    「うーむ、オレがいない間に随分賑やかになったようだが」
     二人ほど新メンバーが入っているので当然なのだが。
    「取り敢えずあそこでヌルいラブコメみたいな事やってる二人はなんだ」
     ハン・ソロが指差す先にはご存知(影の薄い)主人公ルークとその父(現・女の子)アナキン。なにやら飲み物を取ろうとして手が触れ合っただか何だかで、二人とも動けなくなっている状態。アナキンのポニテが落ち着き無く揺れているのが微笑ましい。
    「あとそこの偉そうな幼女とか」
     着物姿で椅子に正座し、ズズーッとお茶を飲むヨーダを指差す。
    「幼女と言うなよ船長。一回目は見逃してやろう。だが二回目は容赦せんぞ?」
    「ほぉ〜〜、これまた小生意気なガキだ。んじゃオレも言ってやる。オレを呼ぶ時は『お頭』か『姉御』だ。船長とは呼ぶな」
     ギリギリとした睨みあい。さっき会ったばかりなのにもう火花をちらつかせている。根本的な相性の不一致を感じたのだろうか。アールがお茶のお代わりを運んでくる。シースも手伝っている様子。最初の時とは大違いだ。
    「ま、色々あってね。話すと長くなるんだけど・・・」
     紅茶のお代わりを飲みながらオビ=ワンが呟く。
    「ま、時間なら次の星までタップリあるさ。どうせなら全部教えてくれよ。エピソードTとかから」
     椅子の背もたれによしかかりながらそんな事を言う。
    「OK。最初から最後まで、それこそ昔の戦いから続く確執まで、全部話してあげるわ。んじゃ、最初にね・・・」



     これまで語られてきた物語は広大な銀河の一片でしかない。
     ミレニアムファルコンはこれからも銀河を駆けてゆく。行く先々で新たな戦いや冒険があるかもしれない。だが、それが語られるのは今ではない。いつかまた日の目を見たときだけ。
     それまでは幕を閉じよう。
     いつか続きが紡がれる事を、無明の客席で夢見ながら。


    ―――遠い昔、遙か銀河の彼方での物語。



    【END】







    「・・・なにこれ?」
    「スターウォーズ」
    「いや、頭領さん、そーゆーことではなくて・・・えーと、つまり僕が知っているスターウォーズとかけ離れていると言う事なのですが」
    「うむ、その事なのじゃが。次なる五試合目の対戦者、話を合わせてきたのか偶然なのか、プレイングがスターウォーズネタで固めてきてるのじゃよ」
    「はぁ、なるほど」
    「ところが!大変な事にわしはスターウォーズを見た事が無い!」
    「え、マヂで?」
    「うむ。正確にはエピソードTしか見た事がない。つまりわしの中では『スターウォーズ=ジャージャー・何とかのウボァーな大冒険』という方式が成り立っておるのじゃよ」
    「うわ、それまた地獄絵図な」
    「つーわけで二人の書いてきたネタが全くわからなくてな。どうしたモンかと考えてた時に・・・閃いたのじゃ」
    「なんとなく予想はつきますけど、どのような?」
    「スターウォーズがわからなければ・・・自分で作ってしまえばイイ!とな!」
    「うわーい、この人アホだ。かなりのアホだ。つーかその前に映画を見ようとか考えなかったんですか?」
    「食指にかかったら徹底的にハマるが、興味が湧かないモノは調べない。それがクズノハクオリティ」
    「無茶苦茶ですね。でもその考え方だから↑の萌えスターウォーズ出来たんですよね。つーか、なにこの激萌えるハン・ソロ姐さん。僕の背後がバカお姉さん大好き人間と知っての事か?」
    「おバカお姉さんはイイよねぇ」
    「良いねー」
    「まぁそんなこんなで、ネットやウィキとかで用語を色々調べた結果、スターウォーズとはこんな話だった、と言う事で落ち着いたのじゃよ。コレを元に五試合目のリプレイを書くのじゃ」
    「あー、まぁ頭領さんがそれで良いなら僕は構わないのですが。それはともかく、相変わらず自分で自分の首締めるのが好きですね」
    「うむ、わしも気が付いたらこんな事になっていて。一体何処で間違えたのだろう・・・」
    「どんどんハードル高くしちゃってるし。座波 間左衛門みたい」
    「間左衛門でも自分の首締めたりはしないけど」
    「さすがはランドアース一の踏まれ属性キャラよ」

    「ともあれ、コレでようやくスターウォーズネタに付いていく事が出来るようになったのぅ」
    「え、それマヂで言ってる?」
    「無論。つーかクズノハ忍法帖に置いて、今後スターウォーズと言えば、コレよ?コレ以外は認めねぇ&KILL・THE・JAP!」
    「意味無くポン刀振り回すのは止めてください。じゃあ頭領さんの中ではヨーダと言えば幼女、が定番なんですね。緑色のよぼよぼ星人とかは・・・」
    「そんなの見た事も聞いた事もないよ?」
    「言い切りましたね。だが、それがいい」
    「だが、それがいい」

−プレイング−

    ―パダワン・アルル(a13636)のプレイング―

    【因縁イベント】

    クズノハ・ナイトになるために惑星ダゴ・・・ゲフンゲフン、
    ドリアッドの聖域で伝説のクズノハ・マスターである○○○○(ヨ○ダ役を適当にw)修行を受けるアルル。
    しかし修行途中にネタフォースの未来のビジョンがアルルには見えてしまう。
    未来のビジョンは円卓で苦しむ仲間の姿であった・・・・・。
    アルルは修行を中途で投げ出し、○○○○と霊体となって復活したアルヴ○ース(勝手に死んだ事にしてる)の制止を
    振り切って仲間を助けるために円卓へと向かう。
    「必ず戻って修行を最後までやりとげます!」そう言い残して。
    円卓では師であるマスター・アル○ィースを殺した(しつこく勝手に死んだ事にしてる)、
    宿敵であるクズノハの暗黒卿・ダース・ユウキが待ち構えて・・・。

    ユウキ「ネタフォースを備えたようだなアルル、だがまだクズノハ・ナイトではない」

    釘バットを構え、アルルとユウキの初めて戦いが今始まる!


    【試合イベント】

    釘バットでライトセ○バー風のフォームを繰り出しまくる。
    時々ネタフォースと称してエンブレムシャワーやノヴァを放ってみるが、
    基本は釘バットでの打撃攻撃を行う。

    ライ○ン「ぬう・・、あのフォームまさか・・・」
    ギャラリー「知っているのかラ○デン!」



    ―牛股・ユウキ(a15697)のプレイング―

    【因縁】
    昔々、あるところにユウキが二人いました。
    片方のユウキはジェダイ狩りに。もう片方のユウキは兵士を量産していました。

    すると川上からおおきな桃が流れてきたのです。
    「(キュピーン!)この感じは…山梨県特産桃!」
    二人のユウキはすぐに気づきました。
    そしてジェダイ狩りに行っていたユウキが、急いで川に行ったところすでに川はデススターへと改造済みでした。
    (馬鹿な… 速すぎる!)
    しかしその速度はユウキ自身も(以下略

    そんなデススターの上からユウキ(兵士量産型)が顔を出しました。
    「(こーほー)ふはは!残念でしたねユウキ(ジェダイ狩り型)!すでにこの桃は私の手の中にある!すでにいかにすればおいしく食べれるかの研究中だ!」
    ユウキ(ジェダイ狩り型)は旋律しまいした。
    「馬鹿な…!生ものはそのまま直で食べるのが最高と言うのが我らの意見のはず!それにそんなに時間をかけては鮮度が落ちてしまうではないか!ただでさえ川から流れてきたから鮮度が危ういというのに…!」
    しかしユウキ(兵士量産型)は聞きません。

    ♪し〜かたが無いので、お〜てがみか〜いた♪「ジェダイの皆さんあいつコロさね?」♪
    ジェダイ狩りと称して、実は恵まれないジェダイたちを助けていた博愛主義のユウキ(ジェダイ狩り型)の人望は厚くすぐにジェダイの騎士達は集まってきました。
    そして、所詮引きこもりで量産型しか友達がいないユウキ(兵士量産型)はデススターで何とか対抗するも、映画の関係上ジェダイが負けるわけが無いのでいろいろあって負けてしまいました。この部分はエピソード3で語られてる気がしますので見ていない方はそちらを参照して下さい。

    ともかくそんなわけで、ユウキ(引きこもり型)は路頭に迷うことになりました。
    「(こーほー)もう…駄目です…。出世街道から転落し、行く当てもなく、ついにはこの自慢のヘルメットさえ男性特有のアレが元ネタといわれ、もう生きていく気力がありません…死のう…」
    そうユウキ(自殺志願型)が人生と監督を呪っている時でした、目の前に光が見えたのです。

    『ゴシャァァァッ!!』
    「きゃー!目の前を歩く根の暗そうなちょっとチン○っぽい見知らぬ人が真っ赤な液状になって排水溝からながれちゃうよー!」

    ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪

    それがアルルさんとの出会いでした。
    そして私が今までの顛末、そして死のうとしていたことを語るとアルルさんは微笑んで言ってくれたんです。
    「はじめまして♪アルルです。」
    その言葉で、私は生きていていいんだとなぜか思いました。
    特に言葉に意味は無い。
    ちょっと笑顔が可愛かってん……。(萌えキャラには弱い)

    そして、一念発起してハローワークで就職先を探していたら御前試合と言う1試合するだけで50万貰える素晴しい就職先を見つけたのです。
    ユウキはそれに飛びついたとさ。
    めでたしめでたし。


    【戦闘内容】
    恩義のあるアルルさんに攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
    とりあえず適当にベーダー卿っぽくアルルさんを挑発。
    しかし、真の狙いは見物人として参加していやがるユウキ(ジェダイまとめ型)のやろう!!
    うまくアルルさんを誘導して、ユウキ(ジェダイまとめ型)に近づいたらライトセイバーで切りかかる!牙突!
    しかしアルルさんが立ちふさがる!
    馬鹿な!退いてくれ!私は…私は…!!

    その後は大体アルルさんのプレイングに任せます。

    涙のお別れ時、最後にユリシア様の鎖で爆散すると本望
    決闘を汚したとかそんな理由

    【必殺技】
    ●武士沢レシーブ
    ライトセイバー(工事現場で振ってるアレ)を握った手で殴りかかる。
    ●兜外し
    実は私は……女でした。(アルルさん驚愕)


    死んだ後はオミソの人がしてるであろう解説に突っ込みを入れる幽霊希望。

−リプレイ−

     そんなこんなで第五試合開始。
     先の第四試合において今までで最大級の凄惨な試合を見せつけられた観客一同は、一様に体調の悪化を訴えた。最も観客席の大半は暴走したネフェルに巻き込まれて、黄泉路を下る事となったのだが。
     更に試合会場に敷かれている白砂の大半が赤く染まるという悲劇。これにより砂の爪入れ替えなどが行われ、休憩時間の拡大と試合開始の遅延の原因となってしまった。まぁリプレイの公開が遅れたのは別の場所にあるのだが。
    「チアキくん、なに言ってるデスか?」
    「トート殿、地の文読んじゃダメ!!」
     ともあれ第五試合は大幅に遅れ、開始準備が整う頃には日が傾き始めていた。


    ●星大戦わかんねーっつーの!俺はかーちゃんの奴隷じゃないっつーの!
    「チアキくん、なに言ってるデスか?」
     タイトルも読んじゃダメだって!
     そんなやりとりがあったのかはわからないが、東方より誰か出てきたので紹介する。
     東方より出は牛股・ユウキ(a15697)。その姿はダース・ベイダーっぽい。
    「ああ、つまりは金髪ポニテと」
    「いや、頭領さん。まだ兜被ってるバージョンですよ」
     西方より出はパダワン・アルル(a13636)。↑のスターウォーズを作って初めて知ったけど、パダワンて弟子って意味だったんだね。
     向かい合う二人。互いに武器は一撃必殺たる赤く光るライトセーバーっぽいものと、釘バット。
    「赤い刃ということは、ユウキ殿は帝国側か」
    「頭領さん、得た知識をひけらかしたがるのは、弱く見えるぜ?」
    「マヂで?」

     二人は互いに獲物を軽く打ち合わせる。それが試合開始の合図となった。


    ●増えるユウキ
     ジェダイ騎士になるためスゲー修行中のアルル。ジェダイ・マスターである幼女ヨーダの修行を受けている。

    「ちょっと頭領さん、これじゃあアルルがニートじゃないですか」
    「しかしそんな事言われても・・・」

     勤勉に励んでいたアルルだったが、その凄まじきフォースの力ゆえ、未来のビジョンが見えてしまった。
     そう、円卓で苦しむ仲間達の姿が。見えたらしい。なんで?多分、フォースの力。

    「あんた結局スターウォーズの世界観理解して無いんじゃないか!」
    「だってそんな便利なものだなんて何処にも書いてなかったもん!」

     アルルは修行を投げ出し円卓へと向かう。途中ケイツ診療所の釘バットっぽい人が居たような気がするが、御前試合に参加して無い人を出すのもアレなので、「アルウィース(笑)」としておく。アホ毛も一本なのだろう。きっと。
     そのアルウィース(株)が幽霊となって現れた。スゲー!フォースすげー!
     アルウィース(呪)を手持ちの釘バットでバッサバッサ振り払いながら、円卓へと突き進む。
     何故そこまで突き動かされるのか。先ほど見た未来のビジョンに、円卓と共に映っていた人物がいた。師匠であるアルウィース(ハズレ)を倒した、暗黒卿ダース・ユウキが。
     奴は待ち構えている。そう、あの血塗れの円卓で・・・。

     一方その頃ユウキはというと。
     増えていた。わらわらと、わらわらと。
     この時期ユウキは自身を複数に分裂し、協力して長い冬を過ごすのです。でも沢山に分裂したユウキも生き残れるのは僅か1%のみ。とは何処かのテレビ番組の説明。
     今日はその内の2人にスポットを当ててみよう。

    ●ユウキの生態
     タイプAユウキの特徴は、他のユウキと違いジェダイ狩りをする修正を持っている事です。
     ジェダイ・・・銀河の平和を守る美少女集団なのは周知の事実ですが、つまりはユウキと敵対するモノとしてカウントされます。ユウキAは常にジェダイを狙います。何故かは知りません。それが習性だから、としか現在のユウキ研究学会では発表されていないのです。
     タイプBユウキの特徴は、他のユウキと違い兵士を量産する事にあります。
     何故量産するのかは知りません。それが習性だから、としか現在のユウキ研究学会では発表されて無いのです。
     従来の研究ではこの二タイプのユウキは、ジェダイを狩るか兵士を量産するかの行動しか見られませんでした。
     しかし今回、例外が発生したのです。二人が争いだしたのです。
     原因は桃。ユウキの好物なのでしょうか?良くわかりませんが、この戦いの結末はエピソードVで語られているそうです。
     クズノハ公認のスターウォーズには明確にエピソードVとは記載されていませんが、恐らく幼女ヨーダとの修行の辺りだと思われます。
     つまり、「幼女」がキーワードとなりました。

    「な、なんだってー!!」
    「ああ、ラスキュー殿!死んで暇だからって血の分に反応しないでくれYO!」
    「拙者は気にしないでござるなぁ〜ん(この語尾特許出願中)」
    「なら、イイか」
     よくない。


    ●転落人生
     その後、最終的にタイプCユウキ・引き篭もり型が漁夫の利を取った。というか他のユウキがみんな滅んだ。
     ユウキがダース・ベイダーのマスク(金色の兜飾りはなし)を被ってニートを決め込んでいた。それじゃあルークなのだがこの際目をつぶろう。
     そんなユウキが絶望の最中、マッチ売りの少女以上にヤベー妄想にとり憑かれている時、駆け抜けているアルルとぶつかった。
     はい、ここでアルルルートとザッピング。





     騙されたな!そんな機能は無い!

     そんなこんなで出会った二人。ユウキはアルルにこれまでの事を話した。それに対するアルルの回答は。
    「はじめまして♪アルルです」
     そうしてユウキは更生したそうな。
     何故って?それは誰にもわかりません・・・そう、強いて言うなら夏の魔力・・・とでも言いましょうか・・・。

    「チアキくん、夏なんて単語何処にも出てきてないデスよ?」
    「夏がみんな狂わせるのさ・・・」

     こうして、更生したユウキはハローワークへと通った。そしてそこで、『出るだけで給料がもらえる』という職業に出会った。そう、御前試合である。
     安全よりも明日の飯、と言う事で、ユウキはコレに就く事に。めでたしめでたしと喜ぶユウキだが、御前試合に給料出ませんよ?


    ●星を斬った
     今大会最も戦う理由が稀薄な二人の戦いは、どうにも稀薄だった。
     それもそうだろう。御前試合に応募したものの、ユウキは恩義のあるアルルとは戦えない。安い挑発はするものの、自ら攻撃はしようとしていない。何か策があるのだろうか。?
    「ネタフォースを備えたようだなアルル。だがまだジェダイの騎士ではない」
     一方アルルは、ユウキのその安い挑発に乗ってしまった。力任せに釘バットをブンブン振り回す。しかも途中でエンブレムシャワーやエンブレムノヴァを放つ連続技だ。しかし・・・。
    「むぅ、アレは!」
    「知っているんですかー?頭領さん」
    「リオン殿、出来ればもう少しやる気を見せてくれるとわしも解説のし甲斐があるのじゃが・・・」

     この御前試合において、アビリティなど無意味だった。よほど書き手の琴線を擽る補正でもつかない限り、アビリティで対戦相手が傷つく事は無い。しかしアルルはアビリティを放ちながら攻撃を繰り返す。一撃必殺の釘バットを当てるために。
     そう、釘バットに集中しすぎていた。自分が誘導されているとも気づいていなかったのだ。
     ユウキには目論見があった。このドサクサに、見学に来ている他のユウキを抹殺するという目論見が。
     観客席にいる。アルルに攻撃をするように見せかけ殺すのは簡単だろう。そしてアルルとユウキが一直線に並んだ時・・・初めて攻撃に転じた。
     必殺の武士沢レシーブによる牙突!
     威力は強力だが予備動作が大きいため、目の前で出されても避けられるだろう。しかしその後ろにいた人物には見えない。避けられまい。
     完璧と自賛するユウキの作戦。しかし、何故だろう。
     アルルは避けるそぶりを見せなかった。

     馬鹿な!退いてくれ!私は・・・私は・・・!!
     放たれる牙突。その軌道はアルルの額に迫り―――


     ―――僅か一ミリを残して止まった。

    「私の負けです。恩人は、殺せません・・・」
     兜を脱ぎ、敗北を宣言する。実は女性だったユウキ。うん、みんな知ってる。

     ユウキの敗北宣言により、第五試合は死者が出ぬ決着となった。


    ●ロスト
     初の無死者試合とあって、観客席からはうねりの声が聞こえてきた。どんな残酷な試合が始まるかと思ったのに、片方は全く攻撃する気無し。更には死者が出なかったのだからその思いも当然だろう。
     だが、試合後に共に相手を讃えあう二人を見て、観客達は惜しみない拍手を送る。こういうのも悪くないかもしれない、と。
    「アルルさん、お疲れ様でした」
    「ユウキさんもね♪」
     試合会場を後にし、共に選手控え室に向かう二人。試合中は憎みあっていても、終われば友人関係に元通り。素晴らしい友情関係である。一片の曇りも、無い。


     だが、それは通常世界の話。
     ここは異界とも言うべき悪鬼の里。血でしか血を洗えない、己の目的の為に世界を歪ませる使者たち。死ぬことでしか生を実感できず、生きることでしか死を肯定できない戦人たち。
     故に、この場での友情は異質。そう、異質だった。


     二人は、この箱庭から大きく外れてしまった。




     円卓の間 御前試合・第五試合。
     勝者はアルルと記載されているが、試合が終わった後にこの二人を見た者はいなかった。
     控え室には荷物が置きっぱなしとなり、戻った様子も無く。
     試合会場から控え室はすぐなので、他による場所も無く。

     ただ、二人だけが忽然と、この世界から消え失せていた。



    ―終―

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