第四試合
ジオ 対 ネフェル
『美食に死す』
担当MS:チアキ
|
−プレイング−
|
―熾烈・ジオ(a25821)のプレイング―
我ガ部族、ナマハゲヲ許サズ
…ナマハゲ。
我が部族は古来よりナマハゲと戦い続けてきた。
定期的に起こるナマハゲの襲来は竜巻等の自然災害と同列に扱われ
しかし相手が自然災害とは異なる生物である事から
誇りを重んじる我が部族はナマハゲに決して屈することなく挑む。
ナマハゲに挑むことはすなわち部族の一員であることの証であり
(中略)
それは受け継がれてきた我が部族とナマハゲとの精神的な交歓とも言え、
ナマハゲを狩ることは成人した証と言えるのである。
まぁ怪獣と暮らしてきた自分にはあまり関係ないなぁ〜んけど
というわけでナマハゲ狩りなぁ〜んね。
なんか小さい頃あんな顔した怪獣に苛められた
覚えがあるような気がするなぁ〜んし。
何はともあれレベル差に反逆する!
脳内インタビュー
「とりあえずナマハゲさんは愚ルメ料理を作ることに夢中で自身が愚ルメ食材ということに気付いてないみたいなぁ〜んから、………ごちそうさま☆当方料理に興味なしの食材こだわり派でございますなぁ〜んよ。
だから、持っていく物は爪楊枝だけなぁ〜ん。…場合によっては結局愚ルメで屈服されることになっちゃうかもなぁ〜んね。そこ(恐らく胃のこと)が自分の一番強いとこなぁ〜んけど」
※上記の発言はあくまでイメージの為、実際の戦闘=食事とは異なります。
駄目だったら素直に武器持ってきて薔薇の剣戟使うなぁ〜んけど
結局性に合わないことに気付いて棍棒で兜割ってもしょうがないなぁ〜んよね。
たたきの方が食べやすくもあ、げふんげふんなぁ〜ん。
―暁の幻影・ネフェル(a09342)のプレイング―
対戦相手…熾烈・ジオ(a25821)
【必殺技】
エントリーシート・愚ルメアタック
…様々な店のエントリーシートを放り投げて相手の視界を奪った隙に近寄り、愚ルメを無理やり食べさせる大技。これをやると就職がいっそう難しくなる諸刃の剣。
【因縁イベント】
人物像…基本的に相手の言ってることが脳内で色々変な方向に解釈されます。会話をすると一見かみあっているように見えるが実はかみあっていないことが多い。仮面で顔を隠して謎のマスクマンを気取っている。
…就職活動に追われる日々…ひたすら説明会に参加して選考、落選、また選考と言う日々…みんな、そうだと思っていた…奴が一発で選考に通って内定を決めたと知った時までは…
…おのれジオ!年下の分際で一発で就職先を決めるとは何事だ!貴様に就職活動の辛さが分かるか!私なんか毎日毎日就職活動で死にそうなんだぞ!そんな俺を尻目にお前は旨い物食べ歩きなんぞやりおって…そんなにうまい物が食べたければ…食らうがいい!愚ルメの秘奥義を!!
【戦闘】
とりあえずナマハゲ面で威嚇。その後は色んな愚ルメを投げつつ機を伺い、必殺技を放つ。
オチはチアキさんの感性にお任せ〜
|
−リプレイ−
|
審判兼記録係のチアキは困っていた。
第一試合冒頭にて、『出場冒険者十五組三十名、敗北による死者八名、相討ちによる死者十二名、射殺三名、生還七名、中四名重傷。巻き添え数えきれず』と記していたのだが、第三試合を終わった段階で既に生還者が三名出てしまっている。しかも全員無傷。
残り十二試合あるというのに、もうこの段階で無傷枠を使い切ってしまっているのだ。
「ヤベェ・・・この後全員、惨殺せにゃならんのか・・・」
第四試合への準備が進む中、地面にのの字を書きながら一人呟く。この先、自分だけがリプレイを書くならばまだ良い。ちょっと残虐計数を高くすれば良いだけだから。
だが、実際にはリオン偽MSがリプレイを書いてくれたのが五試合分ある。しかも、どれももう完成していたりする。どの様な結果になっていたのか、怖くて見る事が出来ない。
どうする、今更だけど生存者数を変えるか? それとも無かった事にするか? いや、しかし・・・。
苦悩すればするだけ、思考の迷宮に陥る。答えの出ない迷宮に迷い込んだチアキは結局―――考えるのを止めた。
●誇り高き一族
時刻はもうじき正午になろうとしていた。
この第四試合を終えた後、昼休憩となる。だが、幾度と無く白砂を変えようとも試合会場には血と臓物臭が染みついてしまっている。観客一同に食欲が湧くはずも無かった。
しかし、何の因果であろうか。次なる第四試合、片方が料理人とは。
西方より出は暁の幻影・ネフェル(a09342)、顔をナマハゲ面で隠している。その素顔は謎と言われているが、実は外している時は本人と気付かれていないだけだったりもする。
東方より出は熾烈・ジオ(a25821)、ワイルドファイア大陸にて狩りをする一族最後の末裔である。
そう、それがジオの戦う理由であった。
彼の一族は、ナマハゲによって滅んだのだ。
ジオがまだ五歳の時、突如父親がいなくなった。
母親を早くに亡くし、父と二人暮しだったジオには事を理解する事が出来なかった。
幸い、父の友人を名乗る怪獣と共に暮らしていた老人がジオの面倒をみてくれたため、生きて行く事は出来た。否、みてくれただけではない。老人はかなり良い待遇でジオを迎えてくれた。険しい瞳を緩ませ、自分の跡継ぎにジオを迎え入れたいと言ってくれるほどに。
だがジオは、その思いを受け入れる事が出来なかった。何故父は自分をおいて行ったのか。何故父は自分を連れて行ってくれなかったのか。何故・・・何故・・・。その思いが、幼いジオの心に常に付きまとっていたために。
老人の優しさはありがたく思う。
だがしかし、自分にはどうしてもやらなければならない事があった。父親を見つけ、真意を聞くと言う事を。
老人に引き取られて三年が経過した頃、老人が老衰のため息を引き取った。
彼は生きている間、ジオに生きる術を徹底的に叩き込んだ。一般常識的な事から、独りで生きて行くために必要な事まで。
何故この老人がここまでジオにしてくれるのか。その答えは彼が死に際にも話さなかったため、結局知る事は出来なかった。
ただ、ジオが父親について尋ねた時、この老人はその険しい瞳で遠い地平線の向こうを見つめるのであった。
老人の死後、ジオは怪獣たちと共に各地を転々とした。
怪獣たちと一緒なので一人旅ではないが、それでも五年ほどの年月をそうして過ごせば、ジオはもう一人前の狩人となっていた。
各地を転々とするには理由があった。一箇所で狩りを続けると種が絶滅するし、ましてや自分は怪獣を連れた狩人。一箇所に留まれば要らぬトラブルに巻き込まれる。それに―――もしかしたら父親の情報が手に入るかもしれない。ならば移動する生活が効率良いというものだ。
そうして各地を渡り歩いていた十二歳の時。ワイルドファイアの中でもある程度近代的な作りとなっている街・ロマーに辿りついた。
人が沢山いるところは落ち着かない。取り敢えず今夜はここで夜をあかし、明日の朝一番にこの街を出よう。そう考えたジオは野営の準備を始めた。その時、彼の目の前を予想していなかった人物が通り過ぎた。
ジオの父親であった。
七年前、自分を、捨てて、去った、父親が、目の前を、通り、過ぎた。
ジオは頭の中が真っ白になり、気がついた時には父親を尾行けていた。すぐに声をかけても良かった。だが、五歳の自分を捨ててまで手に入れた父親の生活のありのままを見てみたい欲望にも駆られていた。
父親はジオが尾行しているとも知らずに、街中を歩いて行く。その内、円柱状の巨大な建物に入って行った。
ここに父が。
後を追ってジオが建物内に入る。だが、建物は予想していたよりも複雑な構造となっており、父親を追ってすぐ入ったつもりでも、見失うこととなっていた。
辺りを観測しながら父を探す。その時、奇妙なオブジェが石の壁についていたのを発見した。大きな目に耳まで大きく裂けた広い口、そして角。その顔は怪獣とも人とも言えない顔をしており、見る者の魂を喰らう様な、何とも威圧的な存在感を出していた。
何となく興味があったが今は父親を探す事が優先だ。そう考えたジオは、その巨大な顔の前を通り過ぎる。
と、その時。巨大石顔の口のところに、キラキラ光るものを発見した。
顔を近づけて見てみると、どうにも宝石らしい。が今まで一度も見た事の無い代物だった。
キラキラ七色に光る宝石。ジオは好奇心から、それを手にとってみたいと思った。宝石にすっと手を伸ばした瞬間、怒声がジオに向かって放たれた。
「危ない小僧!その宝石に触るんじゃない!!」
大声に慌てたジオは宝石に触れてしまう。するとどうしたことか。石顔の口が大きく開き、ジオを呑み込もうとしだしたでは無いか!
ほんの一瞬の出来事。ジオは恐怖で動く事も出来ず、ただ目を閉じるのみ。なす術もなく巨大な口に呑まれた・・・。
そう、呑まれるはずだった。
父親がジオに体当たりをし、助けたのだ。その代わりに、自分が巨大な口に呑まれる事を覚悟して・・・。
「あ・・・あ・・・・・・」
突然の事にジオは動く事も、話しかける事も出来なかった。だが父親は平然とジオに向かって話し出した。
「コイツに近寄るな。コイツは口元の宝石を囮にしてエサを引き寄せる。近寄ってきた者をこうして食べる為にな・・・。名も知らぬ若者よ、頼みがある。サリサリという人物を尋ねて私の死を知らせて欲しい・・・この壁は生きている。今にも甦ろうとしている・・・今の所こいつに対抗できるのは彼女しかいない・・・早く・・・決定的な手段を見つけねば・・・お、おねがいだ・・・」
父親はそのまま呑まれてしまった。父親を呑んだ石顔は満足したのか、動きを止めていた。
体当たりをしてジオを助けた父親には、成長したジオが息子だと言う事がわからなかったらしい。ほんの一瞬しか顔を合わせてないから、当然ともいえよう。だが、しかし。だとしたなら。
父親は、見ず知らずの子供を助ける為に、己の命を差し出したのだ。
その崇高な行動をジオは誇り高く思い、感動し、哀しんだ。
夜中いっぱい彼はその場で父の死を悲しみ、あけると同時にサリサリという人物を探しに行った。
予想外に速く見つかったサリサリはジオに全てを話してくれた。
石顔の事、そして父親の事を。
石顔は『ナマハゲ』と呼ばれていた者で、古代ワイルドファイアにおいて恐るべき力でワイルドファイアを征服しようとした人物らしい。力は自然災害と同等か、それ以上。そんな恐ろしい力を持つナマハゲに対し、彼らの一族は屈すること無く真っ向からで立ち向かった。そこで当時の実力者達が力を合わせ、ナマハゲを退治することにした。
戦いは熾烈を極めた。彼らの一族は多大の犠牲の元、ナマハゲを弱らせる事に成功した。が、倒す事は出来なかったらしい。彼らはせめてと、ナマハゲを封じることにした。それがあの円柱状の建物にあった石顔である。
そして父親は―――その石顔と戦った一族の末裔だった。
彼らは代々石顔となったナマハゲを見張っていた。彼らの一族は成人して初めて戦士として認められる。だから、まだ幼い息子を捨てたのだ。己の宿命を話さずに。サリサリはそう、語ってくれた。
「父さん・・・」
ジオは父親と別れて初めて、涙を流した。
それからと言うもの、ジオはサリサリの元で修行を始めた。ナマハゲは復活する。父親の残した遺言を聞いていたから。
サリサリは過去にナマハゲと戦った一族の末裔。ならば、これ以上に最適な師匠は求められないであろう。
父親の気高き魂を守る為に。そしてナマハゲを倒すために。
父親の幸せになって欲しいいう願いとは裏腹に、ジオは戦いの道へと進む。やはりジオも戦士の一族だったのだ。
二年後、復活したナマハゲは戦士達を打ち破る。だがしかし、自身も大きく怪我を負ったために逃げ出すことになる。当時交易が全く無かった遥か北の地、ランドアースへ。
唯一生き残ったジオは、奴を打ち倒す為にランドアースに渡った。戦士として、全てに決着をつけるために・・・・・・。
「それなんてJOJO?」
たまらぬ展開であった。
「しかも第二部かよ。つーかこのままだとジオ君、崩れた天井の下敷きじゃん」
ネタバレするなボケェ!オチ変えなきゃいけねぇだろ!
「そもそも屋外試合場でやってる御前試合には、いくら破壊が起ころうとも天井落ちてこないんじゃ?」
・・・・・・あ!
●究極の至高
ジオがネフェルを追っている頃、当の本人は何をしていたのか。
就職活動であった。
「心機一転、故郷を飛び出して来ました。絶対この地で就職を決めるのです!」
故郷を飛び出し幾数年、ネフェルは料理人になるため、かの有名な「至高の雄山」率いる『美食同盟』に就職するチャンスを手に入れた。
料理人業界ではトップクラスの『美食同盟』に就職するのは容易なことではない。数々の料理大会で優勝クラスの腕前を持ち、賞を総なめ。更にはA級料理店に勤め支店を任される程の腕前を手に入れて漸く、採用試験に受けられる。それでも、確実に受かるわけではない。約九十パーセントが落とされる過酷さだ。
『美食同盟』については、リオンMSの第十二試合・センキ対ネコニャンコの『無血試合』を参照してもらいたい。
閑話休題。
さて、今回の試験会場に勇んで参加したネフェル。その会場に、見知った顔があった。
「あ、ネフェルさんなぁ〜ん」
「・・・ジオ」
十五歳になったジオであった。ネフェルは今まで、この『美食同盟』に入るため、様々な料理大会で頑張ってきた。だがしかし、いつも越えられない壁が存在していた。それがこの、ジオである。
『美食同盟』に入るためには、一流の料理店からの推薦が無ければならない。一流に受かる為にひたすら修行、就職の日々。上を目指す為に欠かさぬ鍛錬。みんな、そうだと思っていた。落ちては励み、落ちては励む毎日だと。
ジオが、自分が挑んでいた選考に全て一発合格を決めていたと知った時までは・・・。
ジオはいつもネフェルを一歩上回る腕前を見せて翻弄してきた。きっとジオがいなければ、『美食同盟』の採用試験に挑戦するチャンスはもう少し早まっただろう。
「ネフェルさん、奇遇なぁ〜ん。今日も一緒なぁ〜んね。一緒に頑張るなぁ〜ん」
にこぱ、と明るい笑顔を見せるジオ。それに対し、ネフェルは「ああ」としか答える事が出来なかった。いつも自分の前に立ちふさがった敵。今日はいないと思っていたのに。この絶妙なタイミングで出てくるなんて・・・なんて運が無いんだ、畜生。ネフェルはそう思った。
勿論、運とかその様な話ではない。ネフェルの料理人としての栄光を邪魔していたのは、全てジオの策略、ワイルドファイアでの一件の復讐であった。
ただネフェルは、成長したジオの姿に気づいていない。あの時の子供だなんて理解していなかった。
明るい笑顔の下に復讐を隠し、ジオの復讐はチクチクとネフェルを追い詰めるのであった。
その復讐に気づいていないネフェルは、ジオの事を「目の上のたんこぶ」程度にしか思っていなかった。今までは邪魔されたが、今回の『美食同盟』に採用さえされれば・・・ジオに勝てる!ネフェルは野望に燃えていた。
「今日はどんな料理を作ろうかなぁ〜ん」
私がお前を倒そうと考えてるとも知らずに・・・ネフェルはそう考えながらほくそえむ。ジオに会ったのは予想外だったが、今日の自分のテンションは最高だ。きっと良い料理が作れるだろう。ジオが、何を作ろうとも。
だが、ジオの次の一言がネフェルの考えを狂わせる事になる。
「ネフェルさんは今日、なにを作るなぁ〜ん? 僕は愚ルメを作ろうと思うなぁ〜ん」
(愚ルメ!? まさか、自分の領域で挑んでくるだと?)
ネフェルは仰天した。愚ルメといえば扱いの難しい料理である。ジオが作れるようになっていたなんて・・・いや、それ以前に今回の採用試験を受ける者が、愚ルメを作ろうだなんて考えるはずは無かった。何故なら・・・
「し、しかし。雄山先生は愚ルメが嫌いだったのではないでしょうか?」
そう、雄山は愚ルメが嫌いだったのである。「愚ルメなんて味オンチのメリケン人が食うものだ!」と、怒声を上げたと言う噂もあるくらいだ。
「昔はそうだったらしいなぁ〜ん。でも一人息子が結婚して、その嫁さんだかが作った愚ルメを食してから、雄山は考えを改めるようにしたらしいなぁ〜ん」
そ、そんなことが! ネフェルは衝撃を受けた。この情報が本当ならば、今回の採用は愚ルメを作ったジオの一人勝ちだったろう。
ライバル視していた自分だからこそわかる。ジオには恐ろしい情報収集能力があった。今までの料理大会でも、何処からか手に入れた審査員の好みを調べ上げその料理を作り、優勝の多くを手に入れてきた。この情報を使わない手は無い。愚ルメは、自分の領域だ。
「そうでしたか。ジオさん、良い情報をありがとうございます」
「なぁ〜んなぁ〜ん、気にすること無いなぁ〜ん。ネフェルさんはいつも一緒だから、特別に教えてあげたなぁ〜ん」
「そうですか、感謝します」
心の中でほくそ笑みながら、ネフェルはその場を離れる。愚ルメに必要な食材を入手しに行ったのだ。
急がねば、今ならまだ間に合うだろう。今回はお人好しのおかげで助かった。愚ルメ勝負なら負けない自信はある。今までジオには煮え湯を飲まされてきたけれども、今回ばかりは私の勝ちらしい。
勝利を確信したネフェルは、急ぎ市場へ走る。
情報が、ジオの策略だとも気づかずに・・・。
「この愚ルメを作ったのは誰だぁ!!」
響く大声。声の主は勿論、『美食同盟』主催の雄山であった。
雄山自ら出てくるとは、やはり愚ルメが好物に変わったという話は本当だったようだ。くく、これはあっという間に『美食同盟』のトップに上がれるかもしれませんね。
雄山からの褒めの言葉を期待しながら、ネフェルは自信満々に「私です」と前に出る。
だが、雄山の口から出てきたのは罵詈雑言の怒声であった。
「私が愚ルメ嫌いと知ってこの料理を作ったのか!こんなもの料理ではない!味覚の狂ったメリケン人にでも食わせていろ!貴様はクビだ!!」
「そんな、まだ採用すらされていないのに?いえ、それよりも、愚ルメが嫌い、ですって?」
「私が愚ルメ嫌いなど常識だろう!今回の大会でも作ったのは貴様ぐらいだ!ええい、あんなもの考えるのもおぞましい!貴様、よくも企んでくれたな!今後、この世界で生きられないようにしてやる!」
そんな馬鹿な・・・。ネフェルはこの思いで一杯だった。それに、作ったのは、私一人だけ?じゃあ、ジオは?
ネフェルは、ゆっくりと振り返る。先ほどまで自分の横にいたジオ。彼は―――
ニヤリと、笑っていた―――
雄山の一声で、ネフェルは『美食同盟』どころか料理会から追放されることが決定された。
絶望に堕ちたネフェルをジオは、更に突き落とした。
ジオは採用試験にトップで合格した。だが、その合格を蹴ったのだ。
誰もが震撼した。『美食同盟』の誘いを断るなんて。料理人ならありえないことだ。今まで一度も誘いを断られた事の無い『美食同盟』人事班たちにも動揺が走っていた。その光景を打ちのめされたネフェルは見つめていた。ライバルが栄光を捨てたその瞬間を。
ネフェルはこの光景を見ているべきではなかった。すぐに、立ち去るべきだったのだ。
必死に止める人事班たちに説得されるジオ。これほどの逸材を捨ててなるものかという、気迫が見える。だがジオはその様な気迫も受け流し、ちらり、とネフェルを見てから人事班たちに言った。
「僕は美味い物を食べ歩いてればそれで良いなぁ〜ん。だから料理人にはならないなぁ〜ん」
なんと、料理人すら生業ではないと言い放った!
「俺の代わりにネフェルさんを採用してやって欲しいなぁ〜ん。今日は勘違いして愚ルメを作っちゃったなぁ〜んが、本当はとってもいい料理人だなぁ〜ん。せめて、料理業界には入れるようにして欲しいなぁ〜ん」
何たることか!ジオは自らの栄光を捨てて、暗黒面へと堕ちた友人を救おうとしている!
人事班の老人達にはそう見えた。感動的な友情物語。老人達は何とか雄山先生を説得してみようと、ジオに言った。
だが、ネフェルは気づいていた。
(こ、これは友情なんかじゃない!奴は間違いなく俺の牙を折ろうとしている!これを受け入れると、俺は奴に決して立ち向かう事が出来なくなっちまう!!)
恐るべきはジオの復讐。彼は、ネフェルの全てを奪おうとしていたのだ!
ネフェルはその提案に自ら反対し、料理会を去った。ジオの復讐はある程度達成したが、完全なものではなかった。
夢を潰されたネフェル。復讐が完遂しなかったジオ。この日、修羅が二人生まれた。
場外で行われていた修羅の戦いは、互いに心と身体を殺し合い、今、初めて両者が盤上へと参上したのだった。
●天地を喰らう
「『美食同盟』については、リオンMSの作品を参照すると良いじゃろう」
「チアキくん、それ二回目デスし、しかもリオン兄さんが担当したリプレイはまだ公開されて無いデスよ?」
「!?」
「そんな特攻風に驚かれても」
解説の二人はさておき。
試合会場では臨戦態勢の二人が早くも火花をちらつかせていた。
ジオは一族の誇りの為、ネフェルは夢の復讐の為。様々な思いを胸に、二人は戦う。審判であるチアキはすっかり忘れていた開始の合図を慌てて言う。
直後、二人の間に闘気の渦が走った!
「ジオ!年下の分際で、一発で就職を決めるとは何事だ!貴様に就職活動の辛さがわかるか!そんな俺を尻目にお前は『美食同盟』に一発合格!更には美味い物食べ歩きなんぞやりおって・・・そんなに美味いものが食べたければ・・・食らうがいい!愚ルメの秘奥義を!!」
復讐に燃えるネフェルはあの事件から、愚ルメの腕前を徹底的に一から鍛えなおした。一撃で敵を屠る事の出来る代物にするために。
そうして完成したのが今作っている愚ルメを利用した技『エントリーシート・愚ルメアタック』である。様々な店のエントリーシートを放り投げて敵の奪い、その隙に近寄り愚ルメを無理矢理食べさせる大技。この技は使用する度に就職が難しくなる諸刃の剣。だが、今はそれに構っている場合ではない。ジオを、宿敵を倒すためには手段など選んでいられない!!
愚ルメを手に、ナマハゲの仮面が笑った。
笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原型である。
エントリーシートが舞い、ジオの視界を奪う。ネフェルはすかさず近寄り、ジオの口に強引に愚ルメを突っ込もうとして・・・ジオに呑み込まれた。
観客席は騒然としていた。それもそうだろう。常識では決して考え付かぬ光景が繰り広げられたのだから。
ネフェルが紙吹雪を舞わせジオの視界を奪った。そして愚ルメを食べさせようと接近した。其処で観客達はネフェルの勝利を確信したのだ。だが、しかし。
突如大きく開いたジオの口が、全てを呑み込んだのだ。エントリーシートも、愚ルメも・・・ネフェルさえも!!
「愚ルメ料理を作る事にむちゅうで、ナマハゲさんは自身が愚ルメ食材ということに気付いていないみたいなぁ〜んね。ごちそうさま☆ 当方料理に興味なしの食材こだわり派でございますなぁ〜ん。そこ(胃)が自分の一番強いとこなぁ〜ん」
呑みこんだジオの腹は普通そのものである。ネフェルは、消えてしまったかのように跡形も無くなった。ワイルドファイアで鍛えた胃は、愚ルメ如きでは傷つきもしなかった。ネフェルの完全な計算違いであろう。
奇想天外な勝利方法に観客は皆、ジオに対し惜しみ無い拍手を送る。ジオも「ありがとうなぁ〜ん」とその拍手を受け取る。圧倒的なジオの勝利であった。
審判のチアキがジオの勝利を宣言しようとした。と、その時、ジオに異変が生じた。
「ん・・・あ・・・あれ・・・。ちょっと・・・お腹が・・・イタイ・・・ん」
苦痛に呻くジオ。今更愚ルメが効いてきたのだろうか?観客はそう思った。が、次の瞬間、ジオの腹が爆ぜた!!
「ボハッ!!・・・な、なぁ〜ん・・・?」
ジオ自身、自分の身に起きた現象が理解できないでいる。それもそうだろう。自分の腹を突き破り腕が生える状況など、一体誰が理解できようか!!
「ぐぅるふるぅるるうるるぅぅぅぅぅ・・・・」
獣の呻きが聞こえる。ジオの腹から、まるで自分の誕生を喜ぶように。謳う様に。
突き出る腕は二本に増え、完全にジオを引き裂いてこの地に再誕したのは―――ナマハゲ。そう、ネフェルであった。
ネフェルはジオの強力な胃に消化されること無く、強引に腹を引き裂き脱出したのだ。
「なんと・・・」
観客が呟く。それもそうだろう。試合は一転二転するのだから。先ほどまで勝者と思われていたジオは腹を裂かれ、白砂の上に倒れている。
逆転勝利。チアキがネフェルの勝利を宣言しようとした時、ネフェルが急に叫びだした!
「アオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!!」
それは叫びと言うよりも、咆哮。勝利を祝う叫びではなく、次なる獲物を求める獣の、咆哮。
ネフェルの―――いや、ナマハゲの瞳が鈍く光る。それと同時に、ネフェルは審判のチアキを惨殺した。
「―――なっ!!」
「まさか―――暴走!?」
その場にいた全ての人物が驚きの悲鳴をあげた。ナマハゲは人体の構造を無視した跳躍をして、観客席に飛び込んだ。そして荒れ狂う竜巻の如く、人々を薙ぎ払い始めた。人は、まるで紙くずの様にちぎれ散っていった。
「始まったな」
「ああ、全てはここからだ」
観客席にいた挙動不審・ドラゴ(a02388)とマスクがエヴァごっこをしていた。勿論、この直後に吹き飛ばされたが。
「これが・・・本当のナマハゲの力・・・」
腹を裂かれ死の淵に立ち、薄れ行く意識の中ジオが呟く。
ああ、そうか。だから僕の一族は、ナマハゲを討伐しようと―――
其処まで考えて、ジオの意識はこの地上から消え去った。
試合会場は地獄絵図と化していた。
ナマハゲによる虐殺、虐殺、虐殺。観客席の住人達は喧騒をあげ方々に逃げ去るか、もしくはナマハゲの餌食となっていった。
そんな中、一人の人物がナマハゲの前に立ちふさがる。
「ふ、ナマハゲ。大層な力じゃないか。相手にとって不足なし!俺は黒ウサ国の勇者ウヅキ!勝負を申しkブベラ!!」
必殺技を出す前の段階の、前口上を垂れている間に吹き飛ばされる人物。人参刺客王・ウヅキ(a03612)。まさに無駄死にであった。
白砂の会場にたたずむナマハゲ。最早その場には獲物はいない。いや、一人いた。
円卓の主たる、御大・ユリシア。
極上の獲物を見つけたナマハゲ。その目は爛々と闇に輝き、その手は赤色に染まり、その口は虐殺の歓喜に耳まで裂けていた。
アノニクヲ ヒキサキタイ
四メートルはあろうかという間合いを一跳躍で飛び越し、ナマハゲは欲望のままにユリシアに飛び掛った。存分に味わう為に。獲物の恐怖を、虐殺の歓喜を。存分に味わう為に。
だがその目論見は、達成する事は無かった。
壁に、叩きつけられた。何が起きたのか理解できない。
目の前のユリシアは一歩も動いていない。一動作すらしていない。自分に何が起きたのだろう?わからない、わからない。
混乱するナマハゲは、右腕に鈍い痛みを感じた。見ると、何かが突き刺さっている。
大きな―――鉄串。
「駄目デスよー? 選手が試合会場を飛び出しちゃ」
おっとりとした声が聞こえてくる。声の方向には一人の少女が、灰色の髪に赤い瞳の少女が、指の間に鉄串を持ちたたずんでいた。
「試合会場を飛び出したら、不測の事態になっちゃうデス。そんな事になったら、焼鉄串をプレゼントしなくちゃいけないデスよ?」
姿を現したのは舟木・トート(a16979)であった。
彼女は御前試合中、陣幕の裏に控え、試合から逃げ出したりする不測の事態に備えていた。
「何も起きなければ良かったんデスけど・・・」
嘆息しながらトートは呟いた。
「でも、起きてしまったからには、御仕事しなければいけないデスねー」
にこやかに微笑むトート。
ナマハゲには、その笑顔が、恐ろしいものに感じた。
熱ッ!!
右腕が燃え上がる。獣の混乱は、益々高まった。逃げ出そうとする。だが、それすらもままならない。鉄串で張り付けられた右腕は一切動かない。そして考えている今この瞬間に、右足も鉄串で張り付けられた。
ナマハゲの主戦力はその凶悪な力による、力任せの接近戦だ。遠距離からの攻撃に対処する方法は、無い。遠距離攻撃には敵の攻撃を避けつつ接近し、打破するのが戦法だ。だが、壁に張り付けられたナマハゲには、既に攻撃手段は残されていなかった。
「それではごきげんようデスよー」
にこやかに、トートは笑った。ナマハゲがこの世で最期に見た光景は、そんな極上の笑みだった。
トートは両手の指に挟んだ無数の焼鉄串を放つ。目に追えぬ神速で放たれた鉄串はナマハゲの全身に突き刺さり、削り取り、炎上する。ナマハゲは、この地上から肉片一つ残さずに消え去ってしまった。
第四試合、今までに無いほど凄惨かつ無惨な死が、会場に氾濫していた。
―終―
|
戻る
|