第二試合
ウカ 対 アリシア
『幼女転生』
担当MS:チアキ
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−プレイング−
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―ジェローム・ウカ(a25069)のプレイング―
【前書き】
・因縁て、食い違っていた方が格好良いとおもいません?
・真の幼女の生き様は 色なし恋なし情けあり!
・当方は赤くもえているか!?
・事前打ち合わせはありません。
【本文 @】
Chapter1 【始点】私にその手を汚せと言うのか
私は首にかかったロザリオのチェーンを引き千切り、燃え盛る谷間へと投げ下ろした。優しかった御姉様や、クラスメートのみんなのいる谷間へと。
「ちりん」と軽い音を立てながら、その『絆』は消えていった。
私は、涙を流す事すら出来なかった。
そう、それは私が冒険者に成って最初に受けた指令。
金髪の美しいエルフの女性の霊査で示された事だった。
場所が故郷の学校の近くで、依頼ではあったもののまだ幼い私は、友達に会えると、胸を弾ませて居た。
村のゲートが見えた頃、部隊のリーダーが言い放った言葉から私の悪夢は始まった。
いや、冒険者に成ったその日から、もう悪夢は始まっていたのかもしれない。
私ははっきりと聞いてしまった。私の故郷を指して、
「あそこが、目標のモンスターの集落だ。気張って狩れよ。」
と言う言葉を。
私は唯、崩れ落ちるゲート、人々の悲鳴を前に、立ち尽くすだけだった。
しばらくすると「ウカ!助けてよウカ!」と、逃げてきた少女が私に縋りついてきた。
それが誰だったか……、私には思い出せなかった。
金髪のエルフを見た気がした。鎖の音が聞こえる、鎖の音が、音が音がおとがおとがおとがおとがオトガオトガオトガガガガガガガガガ……
ああそうか、わかった。奴隷だったんだ、私達。
だから、命、私達の物じゃないんだ。
【中書き】
・本文@の時点で600文字前後
・全文試合と無関係かもしれない
・だがそれがいい、いやよくない、でもつづける、ごめんなさい
【本文 A】
Chapter2 【岐点】 誰も私を攻める事は出来ない
11/12
御大の誕生を記念し、円卓の間の御前で真剣を以って試合を行う事が決定した。
11/18
絶望の淵に沈んでいた私を拾ってくれた頭領殿が、陰腹を召して諫言をした。
が無駄だったらしい。
同日、御前試合での対戦を、園児殿に挑まれた。自分が旅立った後、私が最年少と成り、幅を効かせているのが気に入らないらしい。
11/19
対戦登録が成されている事を確認、あの幼女意外と手回しが良い。やりおるな?
11/22
今日が身体を改める予定日、まだ何も準備していない、どうしたものか。
「ふぅ……あっ!」
不意にもれた自分のため息に、私自身がすごく驚いてしまった。相当集中していたらしい。
決戦は明後日、なのに高ぶるこの感情はなんだろうか?
日記帳を閉じ、私は寝所へ向かった。
Chapter3 【演武】 欺き欺かれて(プレイング)
我は戦場に立つ、立つからには勝たねば成るまい。
クノレダ流交殺法を修めた我が負ける所以は無し!
影技の字がハッタリではないと言う事を見せようぞ!
「我は無敵也 我が影技に敵う者無し!
我が一撃は無敵也!!
アレッ○スは伊達じゃない!!」
(時間切れにつき、以下略)
この番組は、清潔で美しく健やかな健康を彩る葛王と、御覧のスポンサーの提供でお送りいたしました。
Chapter4 【終幕】 手を取り合って
―牛股・アリシア(a28304)のプレイング―
スライディングセーフ━━━━⊂(゜Д゜⊂⌒`つ≡≡≡━━━━!!
つ【ダミー旅団シナリオプレイング】
【因縁イベント】
宇宙歴WOXX年、同盟諸国にかつてない【幼女ブーム】が吹き荒れていた。巷には幼女アイドルが溢れ、若者は仕事も生活もそっちのけで幼女と萌えの関係性について語り合う。そんな世の中で…私は芸能界にトップアイドルとして君臨していた。CD、ドラマ、バラエティと多方面で活躍し、来年には大河ドラマ「大奥〜幼女の乱〜」の主役にも抜擢。正に時の人。
しかしその頃、同じ事務所の七歳児アイドル「ウカ・テスカトリポカ」も一歳年上と言うハンディを背負いながら、抜群のカリスマ性で御茶の間に勢力を伸ばしていた…
「奴は近い内に必ずや私の地位を脅かす強敵となるに違いない・・・ここで潰しておくのが得策か…」
【試合イベント】
勿論どちらがより萌えられるか勝負で!
以下必殺技
「醤油一気固め」:相手がダウン時のみ使える技。マウントポジションで腕を極め、口に(蓋を開けた)特選醤油の一升瓶を突っ込む。
「聖幼女領域」:相手を亞空間【聖幼女領域】に捕りこむ奥義。相手は無数の幼女に【ロリッ娘萌え】と書かれたプラカードでたこ殴りにされ、精神を崩壊させられてしまう。
「無敵巨兵ヴェイルズ」:巨大ロボット【無敵巨兵ヴェイルズ】に変身する奥義。周囲半径500メートルを対象に無差別砲撃を仕掛ける。
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−リプレイ−
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第一試合が終了した。
観客である円卓出席権のある百旅団長達は、目の前で繰り広げられた尋常ならざる戦いに興奮冷めやらぬ様子だった。
常人では決して達成できぬ域に踏み入った者同士の戦い。この戦いを見、血気盛んにならぬ者など、この場には一人も居るはずもなかった。
第一試合で肉塊と化したラスキューとカルゥアが何処かへと運ばれて行く。未だ血噴水のリオンは、妹者たるトートが「リオン兄さんたら、駄目デスよー? 勝手に病室抜け出しちゃ」と言いながら、身元引受人となり引き取っていった。手に焼き鉄串を持ちながら。
清掃、及び次の試合の準備に三十分ほどを費やし、第二試合の始まりとなる。
●双幼
「ウカちゃん、襟が曲がってるの」
「む、そうですの? すみませんが直してくれます?」
「御安い御用なの! よいしょ・・・と。これでOKなの!」
「変な事はしなかったでしょうね?」
「さぁ、なの。ふふふ・・・」
誰が知ろう。この仲の良さそうな二人がこれから戦おうとは。
試合会場に入ってきた次なる対戦者を見た旅団長達は、皆、驚きに目を見開いていた。
それもそうだろう。第一試合、あれほどの死闘が行われた。次は如何なる屈強な者が現れるのか。そう思っていた時に現れた対戦者は双方、十に満たない幼子だったのだから。
西方より出は牛股・アリシア(a28304)、その歳、まだ六歳。灰の瞳に野望を秘め、年齢とは裏腹に威風堂々と試合会場へと入る。その気迫からは、到底六歳とは思えなかった。そして恐らく六歳ではないだろうが、今はまだ、語るべきでは無い。
対する東方より出、ジェローム・ウカ(a25069)、七歳。覚悟を決めたような、何かしらの決意を感じる赤き瞳が、じっとアリシアを睨む。
「む!この対決、もしや!」
「ほほぅ、貴方も気づかれましたか。通ですなぁ」
「いやハッハ、当然でしょう。この勝負に気づかれない者はモグリと言っても良いでしょうなぁ。しかし、気づかれた貴方もお目が高い。どうです、この後この試合の評価で一杯。可愛い子が居る店、知ってるんですよ」
「ガハハ、そりゃ良いでござるなぁ〜ん。勿論、U−12以下でござるよね?」
「そりゃ犯罪だよ! ・・・だが、それがいい」
観客席よりやけに騒がしい声が聞こえる。どうやらこの幼子同士の戦いに解説の一部が騒いでいるようだ。すぐさま陣幕の裏に待機していたトートの手により、二人に焼鉄串が贈られる。「ギャー!妹者勘弁!」とか「ヒィ!拙者はリオン殿に誘われて仕方なく!」とか聞こえてきた気がする。が、この二人の結末は今回の試合に一切関係ないので省いておく。
試合会場の中央に揃う二人。互いに見詰め合った後、視線を外し円卓の主たる御大に一礼。その礼を確認したチアキは、僅かな間の後、始めぃ!と号令をかける。
百余名の観客が見守る中、幼子達の戦いが今、始まる。
●崩壊の日
幼子同士の戦いに対し、非道と言う意見も出そうな所だが、今回その様な意見は一切出なかった。御大が許可した事に不満を洩らす事は死を意味する。だがそれ以上に重要な点がある。
それは、この戦い自身、参加者たる二人の少女たち自らが希望した事だった。
御前試合の二週間前。アリシアがチアキの元を訪れる。
「チアキさん、ちょっといいかな、なの?」
「ほぅ、アリシア殿か。珍しい、一体なに用じゃ?」
畏まった様子で現れたアリシアに対し、チアキは粗茶じゃけど、と言いながら炭酸入り紅茶とケーキを戸棚から取り出す。自分の分だけ。
「ええ、実はお願いしたい事がありまして」
「お願いしたい事、とな。こんな夜更けにかえ? ふむ、一体何事・・・ハッ! まさか!」
何かに気づいたように、チアキが慌てる。この時期・・・そうか、と呟くチアキ。その同様加減は、口の周りについたクリームに気づかない程だ。つーかお前もう十五歳なんだからケーキ食うのにフォーク使え。
「流石チアキさんなの。そのとおり、実は御前試合に―――」
「まさか・・・其処までわしが想われていたなんて!」
「参加したくて・・・え?」
「むぅ、女性からの想いに気づかないとは一生の不覚! しかしアリシア殿、残念ながらわしの守備範囲は十八歳〜と、お姉さん系設定となっておる。お主の気持ちには答えてやれん!」
「いや、だからあの、チアキさん?」
「スマヌ、いや、スマヌッ!!」
「だからちょっと、シアの話を聞いてなの!」
叫ぶアリシアを強引に部屋の外へ出し、少々乱暴に戸を閉める。完全に勘違いされたアリシアは未だポカーンとした表情のままだ。
扉の内側からは「こんな時は男が悪者になってやるのが優しさじゃからのぅ・・・」などと、まだ見当違いな事を言っているバカ一人。
仕方が無いのでアリシアは今日告げる事を諦め、明日以降に御前試合参加の意向を伝える事にした。昼間ならば今よりは、多少なりとも冷静だろうと考えて。
だがしかし、団長が冷静さを失うのは昼夜問わずだった。
アリシアが告白しに来たと勘違いしたチアキは、それから露骨にアリシアを避けまくった。話しかけると「忙しい、忙しい!」とか言いながら急にトランプを切り始める(誰もいないのに)。話しかける度にその様子な上、だが、何故か向こうからの視線は感じる。恐らく目が合った場合、赤面しながら慌てて目を逸らす事だろう。
ぶっちゃけ、ウザイ。
このままでは進展も無し。むしろ悪化の一途。仕方ないので少々強硬手段を強いる事に。その辺で暇そうにしていたリオンに頭領の捕縛を依頼したら、あっという間に達成してきてくれた。だが、始終何かを期待する目でこちらを見てきた彼も、お縄予備軍なので感謝しつつもチェックは入れておいた。
アリシアの部屋にてチアキを起こす。当初はまた、妄想を爆発させていたチアキであったが、杖でこつん★とやりながら長時間に及ぶ説得の結果、御前試合に参加したい旨を伝えることには成功した(ただしその頃にはチアキの頭部は二倍に膨れ上がっていたが)
チアキは少々渋りながらも、御前試合に参加する事を了承。指定する対戦相手の名を聞き、ウカの名が出てくると驚きながらも納得したようだった。「決着をつけねばならんのじゃろうな・・・」と、悲しそうな顔をし。
チアキが部屋を出る時、振り返る。
「申請はウカ殿に確認した後になるが・・・本当に申請して、良いか?」
最終確認。それに対し、アリシアは物思うように中を見つめ・・・力強く頷く。それを確認したチアキは、
「そうか、ならばもう止めはしまい。しかと申請してこよう。あと、アリシア殿」
激励かな? と思いチアキを見つめるアリシア。
「肉体年齢が十九歳以上になったならば、件の求婚の話は考えよう!」
もう一度コツン★とやったら静かになった。
すっかり力の抜けた物体と化したチアキを部屋から投げ出す。コレに構っている暇は無い。ウカはきっと、了承の返事を出すだろう。ならば試合の日まで、準備をせねばならない。自分を尖らせなければならない。でなければ彼女には勝てない。自分に有利なのは、この話がチアキからウカに伝わるまでの時間だけ。その間に鍛え、僅かでも勝率を上げておく。なんとしてでも勝たねば。アリシアには、ウカに勝たなければならない野望があった。
今、同盟にはかつて無いほど【幼女ブーム】が吹き荒れていた。
巷には幼女アイドルが溢れ、老いも若きも男も女も、仕事も生活もそっちのけで幼女と萌えの関連性について語り合う。そんな中・・・一人の天才が現れた。
アリシア・イルズベイル。過去に吹き荒れた【幼女ブーム】を今年になって再復興させた幼女優である。
CD、ドラマ、バラエティと多方面に活躍し、更には来年の大河ドラマ「大奥〜幼女の乱〜」の主演に決定しているという噂も、とある情報筋(金髪碧眼のシャバ憎)から入手できるほどの大人気っぷりである。
しかしその女王に、ライバルが現れた。
ウカ・テスカトリポカ。
アリシアと同じ事務所。後輩ながらもメキメキと頭角を見せ始め、あっという間に上位にランクインする。年齢は七歳と、一歳年上のハンディを背負いながらも、抜群のカリスマ性でお茶の間に勢力を伸ばしてきている、アリシアと同じく今、イチオシのアイドルであった。
「奴は近い内に必ずや私の地位を脅かす宿敵となるに違いない・・・。ここで潰しておくのが得策か・・・」
こうして彼女は、御前試合に参加する事を決意する。ライバルであり、共にトップを目指す彼女と決着をつけるために。
そもそも彼女は何故、ここまでウカをライバル視するのか。
彼女は今よりも更に幼き時よりこの世界にて活躍している。そして女王の地位を手に入れ、その地位を維持してきている。何故ここまで固執するのか、恐らく本人にもわからないだろう。
地位権力を特に誇示するのかといえば、そうでもない様子も見せる。もしかしたら幼き頃、偶然見た舞台に出ていた子役の演技に感動し、自分でも気づかないうちに力一杯拍手して、その子役の少女に満面の笑みで「ありがとう」と言われたからかもしれない。
が、真相はわからない。ただ、確実に言えるのは、『アリシア・イルズベイル』は、ウェンブリンのスター選手に憧れるよりも・・・
『幼女・スター』に憧れるようになったのだ!
ウカを倒さなければならない。そう、『幼女・スター』になるために・・・。
しかし、アリシアは気づいていなかった。この部屋の前で、今の話をウカが聞いていたと言う事を。
「アリシア・・・やはり貴女はあのときの事を・・・恨んでいたですのね・・・」
しかも勘違いしていた。
はたして『あのときの事』とは。これを知るためには忌まわしき事件を語らねばならない。
ある所に冒険者になったばかりの少女がいた。
とある谷間にある村から出てきたばかりの、まだ幼い少女。
少女は人よりも少しばかり正義感が強かった。冒険者になりたいと相談した時も、少女の御姉様やクラスメイト、後輩の少女たちは止めに入った。「危ない、せめてもう少し大きくなってからにしなさい」と。
だが彼女は頑として聞き入れなかった。どうしても、冒険者にならなければいけなかったからだ。故郷の御姉様やクラスメイト、未熟な自分を慕ってくれる後輩が安全に暮らせるように。今まで優しくしてくれた皆に恩返しする為に、今度は自分が皆を助ける為に。
だから少女は、冒険者になった。
反対していた人たちも、少女の決意が固いと判断すると笑顔で彼女を送り出してくれた。彼女の御姉様も、その綺麗な黒髪をかきあげながら「仕方ないわね」と、微笑んで、自分の首から外したロザリオを授けてくれた。持ち主に幸運を与え守護する、姉妹の証のロザリオを。
そして、
「お姉さ――じゃなくて! えーと、ウ、ウカさん。帰って来たら・・・その、いつかわ私に、ロザリオを頂け・・・ますか?」
と、言ってくれた後輩の少女。
その笑顔が、嬉しかった。
だから少女は、冒険者になったのだ。皆を守る為に。
守る為に冒険者になったのに。
冒険者になって初めて指令を受けた。記念すべき初依頼。故郷の学校が近い場所。詳細は現場にて。
久しぶりに訪れる故郷。依頼の最中であったものの、まだ幼い少女は御姉様に、クラスメイトに、そして後輩の少女に会えると胸を弾ませていた。
ゲートを越え故郷が見え始めた時、部隊のリーダーから恐ろしい言葉を聞かされた。
「あの村が目標の集落だ。一匹たりとも残すな。必ず、殲滅せよ」
少女は耳を疑った。私の・・・故郷・・・? 目標・・・一体何が・・・?
隊長がなにを言っているのか理解できない。理解したくない。
隊長は自らが一番槍となり、近くにいた村人に攻撃を開始した。黒髪が綺麗な女性。少女の――
少女はただ、人々の悲鳴を前に立ち尽くすだけだった。
何も出来ない自分の元へ、一人の少女が走ってきた。エンジェルの、一つ年下で自分を慕ってくれた、少女。確か、名前は――
「ウカさん、助けてなの! お願い、助けて! お姉さ――」
少女の言葉は最後まで聞けなかった。彼女が何を言いたかったのか、何を言おうとしたのか。その時の少女には、もう、何も、聞こえなかった。聞こえるのは、ただ、鎖の――音―――。
少女は首にかかったロザリオのチェーンを引き千切り、燃え盛る谷間へと投げ落とした。御姉様やクラスメイト、そして、妹になるはずだった、彼女のいる谷間へと。
「チリン」と軽い音を立てながら、その『絆』は消えていった。
涙を流す事すら、出来なかった。
少女は冒険者になった時、守るべき者を失ったのだ。
「――のだ。つづく」
「わ〜い、すごいお爺ちゃん! それで? その女の子はどうなったの?」
「・・・」
「ねぇ、お爺ちゃん! 教えてよ! ラスキューお爺ちゃんたら! ねぇ、お爺ちゃん!・・・・・・お爺ちゃん?」
●幼女転生
ただの自己満足に過ぎない。
例え似ているからとて、彼女が妹のはずはない。あの娘はあの時、死んだのだから。
妹にそっくりな彼女に、あの時渡せなかった物を渡しに。ロザリオは谷間へ捨ててしまったから・・・代わりに、想いを。
伝えられなかった想いを伝える為に。ウカは、御前試合へ向かう。
試合会場。
向かい合う二人。互いに牽制しあっている。
『幼女・スター』を目指す少女と、姉になりきれなかった少女。似て非なる者たちの戦い。
「この勝負、一撃で決まりますね・・・」
「ええ、最初の一手が全てでしょう」
「おや、貴方なかなか話がわかりますねぇ?」
「そういう貴方こそ。どうです? この後一杯」
観客が陣幕裏に控えていたトートにまた連れて行かれる。解説なら解説の仕事しろシャバ憎とヒトノソ。
緊張感からだろうか。場を沈黙(バカを除く)が支配する。
一分が一時間にも感じられる静寂の中、打ち破ったのはウカだった。
「我は無敵也」
「武技言語!? まさか、クノレダ流交殺法までマスターしてるの!?」
アリシアは焦った。萌え勝負に持ち込もうと思っていたのに、先手を取られる何て! まさしくシアピンチ! いや、それどころではない。
いつもと違う雰囲気に呑まれてしまったのだ。こうなっては用意していた居酒屋出禁間違い無しの「醤油一気固め」も「聖幼女領域」も使えない。元々、幼女であるウカ相手に幼女を大量召喚する「聖幼女領域」が通用するとは思えなかったが。
「我が影技に敵う者無し!」
ウカの武技言語が完成していく。残るはあと、一節。だったら、最後の手段。
「我が一撃は 無敵也!!」
武技言語が完成する。ウカの力が何倍にも膨れ上がる。アリシアは絶体絶命のその時に――目が据わっていた。
「負けるのも、女王の座を下ろされるのもイヤなの。だったら、シア、それだったら・・・全部破壊しちゃうのー!! おいで!ヴェイルズーー!!!」
パチーン!
アリシアの指が鳴る。すると遠くの山間から、巨大な何かが飛んでくる。そして謎の誘導波をアリシアに注ぎ、その中へ吸い込まれていくアリシア。
「みんなふっとぶといいのー!!」
「そんなのありかー!!」
絶叫する観客達。ええ、ありなんです。
「うっさい!今までのシリアスな展開無視しやがって!」
キャラが地の文読むな。
「横暴だー!この偽MS横暴だぞー!みなさーん、ここに横暴な偽MSがいますー!」
観客Aはヴェイルズから放たれたビームに焼かれた。
「ギャー!卑怯だぞー!!」
縦横無尽に荒れ狂うビームやミサイル。恐らくヴェイルズのエネルギーが尽きるまで暴れまくるだろう。
ビームは観客だけではなく、当然対戦相手のウカにも降り注ぐ。いくら武技言語で強化していようと、半径五百メートルを対象とする砲撃の嵐を避けられるものではなかった。
紅の光が、ウカを包み込んだ。
ヴェイルズのエネルギーが切れたのは一時間後だった。
勝敗としては、紅の光にウカが包まれた為に死亡だが、流石に巨大ロボットで無差別攻撃は不味かろう、と判断した審判団よりアリシアの反則が言い渡され、この試合は無効試合となった。
「うう、シアの完全勝利だったのに・・・」
官憲に連れて行かれるアリシア。ついでにシャバ憎とヒトノソ。
「結局、勝者は無し、か」
荒れ果てた試合会場を見て、チアキが呟いた。復旧まで少々時間がかかりそうだ。だが、御大は遅延を許さないだろう。恐らく、今回も三十分以内に修復しろと言うはずだ。忙しくなる。
被害状況を知るために試合会場を歩き回る。すると目の前に何かの塊があった。位置から考えると、恐らくウカだったものだろう。
「コヤツがウカ殿じゃろうな。葬送の手配を考えんと」
そう考えていた時、目の前の塊がかすかに動いた。
「・・・・・・・・・ん??」
「・・・・・・ん〜〜〜〜」
聞こえる、呻き声。いや、呻き声と言うには能天気すぎる。言うならば、目覚めの声、とでも言おうか。
「・・・ウカ殿? 生きておるのか??」
「・・・生きてる、ようですの」
へほっ、と、ウカが煙を吐く。
こいつは驚いた! と言いながら、チアキは審判団の元へ走っていく。反則と対戦者死亡で無効試合と思われていたが、死亡選手が生きていたのだ。結果を変更せねばならない。
「私・・・何故生きてますの?」
残念ながらその問に答えられる者はその場所にいない。いや、誰にも答えられないだろう。確かにあの時ウカは、砲撃の嵐の中心にいたのだから。誰よりも傷ついていないと、おかしい。
自分の身体が無事か確かめるウカ。ところどころ、少々焦げているものの、健康体そのものだ。
確認している中、ふと気づいた。今朝、今日の戦いの準備をしていた時にはしていなかったものが首にかかっている。チェーンのついた―――ロザリオ。
見覚えがある。確かこれは、谷間に投げたはず。何故ここに。そもそも今日は一切、この類を装着した覚えは―――
《よいしょ・・・と。これでOKなの!》
《変な事はしなかったでしょうね?》
《さぁ、なの。ふふふ・・・》
「あ―――」
あの時に。アリシアはウカの首にロザリオを―――
「はは、あはは」
笑い声が洩れる。止めようとしても、止まらなかった。雲一つない空の下。ウカは笑い続けていた。
さて、これからどうしようか。知りたい事は沢山あるし、授ける物もある。
取り敢えずはそう、彼女を迎えにいこう。私の可愛い、妹を。
私は―――お姉さんなのだから。
―終―
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