5B38シングルアンプ

JRCの送信管、5B38のシングルアンプです。この真空管を見た瞬間、久しぶりに大型アンプを作ってみたくなりました。基本特性データ取りに始まって半年がかりでやっと出来上がりました。プレート損失420Wの直熱ビーム管でフィラメントがトリエーテッドタングステンです。



<規格>

5B38の規格についてはあまり知られていないようですが、放送局の変調機にB級Push-Pullで使われていました。NHKマークのあるものは、ほとんどがその定期交換品です。以下にJRCの公表データ(AF帯域)を示します。

基本定格
 ・フィラメント:電圧〜12V(中性点付き)、電流〜8.5A、トリエーテッドタングステンM字張り2ユニット並列
 ・相互コンダクタンス:9.0mA/V(Ip=200mA)
 ・外形:全長〜220mm、最大直径〜130mm、重量〜約750g
 ・使用位置:垂直
 ・口金:上部〜A14S(東芝のRD-8、EimacのHR-8、または低損失時には811A用のものが使える)、下部〜E38SA-2(JRCのJ-38S奨励、またはEimacのSK-510が使える)
 ・冷却:自然空冷
 ・グリッドリーク抵抗値:指定なし

B級最大定格
 ・最大プレート電圧:3500V
 ・スクリーングリッド電圧:600V
 ・プレート損失:420W
 ・スクリーングリッド損失:80W

B級Push-Pull動作例(2管の値)
 ・プレート電圧:3000V
 ・スクリーングリッド電圧:500V
 ・コントロールグリッド電圧:-95V
 ・プレート電流:125〜740mA
 ・スクリーングリッド電流:3〜55mA
 ・負荷抵抗:8200Ω(P-P間)
 ・励振電力:約0.1W
 ・プレート損失:410W(1管当たり)
 ・出力:1400W

と、ここまでが、JRCの詳細な公式規格表からの抜粋です。これでは概要はわかりますが、オーディオアンプとしては大きすぎてもてあましてしまいます。そこで、3結にして特性曲線をとってみました。そのデータからいくつかの動作例を計算してみました。定期交換品ですので、すべての5B38が同じかどうかはわかりませんが、参考になると思います。

動作例1
 ・プレート電圧:400V
 ・コントロールグリッド電圧:-60V
 ・プレート電流:90mA
 ・負荷抵抗:2940Ω
 ・出力:11.1W

動作例2
 ・プレート電圧:406V
 ・コントロールグリッド電圧:-55V
 ・プレート電流:130mA
 ・負荷抵抗:1860Ω
 ・出力:13.1W

動作例3
 ・プレート電圧:500V
 ・コントロールグリッド電圧:-75V
 ・プレート電流:120mA
 ・負荷抵抗:2900Ω
 ・出力:18.6W

本機の動作
 ・プレート電圧:485V
 ・コントロールグリッド電圧:カソード抵抗に440Ω(100W)
 ・プレート電流:125mA
 ・負荷抵抗:約1750Ω(FX50-3.5Sを16Ω→8Ωとして使用)
 ・出力:約20W



<本機の概要>

回路構成は、5693−76のCR結合+トランス結合(タンゴNC-15、1:2)−5B38(3結)です。初段に5693を用いたのは、シールドケースなしでもSN比が稼げることと、緑のシャーシに赤が映えると思い用いました。6SJ7でもWE310Aでも同様に使えると思います。次段の76は入力トランスとの相性で比較的電流の流せる電圧増幅管なので用いました。76は私の好きな真空管の1つで、そういうことも選択理由の1つです。ML4などでも良かったのですが、欧州管は似合いそうもないので止めました。この段に小型の出力管(一部845等の大型管)を用いる方もいらっしゃいますが、グリッド励振するわけでもなく、あまり意味がないように思います。
トランス結合としたのは、5B38のグリッドリーク抵抗値が判らなかったからです。一般に送信管は、グリッド電流を流す場合が多いので、グリッドリーク抵抗値はできるだけ低くすることが好ましいです。たとえば、同じくJRCの4B20(傍熱ビーム管)などは、詳細な公式規格表では10kΩ未満と記されていますが、残念なことにそれを知らずに使われている方も結構いらっしゃるようです。
終段の5B38は、フィラメント中性点を使用せずにハムバランサーを用いてハムのキャンセルをしています。また、プレート電流監視用にDC300mAのメーター(特注)をカソード側に設けました。カソード抵抗は、メタルクラッドの880Ω50W(300B用で入手容易)を並列にして放熱器に取り付けました。スクリーングリッドは、100Ω5Wを介してプレートに接続して3結としています。
出力トランスは、大電流を流すので手持ちのFX50-3.5Sを2次側のインピーダンス操作で負荷抵抗が1.75kΩとなるようにしました。このトランスは、200mAまで許容範囲となっています。プレートキャップは、プレート損失が約60Wと小さいので811A用のタイト製の物を用いました。ソケットはEimacのSK-510です。
電源部は、フィラメントトランス(特注)を別にして、フィラメント点火から120秒後に高圧がかかるようにタイムリレーをつけて高圧回路とは別回路にしています。高圧回路は、ST-350のブリッジ整流(1S2711×4)でチョークコイルは、MC3-350D、コンデンサーはダイオード側が東一の630V75μFフィルムコンで供給側がスプラーグの400V390μFの直列(100kΩ5Wで分配)としています。

本機では扱う電流が、さまざまなのでケーブルの使い分けが必要です。つまり、音声部分にはモガミの0.5SQOFC、一般配線はサーマックスのテフロンケーブル(AWG20)、5B38のフィラメントは1.25SQの耐熱グラスファイバー被服線、1次側AC100Vには0.75SQテフロンケーブルです。ケーブルのサイズと許容電流のデータを示します。

公称断面積 許容電流(A)
AWG No. SQ(mm2) MIL-W-76B-LW,MW
(80℃)
MIL-W-16878D,TypeB&C
(105℃)
28 0.08 -
26 0.15
24 0.2 5.5
22 0.3 7.5 8.5
20 0.5 10
18 0.75 13 14
16 1.25 17 18
14 22 23
12 3.5 33
10 5.5 45
56
14 79

周期温度75℃における許容電流表


現在馴らし運転中ですが、ゲインも十分あり余裕の再生音は、愛用のRE604等の古典管とはまったく別次元の世界を醸し出してくれるアンプです。特に「海ゆかば」では、友竹正則氏の浪々と歌い上げる臨場感はすばらしく、母国の勝利を信じて散っていった兵士たちへの思いが伝わってきます。


<おまけ>
5B38入手時の注意点
この真空管は、ノーゲッタ、ダブルフィラメントの真空管です。よって、@真空度が保たれているか?Aフィラメントは全エレメントが生きているか?が、最低のチェック項目となります。テスターチャックでは、判りません。実際に定格でフィラメントを点灯してエレメントが輝度差なく灯ることを確認する必要があります。管壁の傷やくすみは言うに及びません。