日本の送信管 その2〜ガラス管(プレート損失100W以上)

JRCの4T62です。グラファイトプレートで、プレート損失100Wの傍熱3極管です。カソードが、3本入っています。ラジオ局で使用していたものです。増幅率が10なので、オーディオアンプでも使いやすいです。あまり見かけない真空管です。

JRCの4B20です。形状は、前述の4T62と全く同サイズで、グラファイトプレートのプレート損失100Wのビーム極管です。NHKのラジオ局で音声増幅変調用に使われていたものです。この真空管は、放出品としてときどきオークションや通販等で入手可能です。グリッドリーク抵抗が最大10kΩですが、これを無視してオーディオアンプで使用している例をよく見かけます。詳細な規格が公表されていないのでやむをえないのかもしれませんが、残念です。

東芝の4B13です。813と呼んだ方が有名かもしれません。バリエーションが多く、グラファイトプレートのものもよく見かけます。東芝のものは、ジルコニウム塗布の板プレートでノーゲッタです。大変きれいな真空管です。プレート損失は125Wで、スクリーングリッドに750Vまで印加できます。本来は業務用の送信管ですが、最近では3極管接続でオーディオアンプにも使われています。

4B38は、日本独自の大型ビーム管で大きなプレートに3本のカソードとグリッドが配置されて内部で並列に接続してあります。プレート損失は150Wで、ヒーターは6.3V4.8A、AF帯域のAB1級音声増幅または変調に使われていました。画像の真空管は、NHK放出品です。新型(右:アルミベース)と旧型(左:真鍮にニッケルメッキ)の2タイプがあります。電極構造は全く同じです。オーディオアンプにも使用可能で以前3結でシングルアンプを作りました。なかなか芯の太い音がしたことを覚えています。この真空管はウォームアップに60秒かかります。姉妹管に増幅度を下げたA級音声増幅用の4B85があります。

4B85は、日本独自の大型ビーム管で大きなプレートに3本のカソードとグリッドが配置されて内部で並列に接続してあります。プレート損失は150Wで、ヒーターは6.3V4.8A、AF帯域のA級またはAB1級音声増幅または変調に使われていました。画像の真空管は、やっとの思いで入手した最後期の新品です。上記の4B38と電極構造は全く同じです。スクリーングリッドの耐圧が300Vmaxという点が少しネックですが、オーディオアンプにも使用可能です。この真空管もウォームアップに60秒かかります。

日立の直熱3極管の5T23です。残念ながら、規格はわかりません。クラスから見てプレート損失400〜500W程度の高増幅率管だと思います。

JRCの直熱ビーム管の5B38です。プレート損失420Wで25MHzまで使用できます。この真空管はゲッターはありせん。プレートは、後述のP250Aがジルコニウム塗布の板プレートであるのに対して、こちらはグラファイトブロックにジルコニウムを塗布した強固なものになっています。フィラメントは、12V8.5Aと扱いやすい仕様です。ベースは、超大型5ピンで4−1000Aと同じです。電極下部に小型の碍子が挿入されたものとそうでないものがあります。碍子のある方がプレートの色が若干黒っぽいです。

東芝と改名する前の戦前のマツダのSN-205Cです。この真空管は、最初期に製作されたものでプレートとフィラメントだけでなく、グリッドもリード線引き出しになっています。プレート損失は500Wです。大きさは巨大で最大直径が14cm、高さが本体のみで38cmあります。プレートはフィン付のジルコニウム塗布タイプで、使用により若干黒味を帯びていますが、マグネシウムゲッターが美しく残っている逸品です。フィラメントもOKで、このような品が現代に残っていたことは奇跡に近いといえるでしょう。保管されていた方に深く感謝いたします。昭和11年12月製造です。管壁には、グリッド側に「マツダ サイモトロン SN-205C NO.2371」、反対面に「昭和11年12月 特許番号 42161 65861 66883 68096 70891 73511 76697 88786 91280 登録新案 109882 113215 139877 193726」とあり、その下に枠で囲って「61166」とあり、「B」、「東芝電気無線株式会社」(会は旧漢字)、さらにフィラメント側のステムに青色で「30 10 11」「5C T-118 #4」と記載されています。(この真空管は電気通信大学の歴史資料館に展示されています)

東芝のSN-205C(新型)です。この真空管は、昭和初期から30年頃に中波ラジオ局で良く使われていました。現在ではほとんど見かけません。原始的な構造の送信管の生き残りで、フィラメントとプレートは直接のリード線引き出しになっており、プレート損失は500Wです。大きさは巨大で最大直径が14cm、高さが本体のみで38cmあります。プレートはフィン付のジルコニウム塗布タイプで、ゲッターはありません。フィラメントは、一部のHPでは11V8Aとなっていますが、東芝の規格表およびワールドチューブマニュアルによると11V12Aです。実測してみましたが、11V12Aが正しいです。

新型と旧型を比較してみました。製造番号で7000番ほど離れていますが、リード線の引き出し方法とゲッターの有無以外は余り大きな差異はありません。旧型は、プレートとフィラメントの引き出し部の碍子が積層マイカで両端をはさんだ大理石で、グリッドもリード線引き出し(画像右上)になっています。フィラメント部分には玉碍子による接触防止対策も施されています。新型は、全体的に簡略化されており、プレートとフィラメントの引き出し部の碍子はセラミック一体物で、グリッドは端子(画像右下)になっています。フィラメント部分の玉碍子はありません。細かいところでは、プレートのリベットの打ち方とフィンの数、電極と固定用のセラミックスぺーサーの金具の形状、フィラメントの中央部の固定の仕方(左下画像:旧型、中央下画像:新型)が異なります。