300B属

真空管マニアなら誰でも知っていると言うほど有名になった300B属です。1933年のウエスタンエレクトリックの300Aに始まり、2000年前半まで生産されたものを順次紹介します(中国製は紹介しません)。
300Bについては色々と言われていますが、ジャン平賀氏が現地調査して無線と実験1975年12月号に氏が寄稿した文献を元に、表にまとめてみました。300Aの発表が1932年になっていますが、氏が特許等も含めて現地調査したと述べていますので、基本的には間違っていないと思います。
     

1930年代のウエスタンエレクトリック製のWE300A刻印です。300Bの元になった真空管です。幻の真空管と言われており、予算があっても入手は困難です。マグネシウムゲッターでゲッター金具はカップ状、上のマイカはギザギザのある小判型、下のマイカにマグネシア処理は有りません。フィラメントの固定方法は吊り型ですが、3つのパーツを組み合わせた丁寧な造りになっています。この構造は、STCの4300Aに引き継がれています。

前述の300Aから少し後の300Aです。この300Aはフィラメントが直列接続されており、電流は1.3Aです。ジャン平賀氏のデータによると1936年以前の製品になります。マグネシウムゲッターでゲッター金具は板状、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカにマグネシア処理は有りません。上のマイカの形状は変わりましたが、フィラメントの固定方法は前述の300Aと同じです。ベースはまじめに「刻印」されています。

1940年代のウエスタンエレクトリック製のWE300B刻印です。価格が高沸していますが、予算があれば入手可能な真空管です。バリウムゲッターでゲッター金具はリング状、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカはフィラメントの部分のみマグネシア処理です。

刻印からプリントに変更される過渡期に一時的に生産された300Bです。フィラメント電流が1.3Aですから、1943年以前と言うことになります。ベースにコード番号は有りません。バリウムゲッターでゲッター金具はリング状、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカはフィラメントの部分のみマグネシア処理です。刻印の物と全く同じ造りです。

陸軍用のWE300Bです。1947年製造です。バリウムゲッターでゲッター金具はリング状、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカはフィラメントの部分のみマグネシア処理です。刻印の物と全く同じ造りです。

海軍用のUSN-CW-300Bです。1952年製造です。バリウムゲッターでゲッター金具は四角形、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカはフィラメントの部分のみマグネシア処理です。

1956年製造のWE300Bです。バリウムゲッターでゲッター金具は四角形、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカはフィラメントの部分のみマグネシア処理です。ロゴ以外は、USN-CW-300Bと全く同じ造りです。

1965年製造のWE300Bです。これは先のものと違って、バリウムゲッターでゲッター金具は薄いリング状、上のマイカはオムスビ型+膨らんだ短冊、下のマイカは全面マグネシア処理です。

1975年製の通称「ベルマークWE300B」です。ウエスタンが一旦生産終了した後、NASAからの特注があって、それに並行するような形で出回った物です。バリウムゲッターでゲッター金具は薄いリング状、上のマイカはオムスビ型+膨らんだ短冊、下のマイカは全面マグネシア処理です。ベルマークと言うのは、入っている箱に「ベル」のマークが描かれているからです。

1982年製のWE300Bです。造りは1970年代の物と同じですが、ロゴがゴチック体に変更されています。

1988年13週製造のWE300Bです。造りは1970年代の物と同じです。バリウムゲッターでゲッター金具はリング状、上のマイカはオムスビ型+膨らんだ短冊、下のマイカは全面にマグネシア処理をしています。この300Bを以って純正ウエスタン製造の300Bが終焉したと言う人もいます。

1988年26週製造のウエスタン最後のWE300Bです。バリウムゲッターでゲッター金具はリング状、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカは全面にマグネシア処理をしています。この後は、95年以降2000年前半までオーディオマニア向けに再生産されていました。

国産の300Bの代表格の岡谷製HF-300Bです。1970年中頃の真空管ブームに登場した真空管です。極力WE300Bに似せて作ったのですが、ステムの上が平に成型できなかったそうです。良く出来ていますが、残念なことに、ウエストレックスよりクレームが来たので早期に生産を終了してしまいました。バリウムゲッターでゲッター金具は四角形、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカは全面マグネシア処理です。日本製だけあって、現行の中国製よりも丁寧で堅実な造りです。

国産の300Bです。1970年中頃の真空管ブームに登場した真空管です。緑色のベースで「オリジナルとは違う」と差別化しています。良く出来ていますが、残念なことに、ウエストレックスよりクレームが来たので早期に生産を終了してしまいました。バリウムゲッターでゲッター金具はリング状のダブル、上のマイカはオムスビ型+短冊、下のマイカは人造マイカです(ウエスタンは天然マイカを使用)。日本製だけあって、現行の中国製よりも丁寧で堅実な造りです。

米国製セトロンの300Bです。ウエスタンの70年代の300Bによく似ています。プレートは炭化処理されていますが、艶有り仕様になっています。フィラメントの吊り方はウエスタンと同じですが、若干太い線を使っています。ウエスタンの製造が終了して88年製にプレミアがついた90年頃に一斉に出回りました。当時ペアで\7万でした。

米国製ハインツカフマンの300Bです。1972年製造です。プレートはアルミクラッド鋼板でグリッドには金メッキが施されています。ゲッターはリング状で左右に飛ばされています。こちらは、上のマイカはオムスビ型+菱形、下のマイカはウエスタンと良く似た形ですが、マグネシア処理はしていません。また、下のマイカが上のマイカと同じ物を使っているものもあります。「手抜き」のように感じるのは、私だけでしょうか・・・

英国STCの初期1930年代の4300Aです。STCのロゴがない頃の物で、赤で「4300A」と記載しただけの素っ気無い表示です。「STC」とはどこにも書いていません。管の太さはWE300Bと同じですが、背は若干高いです。炭化処理したニッケルプレートで艶が有り、ゲッターはバリウム系で一箇所に飛ばして有ります。ステム上部はWE300Bと同様な成型がしてあります。また、ベースにバヨネットピンは有りません。電極の保持方法は、プレートから横方向にマイカ付きのアームを出して管壁に接触させて固定しています。この方法は、最後まで引き継がれました。

英国STCの4300Aの大型管です。1950年代の軍用管です。WE300Bを少し背を低くしたような形状で管の太さは変わりません。ニッケルプレートにジルコニウムを塗布した丁寧な造りの真空管です。フィラメントが直列接続になっている関係で、ステムは非常にすっきりとしています。

1970年代の英国STCの4300Aです。大きさは2A3クラスになります。WE300B同等ですが、カーボン処理したプレートにさらにジルコニウムを塗布した丁寧な作りになっています。

STCの4300Bです。4300Bという真空管は、1970年代に神戸に有ったサンセイエンタープライズという輸入会社がSTCに特注して作らせたものです。STCの真空管はWEの型番の頭に「4」がつくことから、4300Bと呼ぶようになりました。よって、日本独自の呼び名です。画像のものは、1975年製でバルブ形状を太くした通称「太管」です。形状をWE300Bに近づけていますが、少し背が低くグラマーな印象を受けます。電極の造りは最後期の4300Aと同じです。

WE300B代替管として、1995年頃にトライオードサプライジャパンから発売されたVIAC VALVEのVV30Bです。大きな1枚プレートにフィンを設けた欧州管らしい特徴の真空管です。プレートに切れ込みを入れてフィラメントが見えるようにした物(後期)とそうでない物(初期)の2種類が有ります。フィラメントの保持方法は旧テスラと同じです。良い真空管ですが、WE300Bと全く外形が異なることから、人気はなかったようです。現在は製造されておらず、また市場に出た物も酷使されていたようで、良品はあまり残っていません。


<規格>

名称 フィラメント
電圧(V)
フィラメント
電流(A)
プレート
電圧(V)
プレート
電流(mA)
グリッド
電圧(V)
gm
(mA/V)
内部抵抗
(Ω)
増幅度 負荷抵抗
(Ω)
出力(W) プレート
損失(W)
備考
300A 5 1.2 300 60 -60 - 700 3.85 3500 5.6 -
300B 5 1.2 300 62 -61 5.3 740 3.85 3000 6.0 40
350 60 -74 5.0 790 3.85 4000 7.0