アメリカの真空管(211と845属)

大型3極管で有名な211と845です。プレート損失100W、煌煌と輝くタングステンフィラメント、そして20cmを超える堂々としたその風貌は真空管好きなら1度は手にして見たい誘惑に駆られます。

まずGEの211です。この真空管は、1980年以降のRCAの211が品薄になった頃に、市場に現れました。殆どが軍用箱か商社ブランドです。UEの箱に入ったものもありますが、大抵はUEオリジナルではなく明らかにGEからのOEMのものです。プレートはカーボンブロックの削り出しでがっしりとしていて、いかにも損失100Wに耐えられそうです。一般の受信管と異なって電極のサポートはセラミック碍子でステムから出ているロッドに各所でスポット溶接してステムにビス止めで保持しています。また、プレート電圧1250Vの動作例もあるように、プレートへの引出しはステムの横からになっています。

次は、RCAの211です。こちらの方が先に紹介されたようで、GEよりも人気は高いようです。作りはGEと大差ないのですが、セラミック碍子の形状が少し異なります。その関係で、ステムから出ているロッドの形や各所でのスポット溶接も微妙に異なっています。ただし、プレートへの引出しはGE同様ステムの横からになっています。最近見かける中国製211は、その形状から見てどうもRCAのものを模範にしたのではないかと思います。211の軍用番号はVT4Cです。

211の高信頼管、ユナイテッドエレクトロンのUE211Wです。高信頼タイプで管ゲッタと管上からのガラス棒によるグラファイト製プレートの支えが特徴です。管ゲッタのため、管内が非常に清浄に保たれています。211Wは、この他に通常のゲッタで管上からのガラス棒によるグラファイト製プレートの支えがあるものがあります。ユナイテッドエレクトロンは、他社からのOEMも多く扱っていたのでオリジナルのユナイテッドエレクトロン製は貴重です。ユナイテッドエレクトロンは、OEM分も含めて211や845を1980年代後半に10万本単位で在庫を一掃したらしいです。今手に入るのは、市場で見かける最後の物ではないでしょうか?

アンペックスの211同等管、HF120です。プレートはGEのそれと良く似ていますが、支え方が「コ」の字型の金属板になっています。ベースは真鍮です。

珍しいGEのGL-242Cです。211では有りません。オーディオでは、211=242で差し替えて使用してもなんら問題はありませんが、高周波の領域になると差異が出るようです。このGL-242Cはプレートのみならずグリッドもステムの脇から通してあり、グリッド励振を前提とした設計になっています。

STCの4242Aです。軍用ナンバーはCV25になります。モリブデンプレートで中央部にジルコニウムが塗布されています。ベースはアルミではなくて、真鍮にニッケルめっきのようです。ゲッターは小さいですが、STCの球はどれも少ないようです。

WEの242Cです。モリブデンプレートですが、STCのようなプレート処理はしていないようです。ステムがやたらと長く、他の211系と比べるとちょっと違和感のある真空管です。管壁に着色がありますが、特性は大変良好です。

WEの211Dです。プレート損失75Wと一回り小型で、酸化被膜フィラメントです。軽い動作なら差し替えて使えます。ちなみにこちらの軍用番号は、VT4Bです。

STCの4211Dです。これもプレート損失75Wと一回り小型で、酸化被膜フィラメントです。プレートが酸化ニッケルを使用しているようで、特有の緑色をしています。

NECのUV-211A(昭和46年製)です。211の日本版ですが、プレート損失は75Wです。その他の規格は211と同様ですが、無理は利かないようです。一時期、業務用の放出品を大阪の日本橋のジャンク屋でよく見かけましたが、今ではジャンク屋もほとんど無くなってしまいました。

これもNECのUV-211Aですが、カーボンブロックのプレートです。昭和39年の検査表が入っていましたので、前述の板プレートのものより古いことになります。平行してTB-508Cと記載されています。

マツダのカーボンブロックのプレート、ゲッターありのUV-211Aです。

板プレートのゲッターなしになりました。プレートはジルコニウム処理がされています。

板プレートのゲッターなしになりました。プレートはジルコニウム処理がされています。前述のバリエーションです。

マツダから東芝になった最後期のUV-211Aです。板プレートのゲッターなしになりました。プレートはジルコニウム処理がされています。

マツダと東芝のUV-211Aを並べてみました。マツダ(旧東芝)には、この他にメッシュプレートがあります。

日立のUV-211Aです。昭和25年製ですが、状態は良好です。プレートの形状が若干異なりますが、前述のNECのものと同様の丁寧な造りになっています。

東芝のUV845です。この真空管は、昭和22年製のカーボンプレートです。845の日本版ですが、プレート損失は75Wです。その他の規格は845と同様ですが、無理は利かないようです。

RCAの845です。今では845といえばCETRONを思い浮かべるかもしれません。845と211の関係はグリッドのピッチを変えたものと言われており、845は音声増幅や変調に使い易くした真空管です。外観も構造もご覧のように211そっくりです。軍用番号はVT43です。同等管はWE284Dが有名です。

845の高信頼管、ユナイテッドエレクトロンのUE845Wです。高信頼タイプで管ゲッタと管上からのガラス棒によるグラファイト製プレートの支えが特徴です。管ゲッタのため、管内が非常に清浄に保たれています。845Wは、この他に通常のゲッタで管上からのガラス棒によるグラファイト製プレートの支えがあるものと、通常の845と全く同じ外観のCETRONの845Wがあります。ユナイテッドエレクトロンは、他社からのOEMも多く扱っていたのでオリジナルのユナイテッドエレクトロン製は貴重です。ユナイテッドエレクトロンは、OEM分も含めて211や845を1980年代後半に10万本単位で在庫を一掃したらしいです。今手に入るのは、市場で見かける最後の物ではないでしょうか?

ユナイテッドエレクトロンの845です。通常タイプで電極の支え方が特徴です。上述のWタイプと比べるとどうしても見劣りしますが、丁寧な造りの真空管です。ベースには50時間保障とありますが、これは軍用の定格いっぱいで使う場合であって、私たちアマチュアが使う分には、あまり関係ない値だと思います。新品とのことで入手しましたが、管壁を見るに若干の疑問が残ります。

ユナイテッドエレクトロンのUE120(JAN−CUE120)です。高信頼タイプで管ゲッタと管上からのガラス棒によるグラファイト製プレートの支えが特徴です。211同等管ではなくμが90のHiμ送信管です。同等管に「クラシックバルブ」の掲載のZB120(アンペックス)があります。フィラメントは、トリタンではなく10V2Aで酸化皮膜フィラメントです。

211等に用いるUVソケット各種です。左から東芝純正のHV2002、RCA(ジョンソン)のタイトソケット、そして珍しいGEの薄型UVです。いずれも差し込んでから回転させて固定します。


<規格>

名称 フィラメント
電圧(V)
フィラメント
電流(A)
プレート
電圧(V)
プレート
電流(mA)
グリッド
電圧(V)
gm
(mA/V)
内部抵抗
(Ω)
増幅度 負荷抵抗
(Ω)
出力(W) プレート
損失(W)
GL211 10 3.25 750 34 -46 4400 12 8800 5.6 75
1000 53 -61 3800 7600 12
1250 60 -80 3600 9200 19.7
UV211A 10 3.25 1000 65 -52 3.8 12 7000 10 75
UV845 10 3.25 750 95 -98 3 1700 5 3400 15 75
1000 65 -155 1900 9000 21
1250 52 -209 2100 16000 24