011〜020

SSS011(幸福)カカイル

愛してるって言って。

恋してるって想って。

憎んでるって睨んで。

泣いて。

笑って。

怒って。

呼んで。

見て。

余所見しないで。

全部頂戴。

甘い吐息なら飲んであげる。

恨み言なら聞いてあげる。

だから。

全部頂戴。

存在全て。

その瞳に映すのは俺だけ。

その耳が聴くのは俺の声だけ。

その唇が紡ぐのは俺の名だけ。

アナタの全てを頂戴。




「…怖い」
「どこがぁ?」
「アンタのその考え方よ!」
「あ〜。確かに」
「何で?幸せじゃない」
「それこそどこがよ」
「愛情も恋情も憎悪も怨恨も生じる全ての感情を自分一人に向けてくれるなんて最高に幸せでしょ」
「…俺は嫌だな」
「解らないなぁ。…俺、あの人が他のヤツに関心持つのなんか絶対嫌だけど?」
どんな感情であれ、自分以外のヤツに心奪われるなんて、ゴメンだね。
「まぁ、俺大人だし?我慢してるけどね。…手に入れてない、て誤魔化してるから」
本当はどんな時でも俺に囚われていて欲しいんだけどね。
そこまでは言わない。
求めない。



あぁ、でも。



そうしてくれたらどれ程の幸福感を味わえるんだろう。


SSS012(矛盾)

世の中に手に入らない程愛しくて
憎らしいものなんて…他にない。


思い通りにならなくて

心の全てを持ち去って

ああ

もう

本当に腹が立つ。


でも


それでも


眼は

心は

ア レにしか反応しない。

いつだって

大嫌いだと言ってるのに

気に入らないと叫んでいるのに



気に入らない

腹立たしい

憎らしい



愛しているわよ



大馬鹿野郎


SSS013(憂鬱)

甘美な夢に酔いたくて
アナタのイナイ世界を想像する。

イル時より楽に

イル時より淋しい私。


アナタに触れられた時より
苦い世界


イてもイナクても



アナタで憂鬱


SSS014(ハマる)

ほんの時々

イー性格の男って

タマンナイ。


まぁ。

見てる分にはね。


イナイよ、私は。
アナタなんかの傍らには。

だからお願い。

ヨラナイデ。




きっと



アナタの存在にハマっちゃう。


SSS015(愛撫)

「んふふふぅ」
「…なぁにを楽しんでるんだろーねぇ、俺のお姫様は」
「え〜?」
「楽しい?それ」
「凄く」
蕩けそうな笑顔で、人の指を弄ぶ。
笑える事に、片手を、両手がかりで。
根本的に手の大きさが違うのだから、それもまた仕方のない事かもしれないが。

胡坐を掻いた俺を椅子にして。
目の前の片腕に両腕を絡ませて。
その手を両手で。

指を掴んで引っ張って。
開かせて咥えてみたりして。

なすがままの俺に幸せそうな笑顔を向けて。

…いや。
ちょっと違うか。
幸せそうな笑顔は手に向けられてるんだな。
中々に複雑。

「あのね」
「ん?」
「私、アナタの手、凄ぉく好きなの」
「それは光栄」
ぱくり。
嬉しそうに喰うな。
人の指を。




「…あのね」
「なぁに?」
「変な気になったんで、責任とりなさい」
「え」
「え。じゃないよ。先刻から散々弄んでくれたんだからね。充分煽られてるから」
わきわきと放置されていた片手を動かし始める。
「や、ちょっと」
「…俺の手、好きなんデショ?」
「…悪戯する手は好きくない〜」
「だぁめ」



先刻まで遊んで貰っていたから。
今からは、お返し。




倍返ししてあげるから、遠慮しないように。


SSS016(心の場所)カカイル

「問題」
「何ですか?」
悪戯心満載で告げると、可愛らしく首を傾げる。
「恋愛における、心の在り処を答えなさい」
「…アンタ、バカですか」
…まぁ、呆れられるとは思っていたけどね。でも、そんな顔も可愛い人だし。
「まぁまぁ。答えてよ」
「…判りませんよ。そんなの」
「ツマンナイですねぇ」
「そういうアナタはご存知なんですか?」
返し手。
素知らぬ顔で自分から問題を反らそうとするんだからね。
「さぁ?こうかな、と思ってる事はありますヨ」
「…教えてください」
やれやれ。簡単に答えを知ろうとしちゃダメでしょ。仮にも聖職者なんだから。
でも、まぁ、素直に答えてしまう俺が一番ダメかもしれないけど。
「恋はね、下心。愛はね、真心」
「…ロマンチスト」
「そーでもないデス」
だって…ねぇ。
「え。………あ」
解ったのかな?
「漢字?」
「アタリ。でも、なんとなくハマるでしょ?」
「そーですね。結構、納得できます。漢字じゃなくて感覚で」
「ね」
嬉しそうにくすくす笑う相手に湧く想いはシタゴコロ。
「じゃ、こっちからも問題。恋愛における心のあり方を答えなさい」
「心のあり方?」
「はい」
澄ました顔も良いなぁ。
「それはまた…ん〜。難しいですね」
「似たようなものですよ」
「言葉遊びの範疇?」
「昔聞いただけですよ」
「……降参」
もう少し考えても良いけど。でも、聞いて欲しいって顔してるしね。
「恋は、心が来い来いって呼ぶから『こい』。愛は心が逢えたから『あい』」
「成程」
得意そうな顔する相手に相槌をうって。
そういえば昔誰かから聞いた事があったなぁ…なんて想い出す。
「じゃ、俺たちは?」
「…え」
「どっちかな?」
恋の範疇?それとも愛の範疇?
「…ん〜。両方?」
「両方?」
両方ねぇ…。真っ向から否定するかと思っていたんだけど。
「…だって…。『逢って』るけど、アナタは目いっぱい『呼ぶ』し、それに…」
「それに?」
「や、優しい…けど、その…」
「下心いっぱい?」
「…」
目だけで促せば頬をほんのり染めて、照れながら教えてくれる。
これがまた、可愛い。
「…嫌い、です」
「…それは、困ります」
拗ねてそっぽを向くのもそれはそれは可愛らしいけど、やっぱりこっちを見ていて欲しいし。抱え込めば、少しもがいて、それから大人しくなる。
「こうして逢ってても足りないから、いつでも呼びますよ?」
「…呼んだら、逢いに来てくれるなら、我慢してあげます」
「下心いっぱいでもいい?」
「…ちょっと、嫌です」
良いながらも、きゅ、とシャツを掴んでくれる、意地っ張りの恋人の心は真ん中にあるのかも、しれない。


SSS017(定位置)銀真珠

食事も終わって。
お茶を淹れると。
上機嫌に手招きされる。

いつもの合図。

あまりにも嬉しそうなそれにくすくす笑いながら近寄ると、手を取られて反転させられる。

ぽすん、と落ちたその先は、彼の膝の上。
いつものように抱え込まれてしまえば、自然、抵抗する気も起きない。
「今日もオツカレサマデス」
喉の奥で笑いながら告げられる言葉。
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
「はい」
もそもそ動いて居場所を決める。
据わりの良い体勢になったところで全身の力を抜く。
別に狭くはない部屋なのに、使うスペースはほんの少し。
それがなんだか可笑しくて、つい、笑ってしまう。
「あ〜。何か落ち着く」
「…重いのに?」
「ぜーんぜん、重くないよ」
「嘘ばっか」
しみじみと吐き出される声は本当に落ち着いてるみたいで。
座椅子になっている自覚があるのかないのか判らない。
でも。
でもね。
「…私も落ち着く、かなぁ」
思わず呟いた科白に、くくっと笑うその声がまた、耳をくすぐって気持ち良い。
「じゃ、問題ないでしょ。こうしてる時が一番、好きだよ」
「クッションか枕みたい」
「必需品?それより、定位置ってヤツでしょ」
「…そうかも」
鼻を摺り寄せると、改めて抱き直される。

うん。

貴方が私を抱えるのが好きなら、私も貴方に抱えられるのが好きみたい。
私を抱えて貴方が落ち着くように、貴方の腕の中はとても安心できるから。


「モノには納まりドコロってのがあるからね」
したり顔で宣うお言葉には。

…同感です。


SSS018(午睡)

夏の昼下がり。
何やら作業中の人間を放置して、午睡。
朝からかったるくて。
もう、辛くて。
労わる言葉にあっさり陥落。
とろとろとろとろ、午睡。


軽く魘されて。


優しく揺すられる。


「…ふ…」
薄く瞼を持ち上げると、甘い水の香り。
「飲めるか?」
頭に腕が差し入れられ、そうっと起こされると唇に冷たい感覚。
そのまま口の中に甘く、水の味が拡がる。
随分と喉が渇いていたらしい。
嚥下するだけは自力で。
でも、グラスを持つのも、躯を支えるのも任せきり。
「もう少し寝てろ」
ゆっくりゆっくり飲み終わると、再び寝かされる。
首周りの寝汗だけ拭き取られると、また、安心して眠る。


夕方、もう一度、心配そうなアナタにグラスを差し出されるまで。


SSS019(ネイル)

「だ、だる〜い」
「ん?」
「いや。ちょっと」
だるい。
手が。
テレビで見て、ネットで検索して、ちょっと興味を持った爪の手入れ。

これ、すっごく手が疲れる。

研いで、磨いて、塗って?

ふざけんなよ、て言いたくなる。

爪切りはねぇ、痛むから止めたほうが良いとか。
表面の凹凸減らした方がマニキュアが綺麗だとか。
ちゃんとケアしなきゃ、とか。
マニキュアもねぇ、ベースコートしてポリッシュ塗ってトップコートなんだよ。
3種類も塗るの。しかも正しい塗り方だってある。
神経、指先集中の上、塗りだしたら何も出来ないし。
興味本位で始めるんじゃなかったよぉ。
それでも、ポリッシュまできたからね。
乾かしてトップコート塗れば終わりなのさ。
いやでも。
こういうの、好きでやってる人とか、仕事の人とかって凄く尊敬する。
私にゃ無理だ。
「何?爪?」
「うん」
「道理で妙な匂いがすると思った」
あはははは。
「ごめん」
「…いや。綺麗に塗れてる」
「…ほんと?」
「うん。可愛いし、似合う」
「…何にも出せませんが。動けないし」
顔、赤くなってるかな。
照れる。
真顔で言うから。
「…成程。じゃ、ちょっとバンザイ」
「?」
言われるままにバンザイ。
…垂れたり歪んだりしないよね、きっと。
「よっと」
へ。
躯抱えて、横抱きに膝の上。
「手。ここ」
言われたのは相手の腕。そこを台代わりに腕を乗せる。
あ。
結構楽。
「本、読んでるから、乾くまで台になってあげる」
「ありがと」
「…ん〜。顔、暇でしょ。俺の顔で良いなら悪戯して良いよ」
「…はい?」
顔で顔に悪戯ってどうやるのよ。
変な事言い出すなぁ。
「…キスしてたら、乾くまでの暇つぶし、出来るんじゃないかな」
「…あのね」









爪の手入れに、こんなオプションはないと思う。


SSS020(都々逸)

三千世界の鴉を殺し 主と朝寝をしてみたい♪


「…何、イキナリ」
「都々逸〜」
「そりゃ、知ってるけど。高杉晋作のでしょ、それ」
イキナリ何を言い出すんだかねぇ。もう、眠いんだけど。
「そう。結構艶っぽいと思って」
「ロミジュリにも似た科白あったでしょ」
ヒバリの声か何かをナイチンゲールだと言い張ったんだっけ。
もう、忘れた。読んだけど、あまり好きじゃないのよ。アレ。
…ちなみに、ウェストサイドストーリーも苦手よ。
悲恋は、あまりね。
それにしても、何でイキナリ都々逸。
「…13のガキに言われたくない科白だよなぁ」
「そんなの、シェークスピアに言いなさいよ」
しみじみ言うな。同感ではあるけれど。
そんな事より眠いんだけど。
構いたくない。
「朝が来なきゃ良い…ってのは古今東西一緒なんだねぇ」
「そうかもね。…って、寝かせない気?」
「それも良いなぁ」
いや。
私は眠いから。散々誰かさんに付き合った後だし。
勘弁してください。
「『君と寝やろか五千石取ろか ままよ五千石君と寝よ』」
楽しそうに言うな。
楽しそうに。
「…五千石取って良いから」
眠いんだから。にやにや笑いながらちょっかい出さないで欲しいなぁ。
手も脚も動かすな。
『梅もきらいよ 桜もいやよ ももとももとの間(あい)が良い』って都々逸があるけど。
今の心境は『梅は好きだよ 桜も大好き ももとももとの間はイヤ』っつー感じなんですけど。
替えたからってどうなるもんでもないけど。
なんとかもがいて背を向けたら、後ろから羽交い絞めにされる。
「『不二の雪さえとけるというに 心ひとつが とけぬとは』」
しかも耳元でこんな事言い出す始末。低く甘く…なんて卑怯な手口で。
「〜〜〜〜〜。この、バカ!」

構えば良いんでしょう、構えば!