001〜010

SSS001(熱視線)

熱い…。
呼吸が出来なくなりそう。

感じるのは、視線。

誰よりも熱い、アイツの。

見ないフリ、は出来るけど。

感じないフリ、は出来なくて。

どんどん息が詰まっていく。
息苦しさに息を吐けばなんとも熱い。
躯の中から体温が上昇していく。


お願い、このままどうにかして。


こんな願いはアイツしか思わない。

けれど。

口に出すのは悔しくて。
振り返るのすら本当は悔しい。

ああ。
でも。

限界。




「     」

振り向いて、名前を呼べば、猟犬が姿を現す。
当然のように。
涼しい顔して。


悔しくて、腹立たしくて、泣きたくて。

でも、仕方がない。


アイツの視線だけで熱くなってしまうのだから…。


SSS002(花火)

「花火が見たい」
と言ったら、一瞬目を見開いて、次いで優しく笑って、肯いてくれた。
日時を調べて、天気予報を確認して。
今日は快晴。
月もナシ。
きっと綺麗な花火が見れる。

いつものようにジーンズで、早い時間に迎えに行ったら、部屋に引き込まれる。
にやりとした、含んだ笑顔で渡してくれたのは、綺麗な布。
押し込められたベッドルームで袖を通す、真新しい浴衣。

…用意してくれた?
それにしてもよく、着丈とか判ったなぁ…なんて、詮ない事を考えて。

そぉっと部屋から出ると、満足そうな顔。



はぐれないように、繋いだ手がちょっと嬉しくて。
履きなれない下駄で必死に歩く。

きっと、今日の花火は世界で一番綺麗。


SSS003(無粋)

つまんない、つまんない、つまんない。
週に1度の逢瀬なのに。
目の前の恋人はお仕事に夢中らしい。

それは、しゃべってくれるけど。

ちゃんと、構ってくれるけど。


でも、つまんない。

貴方に構ってもらってる間は物凄く時間が早くて。
今みたいに放っておかれると物凄く時間が遅い。

良いんだけど、別に。
お仕事持ち込むってのは、気を許してくれてる証拠でしょ?
集中しないで構ってくれるのは、私を大事にしてくれてる証拠だよね?
頭、悪くないから。
ちゃんと理解してるんだけど。


でも、感情の割り切りがきかないの。


ねぇ、私と貴方を引き裂く、その電話。
もう、置いて?
明日の朝まで二人で過ごそう?



だって、明日からまた、暫く一緒に居られない。




あぁ、でも。
貴方にとって、理解せず我侭言う私は無粋でしょう。
私にとって、我侭聞いてくれない貴方は無粋なんだから。



でも、きっと。


マメに鳴ってくれちゃう、引き裂きコール。
それが一番、無粋。


SSS004(理想)

「…理想の身長差って、12cm〜15cmらしいぞ」
「らしいね」

俗に言う、男女の身長差らしいんだけど。
今、横に居るヤツはそれに該当するんだけど。

「…でも、私の理想とは違うから」
「…そうなん?」

うん。
違うの。

「私の理想はねぇ、30cm以上かな」
「30cm〜?」

嫌そうに見る相手に内心笑う。

「だって、抱えてもらえそうじゃない?」

すっぽり納まる、あの感じが良いんだよね。
安心感、あるじゃない?

「あそ」

あきれた口調。
良いじゃないの、理想なんだから。

「だからさ」

一呼吸おいて。

「頑張って牛乳飲んでね♪」
「…おう…。…て、え?」

即答してから言葉認識してどうするの。
ちゃんと、私的な理想の理由、あるんだからね。

「成長期、でしょ」

男のコって、まだまだ身長、伸びちゃうじゃない?
私はもうそろそろ打ち止めだけど。

150cmしかない私と、今の時点で15cmも差があるんだよ?
この先、もっともっと差がついちゃうじゃない。

だから、ね。

成長終わるまでにきっと30cm以上の差が出来ちゃうんだもん。
今の時点で理想を30cm以上にしておかないとね。

「…ダメ?」


「…ガンバリマス」


SSS005(押しかけ)

…夏休み。
文化部で部活もない私は、と〜っても暇。
なのに、だ。
オトナリのオサナナジミさんは運動部で、と〜っても忙しい。

逢えない。
つまんない。
隣なのに。
それこそ、窓を空ければ50cmの距離の住人なのに。
逢えないんだよ?

逢いたいのに。
構って欲しいのに。

ムカツク。

…だから。

多分、きっと、疲れてるだろうけど。

部屋に居座ってみたりして。

良いんだ。
小母さんが入れてくれたんだし。
ふん、だ。






「…何で居るんだよ」
「宿題やりにきたの」
「…ふぅ〜ん?」

あ、ムカツク。
絶対疑ってる。
ちゃんと持ってきてるのに。
ヤな奴。





「…夜に押しかけてきて居座ってそれかい」
「ほっといて」

「『逢いたかった』『構って欲しい』って、正直に言いな」
「…」
ムカツク。
その通りだよ、バカ。











「…ちゃんと言えたら、構ってやるよ」


SSS006(口説く)

「…口説いた事、ある?」
「そら、まぁ」
友人の、タラシ君に聞いてみる。
返事は予想通り。で、ついでにお願いしてみる。
「今度見せてよ」
「それって、見るモンなのか?」
「後学の為に、是非」
いやさぁ、ナンパとかってされた事ないし?口説かれた経験もないし。
そういうのって生で見てみたいとか、思うでしょ?
それも知ってるヤツがやってるのなら、尚更ってもんで。
しかも、だ。
目の前の野郎は、本性はさておき、人当たりと容姿は平均点を軽くクリアしてるので成功率高いし。
なんとなく興味深い。
うん。
「…それって相手がいないと…」
「いつでも適当なの、いるでしょーが」
「…見られてるとノれない」
「…使えねー」
別に真横で見たい、とか言ってる訳じゃないのに。
でも、とっかえひっかえしてるから、どう口説き落としてるのか見てみたいし。
言うなれば好奇心、なんだけど。
使えないなぁ。
「…好奇心は猫も殺すって知ってるか?」
「一応。でも、ほら、知識欲ってあるじゃない」
「へぇ」
ま、見せてくれないのは仕方ないかな。
使えないヤツだ。
講義のノート、見せてやってるのに。















「…じゃ、モノは試しで口説かれてみる?」
…顔近付けて、低く笑うのは卑怯だ。


SSS007(欠乏症)別名:吊橋効果

見かけたら嬉しい、とか。
言葉を交わせたら幸せ、とか。
傍に居たらドキドキする、とか。
まぁ、イロイロ言うけれど。




…そんな気持ちになった事って、ないなぁ…。
後から想い返して、『そういえば』と思わないこともないんだけど。
基本的にないし。

もしかして、先天的に恋愛感情欠乏症か?
なんて思うけど。

…ごめん。
マンガや小説ならドキドキできるわ。

って、それ、理想が高いって事かい?

勘弁してよ、もぉ。

稀には、そんな気分も味わってみたいのに。
やってらんなぁい。




「…そいつはご愁傷様」
「ヤな奴だね」
呆れた顔に言われたくないわ。
「そんな変な愚痴に付き合わされる身になってみやがれ」
「しゃあないじゃん」
他に聞いてくれる奴いないんだからさ。
「迷惑」
「じゃあ、なんとかしてよ」
「自分でしろ」
「出来たら愚痴ってない」
「ごもっとも」
感情欠乏してるのは私の所為じゃないしー。
別に2次元にどっぷり浸かってる訳でもないんだけどなぁ。
「…仕方ない、な」
「ん?」
「取り合えず、お試しで俺なんか如何?」
「へ」
「まず、ジョギングかなんかして、物理的に心拍数上げたところで告るとかやってやろうか」
「ハイ?」
何だ、そりゃ。
「手だよ。知らねぇ?運動したり、ジェットコースターなんかで心拍数上げさせた後だと落とし易いんだよ」
「何で?」
「物理的に心拍数上がってるトコロに口説き文句だろ?ついつい、相手にドキドキしてると間違うんだよな」
「へ〜ぇ。勘違い」
「そ。まぁ、それでも適度に好意持ってないと成功しないけど」
「そんなもん?」
「…そもそも嫌いな奴と遊びに行かねぇだろが」
「あ。成程」
妙な事知ってるなぁ…。今のカノジョもそうやって落としたのかなぁ。
「まぁ、そういう訳だから、試してみるか?」
「…アンタ、カノジョいるでしょ」
「…バレなきゃ良いし、試しだし」
「………あ、そう…」



コイツにかかると背徳感で冷や冷やするのも『ドキドキ』のひとつなのだろーか…。
…そんなんなら、ずっと欠乏してても良いかもしれない。


SSS008(束縛)

朝も昼も夜も。
アナタの事ばかり考えてる。

否。

アナタの事ばかり考えさせられてる。

そう。
既に生活の一部になっていて。
いつもは意識すらしてないのだけれど。

たまに、気付く。

アナタに意識を支配されてる生活。

それは、なんて幸福なことか。

でも、教えるのは少々癪だから。
自分だけのナイショ事。







「ねぇねぇ、おべんと作ってきたんだけど」
「あ?」
「…食べて?」
「んー」
「明日も作ってきて良い?」
「ん」
「ありがとう!」

「…断れる訳、ねぇだろ」
「何?」
「何でもない」
「そう?」







段々と侵食されていく、自分。
いつのまにか、親よりオマエの味に慣れてしまってる。

あぁ。

捕まってんなぁ。
いつか。
逃げられなくなるんだろう。
それもまた楽しみ、なんて事は。

絶対に。

教えてやらない。












互いを縛る、甘い甘い束縛。


SSS009(逃避)

「眠い〜」
言いながら、机に伏せる。
ちらりと自分を見るけど、それは多分、無意識。
「…起きてろよ」
最近、口癖になってしまったような言葉をかける。…どうせ、効き目はないが。
研究室で二人きりになると寝てしまう相手を眺めながらレポートを書く。
いつからか当たり前のようになってしまった光景。
誰かが来るまで、本気で眠っていようと起きていようと、顔は机に伏せたまま。
そうするようになったのは、それ程前ではないように思う。
「…逃げるなよ」
あからさまに繰り返される行為の意図を汲めない程、浅い付き合いじゃない。
こいつの眠りは、逃避。
嫌なものから目を背け、知らないフリをする為のもの。
でも。
それでも。


「…いい加減、諦めろ。逃がしてなんかやらねぇから」


熟睡しているのを確認してから告げる自分も、きっと何かから逃げている。


SSS010(捕食)

飢えてる。
渇いてる。

もう、どうしようもないくらいに。

逃げて。
避けて。
なるべく離れてやろうとしてるのに。


どうしても忘却の水は飲めないように出来てるらしい。


飢えて。
渇いて。

カラカラになってく自分。

そろそろ、限界。
もう、相手の為、なんて言っていられない。


建前限界。

本音臨界。


「悪いね」

呟きは風に飛ばされる。


さぁ。
カノジョを捕食しよう。