Birth day



「今日、何の日だったか、知らなかったかなぁ」
 ちょっと特別な日、なんだけど。
 今日だけはね、ちょっと特別。
 何があるという訳でもないし、完全、自己満足的なものだけど。
 今日は一日、貴方といたいな。
 ずっと傍に。
 優しい笑顔が欲しい。
 でも現実はそうはいかない。
 少なくとも、自分に現実は優しくないらしい。




 いつもと同じ無愛想な顔。
 おまけに、いつも以上に無口。
 何も悪いことしてないのに。
 それは…ね。仕事が忙しいの、判ってる。
 大変なの、ちゃあんと知ってる。
 でも、ね。
 それとこれは話が別なんだけどなぁ。
「おい。何ぼーっとしてる」
「あ。ごめんなさい」
 あーぁ。




「…ねぇ、今日、お夕飯一緒に食べない?」
 一世一代の誘い文句。
 今日は、一人でご飯を食べたくないの。
 誰かと一緒したい。
 貴方と。
「…悪い。用があるんだ」
 う…。
「そ、そっかー。じゃ、仕方ないよね」
 用事があるなら仕方ない。
 淋しいけど。
「悪いな。じゃ、帰る。…ちゃんと真っ直ぐ帰れよ」
「はーい」




 やっぱり一人のご飯って味気ない。
 …やっぱり、知らなかったのかなぁ。
 今日、誕生日だったんだけどな。
 だから、独りは嫌だったの。
 だから、貴方と居たかったの。
 自分への内緒のプレゼントのつもりだったのに。
 そんな事思ってるからダメだったのかしら。
 うーん…。




“PIN−PON”
 誰?
 宅配便とかかな。
「はーい」
 ぱたぱたと玄関へ向かって、慌ててドアを開ける。


“ばさっ”


 え?何?
 花束?
「え?」
「じゃ、渡したぞ」
 え?え?え?え?
「え?何?なんで?」
 いきなり現れて(用事はどうしたの?)
 両手いっぱいの花束押し付けて(綺麗)
 背を向けるってどういう事?
「…誕生日だろ」
 立ち止まって。
 顔だけ少し振り向いて。
「プレゼント、だよ」
 えー?
 外灯に照らされた、顔がほんの少し赤い。
 もしかして、用ってこれ?
 まさかね。
 でも。
「なんだよ」
「…ありがとう。凄く、嬉しい」
 最高の、プレゼント。
 深く追求するの、やめよう。
「…ね、お茶飲んで行かない?これのお礼に」
「…少しだけな」






「…貴方の誕生日には何をあげようか」
「…いらん」


END



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