「どこか行くのか?」 「ちょぉっと、街までね」 「…遅くなるなよ」 「だ〜いじょうぶ!2時間くらいで戻るわ」 「そうか」 「じゃ、行って来まぁす」 突然空いてしまった午後、不意に独りになりたくて。だからと言って部屋に篭るのもなんだし、突発的に街に出ることにしてしまった。 いつもいつも同じメンツと顔を合わせてるから。 別にそれが嫌って訳じゃないんだけど(士官学校時代からずっとそういう生活だし、今更ねぇ)、たまにはね。 独りになりたい事もあるってモノよ。 「ん〜」 基地のゲートを出た瞬間に妙な開放感。…久し振りの私服って所為もあるかしら? さて。ここから街まで徒歩30分、てトコね。今日は結構暖かいし、良いお散歩になりそう。 「海も凪いでるわね〜。海岸通って行こうかしら」 砂浜歩くのも悪くない。ふわふわとスカートを翻しながら砂浜まで降りて。気分を出す為に髪もおろしてしまう。 …ま、あんまり結っててハゲるのも嫌だしね。 「次は、キョウスケと一緒に来ましょ」 嫌、て断られそうだけど、そこはそれ、ムリヤリ連れ出せばいいでしょ。一人でもこんな気持ち良いんだから、二人なら幸せに決まって るものね。まぁ、強いて言えば夏と違ってこの時期は団体向きじゃない、て事くらいかしら。 まぁ、どっちも嫌いじゃないけど。とにかく、部屋に篭らなくて良かった。 「…あ」 可愛い! へぇ。もう出てるのね。なんか時期的にちょっと早い気もするけど、綺麗だし、可愛いから許す! …なんて、ね。 ふふ。こういうの見ると春だなぁ、て気になるのよね。子供の頃はよく育てたけど、最近はそんな事全然してないわねぇ…。 ん〜。良いなぁ。 ちょっと欲しいかも。色とりどりで綺麗だし。 「如何ですか?」 「…そうねぇ…」 どれが良いかしら。悩むわねぇ。 「どなたかにプレゼントですか?」 …ん、あぁ、そうねぇ。うん。どうせ買うなら自分用、てのも味気ないし。やっぱり、両手一杯でプレゼント用よね。 別に誕生日でもなければ、何かの記念日、て訳でもないけれど。 プレゼントっていつ貰っても嬉しいモノだもの。…ま、驚くだけで歓んでくれるかはちょっと疑問があるけれど。 まぁ、気持ちくらい汲んでくれるでしょ。 「…えっとねぇ…」 …ふう。 結構重かったわねぇ。…やっぱりこんなに大量だと、持って帰るのも大変。持ち直したり、余計な時間がかかっちゃって。でも、気分良 かったから良いかな〜、なんてね。 後はこれをキョウスケに渡すだけなのよ。 んふふ。どんな顔するかしら?驚く?歓ぶ?それとも呆れる? う〜ん。呆れるのに1票、て感じかしら。こういうのに理解のあるオトコじゃないから。…私にくれたことすらないもの。そんなヤツに 渡して、どんな反応が返ってくるのやら。…ま、興味深いといえば興味深いわね。 「…さぁて。どこにいるのかしら」 この時間だと、格納庫かしら。今日は模擬戦もやるって言ってたから、アルトの整備してるわよね、きっと。 あんなに大事にしてるのに、操縦荒いのよね。それとも、使い方が荒いから大事にしてるのかしら? 「あ!急がなきゃ」 擦れ違いとかになったら大変だわ! 「ん〜…と」 あ。いたいた。やっぱり整備中だった。整備兵たちに混じって、ほんとに楽しそうなんだから。 …ん、まぁ、他の人には判り難い表情だとは思うけど?ガーネットなんか『いつもムスっとしててコワモテ』なんて言ってたくらいだし。 あれを無邪気で可愛い、なんて思うのは私だけかしら? まぁ、その方が都合が良いけど。 「キョウスケぇ〜!」 「エクセレン?」 「ただいま!」 「…あぁ。お帰り」 一応の挨拶を返してもらって。…でも、少し面食らってるみたいね。目だけで聞いてくるから。 『これは何だ』って。 「見て判らない?チューリップよん?」 物自体は見たら解るでしょ?ちょっとばかり量が多かったりするだけで。判らないのは、何で私が持ってるか、よね? 「それは見れば判るが…」 あ。戸惑ってる。可愛い。でも、驚くのはこれからよ? ふふ。 「Unbirthday Present For You!」 言いながら、キョウスケに手渡す。僅かに目を見開いて、それでも咄嗟に受け取る辺りが『らしい』のよねぇ。 「あなたにあげよう、て思って買ってきたのよぉ?」 両手にいっぱいの真っ赤なチューリップ。見かけ以上に重かったんだから、ちゃんと受け取ってね? 「…今日は何かあったか?」 「別に、なぁ〜んにも」 プレゼントする、その行為には意味はないわ。何にもね。強いて言えば、花、そのものには意味付けしたけど。 「…」 「言ったでしょ?『Unbirthday Present』って。なんでもない日のプレゼントよ」 誕生日じゃない日のプレゼント。『なんでもない日おめでとう』…なんて、こんな理由付け、キョウスケは出典も知らなさそうね。 「綺麗でしょ?受け取ってね?」 「…あぁ。ありがとう」 「本当はね、クローバーも付けようかと思ったんだけど、両手は塞がってるし、まだ咲いてなかったから止めたの」 花冠と首飾りをつけたキョウスケ。 …ちょっと想像し辛い、かしらね? 「…どういう取り合わせだ」 「赤いチューリップに白いクローバー、良くない?」 「…大きさが違いすぎないか?」 「大きさはこの際関係ないのよ」 …花言葉、なんて知らないわよね、きっと。はなから興味もないでしょうし。もっとも、こういうのはオンナノコだけの楽しみに近いからね。 花言葉、知ったらどんな反応するのかしらね。 でも、教えてあげない。 「そんなものか」 「そんなものよ」 納得したんだか、してないんだか、微妙な表情で頷くキョウスケがオイシイ。う〜ん。勿体無いから、他の人には見せちゃダメよ?そういう表情は。 「エクセレン」 「ん?…あぁ、花瓶は後で持ってってあげる。でも、他の人にあげちゃダメよ?」 それだけは絶対イヤだからね。 「…何か、意味があるんだな?」 「んふふ〜。秘密。知りたかったら調べてみて。イルム中尉あたりなら知ってると思うわよ?」 …イルム中尉だけじゃなく、お父様のジョナサン博士も詳しそうね。二人共、オンナノコにマメだし。たまぁ〜、に見習って欲しい時もあるけど。 …ま、キョウスケの柄じゃないしね。それに、見習いすぎて浮気なんかイヤだわ。うん。 「…解った」 意味を知った時の貴方の反応が見られないのはちょっと残念だけど。でも、こういうのは私の知らないトコロで知った方が良いと思うのよ。 それに、私も少し怖いしね。 「…ねぇ、キョウスケ?」 「なんだ?」 「ん〜。…やっぱいいわ」 意味を知った後に返事が欲しい…なんて、我侭よね、やっぱり。ついでに、人には向き不向きってのもあるし。 無理はしない方がいいわ。 「そ・れ・よ・り。やっぱりキョウスケって赤が似合うわねぇ。チューリップ、可愛い」 「…あまり嬉しくないが」 そうかしら。花に埋もれて可愛いのに。 「花瓶、用意してくるわ。後でね、キョウスケ」 憮然としてるのがまた可笑しくて。…でも、あんまりからかっちゃ可哀想だから、花瓶を口実に退散。 もうちょっと眺めてても良かったんだけどねぇ。仕方ないじゃない?拗ねさせたら後が怖いし。 今回はこの辺で勘弁してあげなきゃね。 「…エクセレン」 「なぁに?」 呼び止められて振り向く。…要らない、とか言われたらどうしようかしら。 「お前は、どの花が良いんだ?」 え? 「…俺は花なんぞ判らん」 …。 やぁだ。 「貴方がくれるなら何でも…て、そうねぇ。赤いカーネーション、かしら」 真紅のバラってのも捨てがたいわね。 「個人的にはユリなんかも好きよ」 「そうか」 カラーも好きだし、カスミソウも好きよ。綺麗な花を嫌いな人なんて、そんなにいないわ。花粉症の人だって、見てる分には花好きな人、多いもの。 うーん…。関係ないけど、5月1日のスズラン…なんて言ったら混乱しそうよね。結構、アコガレなんだけど。 でも、ね。 「キョウスケ?気にしなくて良いわよ?ただ、思いついて買ってきただけなんだから」 ただ、貴方にあげたかっただけなのよ。 「…そうか」 だから、気にしないでね。 休日の思いつき、なんだから。花に寄せた意味はおまけなんだからね。 「キョウスケ?」 「なら俺も、思いついた時にな」 「何でもない日用、なんだろう?」 |