久しぶりの休み、買い物部隊は一路横浜中華街を訪れていた。 「んじゃあ、キョウスケ少尉。ここに1時間後という事ですね」 「ああ。あまり買い物をし過ぎん様にな」 「大丈夫よ。リュウセイ君達に頼まれたにくまん買ったりとか、アヤ大尉に頼まれた烏龍茶買ったりとか、ライ少尉に頼まれたりした…」 買い物リストでも読むかの様に喋りだすリオに思わず制止の声をあげる。 「…もういい、判った。…では、1時間後にここで」 中華街のシンボルともいえる善隣門を指して言う。 「それじゃあ、行って来ます」 リョウトとリオは、にぎわい始めた中華街のメインストリートの中にするすると消えていった。 「…さて、と」 エクセレンの方を向き直る。すると、物言いたげな表情を浮かべながら対面にあるチャイナドレスを眺めていた。 「エクセレン、行くぞ」 「あ、うん」 キョウスケは、善隣門を潜らずにそのまま横道を歩き出した。 「キョウスケ、中華街って、こっちじゃないの?」 「こっちも中華街だが?つべこべ言わずに着いて来い」 サクサクと歩いていく。 「…こっちだ」 いきなり左に曲がる。上を見上げると善隣門に劣らずの門が聳え立っていた。 「ん、ねえ、キョウスケ。ここは、何?」 「関帝廟通りだ。行くぞ」 左右に中華服やら、中華雑貨やらを売っている店が軒を連ねている。 「ねぇ、キョウスケ。何所に連れてく気?」 途中、観光客に行く手を阻まれかけるが何とかキョウスケの足に追いついた。 「キョウスケ〜」 「いいから、黙って着いて来い」 待ってくれる様子もなく、どんどん進んでゆく。 「あん。ちょっ…」 いきなりまた左に曲がる。左に曲がるしととすぐに今度は右に曲がる。 「店なんて、ないわよぉ?」 ぶら下がっているチャイナドレスの前で、キョウスケが立ち止まった。 見るからに古びた店。その店の前を通るお客すらいない。 こんな場所に自分を連れてきてどうするつもりなのだろう。 「エクセレン」 呼ばれるまま店の中へと入る。 中に入ると、外観とは大違いの光景に少し驚いた。 驚いているエクセレンをよそにキョウスケは店の人間と話をしていた。 「…エクセレン、こっちだ」 「んー?」 店内を見物して回っていたエクセレンを呼ぶ声。 声に誘われるまま、エクセレンは店の奥に足を進めた。 「…話した通りだ。似合うやつを頼む」 「○△☆◎」 何度かエクセレンを眺めやった後、「うんうん」と頷き、エクセレンの理解し難い言葉を発しながら、店員がエクセレンを連れていく。 「えっ?ちょっ…、キョウスケ?」 エクセレンの心配をよそにどんどん奥へ連れていく。 そして、何個かに仕切られている簡易性のフィッティングルームに押しやられた。 「心配するな。何もお前をとって食おうって奴はいないから」 そう言われても有無を言わさず、ニコニコとした表情のまま人の服を引っぺがす人間の何所にそんな信用性があるのだろう。 「きゃっ!ど、どこ触ってんのよ!!」 店の奥から響くのはエクセレンの声だけ。 「ぎゃあ、ちょっとっっ!あっ…、いやん!」 暫くして、店員がニコニコ顔で現れた。 「…できたか」 キョウスケの言葉に頷く。 「…もう、なんなのよぅ。髪はいじられるは、身包み剥がさせるは」 おまけに、いきなり外へ引っ張り出される始末。 よろよろとながらスパンコールの着いたミュールを突っ掛けて奥から出てくる。 「…ほう、これは」 目の前に現れたエクセレンは、斬れそうなほど白く美しい白地に鳳凰と五本指の龍の柄が施されたチャイナドレスを着ていた。 「似合っているな、やはり」 「なによぅ、何が似合っているのか、全然わかんないわよぅ」 エクセレンがそういうと、ニコニコ顔の店員が姿身を店の奥から持ってきた。 カバーを外してエクセレンの前に、置く。 「え…」 目の前の自分の姿に唖然とする。よくよく下を見て、服の裾を持ち上げて見たり、後ろを向いたり自分自身の姿である事を確認する。 「以前、チャイナドレスが着てみたいと言っていただろう。だから、」 そんな些細な、他愛のない言葉を覚えていてくれたのかと思う。 「おまえを連れてこなければ、似合う色が判らないと言われたんでな、リョウトとリオが中華街に行くと言っていたから…いい機会かと思ってな」 少しはにかんだ表情を浮かべながら、キョウスケが言う。 『この上質の白こそが、白騎士の名に相応しい…』 エクセレンの耳に初めて理解できた片言の言葉。それは、店の店主のものだった。 「嬉しいか?」 「う、嬉しくない」 「嬉しくない?」 「…ない、わけないじゃないっ」 涙が出そうなほど嬉しかったのは事実。 「ありがとう…」 「あ、キョウスケ少尉、エクセレン少尉。遅くなりました…って、エクセレン少尉その格好…」 「あ、すっごい!エクセレン少尉とってもお似合いっっ」 「んふふ〜。キョウスケが選んでくれたのよ」 「この白、見た事ないです。こんな白があるなんて、びっくり」 「うん。私も見た事ないのよ。リオが見た事ないんなら、よほど珍しい色なのね?」 「こういう白って滅多に無いですよ。絹本来の白は、白ければ白いほど、高価なんですよ。後は、金に近い色も高価なんですよ。凄いっ!こんな白いチャイナ初めて見たっっ」 リオの歓喜の声にエクセレンは満面の笑みを浮かべた。 「…、買物も終わった事だし、帰ろうか」 唐突にキョウスケが切り出す。 「そうですね、皆、首を長くして待ってますよきっと」 リョウトの言葉に、リオがポンッ…と、手を打つ。 「そうそう。リュウセイ君から『にくまん早く食わせろ』ってメールが入ってきたんだわ」 「そういう事は、早く言わなきゃ…」 「ごめ〜ん。あまりにエクセレン少尉が綺麗だったから見とれちゃって…」 「じゃあ、帰ろうか」 「はいっ」 荷物をトランクルームに積み込むと、車は駆け足で中華街を後に走り去った。 |