SAY...





「・・・接近戦で俺に適うと思うな!」
激しい砂埃を巻き上げて相手目がけて突き進む。
「あ!・・・駄目っ!キョウスケ!!」
「なにっ?」
予期せぬ事態がアルトアイゼンを襲ったのはそれから数秒後の事だった。
「避け・・られた?」
激しい衝撃が襲う。そして、今までどんなに戦っても砕かれる事の無かったアルトの腕が脆く地面に堕ちた。
「まだ、左がある!」
最期の一撃は、相手の動きを完全に制止させたが、その衝撃で僅かに繋がっていた左の腕も堕ち アルトも完全にその機能を停止した。



医務室に向かうヒールの音が響き渡る。
「静かに、今、やっと麻酔が効いて寝た所だから」
身体に痛々しい程包帯を巻かれ、点滴を受けている彼の姿を見るのは彼女にとって初めての事だった。
「大丈夫、彼 丈夫よ。ただ、衝撃で筋肉疲労を起こしているから」
他の患者に使用した医療器具を片付けながら言う。
「側に居ても、構いません?」
「?構うも構わないもエクセレン。あなた、彼の恋人でしょ?側に居てあげなくてどうするのよ」
肩をポンッと叩かれた。
「あ、ありがとう」
側においてある椅子をベッドの脇に寄せ、小さなきしむ音を立てながら座る。
聞こえてくる規則正しい寝息。
「本当、無茶ばかりするんだから・・・」
ベッドの隅に頭を乗せて、そう呟きながら彼の寝息をただ聞いていた。
「恋人って言ったって、らしい事なんて、した事ないもの」
手を繋ぐのも人前を避け、口吻けは数えられる程度、夜を共にした事なんて片手で事足りてしまう。通信は素っ気無い、気の利いた台詞を言ってくれた事など一度もない。それが、おおでをふって恋人と言えるのだろうか。
ただ、判っているのは自分の気持ちだけ。
彼の機体から腕が堕ちた時、泣き叫びそうになった事。
彼の痛々しい姿を目の当りにした時、涙が零れ落ちそうになった事。
「・・・・どうし、た?何を泣いて、いるんだエクセレン」
声に驚いて瞳を上げると、麻酔が効いていて起きる筈のない淀みのない澄んだ深茶色の瞳と視線が絡み合う。
「・・どう、した?痛い場所でも、あるのか?怪我で、もしたか?」
身体が痛むのか顔を僅かに歪めながら、ゆっくりと腕を動かす。点滴の管をうっとうしげにしながら、やっと触れる金糸の様な髪をそっと撫でる。
「心配、かけて・・・済まなかっ、たな」
繰り返される言葉。
「キョウ・・・スケ?」
良く良く瞳を覗くと、澄んではいるものの焦点が定まってはいなかった。
多分、彼は側にある気配に気付き無意識に瞳を開け 口を開いているのだろう。常人技では考えられないが、意識などなくても彼ならやって退けるだろう。
側にある気配が気の置けない相手ならなおさら。
本当、馬鹿な人。でも、だから余計に愛しい。
「こ、これだけ恋人の可愛いエクセレンに心配かけておいて、それだけなのぉ?」
自分でも判る強がりを言ってしまう。
「それは、済まなかったな」
怪我をしている筈なのに、強い力で引き寄せられる。
顔が間近になる。見下ろす彼の顔、思ったより睫が長い事に気が付いた。新しい発見。
「キョウ・・・」
言葉を遮る様に口唇が重ね合わされる。
何時もより長い、理性が飛びそうな程に深い口吻け。
「・・・・生きていられて、良かった」
長い口吻けの後 、ぽつりと告げられた彼の言葉に涙が溢れ落ちる。
「少し、寝て。私は大丈夫、側にいるから」
言葉に応える様にゆっくりと瞳を閉じると、彼は再び深い眠りに就いた。
額にかかる髪をそっと払って、その口唇に口吻ける。







ねぇダーリン、その言葉は真実?
信じて良いのよね?
ねぇダーリン
もう一度だけ、ねぇもう一度だけ言って・・・





「死んでしまったら、お前を抱き締めてやれないだろう」




おわり



ちっとだけコメント。
シリアスな超SS。(携帯メールで作ってもらったものだしね)
…それにしてもキョウスケって超人ですね。
意識なくても(意識がないから?)やる事はやってくれてます。
上水流ありがとう!
あなたのSSは藤原の心の糧ですわ。



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