手を洗う。 綺麗に。 綺麗に。 綺麗に。 落ちない染み。 深紅の。 毎日、少しずつ大きくなっていく。 落とさなきゃ。 一生懸命、落とさなきゃ。 手が、染まっちゃう。 手の平から、ちょっとずつ。 きっといつか、全身が染まってしまう。 紅く。 紅く。 紅く。 血の色に。 「…エクセレン」 どうしよう。落ちない。 「エクセレン!」 「…え?……あぁ、キョウスケ。どしたの?」 いつの間に入って来たのかしら?…まぁ、スペアキィ、渡してあるから問題ないけど。 「いつまで手を洗ってる気だ?」 「…え?」 「俺が来てから、30分は洗っていたが」 「…そ…そんなに?」 気が付かなかった。…だって、染みが落ちなくて。 「何をそんなに…」 「…だって…落ちなくて」 「何がだ?」 「…染みが…」 「どこに?」 「…え…」 だって、紅いのよ?見えない訳がないわ。紅くて紅くて、キョウスケのアルトとは違う、凄く汚い色で、こんなに目立つのに。 「何も無い。…いつも通り白い。この手のどこに染みがある?」 「…キョウ…」 「…いい加減、ふやけるぞ。それに、冷水で洗っていただろう。冷えていつも以上に白い」 …そりゃ、30分以上も手を洗っていたなら、ふやけるけど…。白い?この手が? 「…やはり、冷たいな」 不意に手を握って。指先を口元に持っていく。それを、されるままに見つめて。 「…ねぇ、キョウスケ」 「なんだ?」 「…私の手、白い?」 「あぁ」 「本当に?」 「俺は嘘は言わん」 「え、…あ!あの、嘘とかって、思ってる訳じゃないのよ?ただ…」 「ただ?」 「…血の染みが…落ちないような気がして…」 一戦毎…、ううん。一機墜とす度に手が染まっていく気がする。じんわりと、でも確実に。 血に染まった手。 他人の血に染められていく手。 選んだのは自分。 …でも、染まっていくのは怖い。 だから洗う。 じゃないと染まってしまう。 撃墜の嫌悪が快感に。そして歓喜を伴った朱けの色に。 「…大丈夫だ」 掴んだ手をそのままに引き寄せられる。 「お前は染まらない。いつでも白いままだ」 本当に?…染まってない? 自分じゃ、判らないのよ。人を屠る事に、躊躇いがなくなってく気がするの。…それはとても、怖いのよ。 「…キョウスケ」 「…信じろ。俺の見るお前は、白いのだから」 「……うん…」 |