「…て」 痛みを伴う腕に微妙に顔を顰める。 「失敗したな」 丁寧に巻いた包帯は我ながら上出来だが。それでも怪我をした事実は変わらない。 脳裏に一つの顔を思い描いて苦笑する。 アレはどんな表情をするのだろうか。 「アクセル隊長」 「W17」 「…救急箱をお持ちしました」 「…処置は済んでる」 「…包帯は、怪我を隠す為に巻くものではありません。手当てをしますから、外してください」 呆れたような口調で告げる目の前の人物に黙って腕を差し出す。 …向こうの世界に居た時から、何度も繰り返された会話。 ただ、以前と違う所があるなら。 それは目の前の人形に感情が見え隠れしているという事だろうか。 「…痛いですか?」 黙ったまま『作業』を見詰めていると不安げに問われる。 こんな表情も向こうでは見なかったな、と脳の片隅で思う。 「…いや」 否定すると安堵する。 まるで本物の人間のように。 その変化に戸惑いながらも喜んでいる自分が居る。 「…終わりました」 「…あぁ。悪いな」 「いいえ」 礼を告げると、一瞬目を見開き、次いで曖昧な表情を見せる。 『笑顔』と言うにはあまりにもぎこちない、ソレ。 向けられるのが自分だけという事実に軽く溜飲が下がる。 やっかいな、感情。 持て余し気味なそれに、言葉と意味を当て嵌める気は今はない。 今はまだ、このままで良いと思う。 今はまだ、全ての現実を受け入れられないフリをしていられるから。 人形の変化を黙って見ていられる。 人形が人間に変わっていくのを見るのは、自分だけの特権。 それを誰かに譲渡する気は、欠片もないのだから。 「『ラミア』」 「はい」 「また、替えに来い」 「承知しました」 束縛に従う姿に安堵する。 人形の糸を握るのは自分だと。 そして、思う。 繰り糸に絡んだのはどちらが先だったのだろうか。 |