私の最愛のダンナサマ(まだ結婚してないけど)は、博打が好きで好きで大好きで。 それも、分の悪い方に賭けたがる、ちょっと困った悪癖があるものだから。 しょっちゅう、仲間のカモにされてたりする。だから、お給料前なんかいっつも貧乏、なのよねぇ。 「エクセレンさん。何見てんだい?」 「あら。沙羅ちゃんv」 ブリーフィングルーム。戦闘続きの中、たまの休息を得るとつい、皆が集まってくる場所。 もっとも、宇宙とはいえ地球標準時を採用してる所為で、お子様たちが就寝を余儀なくされた後は適当に年のいった者達の溜まり場になっている。 まぁ、アルコールも適度に摂取出来る(皆、どこぞから出してくるから)、私的にはオアシスな時間なんだけどね。 どうやら、とある一点を集中観察していた事に興味を持たれちゃったらしい。 「ん、ふふっ。…オバカなおにーさんを見てるのv」 「……あぁ。なんだい。ダンナ、またカモにされてんの」 私の視線の先を追って、納得したように呆れ声が返ってくる。 …やっぱり有名なのよねぇ。…キョウスケの博打好き(しかも連敗続き)。だからみんなのカモにされるのよ。…ま、本人はそれすらも楽しんでるようだけど。 「そうなのよぉ。…ん、もう、あのままじゃ丸裸にされちゃうわね」 手元のチップが減りに減ってる。一応現金賭けてるみたいだし、ちょぉっと、ヤバヤバね。 「…無表情の丸裸ってのも怖いね」 「…私としてはちょっと見たい気もするけど…。仕方ない。助けてきましょ」 首を傾げる沙羅ちゃんに、ウィンク一つ。ふふ、と笑って席を立つ。 行き先は、ポーカーをしてるテーブル。どうせまた、分の悪い方に賭けまくって負けが込んでるんだろうから。 「キョウスケ」 「なんだ」 やっぱりね。無表情であまり抑揚のない声だから判り辛いかもしれないけど、随分と不機嫌な声。負けず嫌いなくせに、無謀なことばっかりするのが悪いのよ。 「代わってvv」 「………判った」 にっこり笑って告げると、諦めたようにキョウスケが立ち上がる。いきなりの交代に文句が出るかと思ったけど、まぁ、私がロンドベルでポーカーするのはこれが初めてだし、既に頭を抱えたくなる程に負けてるキョウスケと代わったんだしね。一つの文句も出なかった。 ラッキー、てヤツ? 「さ、取り戻すわよぉ♪」 「…14、15…と。はい、確かに。…やぁねぇ。皆、何伸びてるのよぉ」 キョウスケの負け分を少し多めに取り返して告げる。…そんなに撃沈しなくたって、三人から満遍なく取り返したんだから、それほど損はしてない筈なんだけどねぇ。 「ねーちゃんが強すぎるんだよっ」 「キョウスケはあんなに弱いのに、なんでそんなに強い〜」 「サギだ〜!」 「あらやだ。私は自分の貸した分を取り返しただけよぉ。…ま、ちょぉぉぉっと利子付けたけどvv」 『といち』よりちょっと多く、だから利子としては少し高めなんだけど。 「またしようねv」 「…もぉ。あんまり賭けたりしないでよねぇ。今日は見てたからつい助けちゃったけどぉ」 引っ張って連れて帰った、キョウスケの部屋でお茶を淹れながらつい小言。 口うるさい、とか思われたくはないんだけどね。ほんとは。 「すまんな」 …言葉ほど反省してないわね。もぉ。 「………全然、悪いと思ってないでしょ。もぉ、何で分の悪い方にばかり賭けるかなぁ」 「…ちょっと位、分の悪い方が見返りがデカいんだ」 いつものぼやきにいつもの答え。訓練生時代も含めて、一体何度目になるのかしら。解り切っててもやってしまう。…お互い、よく飽きないし、懲りないわねぇ。 「いつか、破産するわよぉ?」 「そんなヘマしない」 どーだか。…でも、不思議と私もそう思うのよねぇ。私のは、惚れた弱み、ってヤツかしら?…それもねぇ…(微苦笑)。 「その自信はどこからくるのかしらねぇ」 根拠のない自信、てのは良くないわよぉ。無条件で信じてあげるには、連敗記録を知りすぎてるもの。 「実績」 …どこにそんな実績があるのよ。聞いたことないわ。キョウスケの事で知らないことなんて、滅多にないんだから。…大体の事は調べ上げてあるのよ。 「いつの実績なのかしら?すごぉく、聞きたい☆」 うん。すっごく聞きたい。分の悪い賭けに勝ったのなんて、ほんと、数える程しかない筈。それを自信には、いくらキョウスケでも出来ないでしょ。…まぐれってヤツは根拠にならないもの。 「…取り合えず、今までで1番分の悪いヤツと2番目のヤツは外してない」 …だから、まぐれは根拠にならな…え? 「絶対に外せない。だが、これ以上もなく分の悪い賭けに、勝ってる。俺は」 …ただし、賞品は同じだったが。 そう続けて意味ありげに笑う。…キョウスケの笑うところなんて久しぶりに見たわ。…じゃあなくって! 「なぁにぃ?それ。私、知らないわよぉ」 そんな大勝負なら、私が知らない訳ない筈なのに。 でも知らない。賞品だって。同じモノを2つ持ってる(食料品ならとっくに胃袋かもだけど)なんて、知らない。 でも顔は、隠し事をしてるって感じじゃないし。 「キョウスケ?」 「なんだ?」 「どんな勝負だったのかは知らないけど、せめて賞品を教えて?」 賞品が解れば勝負内容は調べようもあるわよねぇ。…いや、聞けばいいのかもしれないんだけど。でも、なんかね。 「…知りたいか?」 「当たり前でしょ」 恋人の事位、なんだって知りたいわよぉ。 だから教えて。 隠し事しないで。 「…仕方ないな」 諦めたような吐息と共に指を指す。…シャワールーム?知ってる限りじゃ、目新しいものなんかなかったけど。 訝しみながらも、取り合えず素直にシャワールームまで行ってみる。 「…どれかしらねぇ?」 わっかんないわぁ。どれもこれもいつも見てる物よねぇ。…て事はそんなに新しいものじゃないって事よね。 新しかったら、この私が見逃す筈ないし。 それに、みんな値段的には高くないし…。これなんか、私が買ったヤツよねぇ。う〜ん。 「キョウスケ〜。どれよぉ」 「…まだ、解らないのか?」 「うん」 降参した私を呆れた顔で眺めながらキョウスケが傍に来る。 なんと言われたって判らないものは判らないんだもの。それに、好奇心には勝てないし。聞いたもん勝ちよね。 「目の前にあるが」 目の前?え?どれ?どこ? 「そっちじゃない。ここ、だ」 後ろから顎を掴まれ、前に顔を上げさせられる。 え?鏡? 「居るだろう、目の前に。お前が。エクセレン」 … ……… ……………………え? 「ちょ、ちょっと、キョウスケ?」 やだ。思考が飛びそう。 顔が熱い。 ううん。顔だけじゃなくて、全身が熱い。 「…お前を手に入れた時と、取り戻した時。あれ以上、分の悪い賭けをした事は、俺はない」 …。 「それと、お前以上に高価い見返りも、俺は知らない」 なんて。 なんて科白。 真顔で、さも当然の事という風に言葉を紡ぐキョウスケは自覚してないみたいだけど。 なんて、極上な告白。 照れ屋で、滅多にそんな事(愛情表現ね)しない&言わない人だから。こんな科白は極上の、最高の殺し文句に聞こえる。 これ以上欲張ったら罰が当たるわね。きっと。 でも。 「ねえ、キョウスケ?」 「ん?」 「私って、そんなに高価いの」 ねぇ、言って。 貴方の言葉でいいから。 「……………」 「キョウスケ」 お願い。聞かせて。 両手でキョウスケの頬を押さえて固定する。それ程の力は入れてないから、振り払おうとすれば振り払えるでしょ。 そんなこと、出来るタイプじゃないけど。 「……………少なくとも、取り戻した時のチップは命だった」 真顔で、そう告げられる。…あぁ。そうねぇ。 敵に操られてた自分。 今でも、ぼんやりと憶えているけれど。思い出そうとするだけで、身体が震えるような恐怖心すら、あるけれど。 あの時、貴方に、本気で銃口を向けていたわ。 確かに、そうね。成功したから今、二人でここに居られるけど。失敗してたら最低でもどちらかは死んでたわね。 聞くだけ、野暮だったかしら? でも、ね。悪いと思ってても、ちゃんと言って貰えるチャンスなんて滅多に降って来ないから。しかも、素面でなんて。 だから。 聞かせて? 「……………………………どんなものでもお前に代わるものはない」 一瞬、視線を巡らし、逃げ場を探そうとしたけれど。 それでも、逃げるのは性に合わないらしくて。 視線を逸らしつつ、ぶっきらぼうに、それでもってどことなく照れくさそうに言ってくれる。 …目の前が、眩みそうな程の幸福感。 「…ねぇ。もう一回言って?」 無理だと知ってはいても、つい、ねだりたくなる。それは仕方のないことね。 「……………言えるか。馬鹿」 肩口にずり落ちたキョウスケの小さな返事。それすらも睦言に聞こえたのは、秘密。 「また、カモられてるの?懲りないね」 「あら。イイのよぉ。そこが♪」 相変わらずの呆れ声に笑いかける。…だって、ねぇ。 「痘痕もえくぼってヤツかい?」 「ん〜。ちょっと、違うかなぁ。…キョウスケったら結構、運が強いの解ったから」 今はまた負けてるけど。どうせ勝てないだろうってのも解っているけれど。そんなんじゃ、ないのよね。 「命や人生のかかった大一番だけは、勝ってるそうなのよ」 「…へぇ。証拠って、あるの?確信のないことなんて言わないだろ?」 興味深そうな、大きな瞳に覗かれる。 「…証拠はねぇ、私」 今、無事にここにいる私自身。キョウスケは、そう、言ったの。 解るでしょ? 「…それは、確かに強いかもしれないね。今はあんなだけど」 「そ。今はあんなだけどv」 私の最愛のダンナさまは。 無口で無愛想で無表情で。 分の悪い賭けが大好きで。 ロマンチック、なんて言葉とは全く無縁なタイプなんだけど。 時々、本当に欲しい言葉をくれる。 だから、ね。 だからねぇ? 『 Lovin'you my Darling 』 |