「アルー!着替え終わったぁ?」 娘の部屋を開けると、七転八倒しながらのお着替えタイム。児童に、可愛い反面、煩雑な服を与える自分が悪いのか、それとも予定外に不器用な娘が悪いのか、判断に悩む瞬間である。 「まだぁ〜」 「あらあら。少ぉし、急いでくださいな?パパが待ちくたびれちゃうわ」 必死な表情で服と格闘している姿に優しい笑みを溢して『お願い』してみる。手伝ってしまえば早いのだろうが、それをしては躾にならないし、ましてや娘自身が嫌がるのが判っているので。 「ん、ん。もちょっとなのぉ」 「じゃ、終わったら来てね?待ってるわ」 「ん!」 「…まだ、なんだな?」 「オンナノコの支度は時間が掛かる事に決まってるのよん?」 呆れた表情の夫に娘の状態を伝える。もっとも、時間にはかなりの余裕を見てる為、全く焦る様子はない。 「…まだそんな年でもないだろう。自分でやりたいだけなんじゃないのか?」 自分で満足に服も着られない子供相手に何を…といった表情に、軽い悪戯心が湧きあがった。 「まぁ、半分はね。…でも、そんな年でもあるのよぉ?」 「…あ?」 唐突な爆弾発言(夫的に)に、思わず顔を上げる。未だ幼い娘の、どこが『そんな年』であると言うのだろうか。 「うふふ。あの子ったらねぇ…、この前ラブレター貰ってたもの。アナクロだけど、効果的よねぇ」 やっぱり母親と一緒で罪な女になりそうよねぇ。何せ、私に似て可愛いし? くすくす続ける妻に不機嫌そうな視線を送る。知らず、随分と険しい表情になってしまう。母親に似て可愛いという意見には同意できるが…というところだろうか。 「…おい」 「やぁねぇ。眉間に皺、寄ってるわよ?パパ?」 「うるさいぞ」 楽しそうに指摘され、ますます不機嫌になってしまう。 「大丈夫よ。まだまだパパが一番、て子だから。…でも、覚悟はしておいてね?貴方はまだまだ小さいと思っていたいみたいだけど、オンナノコはあっという間に大人になるのよ?」 「…」 「私が貴方を見つけたみたいに…、貴方が私をパパから奪ったみたいに…いつかは手が離れるんだからね?」 「……」 「ママぁ〜!出来たぁ!」 「…どれ?…ん、可愛い。よく出来ました」 ちゅ。 格闘の末、なんとか服を着るのに成功したのだろう。嬉しそうに飛び込んでくる娘を抱きとめ、手早く姿をチェックすると頬にご褒美を送る。褒められて、誇らしげに一回転する姿が可愛らしい。 「…あれ…?…パパ…。怒ってる?」 ふと、父親の表情を見咎めて、母親の裾を引っ張る。 「怒ってないわよ?」 「だって…」 母親の言葉が信じられない訳ではないのだろうが、不安そうに見上げる。それに内心嘆息して…ちらりと夫を盗み見る。 不機嫌そうな…それでいて複雑な色を見せる瞳にくすりと微笑む。 「あぁ。アレはねぇ…。パパ、アルと手を繋ぎたいんだって。でも、恥ずかしくて言えないのよ?やぁね」 父親の不機嫌の理由なんて、まだ、理解出来ないだろう。また、父親の方もまだ、暴露されたくないだろうと、結果的に父娘が喜びそうな理由を娘に教える。 特に抗議の声がなかったという事は、文句もないのだろうし…と内心、自分に都合よく解釈してしまうのも忘れない。 「本当?」 「ほんと。…手、繋いであげてね?…それともアルは抱っこのが良いかしら?」 「うん!」 所詮、嬉しそうな娘の笑顔に敵う訳はないのだから。 「…エクセレン」 「スキンシップも今のうちよ?Darling」 「……Darlingはよせ」 「パパぁ。抱っこ!」 「…あぁ」 |