「…あ」 実習後の整備中。現在実習中の訓練機が目に入る。 1年上なのだろう。同期たちより幾分マシな動きをする機体たちの中、1機だけが突出して視界に飛び込んできた。 「……」 滑らか且つ鮮やかな動き。 完璧とも言える機体制御。 何よりも、その射撃技術に目を奪われる。 自分にはひっくり返っても無理なそれは、まるで教官機のようで。 意識が、完全にそこに固定された。 「よ!キョウスケ」 「……………イルム少尉」 整備の手も止まり、ただただ1機の訓練機を見つめていたキョウスケの肩が不意に叩かれる。 驚いて(とは言っても表情には全く出なかったが)振り向けば、顔見知り。本来なら士官学校なぞにいないだろう人物の登場に怪訝な目を向ける。 「久し振りだな。…で、何見てたんだ?」 「…別に。何も」 楽しげに尋ねてくる相手に素っ気無く返す。自分の愛想の無さを意に帰さない数少ない人物なだけに対応にも安心が出る。 「…何もって事はねぇだろ。あんなに熱心に見詰めちゃってたクセに。…んー。お前があそこら辺の女の子を見てる訳はないし…。とすると…あぁ!あれか!」 キョウスケの視線の先を追いかけたイルムが納得した顔で頷く。 「…少尉」 「あの機体、だろ?」 違える事無く指差すイルムに憮然とした表情を見せる。 そこまであからさまに見ていたのか、と。 「うん。なかなか良い動きだな〜。誰が搭乗してんだ?」 「………多分、ですが。…エクセレン・ブロウニング。1期上の、主席です」 イルムの疑問に答える。確認した訳ではないが、間違っては居ない筈。…何度も見た動きだ。 「へえ。あれがね…。……なぁ、美人か?」 「…そういう、評判です」 「…評判って…お前なぁ…。見た事位あるんだろう?お前の感想はないのか?」 「…さぁ」 呆れたようなイルムをちろりと一瞥して、興味もなさそうに息を吐き、模擬戦の終了した訓練機から降りる姿を視界から外す。ペイント弾の掠った痕すらない機体はたった一機。見学していた他の訓練生が歓声を上げ、囲むように集まって行くのも見えた。 …エクセレン・ブロウニング。金髪碧眼の明るい美人。人目を引くその容姿は、遠目にも艶やかだった。 そう。然程、女性に興味を持っていないキョウスケの記憶に残る程度には。 ただ、それをわざわざ人に告げる気はキョウスケにはなかったが。 「…つまんねー。…でもまぁ、確かに美人だし、PT以外に興味がないお前さんが憶えてる位だしなぁ」 「どういう意味ですか」 「いや、モノにしたら報告してくれ」 「………は?!」 「なぁ、キョウスケ」 「なんですか。イルム中尉」 「俺、昔お前と約束したよなぁ?」 「何をです?」 「エクセレン、モノにしたら教えろって」 「…知りません」 「嘘つけ。記憶力の良いお前が忘れてる訳ないだろ」 「…忘れました。士官学校の時の事は」 「…憶えてんじゃねーか…」 |