雑貨屋さんて好き。 可愛いのがいっぱいあって。 中でも、キッチン雑貨ってスゴく可愛いよね。 まぁ、買うのは食器くらいなんだけど。 だって、料理なんか出来ないし。 せっかくの道具が使われないのは可哀想だし。 ホウロウのお鍋なんか、形からして可愛いんだけどさ。 だから、基本的には見るだけなんだけど。 それでも結構楽しい。 でもね。 珍しく、本当に珍しく、欲しいモノが出来ちゃって。 ウィンドウに飾ってあるのを良いことに、毎日覗き込んでいたりします。 「あ〜」 可愛い!これ絶対可愛い! 欲しい! 金額も高くない! でも、多分使わない! だから買えない。 悔しいなぁ。お料理出来たら絶対買うのに。 買ったトコロで、失敗が怖くて使えない自信があるよ。ん〜。我ながら何で、こう不器用かな。周囲にはお料理上手な人が揃ってるのに。困ったもんだ。 「あ〜。か〜わ〜い〜い〜」 シンプルと言えばシンプルなんだけど、可愛いよぉ。 「…なぁに、唸ってんだよ?」 「ふぇ?」 いきなり真上…と言うか、真後ろから声がして、びっくりしたまま飛び退く。 「おぉ〜。よく跳ねんなぁ」 「ポプラン少佐!」 すっごぉく珍しく、一人のポプラン少佐。…振られたのかな? 「何、張り付いてんだ?一時間近くも」 え?そんなに見てた? 「俺が出先からフラットに戻る時に見かけたのがそれ位」 じぃっ、と少佐を見てたら説明してくれる。 んー?えぇっと、出先から戻った時に見て、今はまた出掛けるトコロなのかな?軍服着てるから、行き先は多分、オフィス。 …って事は。 「あちゃ」 そんなに見てたんだ。少佐がお家で用を済ませてもっかい通るまで、確実に動いてないって事だもんね。はうう。お店に迷惑だよ〜! 「んで?」 「はい?」 「どれが欲しいって?」 私の頭を大きな手でぽんぽんとして、ウィンドウの中を覗く。 …私がやっててもそこそこ目立つ(ってか、目立った)と思うのに、男の人がやったらすっごく悪目立ちすると思う。 しかもほら。少佐って有名人なんだから! 実際、通りすがりの人が面白そうに振り返ってる。 「アリス?」 「…あ。え〜とね、これ」 呼ばれて慌てて指差す。 「あん?…何コレ。調理器具か何かか?」 おお〜。当たりだ。 「そーです」 「…買わないのか?」 あぁ!言われると思った! でも、買えない理由があるんだもん。 「隊長が無駄遣いするなって」 「…まぁた、説得力皆無な…」 思いっきり呆れた顔。 …ん、まぁ、確かに全然、説得力ないんだけどさ。隊長ってば、たまに変なもの買ってくるし。 でも、隊長って『くだらないもの』は買うけど、『使わないもの』は買わないんだよね。だから、その辺の基準が難しいんだ。 ついでに言うと、女の人に使うお金は制限ナシ(一人に貢ぐとかじゃなくてね?)のポプラン少佐だって、あんまり他人の事は言えないと思うんだけど。 無駄遣いしないのは、やっぱりコーネフ少佐なのかなぁ?後は、コールドウェル大尉とか、リンツ中佐とかもかな? ブルームハルト大尉は、無駄遣いはしないけど、食費がいっぱい。 そうじゃなくて。 隊長の基準だと、アレ(欲しいモノ)は、『くだらない』物じゃないけど、『使わない』物だから。買って無駄にする位なら買っちゃ駄目なんだよね。 だから。 すっごく欲しいけど、ちょっと、手が出しにくい。 「あれって、何か難しいのか? …あ〜。一般規格で」 …規格外って言われた気がする。 「簡単な方だと思います。材料も、簡単なの売ってた」 それでも、失敗しそうだけど。 「アリスでも?」 「ん、ん〜。多分」 失敗しそうだけど、他のよりマシ!な筈。 前、可愛くて買ったセルクル(お菓子の型)なんか、使えなくて泣いたもんね。ってか、挑戦はしてみたんだけど、セルクルを使うトコまで行きつかなかった。…んで、コーネフ少佐にあげちゃった。(要らないって言ってた割に、使ってクッキー焼いてくれた) あ。また話がずれた。 「でも、分量判んないです」 「あ?」 「材料ね、パッケージにレシピあるんですけど、そこに書いてある通りにしか作れないから。でも、量多かったら、食べ切んないでしょ」 だから、買っても使わないと思うし。 それ以前に、レシピ通りに作れるか滅茶苦茶不安だし。それでもって、失敗しなくなるまで練習しちゃうと、それ以外食べるものなくなりそうだし。 要するに、買うだけ持ち腐れ(使えないから)になるのが、目に見えてるんだよね。だから結局、無駄遣いになっちゃって買えない、と。 悔しいけど、隊長はタダシイ。 「…ふむ」 「少佐?」 「アリスは、買えないんだよな?アキヤマ的無駄遣いになるから」 「はい」 買っても黙ってたら良いのかも…とは、ちらっと思ったけど、どうせバレるんだもん。 怒った隊長って怖いし、それなら、最初から我慢した方がマシ。 「じゃ、俺が買ってやろう」 「ふぇ?…って、ダメですよっ!女の人じゃないんだから、投資し甲斐ないよ?」 そんな!勿体無いよ!コレ買うので、お花とかチョコボンボンとか買わないと! 「…俺を何だと思ってるんだ、お前さんは」 「ポプラン少佐」 ジト目で見られる。…何か、変な事言ったかな? 「…。も、いーです。…じゃなくてな?」 「はい」 にーっこり、悪戯を思い付いた時みたいな顔。なんか、わくわくする。 「こーいうの、貰ったらさ」 うん。 「贈り主に使った成果、見せないとダメだろ?」 …あ。 「おにーさんは、シミュレーション後とか、書類で頭使ってる時に食べたいなぁ?」 うん!家で使ったら、食べ切れないのも、オフィスだったら食べ切れる。それに、オフィスなら、お料理上手な人、いっぱいいるし! 「少佐、あったまいー」 「アリスよりは、ずっとな。それに、アレの型。形が気に入った。俺以外に買って貰っちゃ、マズかろ」 ぱちん。 片方だけ閉じた、キレーなウィンク。うわぁ…。カッコいい人がやると、カッコいいんだなぁ。 …私なんか、両目瞑っちゃうけどなぁ。 「ほら行くぞ。アレ買って、他にも何か買うんだろ。混ぜるのとか、ボウル?それと材料とか。どうせ出番だから、持ってってやるし」 「はぁい。…あ。私もこれから出番だ」 「…遅刻する気だったのか」 「あははははは」 「…罰として、俺と一対一な」 「げっ」 「…で?」 朝っぱらから、イキナリ、隊長とポプラン少佐の笑顔な睨み合い。 目の前には、昨日、少佐が買ってくれた一品。 「だから、俺が買ってやったの」 にっこり。 ポプラン少佐が男の人相手に『爽やかな』笑顔になると、こんなに不穏なんだ。初めて知ったよ。隊長も、顔だけ笑顔だから、怖い事この上もない。 「…ポプラン」 「なんだよ」 「好き放題に甘やかしてんじゃねぇよ!」 「何だかんだと甘やかし放題のお前に言われたくないわ!」 「…五十歩百歩」 「どんぐりの背比べ」 怒鳴りあう隊長とポプラン少佐の横で、コーネフ少佐とコールドウェル大尉がすっぱりと切り捨てる。 ううむ。流石だ。 「「うぐっ…」」 「隊長ぉ?」 「…も、良い」 声を詰まらせた隊長を覗き込むと、困った顔で笑って、頭を撫でてくれる。良かった。もう、怒ってないや。…って、怒られたの、私じゃないけど。 「それにしても、普通に売ってるんだ。こんな型のワッフルメーカー」 「可愛いでしょ?」 興味深そうに取り扱い説明書と本体を見比べてるコーネフ少佐に自慢。だって本当に可愛いんだもん。 「…ま、アリス好みだね」 あのね。 買って貰ったのは電熱式のワッフルメーカーで、型がね、フツーの四角じゃなくて、ハートなの。 ちょっと細いハートが6個、円形に並んでて、ちょっと見は花か何かに見える。四角いのと比べると、溝はかなり浅いんだけど、本当、すごく可愛いんだよ。 「滅多に売ってないです。今まで見た事ないし」 あるのは知ってたけど、結構売ってないんだよね。ベルギーワッフル焼く、四角いのは当たり前に売ってるのに。後、円の四つ切りとか。 ハートはね、五つのが一番バランス良くて可愛いんだけど、六個のだって十分可愛いし。どっちもなかなか店頭に列ばないから、ついつい毎日見てた訳だし。 「そんなもんかね」 「うん」 不思議と売ってないんだよね。通販でなら、フェザーン製の高いのを見た事あるけど。 「…じゃ、早速試す?材料も買ってあるんだろ?」 「はあい」 隊長室のキッチン(帝国の良いところは、設備が無駄に整ってるトコらしい。壊れたら部品がないから直らないけど)に備え付けてある冷蔵庫から、卵とバターと牛乳を。洗い篭から、昨日のうちに洗っておいたボウルと木ベラとレードルと小皿。おっと、忘れちゃいけない、メジャーカップ。後は、隊長の机の上に置いといた、粉と量り。 ちなみに、一人じゃ持てないから、コールドウェル大尉が手伝ってくれました。 これで材料全部! 「また可愛いレードルで」 「あぁ。面白いな。こんなのも雑貨屋に置いてあるのな」 機能より、ほんの少しだけデザイン重視(ちゃんと普通に使えるレベルだけどね)のレードルやホイッパーを見ながら隊長が笑う。ポプラン少佐も、感心したみたいに肯く。…そういえば、昨日、凄く面白そうにお店の中、見てたっけ。 私としては、やっぱり、可愛い方が、お料理も楽しいと思うんだけどな。 …料理しないけど。 「キッチン雑貨の店なら普通。さて、アリス。取りあえず、一番小さいボウルにバター入れてレンジ」 えぇっと、こうか。 「卵を…アキヤマ」 「…せめて、割れるようになってから買えや」 ため息吐きながら、片手でポン。 …すごぉい。 私なんか、両手でやっても殻が混じるのに。黄身だってぐちゃぐちゃになるのにな。 それから、言われるままに一番大きいボウルに粉と卵とバターを入れて、牛乳を足しながら、ダマが出来ないように木ベラで混ぜる。 「何、コレ、専用の粉?ホットケーキなら知ってるけど」 「いろんなのあったぜ。マフィンのとかケーキのとか」 「手抜きだなぁ」 「失敗しないようにだろ」 空っぽの袋を見て、妙に感心する隊長。 …こんなの、製菓売り場に行けばいっぱいあるのに。隊長、見てないのかな?小豆ばっかり買ってるから、他のは目に入ってなかったりして。 「アリス。押さえててやるから、ゆっくり混ぜて良いよ」 「はぁい」 袋全部って結構多くて。 支えきれずにボウルをガタガタさせてたら、コールドウェル大尉が手伝ってくれた。ペタペタしてるから、力いるもんね。 「生地固い?もう少し伸ばすか」 牛乳がちょっとずつ増えて、牛乳がなくなるまで混ぜるのが、また大変。へーぇ。書いてある分量通りじゃなくても大丈夫なんだ!私じゃ絶対出来ない、高等技術。 最後は、コーネフ少佐が仕上げを確認してくれて、生地完成! うーむ。焼く前のホットケーキとかと同じだ。ちょっと固めだけど。 「さて。これをレードルで型の真ん中に置く。…そうそう」 いつのまにか電源の入っていた(タップに入れたらすぐ加熱するんだけど)ワッフルメーカーに、キッチンペーパーで薄く油をひいてもらって、真ん中辺りに生地を置く。 ペタペタ生地は、レードルから離れてくれなくて、これまた大変。 「ふた?」 「そう」 少しだけ丸く伸ばして、蓋をすると、押されて型いっぱいに広がる…んだな。多分。焼け具合を何回か確認して、焼き上がったらお皿に… 「…出来ない」 熱くて触れない。フォークだと型を傷しちゃいそう。菜箸は長くて使えない。…どーしよぉ! 「取ってあげるからどきなさい」 深い溜息と一緒に、コーネフ少佐が代わってくれる。 ハートが六個連なった、お花の形のワッフルがお皿にどぉん。ナイフで分離させると出来上がり。 「出来たぁ」 「…次、焼いてる間に味見出来るから、感動してないでやりなさい」 はーい。 結局、味見をしないまま、全部焼き上げてしまった。ちょうど十時のお茶の時間になったので、皆で試食。 「…あ、結構美味い」 「お。生焼け。…まぁ、煮えてるから良いか」 「紅茶が欲しいですね。淹れましょうか」 「もう淹れた」 「おいしーい」 出来たてのワッフル美味しい。ジャムとか、全然要らないよ。これって、冷めても美味しいんだよね。おっきなお皿に、こんもり山盛りのワッフルは、残ったら隊員のみんなへ指し入れ。 …あ、でも生焼けのもあるのか。ショーコインメツしなきゃダメかも。 「証拠隠滅なんかしなくても、ブルームハルト大尉呼んだから大丈夫」 「…んぐぐっ。コールドウェル大尉ってば、いつの間に!」 心を読んだ?じゃなくて、油断も隙もないよ。でもなくて、この出来そこないが混じったの、食べてもらうの?そりゃまあ、お腹は壊さないと思うけど。 いやでも、本当に呼んじゃったの? うーん…。 「あ、ねぇ。明日も作っていーですか?」 だって、これ作るの、楽しかったし!もしかしたら、次はちゃんと一人で作れるかもしれないし。卵、ちゃんと割れるか心配だけど。 でもさ、今日、失敗作食べて貰っちゃうなら、リベンジしたいもん。 「好きにしろ。卵割る練習にもなるし」 「材料代なら出してやるよ。好きなだけ失敗しなさい」 「加熱中は、火傷に気をつけて」 なんか、隊長達の心配が、子供相手以下な気がする…。 「…隊長達の見てる所でやらせりゃ良いじゃないですか」 同感。 「こんにちはー。お菓子食べに来ましたー」 「よぉ」 コールドウェル大尉が、呆れたため息を吐いたのと同時に、ブルームハルト大尉とリンツ中佐が到着。 …うわー。ほんとに呼んでたよ。上手になってから食べてもらおうと思ってたのにぃ。 「いらっしゃーい。アリス特製?のワッフルをどぉぞ」 「わー!隊長!初っ端から生焼け渡しちゃダメ〜!」 「え?アリスが作ったの?いただきまーす」 「…この先しばらく、おやつはワッフルになりそうだなー」 「…材料、買い占めといてやろうか?ブルームハルトが片っ端から食いそうだが」 「…餡子とか合わねぇかな、トッピング」 「…やってみればどうです?」 「ま、アリス達が楽しそうだから良いか」 「大尉大尉、それ、ちゃんと焼けてないですってば」 「え?大丈夫、美味しいよー」 「ほんとですかー?」 「うん。明日も作る?チョコシロップとか持ってこようか」 「あ。おいしそーですねー」 |