２月は嫌い。 ２月になった途端、皆、そわそわしだすから。 街にあふれかえるチョコレート。 食べるのは、凄く好きだけど、この時期にあるのはわざとらしくて嫌い。 ２月１４日なんて大嫌い。 「コーネフ少佐！」 「何？アリス」 「今日は１４日ですね」 「うん。…なにか、あるの？」 「バレンタインディです。チョコいっぱい貰ったでしょ？」 「…あぁ、そういえば。食べたい？」 「はい！…じゃなくて。あの、ね」 「何」 「…好きな人がいる女の子は、やっぱり何かしなくちゃいれないのかなぁ？」 それは、義務？しないのは、変なこと？ 「…そんなこともないと思うよ。まぁ、便乗するのは楽だろうけど」 便乗。 「アリスがライナーに何かしたいならすればいい。折角のイベントだから。でも、別に義務じゃないし」 「…はぁ」 「何かするなら、この紙あげる」 渡された小さなカード。なんだろう。レシピが書いてある。 「材料は薔薇の騎士連隊の連隊長室に２人分揃ってるから。行っといで」 「…美味しい？」 「当たり前」 「じゃ、行きます。上手くいったら大尉喜ぶかな」 「保証する」 「…ん。行ってきます。隊長に、おサボりって…」 「伝えとく」 え〜と。このグラスを借りて、ホイップクリームは２種類（ホイップ済のヤツ）あるし、カットフルーツにアイスでしょ。チョコシロップもあるし。 コーネフ少佐の言った通りだ。みんな揃ってる。 「う〜ん」 「何、唸ってんだ？」 「…あ。リンツ中佐」 「何か足らないモンでもあったか？」 唸っているのが聞こえちゃったらしい。 「あ。ないです。ごめんなさい！」 レシピ見てるんだけど、いまいち自信がないんだもん。そんなの言えないよね。う〜。ぐちゃぐちゃになりそう。 「…手伝おうか」 え？ 「そんなに緊張しちゃ出来るモンも出来ないだろ。確か、材料は二人分あっただろう？」 え、え、え。いいの？手伝ってくれるの？ すっごいうれしー。 …じゃなくって。良いのかな？やっぱり自分で作らなきゃ意味ないんじゃないかな？ でもでも、自信ないし。リンツ中佐って器用そうだし。 ううっ。 「アリスの分、作ってやるよ。だからアリスはブルームハルトの分作れば良い」 へ。 「…お前さん、ブルームハルトに作りに来たんだろう？」 「あ。はい。そうです」 「だから。ブルームハルト用は自分で作って、お前さんが食う分を俺が作ってやる、て」 あ。成程。やっぱり中佐って頭良いなぁ。そんな事、全然思いつかなかったよ。えへへ。 「ほら。レシピはそこに貼る！で、まずはシロップを入れるんだろう？」 「は、はい！」 「できたぁ！」 わ〜い。完成！！ スペシャルチョコレートパフェ！ 普通のより大きくて、アイスとフルーツがいっぱい入ってるんだよ。ホイップクリームだってたくさん。美味しそう！ でも、難と言っちゃあ、難なのが、私が一生懸命作ったのよりリンツ中佐が作ってくれたヤツの方が綺麗で美味しそうなところ。 「ほ〜。なかなか」 「中佐、上手ですねぇ」 初めて作った、て言ったのに、本当に綺麗で、お店のみたいなんだよ。お料理上手なコーネフ少佐や和菓子作りが趣味の隊長と違う筈なのにな。…やっぱり、歌って踊れて絵も描ける薔薇の騎士連隊長って凄いんだ〜。 「…ただ、順番に入れただけだぞ」 それでも、やっぱり違うの！…センスってやつかなぁ。私の、辛うじてぐちゃぐちゃにならなかっただけって感じだし。 「う〜」 「よしよし。じゃ、ブルームハルト呼んどくからな。来たら、俺が帰るまで２人でいい子にパフェ食ってな」 「どっか行くんですか？」 「野暮用、だよ」 なんだろ。でも良いや。それより、これ、どうやって食べてもらおうかなぁ。 「じゃ、いい子に留守番な」 「はぁい！」 「失礼しま〜す。あ。アリス！」 「こんにちはっ」 きゃあああああ。ブルームハルト大尉vv 「連隊長に呼ばれて来たよ。なんでも、留守番してろって？」 「そうなんです」 うわ、うわ、うわ。目の前だ〜。しかも、二人っきりだ〜。すっごい緊張。 「なにしよっか？カードなら持って来たけど。後チェスがここに…」 ごそごそと三次元チェスを探し始める。…大尉、すっごぉく弱いって聞いたんだけどなぁ…。だから、唯一勝てるヤン提督と以外はあんまりやりたがらない、て。 あ。そうだ。 今のうち、決心が鈍らないうちに先刻作ったパフェ食べてもらわなきゃ。 「大尉」 「何〜？」 「お腹空いてないですか？」 「そんなの、もうペコペコだよ〜。今までトレーニングしてたし」 良かった。じゃ、食べてもらえそう。 「じゃ、パフェ食べませんか？」 「え？食べる食べる食べる！」 すごい。即答だ。よし。倒さないように持ってこなきゃ！ 「これねぇ、先刻作ったんですよ」 「アリスが？」 う…。 「…レシピと材料はコーネフ少佐が用意してくれて、作るのはリンツ中佐が手伝ってくれました。…でね？こっちが中佐がお作りになった方で、こっちが私が作った…」 「ありがとう！いただきます！」 迷う事無く（全然迷わなかったんだよ。躊躇もしてない）私が作った方に手を伸ばしてくれる。絶対、リンツ中佐が作った方がパフェっぽくてカッコいいのに。 「アリス？食べないの？美味しいよ」 「あ。食べます！」 呆然としてたみたい。でも、だって、仕方ないよ。大尉ってばぱくぱく食べてるんだもん。あんな不出来なヤツ！ 「あ、あのね大尉」 言って大丈夫？問題ないかな。 「ん〜？」 「今日、何の日か知ってます？」 知ってるよね。ソリビジョンで特集とか組んでたもの。 「われんたいんれい」 やっぱり知ってるんだ。じゃ、じゃあ言っても平気だよね。 「それ、そのチョコパフェね。あの、大尉にバレンタインなの」 言った。 言えた。 でも、大尉は目を真ん丸くして驚いてる。…スプーン咥えたマンマだけど。 やっぱり迷惑だったかなぁ…。でもでも、一応作ったんだし。…コーネフ少佐に唆されてだけど。…でも、バレンタインなんかしない、て思ってたのやめたんだもん。 「え？おれ、俺に？ほんとに？」 うん。 「ありがと！すっげぇ嬉しい！…でも、良いの？アリス、今日誕生日でしょ？」 … …… ………え？ な、何で知ってるの？ 「アキヤマ少佐に聞いたよ〜。アリス、バレンタイン生まれだから、バレンタインはしないって。…うん。俺でもしたくないなぁ。自分がプレゼント貰える筈の日なのに誰かにあげるなんてやだもんな」 な、何でそんな事まで知ってるのぉぉぉぉ？たいちょおおおおおお！ 「で、でも、あの、その」 「だからさ。プレゼント用意したんだよ。ちょっとここには持ってきてないけどね」 えええええええええ？ 「たたたたた大尉？」 「アキヤマ少佐たちとアリスのバースディパーティーの準備もしたから、これ食べ終わったら行こうね」 「は、はぁ…」 話が急展開しすぎてついていけないよぉ…。 「でも、良かった。アリスにバレンタインチョコ貰えてラッキー。…しかも手作りだしね！」 「でもそれ材料乗っけただけ…」 「丁寧に作ってくれたでしょ？お店のより美味しいよ」 う…。 「ほんとだよ」 ２月は嫌いだった。 ２月になった途端、皆、そわそわしだすから。 街にチョコレートがあふれかえって。 食べるのは、凄く好きだけど、この時期にあるのはわざとらしくて嫌いだった。 でも、今年からは好きかもしれない。 |