オフィスを出ると、雨が降っていた。
 …そういえば、16時から降るとか言っていたな…と、降雨予定を思い出す。
 ロッカーまで、傘を取りに戻っても良かったのだが、なんとなくそのまま歩き出した。













「…隊長!」
「ん…。コールドウェル。どうした?」
 背後から切羽詰った声がして。振り向くと血相を変えた部下が走ってきた。
「…っ!どうしたじゃないでしょう!傘も差さずに何やってんです?降雨情報知らない訳じゃないでしょう?ああ!もう!こんなに濡れて!風邪でもひいたらどうするんですか!!」
 物凄い剣幕で、矢継ぎ早に繰り出される言葉に、つい、ぼんやりと見返す。
 …何をそう、怒っているんだか。
「…聞いてます?」
 咎めるように上から見下ろしてくる相手に、淡く笑う。デカい図体と、いつものふてぶてしい(…と周りに言われる。俺はそう思ってないので何故だか判らない)?態度からは思い浮かばない程、情けない表情。
「聞いてるよ」
「…耳に通してるだけじゃ『聞いてる』って言わないんですよ?」
 常日頃、自分が相棒に向かって言っている科白を言われ、苦笑する。…確かに、聞き入れる気のない言葉は素通りしてしまうけれど。
「傘は?」
「ロッカー」
 諦めに似た溜息を吐く相手を見上げ、先刻まで当たっていた雨が遮られているのに気付く。…今更な気がするけど。
「…帰る時、降ってなかったんですか?」
「降ってた」
「…隊長…」
 降ってたけど、傘を取りにいくのは面倒で。今日は別に紙類は持っていなかったから。たまには雨に濡れるのも悪くないと思った。
 ただ、それだけ。
 …実際、結構気持ち良かったし。
「風邪引くとか思わなかったんですか?」
「…どうせ人工雨」
 機械的に降らされてる雨なんか、どうでも良い。
「…お言葉ですが。人工的でも、今は秋なんです。当然、気温は低くなってます。…紅葉する程度には」
 そんな事、言われなくても知ってる。
「そんな中、そんな薄着で、長時間雨に当たれば風邪をひくでしょう?」
 言われるほど薄着じゃないし、たかが1時間や2時間雨に当たったくらいで風邪を引くほど軟じゃないつもりだが。
「…ここからなら、ウチの方が近くです。…行きますよ」
 当然のように手首を掴んで、有無を言わせず歩き出す。その際、ちゃんと俺が傘の下に入るように気を使って。

 …よく出来た部下だなぁ…。躾けたの、俺だけど。

 それに…。
「くくっ」
「…隊長?」
「…いや…」
 笑いがこみ上げた俺に不思議そうな視線が降りてくる。
「…断っておきますけど、シャツがデカいのとズボンが落ちるのは責任持てませんからね」
「…ん。…なぁ」
「はい?」
「…次の時もちゃんと探し出せよ」
「…次もあるんですか…」


END



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