Mugwort





 …あ。緑のお団子。
 何あれ。
「たいちょお」
「草餅っつー和菓子」
「食べたいっ」
「明日、森林公園で摘んで来い」
「いえっさー」







「…で、だ」
 非番の日。森林公園に行く途中で、ポプラン少佐を捕まえました。
 それから三十分。長い沈黙の後、ポプラン少佐が深い深い溜息で口を開く。
 何かなぁ?
「なんですか、ポプラン少佐」
「何で俺は、アリスと森林公園に蹲ってなきゃいけないんだ?」
 なんだ、そんな事。
「うずくまってないですよぉ。探し物―」
 うん。探し物。
「…判った。言い方を変えよう。
 何で俺は、貴重な非番の日に、アリスと一緒になって、森林公園で、蓬摘みをしなきゃならないんだ?
 …そんなに区切らなくたって良いのに。
「言いませんでしたっけ。昨日、どっかのポスターで、緑色のお団子?を見かけたんですよ。それでね、アキヤマ隊長に聞いたら、それは『くさもち』ってお菓子だって…」
「…判った。食べたがったんだな?アリスが
 …あれ?
 何で判ったんだろう?
「誰だって判るわ」
「えー」
「どうせアキヤマに、草餅食いたきゃ、蓬摘んで来いって言われたんだろ」
「はい」
 うーむ。読まれてるなぁ。
 でも、食べた事ないお菓子って、食べたくなるよね?
 緑で、どんな味か判んないし。
「…で、意気揚々と公園に向かったは良いが、モノが判らない事に気付いて、途方にくれた所に俺が来たんだな?」
 …うわー。
 何で、判るんだろ。
 そうなんだよね。森林公園まで来たは良いけど、よく考えたら、ヨモギって何か知らなかったんだもん。
 たまたま通りかかったポプラン少佐を捕獲するのは当たり前!
「…ったく…。で?アキヤマは?」
「んと…士官食堂のキッチンでアンコ作ってるって」
「………へぇ」
 くさもちにはツブアンだけど、なんとかモチはコシアンがどーとかって言ってたんだよね。だから、ヨモギ摘みは来れないって。
 袋いっぱい摘んで来いって、大きな袋まで持たされたんだけど。
「んで、ポプラン少佐、ヨモギってどれ?」
 実は、さっきから、二人で座り込んでるだけで、全然探してないんだよね。
「…俺が知ってると思うか?」
「知らないんですか?」
「おにーさんは、アキヤマじゃないんだよ」
 少佐なら知ってると思ったのに。
 でも。
 知らないんなら困ったな。
 隊長は『ヨモギは森林公園にある』って言ってただけだから、どんな形状なのかも知らないんだよね。
 摘むって言うんだから、そんなよーなヤツなんだろうけど。
「…どーしましょう」
「…どーしようかねぇ」
 えー。二人で役立たず?
 やだなぁ。





──────── …何、やってるんだ?」
 ふぇ?
 二人で芝生に座り込んで、腕組みして、途方にくれてた所に神の声。
「コーネフ。…と、リンツ中佐」
「コーネフ少佐!リンツ中佐!」
 うわーい。天は我らを見捨てなかった。物知りさん二人ー。
「何やってるんだ?」
「蓬摘み」
「は?」
「あのねあのね、少佐。くさもちでヨモギなんですよっ」
 どっちかが知ってると良いなぁ。
「…蓬?」
「アリスが、昨日見かけた草餅を食いたがって、アキヤマに森林公園で摘んで来いと言われたんだと」
 そうそう。気分が高ぶって、説明忘れちゃったよ。ポプラン少佐えらーい。
「それで、こんな所にいるのか」
「そうなんですよぉ。私も、ポプラン少佐も知らなくって、どうしようって」
「成程」
 困っちゃったんだよね。
「お前知ってる?」
「…蓬は知ってるが、森林公園にあるかは知らない」
 コーネフ少佐も知らないの?
 えー。隊長に嘘吐かれた?
 だったら、後で噛むっ。
「中佐はご存知ですか?」
「ハーブエリアにあると思うが」
 コーネフ少佐が、斜め後ろのリンツ中佐に訊いてくれる。
 あるの?
「どうせ、今からスケッチに行くんだ。一緒に行くか?」
 やった!
 …て、あれ?ハーブエリア?
「行きます!中佐、ハーブエリアって何ですか?」
 そんなの知らない。初めて聞いた。
「あぁ。イゼルローンは、害虫なんかは徹底的に排除されてるんだが、一部の住民の為に、森林公園の一角に『整備されていない』場所を作ってあるんだよ。そこの通称」
 整備されてない場所?
 なんで?
 それ以前に、整備されてない場所なんて、どうやって作るの?
 矛盾してるよぉな気が。
「見た目にも管理された樹木と芝生に癒し効果がないとは言わないが、自然志向の人間っているだろう?そんな奴らの為に、帝国の奴らがオーディンの野山を模して、適当に植物を放置していたエリアがあるんだ。…で、そういう所には多年草のハーブ類が多く自生していてな。結構、摘みに来る奴がいるんだ」
 へーぇ。
 ってか、また顔に出てたんだ…。聞く前に説明してもらっちゃったよ。
 反省しよ…。あうう。
「…勝手に摘んで良いの?」
「ま、その為の場所だから。イゼルローンが出来てからあるらしいんで、放っておいても生えてくるし、定期的に種も蒔いていたみたいだな」
 今更丁寧に整備する手間も時間も惜しいから、そのままにしてあるんだって。
 …帝国の貴族の人達の考えって、よく判んないなぁ。人工物の中に、わざわざ自然に程近いの作って、人工物なの、忘れようとしてるみたい。
 変なの。


「妙なトコロで福利厚生がしっかりしてんだな、帝国って」
「…まぁ、家庭菜園とか作る余裕のない人に人気あるらしいぞ。ベリー類もあるし」
「コーネフさん、よく知ってんのね」
「この前、通りすがりに見かけた」
「あっそぉ。で、今日は何で?」
「本屋行ったら、中佐に会った」
「…それ、理由じゃねぇ…」


「ふくりこーせい」
 少佐達の漫才が耳に入って、思わず。
「…まぁ、帝国の料理って、同盟よりハーブ類使うしな」
 リンツ中佐がくくって笑う。
「それで、野山作っちゃうって…」
「規模もでかいし、子供の遊び場にもなってるから、良いんじゃないか?」
「そーなんですか?」
 あー。エレメンタリの課外授業とかでありそう。そういえば、裏山とか行ったもん。
「うん。この前は、キャゼルヌ御一家が居た」
「スケッチした?」
「した」
 …ううむ。流石だ。シャッターチャンスは逃さないんだなー。
「ヨモギもあります?」
「さぁ。探してみる価値はあると思うぞ」
 それもそうか。




 どっひゃー。広っ。
 何これ、この広さ。手入れされてない、原っぱっつーか、丘っつーか…、とにかく凄い。ハイネセンの田舎行ったみたーい。
 でも、本気で手入れしてない訳じゃないんだろーし…。逆にこんなの作るの、大変そうだよねぇ。
「この中で、ヨモギ探すの…?少佐、少佐、どうしよおっ」
「俺に言うな、俺にっ」
 だって。他に言う人いないし。
 コーネフ少佐とリンツ中佐が手伝ってくれるかなんて判んないし。
「…んー…。あ、あった。アリスー」
 おっと。
「何ですか、コーネフ少佐」
「ほらこれ。これが蓬。新芽を捜して摘んでおいで」
 緑の葉っぱ。裏は白い毛がいっぱい。
 …草だったんだ。(そこか?)
 匂いもあるよ。
 …あ、だからハーブなのか。
「行ってきます!ポプラン少佐、行きましょっ」
「はいはい」
 がんばってたくさん摘まなきゃっ。







「…こらまた大量に」
 士官食堂のキッチン。
 袋いっぱいのヨモギを持って到着。朝からキッチンを借りてアンコ作ってた隊長に配達。
 凄いでしょ。
「だって隊長、たくさん摘んで来いって言ったでしょ」
「…大量に仕込んで良かった…」
 袋いっぱい。少佐達に手伝ってもらったもーん。中佐なんか、スケッチ止めて手伝ってくれたんだよ。
 だから、ちゃんとお礼しなきゃねぇ。
「早く早く、隊長、くさもちっ」
 ヨモギ摘んだんだし、早くっ。
「んな、いきなり作れるかっ。茹でて擂り潰して混ぜるんだぞ」
 へー。大変なんだ。
「ま、良い。アリス、ポプラン。宴会の準備。士官食堂借り切ったし、シェフ達も協力してくれるっつーから」
 おお〜。
「中佐も如何です?空戦隊総員参加なんで、薔薇の騎士も良ければ」
「Danke. うちの奴らも手伝いに呼ぼう」
 また笑ってるよ。そんなに面白い会話してないと思うんだけど。そのまま、笑いながら電話をかける中佐を見てると、コーネフ少佐が一言。
「アキヤマ、湯沸かせば良い?」
 …いつの間にキッチンの真ん中に行ったんだろう…。
「あ、悪い。…そのでかいの使って。なぁ、すり鉢ねぇ?」
 すり鉢…って、隊長んちで見かけた、ゴマとかごりごりするアレ?
 聞き直そうとしたら、シェフの誰かが大きなのを持ってきた。うわー。重そう。アレでごりごりするのかなぁ?
「アリスー。呆けてないで、蓬洗え。茹でんだから」
「あ、はーい」
 お手伝いして早くくさもちー。








 …くさもちって、おいしーけど苦いー。


おしまい



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