大きな緑の葉と、葉に隠れそうな程に小さくてまぁるくて、可愛い白い花。 良い匂いのその花が、すっごぉく好きなんだけど。 根っこにね、毒があるんだって。 可愛いのにね。 でも、花言葉はやっぱり可愛いんだよ? 純粋とか、純愛とか、そういうの。 そういえば、この季節になるとお花屋さんでよく、見かけるよね。 看板?に何か書いてあるけど、いっつも急いでるからよく見てないの。 なんなのかなぁ? 「そら、5月いっぴ(1日)が鈴蘭の日だからだろ」 通りすがりのお花屋さんにスズランがいっぱいあった、て、隊長に教えてあげたら、面白くもなさそうに(失礼だよね!)言われる。 すずらんの日? なんだそりゃ。 「なんですか、それ」 「…大昔からの風習」 「それじゃ判りませんっ」 もう。すぐ簡単に誤魔化そうとするんだから。隊長の悪いクセだよね。しかも、端末に顔向けたまんまなんだもん。つまんない。 「…少しは自分で調べてみようかな〜、とか思わんのか、お前さんは」 「全然」 やっと、顔を上げてくれた隊長に即答。 だってね? 折角、目の前に生き字引(この言葉は、この前、コールドウェル大尉に教わった)がそばにたくさんも居るんだもん。フル活用しなきゃ! コールドウェル大尉もそれで良いって言ってたし!(苦笑いだったのは、この際見なかった事にしちゃうけど) 下手に自力で調べたりするより、色んな事教えて貰えるし。そのうち、同期の中ならウンチク王になれるかもしれないよ! …1つ教えて貰うと、前に教わったどれかがなくなっちゃう気がするけど! 「俺も詳しい事は知らねぇよ。確か、5月1日に鈴蘭を贈ると幸せになれるとかなんとか…」 何だかんだ言いながらだけど、ちゃんと教えてくれる。でも、今回はいつもよりあやふや。お花の事だから、あんまり詳しくないのかな? 一応女の子だけど、そういう事、全然知らない私に妙なツッコミを入れられたらきっと怒るだろうから、それは頑張って無視して、1個質問。 「誰でも良いんですか?」 「さぁ?」 首を傾げる隊長は本当に知らないみたい。…うーん。お菓子関係(特に和菓子なら)知らない事、何にもないんだろうけど。お花は守備範囲外かなぁ? 「そういうのはポプランのが詳しいと思うぞ。ガンルームにでも、行ってみるか?」 「はい!」 よし。謎解明、頑張るぞ! 「へ」 「だから、鈴蘭の日」 「お前、そんなん興味持ったのか?」 「ねぇよ。あるのはコレ」 目を真ん丸くして、コーヒーの紙コップを落としかけるポプラン少佐。ギリギリで落とさなかったのは、偉いと思う。それに肩を竦めて、私の頭を押し出す隊長。手荒だ、手荒! 「何だ。彼女でも出来たのかと…」 「出来たら、そっちに訊くわよぉ」 「そぉね。オンナノコの管轄だわ、ソレ」 「そぉでしょお?」 …。よく判んないけどね?気が抜けたんだと、思う。で、段々、妙な方向に言葉遣いが変わってくのは気のせい…じゃなさそぉな。 いいんだけど、別に。面白いから。 「んー。昔っから、5月1日に鈴蘭の花束を贈ると、贈られた人が幸福になるらしいぞ。でもって、男から女にやると告白になるらしい」 へー。流石ポプラン少佐。こういう事は詳しいんだなぁ…。かっこいー。 「昔っていつだよ」 「え。そこまでは知らん。復活したのは最近」 「…根拠レスじゃねぇ?」 「いや。根拠はあるみたいだけど。憶えてナイ」 二人して頭を抱えかけるのを、買って貰ったココアを両手で持って飲みながら眺める。 んー。自販機のだから仕方ないけど。もうちっと甘い方が好きだなー。お砂糖たっぷりで、ミルクで淹れたヤツ。今度、食堂で作って貰おう。…自分じゃ作れないし。 「じゃじゃ、男の人が女の人にあげる日なんですか?」 手を上げて質問。 本気で考え出すと、フツーに言っても気付いてくれないから。 「や。だからそうすると、告白になるんだって。だから、俺やアキヤマからはナシだな。アリスは他の人に貰え。んで、受け取るのはブルームハルトのだけな」 「うんうん」 「…くれないの、考えても仕方ないですぅ!」 二人で頷き合うのに反論。 告白なのは判った! でも、ありえない事想像してもムナシイよ! もし…もしも、だよ?まかり間違ってブルームハルト大尉がスズラン、5月1日にくれたって、絶対意味知らないと思うし! そんな仮定、タノシクナイです。 「それじゃ、私が誰かにあげても良いの?」 お花、誰かにあげるチャンスなんて滅多にないもんね。 「良いんじゃね?誰か幸せになって欲しいのか?」 「はい!」 「…何の話してるんだ?」 あ。コーネフ少佐。 「鈴蘭の日をアリスが知りたいって言うからさ」 「鈴蘭の日って…。Jour de Muguet?」 …何? 「ん。それ」 どこの言葉?帝国語じゃないよね?勿論、同盟の言葉でもないよ。聞き覚えはあるけど。 みゅげって言うのはスズランの事だもんね。それくらいは知ってる。香水とかの名前にあるもん。 「日にちとどんなのかは一応、教えたんだけどさ。どこでやってたのかは知らないから」 「地球のね、フランスの首都、パリの風習」 隊長の言葉に首を傾げながら、するするって教えてくれる。 …いつも思うんだけど、どこにそういう知識が入ってるんだろう?クロスワードパズルやってると頭良くなるのかな? 「フランスってどこですか?」 「地球にあった一国家で…。んー。こういうのは、ヤン提督に聞きなさい。喜んで講義してくれるから」 「ヤン提督とお話した事ないです」 「大丈夫!歴史の話なら、昼寝も中断して語ってくれる」 「保証する。見ず知らずだろうと、それはそれは嬉しそうに語る」 …畳み掛けるように言われても嬉しくないよう。そりゃ、私だってヤン艦隊にいるんだし、他のトコにいる友達と較べたら、ヤン提督の事知ってるとは思うけどね。 公園でお昼寝大好きとか、お仕事嫌いとか、紅茶が好きでコーヒーが嫌いだとか。お酒が好きで歴史大好きとか。キャゼルヌ少将が怖いとか。…って少将には隊長もポプラン少佐もしょっちゅう怒られてるけど。 でも、無理だもん。こないだ、ミンツくんとお友達になったばっかだし。 …あぁ。ミンツくんと一緒の時訊けば良いんだ。うん。 「んと、フランスはもーいーです。今度訊くから。それでね、コーネフ少佐」 「ん?」 「スズラン、誰が誰にあげても良いの?」 だって。そんな意味があるなんて知ったら、さ。参加したいのがニンジョーってモノでしょ? 「勿論、良いよ。鈴蘭の花言葉にRetour de bonheur…あー。幸せの再来っていうのがあってね。それでお世話になっている人や恋人、家族に鈴蘭を贈るんだよ。だから、アリスも誰かにあげて構わない」 成程。やっぱり、コーネフ少佐って頭良いなぁ。 「へー。俺、告るのに使うんだとばっかり」 「…そんな、日付限定はアキヤマの先祖たちのバレンタインだけで十分だ。それだって、元々は双方どっちからだって良い訳だし」 「ごもっとも」 複雑な怒り方は意味判りません。 「で?誰にあげる気なんだ?」 「へへっ。ナイショ」 今日の帰りにお花屋さんに行くんだもん。 「…よいしょ」 お花屋さんで大量に買ってきたスズランの鉢植えをオフィスのいろんな所に。 自分のデスク、隊長たちのデスク。シミュレーションルームや、スタンドのカウンター(ちゃんと許可貰ったもん)。ガンルームのテーブル。 ほんとにいっぱい。 ほんとはね。 ほんとは、司令部とか、他のトコとか、いっぱい持って行きたかったんだけど、知ってる人少ないから。 それでも、マシンシミュレーションに来てたミンツくんにお願いして、司令部にも1鉢持ってって貰っちゃった。それから、暇つぶしに来てたアッテンボロー提督にも持ってって貰って。 先月のお給料、ほとんどなくなっちゃった。 でも、良いの。 皆が幸せな方がいいもん。 戦争なんかやってて、最前線に居て、皆、軍人なんだけど。 だから。 今日ね、5月1日がスズランの日で、プレゼントすると皆が幸福になれるんなら、頑張るもん。 って、ストップストップ。ここだ。勢いつけ過ぎて、通り過ぎちゃうトコだったよ。 「こーんにーちはー」 隊長とか少佐たちと、何回も来たオフィスに顔を出す。気が立ってる時なんかは、すっごく仲、悪い…って言うか、ケンカ(口ゲンカとかみたいな生易しいモンじゃないんだよ)ばっかりなんだけど。いつもは優しいんだよ。 うん。薔薇の騎士連隊。 「おーアリス。何?副隊長ならちょっと出てるぞ?」 あ。大尉いないんだー。 ちぇ。 「えと、じゃあ、リンツ中佐は?」 ほんのちょっと、緊張はするんだけど。でも、いっつも何か食べさせてくれるし。コーネフ少佐と仲良しだし。…シェーンコップ准将はちょっとだけ怖いんだけど。 「待ってな。 ───────────── 連隊長!可愛いお客っすよー」 「可愛い客?アリス?」 「おー。流石」 「おはようございます!」 おおー。今日もカッコいいや。んと、トレーニング後らしくって、軍服をかーなーり、ラフに着てるんだけどね。隊長とか、ポプラン少佐とは違うカッコ良さなんだよね。でもま!誰より一番カッコいいのはブルームハルト大尉なんだけど(皆は可愛いって言うけど。カッコいいんだよ!)。 「おはよ。どした?」 「えっとですね、はい!プレゼントです!」 ビニールに入ったスズランの鉢植えを5つ渡す。何で5つかって?別に意味はありません。 「んー?Bell des Waldes」 ふぇ?森の鈴? ビニールの中を見たリンツ中佐の言葉に疑問符。 「鈴蘭の事な?こういう言い方もあるんだよ。聖母の涙とか…って、聖母自体を知らないか」 「はい」 「今日は鈴蘭の日だもんな?」 くくって笑いながら、頭を掻き混ぜられる。んーん。喜んでくれたのかな? 「おい!これ、一番良いトコに置いとけ。幸せ持って来てくれたんだからな」 そばにいた隊員の…誰かな?背の高い人に、やっぱり笑いながらスズランの鉢を渡す。にこにこと受け取る隊員さんが頭を撫でてくれた。 えへへ。 「さて。美味いケーキがあるんだがな?食ってく?」 え。ケーキ? 「食べます!」 「んじゃ、おにーさんが紅茶を淹れてやろう。おっつけ、お前さんの保護者たちも来るだろうし」 「はあい」 わーい。ケーキ! 「美味しー」 「そうか」 凄い凄い、美味しいチョコレートケーキ!1ホールでもイケそう。いや。そんな事したら怒られちゃうからしないけどね。 「…戻りました!」 あ。 「おー。お疲れさん」 「こんにちは、ブルームハルト大尉」 「ああああああ!アリス!」 うにゃ?なんでこんなに驚いてるの? 「えっと…」 「あ。ご、ごめんね。居ると思ってなかったからビックリして」 「はぁ」 ちょっとビックリしちゃったけど。別に怒ってないし。あー。焦っててもカッコいいなー…。 「あ。それでね、アリス」 「はい」 「これあげる!」 「ありがとうございます」 なんだか、真っ赤な顔の大尉に渡される、可愛くラッピングされた包み。 嬉しいな。なんだろ…て、 ───────────── え? |