聖誕祭…かな?





「コーネフ少佐ぁ」
 昼休み。士官食堂でパズルを解こうかと思った矢先にアリスが現れた。
「何?アリス」
 何かあっただろう、というのが簡単に予測出来る表情。素直と言おうか、単純と言おうか…。 ここまで感情が読み易いのも考え様によっては羨ましい。
 自分には、まず出来ないだろう。
「またケーキ失敗したんですよぉ」
「また?…アリス、料理の才能ないねぇ」
 間違っても自分の教え方が悪い、とは思わない。あんなもん、レシピ見ながらだってそうは失 敗はしない。それはまぁ、上手い下手はあるだろうが。手順を完璧にこなさなきゃいけない、と 言う程のこともないしな。多少変でもなんとかなる。まったく、何をしたんだか。
「う゛」
「で?どこで失敗したんだ?」
「焼いた時。──────…膨らまないんだもん。硬くて、おせんべみたいなんだもん」
「せんべ…。なんか、入れ忘れたの、ない?」」
 せんべいみたいなケーキって…。アリスのやる事は軽く想像の範疇を超えるな。いくら失敗っ て言ったって、どういうケーキだ。
「うん」
「卵は?」
 教えたのは全卵使うやつだったから…。メレンゲがどうの、と言う事もないよな。ただ、泡立 てが足りないとかはあるかもしれない。この分じゃ、確実に温度設定は間違えてるだろう。高過 ぎたか低過ぎたかまでは聞く気にもならないが。
「つぶれた」
「…潰したの間違いだろう。…何をやってるのか知らないけど、いい加減スポンジケーキは諦め たら?」
「えー」
「えー、じゃなくて。実際、これで何回目」
 不服を申し立てようが関係ない。スポンジケーキの失敗は聞いただけで十回は越えてる筈だ。 もっとも、他の料理でも成功例を聞いたためしがないのだが。それにしてもここ数日、何を張り 切ってるんだか。
「じ…じうご回…」
「ほらみろ。クッキーだって満足に焼けないくせに、無理言わない」
 どんな不器用だって、十五回もせんべいケーキなんか焼かない、と思う。完璧、料理の才能が 欠落してるな。まぁ、生活に困る事はないから、問題はないか。
「むー。じ、じゃあ、焼かないケーキってないんですか?すっごく簡単なやつ」
 負けず嫌い…違うな。藁をも掴む表情だな、これは。焼かないケーキはいくらでもあるが…。 アリスでも失敗のない簡単ケーキ…ね。
「あるけど」
「それ、それ教えてください!」
 即答。獲物に飛びついた犬みたいに目を輝かせて、いい返事。──────…仕方ないか。
「いいよ。…メモは?」
「待って、待って。えーと…。──────…はい、OKでーす」
「まず材料は…──────」




「なぁ、お前、アリスに何教えたんだ?」
「ケーキ」
 アリスが嬉しそうに走り去ったのを見ていたんだろう。好奇心丸出しのポプランの問いに簡潔に 答える。実際、あれが成功しなかったら料理禁止令でも出さないといけないだろうな。形の出来は さておいても。
 …まずいな。タテの十一が解らない。
「…まだ、諦めてなかったのか」
 苦笑半分の呆れたような声音が、どこか引っ掛かる。
「お前、何か知ってるのか?」
 パズルを閉じ、向き直る。どうも、今日はパズルを解くのに向いていないらしい。物理的にも 精神的にも邪魔が入る。それにしても…何か、企んでるんじゃないだろうな。ポプランやアキヤ マが何をしようが構いはしないが、子供を巻き込むなら話は別だ。…ついでに、自分も巻き込ま れたくない。
「知らね。…アキヤマなら知ってるかも」
 その答に、表情を窺ってみる。…珍しく表情が読みきれないな。一体、何を企んでるのやら。
「アキヤマ?そういえばいないな。…何か企んでるだろ」
「──────…言うと思うか?」
「思わない」
 だから、気になるんだ。だから。こいつとアキヤマが手を組んで、ロクな事がある訳ないんだ。 大概、自分の身に降りかかってくる。そればかりか、後始末や尻拭いまでのとばっちりも喰らうん だ。警戒するなと言う方に無理がある、だろう。
 しばらく睨み合いが続く。厳密には腹の探り合いに近い。

「おー、ポプラン!いたいた、あの件な…──────」
「あの件て?」
 グッドタイミング。…いや、こいつにはバッドだな。弾んだ声のアキヤマに睨みを利かせてみる。 どうやらポプランに隠されててこちらの姿は見えなかったみたいだしなぁ。
「お…。お美人様!き、今日も綺麗だね♪ …で、ポプラン、用があるんだ」
「あぁ、じゃあ…」
「ここでは出来ない話なのかな?」
 白々しい程ににこやかな笑顔を作ってみせる。白々しいんだよ、二人とも。
「う゛…」
「その…」
 …ったく、ここまで怪しいと呆れてくるな。大体、ここら辺で追及するのが面倒になってくるんだ。 それで、結局こいつらの悪巧みの後処理をする羽目に陥る。
 判ってはいるんだ。充分に。
 それでも、呆れる感情の方が追求するする感情の方を上回ってしまう。──────…ちょうど、 今みたいに。
 我ながらこいつらに甘いな。舌打ちしつつも諦めが入ってしまう。
「…まぁ、良い。とにかく、アリスたちを巻き込んだりするなよ」
「はーい」
「気をつけまーす」
 調子良い返事の時ほど、信用ならないんだ。判ってるんだ,そんな事。でも、もう面倒くさい。
 あー、もう!




「不機嫌ですねぇ」
「…放って置いてくれ」
 結局。今日は一日、パズルは解けないわ、ポプラン・アキヤマコンビの動向は気になるわで、仕事 にすらならなかった。
 お陰で,部下巻き込んでの残業。
 …修行が足らないと言えばそれまでだが。
「…隊長、これでラストですけど…」
「あぁ、悪かったな。ご苦労さん、コールドウェル」
 取り合えず報告書はこれで良い。後は明日、朝一で提出すれば良い。年末で少々量が多かったとは いえ,この程度で残業してる場合じゃない。…情けない。
「…あのぉ、隊長」
「何?」
 おそるおそる、といった風情の相手に首を傾げる。何か変な事したかな。それとも見落とし。…確 か枚数は合っていた筈だが。
「この後、予定あります?」
「いや?」
 内心安堵。まぁ、夕食の時刻なんか過ぎてるしな。どうせ暇だし、飲みに位連れて行っても…。
「…じゃ、ちょっと付き合ってくれませんか?ご馳走しますよ」
「あ、うん」
 なんだか立場が違う気もするが…。まぁいいか。




「どこ行くんだ?」
 いつもの店とは違う方向。繁華街、というより住宅地に近い。それも、軍用フラットのフロアだな。 こっちの方に、食事の出来る所なんかあったっけ。
「もう、着きます。──────…っと、ここかな」
 言いながら、とあるフラットの前で立ち止まる。…あれ?ここって…。
「今晩はー。隊長連れて来ましたよ」
 キィは開いているらしい。声をかけながら進んでいくコールドウェルに腕を掴まれて引き摺られてい く。奥の方が騒がしく、かなりの人数がいるのが判る。
 …それにしても、俺を連れて来たって?
「ご苦労!奥に入っていいぞ」
 この声はアキヤマ?
「はいはい、これ、ね?」
 これはアリス。
 一体、何があるんだ?──────…入れば判るんだろうが、何か入りたくない。
「コーネフ?早く入れよ」
「そうそう。場所提供したんだし」
 ポプランとアッテンボロー提督。…なんでこの人がいるんだよ。…あぁ、そういえばここ、アッテン ボロー提督のフラットか。通りで見覚えがある。それに、奥を見たら、いるいる。薔薇の騎士連隊ご一 行やら、空戦隊の連中。それに、ヤン提督を初めとするお歴々。…全く、要するに皆、暇なんだな。
「はーやーく!」
 …仕方ないか。

 パァン!パパパパァン!
 部屋に一歩足を踏み入れた途端、軽い、乾いた破裂音。それが、自分に向けられたクラッカーの音だ と気付くのに、数秒かかった。それから…。
「HAPPY BIRTHDAY!」
 揃った声。周囲を見回すと、知り合いだらけの中、中央にテーブル。所狭しと置かれた料理たちの中 に、一際目立つ、怪しいブッシュドノエル。
 昼間、アリスに教えた、ビスケットとクリームで作る、単純なケーキ。
「早速、作ったんですよ。教えてもらった通り♪」
「アリス、自作のケーキ作るんだ、て言ってたのはいいが、あげる相手に習うなよな」
「だって、隊長。いくら聞いてもヨーカンの作り方しか教えてくれなかったじゃないですか!」
 誇らしげに報告してくるアリスにアキヤマの茶々が入って、いつもの漫才が始まってしまう。それは 一向に構わないが、いびつな出来のケーキがなんとも言えない主張をしているように見える。
「感想は?」
 楽しそうな周囲に視線を巡らす。勝手に飲み食いしてるのかと思いきや、お預け喰らった犬の集団の ように人の顔を凝視しているのが笑いを誘う。
 『お座り』とか言ったら、真面目に座りそうだな。
 悪巧みも、ダシにされるのも,たまにはいいかもしれない。と、なると言うことは一つだな。
「…取り合えず、メシ食って、それからいびつなケーキでも食いましょう」



END



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